ID:AqbYRmQ0氏:こなたリフレイン

 朝起きたら女の子になっていました。
 しかも、目覚めた部屋の壁にかかっていたカレンダーには200X年と印刷され、20年くらい経った近未来であることを示していた。
 そして現状を把握するためその部屋にあった日記やアルバムなどを見た結果、この女の子はこなたという名でオレ同様に筋金入りのオタクであることが判明した。
 素で行動してもあまりボロは出そうにない。
 こなたの家族や友人に馬鹿正直に正体明かしたら正気を疑われそう。
 というわけで、変わるところはガラリと変わっているが変わらないところはとことん現状維持である近未来の世界で、オレ……私は女子高生として生活することになってしまった。


―― こなたリフレイン 追加エピソード ――
 髪型の話題が出た。やはり女の子としては積極的に参加せねば。
「あんたは髪型いじらないの? せっかく長いのに。ポニーとかツインは武器とか言ってなかったか?」
 長いから面倒なんだが。
「えー、だって……そういうのって自分でやっても面白くないじゃん。人の見る分には萌えるけど」
「あ、あっそう……」
 女の子としての日常会話、こんな感じでいいのかな?
 しっかし、髪いじるのって本当に自分でやっても面白くない、ただひたすらに面倒だ。
 柊姉妹を交えてポニーテールにしたことがあったが、アレもかがみの反応を見るのが目的だったし。
 あのときはついつい武士みたいなどと茶化してしまったが……。
『いつだったかのかがみのポニーテールは、そりゃもう反則なまでに似合ってたぞ』
 とか言ったら、
『バっ……バカじゃないの?』
 などとさぞかし可愛らしく照れてくれるであろう。


 チョココロネの食べ方からシュークリームやケーキなどの話題になった。
 イチゴを食べるタイミングで、最後まで取っておいたのを家族に取られるとつかさが発言していた。
 つかさは四姉妹の末っ子ということになるから、そうなる頻度は高いのだろう。気持ち、よくわかる。
「やっぱり大好物は最初に食べないとね」

 本来の私には妹がいて、あいつに隙を突かれて好物奪われた揚句に兄なのだからと我慢させられることも多かったっけ。
 そういった経験から、後に柊姉妹の誕生日でケーキ切り分けるとき、どう切るかやイチゴやプレートのチョコの取り合いで揉めなかったかと妙に実感をこめて話してしまった。
 本来のこなたは一人っ子の上に父子家庭なのだからそういった争いとは無縁のはずであり、怪しまれるかと思ったが杞憂だった。
 あのとき咄嗟に「かがみんだと萌えない」と言ったりクレヨンしんちゃんの真似したりして茶を濁した成果だろうか。
 まさか、アレがアニメになるとは思ってもいなかった。
 電車に乗ると熱がこもっていた。
 あぢ~。
 ノートで顔を扇ぐが、体全体が火照ってきた。
 ブラウスの部分を捲り上げて腹部に風送ると少し楽になってきたが、今度は下半身が熱くなってきた。
「ちょ、ちょっと」
 一緒に乗車した柊姉妹が顔赤くしてるな。何でだろ?
 ……まあいいや。
 スカートでよかった、ズボンだと社会の窓開けて風送るってわけにもいかねーからな。
 ん? 姉のかがみは赤面したまま呆れ顔でこっち見てるな。なんでだろ?
 ……。
 あ゛~、暑くて頭回らねー。


 夏祭りに行くことになり浴衣を着ることになった。
 姿見でどんなふうに結ぶのかを見物する。ふむふむなるほど、こう折って、巻いて、また折って、結んで、広げて、返して……って、何故ゆえに父親が帯を結ぶんだろう?
 というか結べるんだろう?

