ID:nd1fPHA0氏:祈り

 夏休みも終わり、暑さも日増しに和らいでいく。
そんなある日の放課後、
私は学級委員の書類の準備をしていた。
夏休み明けのせいか議題が沢山あったので書類が
今までの倍以上の量、
準備が遅れ気味だった。
 突然教室のドアの叩く音が聞こえた。
かなり荒っぽい、足で蹴っている感じだ。
教室には鍵はかかっていないはず。
しかし教室には今私しかいない。
私は不思議に思いながらも、
音のするドアを開けた。
みゆき「つかささん」
息が荒い、どうやら走ってきたようだ。
つかさ「ゆきちゃん丁度よかった、開けてありがとう、両手がふさがっちゃって」
肩で息をして話す。
みゆき「雀?」
両手に包まれるように、親指の隙間から顔だけ出した雀がいた。
 つかさ「帰る途中、バス停の隅っこにうずくまってるのを見つけたの」
そういいながら自分の机にむかい、脇に挟んでいた鞄を落とすように置き、席に着いた。
つかさ「近づいても逃げないからおかしいと思ったんだけど」
   「怪我はしていないみたい、また飛べるようになるかな」
   「ゆきちゃん丁度教室に居るしアドバイス聞きたくて急いで連れてきたの」
両手の中にいる雀の顔を見ながら話した。
みゆき「野生の鳥の世話をするのは難しいと聞いた事がありますね」
つかさ「そうなの?」
その話をした瞬間、以前聞いた話を思い出した。
思わずたしなめるように、
みゆき「つかささん、雀は臆病な鳥、手でつかむと」
   「捕まえられたショックで死んでしまうことがあるそうですよ」
つかさ「えっ」
驚いたのか、つかささんは両手を離した。
雀はそのまま机の上に落ちた。
立ち上がることもなくそのまま横たわってしまった。
そして激しく痙攣をおこしはじめた。
つかさ「どうしよう」
動揺しているのか硬直して何も出来ずにいる。
私は周りを見渡した。
チョークの入った箱を見つけた。
箱の中身を空にし、底にティッシュをひき詰めた。
みゆき「これの中に雀を」
私の声に反応はない、聞こえていない様子、
倒れた雀をただ見つめているだけだった。
見るに見かねて私は倒れた雀を箱の中に入れた。
みゆき「つかささん、落ち着いて」
この言葉にようやく落ち着きを取り戻した。


 私達は箱の中の雀を見ていた。
つかさ「助かるよね」
みゆき「分かりませんね、こればかりは」
雀の痙攣は小さくなってきたが立ち上がる気配はない。
そして人形のように動かなくなってしまった。
みゆき「残念ですが・・・」
つかさ「うそ、見つけたときはちゃんと立ってたのに」
   「動いてよ、」
そういいながら箱をゆすって必死に呼びかけていた。
私はつかささん腕を押さえて顔を横に振った。
つかさ「そんな、私のせいで」
   「知らなかったばっかりに」
   「私が死なせたのと同じよね」
そう言い、泣き崩れててしまった。
みゆき「つかささん、これは不可抗力です」
   「近づいても逃げないほど衰弱していたようですし」
   「それに、この雀の寿命だったのかもしれません・・・」
私は思いつく限りの別の理由を話した。
しかし泣き止む様子はない。
今まで見たことのないつかささんの悲愴に満ちた表情だった。
つかさ「雀を見つけた時、丁度バスがきたの」
   「お姉ちゃんもこなちゃんも雀には気付いていない」
   「あのままバスに乗っても結局死んでたよね」
   「助けたい一心で雀の方を選んだけど」
   「死んじゃったね」
   「どっち選んでも雀を助けられない。」
   「私、どうればよかったかな、ゆきちゃん」
つかささんの問いに私は答えを持っていなかった。
沈黙がしばらく教室を包み込んだ。
つかささんのすすり泣く音だけが教室に響く。
みゆき「つかささん、しばらく落ち着くまでここでゆっくりしてて下さい」
   「なにもできませんが、私は当分ここに居ますので何かあったら声をかけて下さい」
つかささんは黙ってうなずいた。
今の私にはこれくらいしか言うことができなかった。

 とっさの事とは言え、とんでもないことを話してしまった。
結果的に私がつかささんを責めている形になってしまった。
それが執拗につかさんを苦しめてしまったようだ。
もっと別の言い方があったのかもしれない。
つかささんが教室に入ってきた時すぐに箱を渡していれば、
あんな事を言わずに済んだ。
いまさら後悔しても後にはもどれない。
 自分の席に戻り、書類整理を再開した。
しかし集中できるはずもない。
つかささんの最後に言った問いが頭から離れない。
私ならどうしていたか。
あの雀の状態を考えれば、いくら適切な処置をしたとしても獣医でもない私が
助けられたとは思えない。

いや、そもそも見つけたとして助けようとしただろうか。
目の前にバスが来たのであれば、そのまま帰ってしまったかも。
それとも別の方法があったのか。
ため息がでた。
自分に置き換えて考えても答えが出るわけはない。

