ID:Ynd8ofc0氏:喧嘩

喧嘩

 それは朝の何気ない会話から始まった。 
ゆたか「今度私が気持ち悪くなってもみなみちゃん、保健室に付き添えしなくていいから」
ひより「急にどうしたの」
ゆたか「もう、何度も迷惑かけちゃってるし、それに保健室に行くくらいなら一人でも充分かと思って」
みなみ「保健委員として当然のことをしているだけ」
ひより「そっすね、みなみちゃんの言うとおり、そんなに気兼ねしなくとも」
ゆたか「文化祭が終わってから、頻繁に調子崩すようになって・・・」
ひより「オープニングセレモニーが堪えたのかな」
みなみ「それなら尚のこと、放ってはおけない」
ゆたか「でも、迷惑じゃ、授業にも遅れちゃうし、勉強だって」
みなみ「迷惑じゃない」
ゆたか「でも、私ばかりこんなんで」
みなみ「気にすることじゃない」
ゆたか「でも・・」
みなみ「そんなに言うなら勝手にすればいい」
ひより「ちょ、みなみちゃん、ゆーちゃんもちょっと、卑下しすぎよ」
ゆたか「あ、そういうつもりじゃなかったんだけど」
みなみ「ならどういうつもりだったの」
ゆたか「・・・」
みなみ「黙ってちゃ分からない、」
ゆたか「私だって、いつまでも子供じゃない」
 田村さんはただ私達を傍観していただけだった。
その後は売り言葉に買い言葉、
何を話したのは覚えていない。
こんなことを言うつもりじゃなかった。
それでもあんな事を言ってしうとは、
成り行きだったのだろうか、
何故こんなことになったのか今でも分からない。
ゆたかと私の初めての喧嘩だった。

 私達は朝からもう一言も会話をしていない。
休み時間ごとに田村さんが仲裁しようと
話しかけてくるが、それに応じる気が起きなかった。
おそらくゆかたもそう思っているだろう。
 昼休みになっても食欲がない。
それに教室に居る気にもなれたかった。
どこに行く宛てもない、ぶらぶらしているうちに、
気が付いたら屋上にいた。


 何をするわけでもなく、屋上から校庭をただ眺めていた。
腕時計を見ると昼休みが始まってから10分も経っていなかった。
こんなに長く感じる昼休みは初めてだ。
「みなみちゃんじゃない」
突然後ろから話しかけられた。
振り向くとかがみ先輩だった。
かがみ「こんな所でなにしてるの、浮かない顔をして、まさか失恋じゃないでしょうね」
冗談半分に語りかけてきた。
私は苦笑いをしてお茶を濁した。
かがみ「まあ、こんないい天気、教室にこもっているよりは気持ちいいわよね」
そういいながら私の横に立ち、私と同じように校庭の方を眺めた。
しばらくすると、
かがみ「文化祭以来ね、こうやって話すのも」
みなみ「そうですね」
かがみ「そういえば、ゆたかちゃんは大丈夫? セレモニーの後、調子悪そうだったけど」
みなみ「最近、よく保健室で休むことが多くなりました。」
かがみ「やっぱり、あのイベントはちょっと酷だったかもね」
   「でも、みなみちゃんのおかげね、練習中の時もゆたかちゃんを気遣っていたのは分かったわよ」
みなみ「そんなことは」
かがみ「謙遜しない」
みなみ「ところで先輩、どうしてチアに参加しようと思われたのですか」
ゆたかの話はしたくなかったので、私は話題を変えた。
かがみ「それはこなたの口車に・・じゃない」
   「人員が揃わないってのもあったけど、決め手になったのは」
   「ゆたかちゃんがやる気になってるってのを聞いたせいかしら」
みなみ「そうですか・・・」
かがみ「ところで、ゆたかちゃんと友達になったきっかけってなんだったの」
話題を変えたつもりが、また元に戻ってしまった。
仕方がなく私は、ゆたかと出合った頃を思い出し、先輩に話した。