 皆で集まって出店を見て歩く。
 こういうのは時代を超えてもあまり変わらないものだな。
 そう感心していたら、つかさが綿アメ食べてて鼻先についたのをかがみが取っていた。
「そういうのって女同士でやってもつまんないよね」
「言うな」
「どうして私たちってロマンスないかな」
 私は中身が男だから仕方ないが、みんなを茶化したりしてみたいんだが。
 皆で海行って、民宿で風呂入ることになった。
 中身は男であることによる抵抗を乗り越え皆と風呂をご一緒したわけだが……。
 ティモテのギャグでかがみ達に対しては滑る一方で、引率者であり大人であるゆい姉さんにウケたりしてるうちに、柊姉妹はムダ毛の処理について話し始めた。
 ツルツルとか何もしてないといった具合に生々しい内容。
 オレ、いやいや、私の前で自然にこういう話をしてるってことは、私は普通に同性……女と見なされてる、ということだよな。バレてないわけだ。
 などと考えていたら、かがみは「実は今日、結構危険だったんだよね」と言い出した。
 溺れかけたんだろうか? はたまた、実はナンパに遭い、しかも乱暴されそうになったとか?
 だからこそ、私がナンパの件で茶化すと必死に否定してたのか!?
 などと焦ったが、柊姉妹は、来る、終わる、タイミングといった具合に主語のない妙なやりとりを始めた。
 そして「一人で海に入れない」とか「アレを使う」という発言でようやく理解した。アレの話か。
 ううっ、生々しい。
 どうしよう、私に話振られたら少々困るぞ。
 よし、先手必勝、話をまぜっかえそう。
「なかなか平和だねお二人さん」
「そういうあんたはどうなのよ」
 とのかがみの突っ込み。あぅ、ヤブヘビだったか。
 と、焦ったら、かがみは気まずそうに口ごもった。
「何その顔」
「別に~」
 今日着ていた水着はいわゆるスクール水着というやつで、おまけに『6-3』のゼッケンを縫いつけていたから小学生時代からこなたは成長してないとか考えたんだろうなこいつは。
 でもその学年ならもう始まっててもおかしくない、いやいや、そういうことじゃなくってだな。
 実際、海行くってことで水着を探していて発掘していたタンスの奥からコレを見つけたときは成長してないと私も思った。
 だが、よく見ると出土したコレは新品同様で、その脇にかなり小さめのスクール水着があり、そちらはところどころ伸びたりほつれたりで使用の形跡があった。
『6-3』のゼッケンは、元々はそちらについていたのだ。

 父親は男やもめで娘を育てるってことで色々と戸惑い、失敗もあったのだろう。
 注文する際にサイズを間違えたのか、伸縮性があるから多少の誤差はカバーできると考えたのか、身長がすぐ伸びてこのサイズに追いつくだろうと考えたのか。
 残念ながら体格が追いついたのは今頃になってからだった。
 ゼッケンの移植は、出番がなかったこちらのスク水の供養みたいなものである。
 ただの競技用水着ではなく、あくまでもスク水らしさを演出して少しでも本分を全うさせてやらねばなるまい。
 幸か不幸か水泳授業はなかったので、今しか機会はないのだ。
 そんなわけで小学校時代からそれなりに成長してるらしいぞ、この体。
 従って、ちゃんと私にもアレは来るぞ。来てます、来まくりやがってます、ハンドパワーです。
 ……と言ってもわからんか。

 中身が男の私としてアレは衝撃的だった。
 内科的ではあるが食当たりのソレとは異なる未知の痛みを下腹部に感じ、もしやと思ってネットで調べたりストックされていたアレの説明書き見て何とか自力で対処したが。
 私としては初めてとなるアレで動転し、「なんじゃこりゃー!」といったネタを誰かに披露したい衝動に駆られたものである。
 こういうときは父子家庭でよかったと思う。父親ではなく母親だったら私の対処の仕方で違和感を抱かれていただろう。
 かがみとライトのベルの絵について話す。
「やー、純文学を読む子供が減ったって嘆く人いるじゃん? 純文学に今風の絵をつけたら読まれるんじゃないかと思って」
「いや……内容硬めだしそれはどうかな……」
「いやいや、オタクの想像力はたくましいから『萌え』が足りないトコは妄想でカバーできるから平気平気」
「あんた見てると侮れないとか確かに思うわね」

 といったやりとりからしばらくして、人間失格のカバーがDEATH NOTEの作者である小畑健のイラストに変わり大ヒットになっていた。
 まさか私たちのやりとりを出版社の人が聞いてたってわけじゃないだろうけど、私の読みは正解だったか。
 時代が我々オタクに追いついたってことだな。


 新学期を迎えた。
 登校中、後ろからつかさに話しかけられ振り向く。
「あらぁ、かがみさん、つかささん、ごきげんよう」
 ううっ、自分でやってて鳥肌立ってきた。
「まあ、つかささんったら、リボンが曲がっていてよ」
「気色悪っ」
 かがみ、言うな。
「こなちゃんどうしちゃったの急に」
「はぁい、このところ少々マリ見てにはまっておりまして」
「子供かお前は」
「ほぉっほっほっほ」
 時々こうやってネタかましておけば、ボロが出ても何かの真似だと思ってもらえるだろう。


 進路の話になり、皆と同じ組になりたくて文型選んだんだとかがみに突っ込んだら顔赤くして怒ってる。
 喋ったなー! などとつかさにわめきちらし、よりにもよって私に知られたって猛烈に恥ずかしがってるし。
 否定はしないわけだ、可愛い。
「素直に言えばいいのに、さびしんぼさんなんだから、よしよし」
 かがみの背中に寄りかかり頭を撫でてやる、女同士だからこそ許されるスキンシップだな。
 女になってよかった……かも。
「う、うるさぁ~いっ!!」
 ああ、恥ずかしがって怒って暴れて、かがみは本当に可愛い。この気持ちは私の中身が男だからだろうか? 本当に女同士でもこういう気持ちになるんだろうか?

 そうだ、機会があったらあのプリクラとかいう3分間写真をファンシーにしたアレでかがみと写真撮ってみよう。
 アレは背景などを色々と合成できるし文字も書き込めるというから、ハートマークで囲んでトドメに「I(いやいや、二人っきりだとさすがに抵抗強いだろうからダメか、集団で撮るってことでWeだな) love Kagami」などと書き込んでやったりしたらさぞかし可愛く恥ずかしがってくれるだろう。
 私が男のままだったら違う意味合いも交じってしまってできない攻撃だろうな。

 それにしても進路か。
 父親がこなたの文集とかきっちり取っていて、参考のために目を通してみたら彼女の将来の夢は毎年変わっていた。
 獣医とか弁護士とか。
 ふとあることに気づき過去に流行ったゲームや漫画と照らし合わせると、こなたが当時好きだったと思われる作品と見事に符合していた。
 なんともわかり易い子である。
 柊姉妹が我が家にお泊りすることになったのだが……。
「話はよく聞いてるよ、家が神社で巫女さんなんだって?」
 父親は開口一番でコレである。
 二人がそうであると話した記憶はないから私がこなたになる前に本来のこなたが話したんだろうけど、どういう説明してたんだろう?


 教室の扉を開けようとしたら、かがみが焦っていた。
「バチってしなかった? 静電気」
 つかさの問い。
「いや~?」
 そういえば無かったな。冬になったのに何か物足りなかったのは、風物詩である静電気がなかったからか。
 体質の問題なのかな?
 そんなわけで静電気の話になる。
 手を触れただけでバチってくる人がいる。などと言ったかがみ自身がつかさの手に触れて感電していた。

 この光景にデジャブを感じ、考えを巡らせ浮上した作品はサイボーグ009だった。
 アレにはプラスとマイナスという双子のサイボーグが登場し電撃攻撃を仕掛けていた。
 近づきすぎるとショートしてしまうため、血を分けた兄弟でありながら死ななければ触れ合うことも叶わないという悲しい話だった。
 この時代では故人となってしまった作者の石ノ森先生は、さっきの柊姉妹のような光景を見て発想を得たりしてたんだろうか。

 自宅でくつろいでいると父親は頭を下敷でこすりはじめた。
「何やってるの?」
「いやぁ、もういっぺん見たくて」
 見たい?
「うぉお~! ストロンガー!」
 との雄たけびとともにスパーク音が響き渡る。
 ううっ、私もやりたい。でもこの体は帯電しない体質だし中身が何者なのかと怪しまれるよな。
 コミケの時期になった。
 この時代では、その気になればネットで事前にいくらでも情報を集めることができるため、この時代でのやり方にもすんなりと順応できた。
 前回はかがみを誘い、そこそこうまくいった。
 そこで仲間を増やすため今回はみゆきさんを誘おうとしたが、実態を知ったかがみの妨害に遭ってしまった。
 というわけで今回はつかさも誘う。かがみは前回参加してるということでいい戦力になるだろう。