かがみ「へー 入学試験の時にすでに会ってたんだ、運命的な感じよね、クラスも一緒になるなんて」
   「ゆたかちゃんとは、こなたの家で何度か話したことはあるけどそんな話は聞かなかったわ」
   「うらやましい限りね」
みなみ「羨ましい?」
かがみ「だってそうじゃない、クラスが一緒だなんて、私なんて・・・」
   「つかさやみゆきと結局一度も、同じクラスになれなかった」
みなみ「あの、泉先輩もそうじゃないのですか」
この話をした途端、かがみ先輩の表情が一変した。
かがみ「あいつはどうでもいい」
みなみ「チアの練習の時、一番親しそうにしていましたけど」
そう言うと先輩は黙ってしまった。
しばらくすると笑顔で話し始めた。
かがみ「今朝、あいつに、一発、平手打ち食らわせてやったよ」
顔は笑っているが、何か鬼気迫るものを感じた。
かがみ「あいつ、格闘技経験者のくせに素人の私の平手打ち避けられなかったんだから、経験者ってのも疑わしいわね」
   「それなら、もう一発殴っておけばよかった」
みなみ「何故、平手打なんか」

思わず質問した。
「何故って・・・ つかさが教科書忘れたらしくて、こなたと一緒に来て・・・」
「つかさを注意したら、やけにつかさを庇うから、言い合いに・・」
「・・・・その後は覚えてない・・・・・」
「あいつ・・・避けなかった」
「なんで避けなかったのよ、まるで私が悪いみたいじゃない」
「あんな・・哀れむような目でこっち見て・・ばかみたい」
さっきまでの強気の表情が一変し、目に涙が溜まっていた。
そして気が付いた、かがみ先輩がここに来た理由が私と同じだったことに。
かがみ先輩はそのまましゃがみ込んでしまった。

 まるで自分を見てるよう。
もう何も話すことができない。
慰めの言葉、励ましの言葉を言おうか、
今の私は、そんな言葉をかける立場じゃないし資格もない。
このまま教室に帰るか、いや、帰ってもゆたかが居る。
私は、ただ、しゃがみ込んだ先輩を見ているだけだった。

 どのくらい時間が経っただろうか、
先輩はいきなり立ち上がり背伸びをした。
そしておもむろに口を開いた。
「恥ずかしい所みせちゃったわね、ごめんね びっくりさせちゃって」
あれほど目に溜まっていた涙が嘘のように引いていた。
「みなみちゃんと話してたら、なんだか私達のやってることがばかばかしくなっちゃってね」
「いいわね、親友って」
先輩からそんな言葉が出るとは思わなかった。
私は何も言い返すことが出来ない。
そんな私をよそに、さらに話し続ける。
「理由はどうであれ殴ったのは私が悪かったわね、あいつに謝るのはしゃくだけどね」
「わだかまりが取れたような気がするわ」
「これも、貴方とゆたかちゃんのおかげね」
「あ、この屋上の事、悪いけど内緒ね、つかさとこなたには特にね」
「折角のお昼休み邪魔したわね」
そう言うと先輩は後ろを向き、帰ろうとした。

「待ってください」

 私は先輩を引きとめた。
先輩は振り返り、不思議そうに首をかしげながら私をみつめた。
「私達、かがみ先輩が言われるような親友じゃない」
「私がここに居る理由は、かがみ先輩と同じ・・・」
「私は、ゆたかを突き放した・・・」
「もう私達は、語り合うことも、笑い合うこともない」
「私が教室に帰れば、ただの他人」


 私は仲直りしようとしている先輩に水をさした。
妬みからくるものではない。
ただ先輩に救いを求めた。
それだけの理由で私は先輩を引きとめた。
それを察してくれたのか、先輩はしばらく目を閉じた。
そして私に話し出す。
「お互い、同じ境遇だったなんて、皮肉よね」
「悪いけど、今の私は、貴方に何か言う立場じゃないし、資格もないわ」
「だけど」
「ゆたかちゃんと出合った時の話をしてた貴方は、とても輝いていた、眩しいくらいに・・・」
「だから私は、一番見せたくない所を見せてしまった」
「ゆたかちゃんが貴方にハンカチを返した気持ちが分るわ」
「私が言えることは、それくらい」
私に微笑みかけて、屋上を後にした。