 そして大晦日当日の昼休憩。
 柊姉妹は完全にグロッキー。戦い方を教えたとはいえ、やはり一般人にはきついか。
「まあ初参加の人には辛すぎるメニューだと思ってたから、午後は皆でまったり見て回ろうよ」
「まだ回る気なのか」
「でもね、会場がこの有明になってからはずいぶん都会的に……」
 と、いろいろ語ると「晴海会場?」との突っ込みが入った。
 あ、やべ。つい完全に素に戻って本来の自分の時代のコミケと比較した話をしてしまった。
 確か、本来のこなただったら……。
「晴海会場の最後は12年前位だったかな」
「待て、あんたいくつだったのよ」
「ん?」
 こなたの12年前ってことは……。
「5歳くらい? お父さんに連れてってもらったんだ」
 日記などの資料を見たところ、そういうことだったようだ。改めて、凄い親子だとつくづく思う。
「ホテル浦島ってとこに毎回2泊してね、夏コミが最初だったんだけど、当時は新館2階が凄かったんだよ。大量の参加者の汗が蒸気になってね、空中にできた雲が、こうモクモクと……」
 こなたは非常に感受性の高い子だったようだ。
 相当にインパクトがあったのか、当時の絵日記に5歳児の視点でその光景が余すことなく描写されていて、まるで見てきたかのように状況がわかった。
 オタクの本質はやはり変わらない。あのイベントがエスカレートしていけば、雲が発生してもおかしくはないだろう。

「有明に会場が移って便利になった事も多いけどね、イベントが大規模化してきたせいか最近の若い参加者は自分のことをお客さんだと思ってる人が多くて悲しいよ、元々は皆で作るイベントだったのに」
 まったく嘆かわしいことだ。
「散々語っているところ悪いけど全然わからん」

 ってなことがあってから年が明け、柊姉妹の神社に初詣に行く。
 かがみが皆と一緒のクラスになりたいってお祈りしてたという。
 つかさがそう言ったときのかがみの恥らい方が最高に可愛い。
 それを茶化すと更に恥ずかしがる。ああ、堪らん。

 父親がお神酒を飲んでいた。
 ううっ、私も飲みたい。
 本来の私だったら未成年なのに父親や親戚のおっさんにそそのかされてこっそり飲んでたものである。
 でも、こなたとして飲むわけにはいかないよなー、他人の体なんだし。
 家族そろってニュース見る。
「最近ホント子供狙った事件増えたよねー」
 というわけでゆたかにも注意を促す。
 本来の私の時代に発生した宮崎勤のような事件が増えている模様。
 その一方で……。
「けしからん、気持ちはわからんでもないが。これだけ連日大事として取り上げられているのにいまだ見知らぬ子どもに声かける者がいるとは嘆かわしい」
 父親に同意である。このご時世ではそれだけで変質者と見なされてしまう。世知辛い話だが自重しないと。
「一言言ってやりたい、うらやましいだろう」
 またも同意である。あのやりとりができたのなら羨ましい。
 本来の私の時代だったら通りすがりの子供も大人も普通に挨拶してたし、信号待ちで隣り合わせたときに世間話ってのも日常茶飯事だった。
 子供好きだから、懐かれたときは嬉しかった。
 将来は小学校の先生になって、いじめ問題に真剣に取り組もうと考えているくらいである。

 とはいえ、過剰反応する人たちを責めるわけにもいかないか。本当に変質者だったら手遅れだもんな。
 マスコミ見てると、犯人宅を家探しして漫画などを見つけ出し、それの影響ってことにしてたりする。
 宮崎勤の事件のころから変わってない、むしろエスカレートしてるな。
 この時代、結構窮屈だ。

 とりあえず、安易に父親に同意を示すのはまずいか。
「何考えてるかわかんないけど、ゆい姉さんに捕まるようなコトだけは勘弁してネ」
 と、茶を濁しておこう。


 かがみ宅でゲームをする
「あんたさ、こういうロボットゲームやっててキャラとかわかんの?」
「うん ある程度はね」
 いや、ある程度どころかすっごくよくわかるんだけどね。リアルタイムで接していた作品も結構あるし。
 世代を超えて様々なメカが夢の競演しちゃって、堪らんね、これは。
「そっか、あんたの漫画やアニメの趣味はおじさんの影響だって言ってたもんね」
「そうそう」
 日記やアルバムなどの資料から推察するに、そういうことらしい。
「じゃあさ、小さいころは逆に女友達の話題についていけなかったんじゃない?」
「むしろそっちのが見る機会多かったから全然ついていけたけど?」
「え……? あ、そう……あれ~!?」
 混乱してるなかがみ。無理もない、私も日記のそこらへんの記述見て混乱した。
 こなたの父親は、本来の私と同様に男向け女向けといった枠組みに囚われず様々な作品を楽しんでいたようだ。
 娘の中身が赤の他人である私になっているかりそめの親子なのに異常なまでに気が合うのもそのためだろう。

 数日後、借りてきたメカ物のアニメ見ていたら柊姉妹が来た。
「相変わらずそういうの好きね」
「んー別にメカにはあんま興味ないんだけどね」
 この時代のメカ物で主流になっているデザインはいま一つである。
 本来の私の時代は車に例えるなら戦車のような無骨なものが主流だった。
 それに対しこの時代はF1カーのような洗練されすぎた感じのデザインが多くどうも趣味に合わない。
「メカには興味ないって、じゃあ何を見てんのよ」
 そりゃあ、戦いを通したシリアスな物語である。この方面ではいい演出してる作品も沢山……などと言ったら引かれるか。
「幅広い視聴者のために最近のメカ物はほぼ確実にかわいい女の子や男の子がだね」
 と、茶を濁しておこう。
「それはメカ物と呼んでいいのか」
 正直言って微妙。
 でもまあ、これはこれでOK。こうやって割り切れば人生はかなり楽になるものである。
 ゲーセン行ったと話すと、つかさは行ったことがないと言い、どんなトコロなのかと聞いてきた。
「悪い仲間に入れられたりお金をまきあげられたりしちゃうトコロ」
「え……っ!?」
「あんたもう怖いモン無しだな……」
 いや、冗談じゃなく本来の私の時代だったらそんなとこだったぞ。
 この時代ではずいぶんと健全になったものである。


 新学期になる。
 黒井先生が始業間際に駆け込んできていつまでも休み気分でいないように、などと説得力のないことを言い放った。
 で、休み時間。
「先生髪の毛ぼさぼさだったね」
「でもまた黒井先生で楽しいクラスになりそうですね」
「まあノリはいいからね。クラスのカラーって結構担任で決まることあるからね~」
 といったやり取りをしていたらかがみがこう言った。
「なるほど、わかった」
「ん?」
 あ、この話の流れだとかがみの発言は十分に予測しうるわけだが……。
 志村後ろー!!
 などと言ったらまた年幾つだと言われるかとか考えてるうちにかがみの口が滑る。
「あんたらふたりがだらしないとこって、担任のカラーに似たのか」
「聞こえてるで?」