 まるで何かに急かされる様に去っていくかがみ先輩を見送った。
そして、また一人になった。

 また校庭を何気なく眺める。
かがみ先輩が居なくなったせいか、よけいに静かに感じる。
 かがみ先輩には、ゆたかを突き放したと言った。
でも、ゆたかが私の付き添いを拒んだのがこの喧嘩の発端。
突き放されたのは私、
何がいけなかった、子供扱いしたか、嫌がることをしたのか
自問自答しても何も思い当たらない。
こんな喧嘩で、初めての喧嘩で終わってしまうほど私達の友情は軽かったのか。
私は少なくとも出会った時からゆたかに対する態度は変えていない。
ハンカチを返してもらった時からそうだ。
ゆたかだって今朝まではそうだった、そう思えた、出合った頃と同じ。

 その時、かがみ先輩の最後の言葉がよぎった。
ハンカチを返した気持ちがわかる、と
ゆたかが今まで同じ気持ちでいたとしたら、今は何を返す・・
私はもうハンカチは返してもらった。
まさか、ゆたかはそれであんな事を。
 私はゆたかに一方的な好意を与えていた。
私は見返りなんか要らなかった、それが美徳だと、
でもそれはゆたかにとって耐え難い苦痛となっていた。
私は、一人でだた有頂天になっていただけ。
かがみ先輩の言葉は、今朝のゆたかの心の叫びそのもの・・・
半年以上もそれに耐えてきたと言うのか。
なぜか涙がでてきた。
涙は容赦なく頬をつたい落ちていく。
私はそのまましゃがみ込み泣いた。
コンクリートの床に落ちる大粒の涙は、落ちると吸い込まれるようにすぐに乾く。
何粒も落としてもすぐ消える。その程度の涙では赦さないよと言っているようだ。

どのくらい時間が経っただろうか、お昼休みも、もう終わる頃だろう。
何故だろう、罪悪感は消えないのに、清々しい気持ちになっている、不思議だ。
泣きすぎたせいだろうか。
私は立ち上がり、背伸びをした。
そして、無性にゆたかに会いたくなった、声も聞きたい。
これも私の身勝手なのだろうか。
 突然、出入り口から階段を昇る足音が聞こえてきた、荒々しい。
私は慌てて涙を拭い、出入り口の方を見た。
「居た、本当に居た」
「今まで居ないと思ったらこんな所に、まったく」
体育着を着た田村さんだった。
そういえば午後の授業は体育だった。
急いで来たのか、息が荒い、そして顔が険しい。
「みなみちゃん、もういい加減にしようよ」
「ゆーちゃんね、校庭に行く途中、廊下で倒れちゃったよ」
「すごい熱だった、きっと朝からだったと思うよ」
「私が保健室に連れて行こうとしても、一人で行くって言ってね」
「立ち上がれないのに、そう言い張って」
「そこに、泉先輩と柊かがみ先輩が丁度通りかかって」
「二人で、有無言わさずに保健室に連れてってくれたわ、さすが先輩ね」
「柊かがみ先輩からみなみちゃんがここに居るって聞いて」
「来てみたら、本当に居るし、そんなにゆたかちゃんに会いたくないの」
きつい口調で私達を非難している。
私は甘んじてその非難を受けた。
そして今、私が一番したいことを田村さんの目を合わせて言った。
みなみ「私、保健室に行って来る」
ひより「二人とも、つまらない意地いつまで張るつも・・・」
田村さんは言いかけて、止めた。
しばらくして、入れ替えるように、
「いってらっしゃい、先生には私から言っておく」
やさしい口調で送ってくれた。
私が、出入り口に差し掛かると、
「あ、みなみちゃん、待って」
私を引き止めた。
振り返り田村さんを見つめた。
ひより「柊かがみ先輩から言付けを受けてたの忘れてたわ、えーと」
   「みなみちゃん次は貴方の番ね」
   「って? 何、それ、分かる?、」
みなみ「分かる、ありがとう」
私は、保健室へ向かった。

 そう、次は私達の番、そうでしょ、ゆたか。


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  • 良かった! -- チャムチロ (2013-11-17 22:31:35)
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