「焼き芋の美味しい季節になったわね~」
「いや、かがみ、あのさ~」
「いや、わかってる、わかってるから言うな。少し食べる?」
「どうもありがとう」
 ……って、間接キスってことになるが、いいの? あ、いや、今の私は女なわけで、女同士だから特に意識することないのか。
「でも太るよ」
「結局言うし」
 すまん、変なこと言いそうになってごまかそうとしてつい口にしてしまった。
 それからかがみは焼き芋屋のおっさんと目が合ってしまったと言い訳を始めた。
 自分にも分らないでもないということでコミケにおいて同人サークルで目が合って本戻しづらいという事例を語る。
「あんた話通じないのお構いなしで喋るな」
 あう、コミケ参加したことあるんだからわかると思ったがダメか。
 自分が知ってることは相手も知ってて当然という前提で語るのはオタクの悪い癖だ、自重せねば。
「チビっ子はオタクなんだってなー、『萌えー』ってヤツ?」
 かがみのクラスメイト、みさおにこんなこと言われた。
 チビっ子という呼称でムッっとした。本来は他人事のはずなのに自分自身に対する挑発と感じるあたり、私は『こなた』にかなり馴染んでいるようだ。
「試しに私らを萌えーで言うとどんな感じなん?」
 とか言うんで、かがみや一緒にいた峰岸さんの萌えポイントを列挙し、みさおに対しては先ほどのチビっ子呼ばわりの仕返しで……。
「八重歯、ボーイッシュ、あと……バカキャラ?」
 更にガキっぽいっていうのもありかも? などと追い討ちをかけておく。
 みさおはかがみにフォローを求めていたが私の意見をことごとく肯定されていた。
「ちきしょー好き勝手言いやがってー」
 と言ったときの彼女の構えで閃く。
「いやいや、わかり易いのが魅力なんだって。例えば……みさきちは紅白帽で『ウルトラマン』とかやってたタイプでしょ」
 いたんだよなー、周りの期待通りにお約束を見事にやらかしてくれる奴。
「なにぃー?」
 ありゃ、通じなかったか。この時代でも新作が作られたりCMのキャラになってたから大丈夫だと思ったんだが。
「それくらい皆やるよなぁ?」
「やらねーよ」
「あれー?」
 またもフォロー求めたかがみに無下にされ凹んでいた。
 むぅ、きちんと受け継がれてる所もあれば廃れてしまった所もあるか。
 文化祭の準備が始まった。
 留学生でありバイト仲間でもあるパティがチアリーディングをやろうと言い出したそうだ。
 ゆたかは体弱いから大丈夫かなとか思っていたら私にも参加して欲しいという話が出てきて、イベントのチケットに釣られすんなりと同意してしまった。
 その後、なんとかかがみの参加も取り付けることに成功。
 つっけんどんな態度を取りつつも赤面しながら同意してくれる反応が可愛い。

 そしてみゆきさんにも声をかける。色々と心もとないものがあるのだ。
 同意してくれたとき、嬉しさのあまりつい本音を漏らしそうになったものである。
「ありがとう、ボイ……いや、みゆきさん!」
 本格的に練習が始まったとき、みゆきさんとみなみちゃんのコンビを見てひよりと共にマンダムの体勢で胸についての考察を述べ合ったりしたし。
 いかんいかん、本来の私が男であることが原因か。自重せねば。

 最終的な練習を終え帰宅するとき、なんとなく不思議な感じがするとかしんみりするといった話になった。
「お祭りは準備をしてるときが一番楽しいっていいますし」
 とのみゆきさんの発言で『ビューティフル・ドリーマー』を連想する。
 私はこうして時と空間と性別を超えた体験をしてるのだから、更なる奇妙な体験をしてもおかしくないよな。
 もし元の時代、元の体に戻れたとしたら、再びたどり着くことになるこの時代をどのように見ることになるんだろう?

 結局あの劇場版のように延々とループすることもなく、あっさりと迎えた翌日の本番。
「つかさ、カチコチだね」
「そういうあんたも、いつもの余裕なさそうじゃない」
 そ……そりゃさ、いつもは、ある意味では他人事で傍観者の立場だったわけで。だからこその余裕だったんだけどね。
 この衣装だって『そういう衣装のほうが見てるほうは嬉しいものなんだよ』なんて言ってたけど、まさに見てるほうとしての発言だった。
 いざ自分が身に着けて実際に大勢の前でチアやるとなれば話は別だった。まして本来の私は男なんだし。
 自分もまた当事者であるという事を今頃になって実感した。

 と、そのとき、
「ミンミンミラクル……」
 といった具合に女子高生としてのゆる~い日常を謳歌していたら、ある朝、本来の自分の時代、自分の部屋、自分の体に戻っていた。
 女子高生としての体験は夢として受け止めて本来の自分としての日常に復帰し、それから結婚して娘が生まれ、妻と死別して今に至る。
 そして娘の性格や言動などを通して、今の娘の中身はかつて時代と空間を超えて女の子になっていたときのオレであるという確信を得た。
 それでもある考えのもと、夢の内容を辿って普通に娘として接し、時折かなたとの思い出を語っていた。

 そして――


「じゃあ行ってきます、お父さん」
「お~う」
 もう一人のオレでもある娘は登校していった。
 自由登校になり、大学の願書出してから学校に行くそうだ。昨日はソレを書くため色々準備を手伝っていた。

 大学か、ずいぶんと大きくなったものだ。
 男やもめの子育てで、よくここまでやれたと我ながら感心する。
 夢の中で女子高生になっていた記憶があったからこそ、かもしれないな。
 回りを見回し、感慨にふける。
 本来は、辿りつくことのなかった未来なんだよな、この現代は。
 かなたと結婚した当初、子供は諦めていたのだから。
 あのとき、母体への負担が大きすぎると診断されていた。
 だが、かなたは強く子を望んだ。考えうるあまりにも大きなリスクを知ってもなお、願ったのだ。
 オレは悩みに悩んだ末に、その願いを叶える決断をした。
 その後押しとなったのが……。

 リビングに飾った写真を見た。
 オレとかなた、その二人に抱かれる赤ん坊。
 娘が生まれて三人で撮ったこの写真を見たとき強い既視感があったのだが、それは当然だろう。
 まったく同じ写真を、かつては時と空間を越え他人として見ていたのだから。
 こなたとして生活し、この写真を見ていた記憶がおぼろげながらもオレに残っていたからこそ、子を設ける決断ができたのだろう。

 かなたは心の底から幸せそうに笑える未来に辿りつける。
 そして生まれてくる子供もまた、幸せに育つことができるという確信を持てたのだから。

 かなた、オレの、いや、オレ達の決断、間違いなんかじゃなかったよな?
「うぃ~っす、WAWAWA忘れ物~♪ 俺の……おぅあ!?」
 娘が妙な歌を口ずさみながらリビングに乱入してきたと思ったら、サーフィンをするような妙な体勢で固まっていた。
 緩んでいた制服のリボンを珍しく神妙な顔つきで締め直し……。
「すまん……ごゆっくり!!」
 などと言って慌てて出て行く。
 何故と首を捻り、すぐ原因に気づいた。
「お~いこなた、なに勘違いしてるんだ、花粉症だ花粉症」
 オレ、柄にもなく写真見て泣いてたか。しっかりしないとな。
「……あれ? この時期だったっけ?」
「花粉症にも色々あるんだ、それよりどうした」
「同封する書類を忘れてたの」
「やれやれ、念のため内容ももう一度見直したらどうだ?」
 との勧めで、オレの前で再確認を始めた。
 そういえば、娘がコスプレ喫茶でバイトしたとき履歴書はほとんどオレが代筆してたな。
 だから、娘の中身のオレが履歴書の家族欄を見て本来の自分と父親の名が同じだと気づくことはなかったわけだ。
 しかし今回、娘は自分でこういうのも埋めていた。
 と、いうことは……。
「ああ~?」
「ど、どうした?」
 気づいてしまったか? タイムパラドックスになるか?
「書き忘れ書き忘れ」
 拍子抜けした。
 改めて書き直しや確認を続ける娘を観察してみると、家族欄でオレの名を見てもこれといった反応は示さなかった。
 そうか、もうシンクロは解けて、もうひとりのオレは自分の時代に帰ったか。
 目の前にいるこの女の子は正真正銘オレの娘、こなたなんだな。
 もう一人のオレには、もうこの写真のルートを辿らせるだけのことは充分に語ったり見せたりしたから大丈夫か。
 まだまだ話していない思い出があるが、これからは純粋に父と娘の語らいということになるだろう。

 とりあえず話すべきことは、そうだな……。

「こなた、大事なことを言い忘れていた」
「うん?」
「お帰り、こなた」
「……あ、ただいま、お父さん」

 ここ最近は見ることのなかった、かなたによく似た笑顔がそこにあった。


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