 どのくらいくらい経過しただろうか、
窓から夕日が射してして教室が夕日色に染まった。
もうこんな時間、目標の半分も書類整理は終わっていなかった。
教室に居られる時間もそんなにない。
続きは自宅でやろうと机を片付けはじめた。
すると影が夕日をさえぎった。
 振り向くと、箱を持ったつかささんが立っていた。
顔にはもう涙の跡はないが目は赤く腫れている様、
夕日がいっそう目を赤く照らしだす。
つかさ「ゆきちゃんごめんね、仕事の邪魔しちゃって」
みゆき「いいえ、おかまいなく、それより落ち着きましたか」
つかさ「ありがとう、おかげで落ち着いたみたい」
みゆき「それは何よりでした」
つかさ「ゆきちゃん、私、この雀見ながら考えたんだけど」
   「やっぱり私では何しても助けられそうになかったみたい」
   「このまま箱に入れておくのも可哀想だし」
   「死なせてしまったつぐないとして、せめて埋めてやろうと思うんだけど」
みゆき「そうですか、私もご一緒してもいいかしら」
つかさ「でも、書類整理してるんじゃ、私一人で行ってくる」
みゆき「私もさっき一段落した所で片付けようとしてたところです」
   「それに、私も雀の死に立ち会った者として手伝いたい」
つかさ「ありがとう、ゆきちゃん」



 私たちは、スコップを借りるため、一路用務員室に向かった。
用務員室で事情を話すと感じ入ってくれて、埋めてもいい花壇を教えてくれた。
そればかりか、埋めただけだと寂しかろうと用務員室に飾ってあった花を数本
分けてくれた。
深々と頭を下げお礼をし、教えられた花壇に向かった。

 学校の敷地内に埋めるのはまずいと言われ、
すぐ隣りにある公園の隅にあるある花壇を教えてくれた。
その公園の花壇は用務員さんが管理しているらしい。
花壇は新しいのか特に植木や草花は植えられていなかった。
埋めてやるなら中央がよさそう。
私は花を足元に置き、土をスコップで掘ろうとした。
 つかさ「私にさせて」
私のスコップとつかささんの箱を交換した。
雀が入るくらいの穴を掘り終えるとつかささんは私の持ってる箱を見つめた。
箱を差し出すと、つかささんは両手で水をすくうように雀を取り上げた。
つかもうとしていない。
生きている時、こうしてやりかったと雀に訴えているのが分かる程、やさしく、
ゆっくりと、慎重な動作だった。
そしてそのまま、両手を胸元までもってくると両目を閉じた。
しばらくして左目から一筋だけ涙を流した。
教室で見せた涙とはちがう、悲しくも厳粛な気持ちにさせる涙だった。
その涙に感化され、私も両目を閉じ、雀の冥福を祈った。

 私が目を開けてもつかささんは目を閉じたままだった。
雀を埋めるをためらっている。
しばらくすると、諦めたようににそっと穴の中に雀をいれた。
そして手で少しつつ土をかけていった。
貰った花を半分にして二人同時に手向けた。
もう日は落ち暗くなり始めていた。
校庭では体育系の部活が後片付けをしている。
その後、私達は一言も交わすことなく、
教室に戻り、そして別れた。
 それからすぐにつかささんはいつもの元気を取り戻しが、私を含め、
かがみさん、泉さんとの会話でも雀の話に一切触れることはなかった。
私は、つかささん自ら話すまではこのことは伏せておこうと思った。



かがみ「おっす、お昼にしましょ」
こなた「お、またきた」
かがみ「またとは何だ」
 お昼時間、いつものようにかがみさんがお弁当を持ってくると
泉さんとのやり取りが始まる。
机を並べて四人でそれを囲むように食事をする。
食事が始まり10分もしないうちに、
つかさ「ごちそうさま」
そう言うとお弁当を片付けはじめた。
こなた「早、なにそんなに急いでるの」
つかさ「ちょっとね」
こなた「言えないことなのかな」
つかさ「散歩よ、散歩、別に言えない事じゃなよ」
   「それじゃ、早いけど私、行くね」
つかささんは逃げるように教室を出て行った。
それを見送ると、
こなた「これって、フラグってない」
かがみ「またその話が始まった」
   「早食いして、席を離れただけでいちいちフラグ立ってたら」
   「つかさは何回フラグ立ってるのよ」
こなた「確かに、夏休みが終わってから席外すこと多くなったね」
   「これは・・・ よけいに怪しくなった」
かがみ「あのね」
こなた「なんか今日のつかさ、表情がいつもと違ってたし」
   「告白かも、するのか、されるのか」
   「かがみ、こんな所でもたもたしてると先越されちゃうよ」
かがみ「妄想もそこまでいくと感心するわね」
   「朝から普段通りだったわよ、ねえみゆき」
みゆき「そうですね、午前中の授業も普段と変わらなかったですね」
こなた「みゆきさん、かがみに合わせなくてもいいよ」
 私もつかさんが普段と違って見えた。
しかしつかささんはそれを隠したいらしい。
私はあえてかがみさんに合わせた。
 姉妹ならばつかさんの変化に気付いてもよさそうと思ったが、
逆に、身近な人だからこそ気が付かない事もあるのかもしれない。
それにしてもつかささんが気がかり。
丁度つかささんの事で確認したいこともあったので私も席を離れることにした。
みゆき「ごちそうさまでした」
かがみ・こなた「え」
かがみ「みゆきまで、どうしたの」
みゆき「いえ、委員会で調べなければならないことがあるので」
かがみ「こなた、あんたが変なこと言うからみゆきまで」
こなた「えー、なんで私のせいになるのさ」
かがみ・こなた「・・・・・」
話に夢中なのでそのまま教室を出た。


 確認したいことは、つかささんがよく私達と別行動で何処で、何をしているのか。
別行動は、お昼休み、放課後、両方の日もあった。
ほぼ毎日であった。
確認と言うからには、私は予想していた。
学校の隣りの公園の隅にある花壇。
予想通りつかささんはそこに立っていた。

 近づくとつかささんは目を閉じ黙想をしていた。
そして花壇には花が数本置いてあった。
私もつかささんの隣で目を閉じた。
つかさ「ゆきちゃん」
みゆき「ごめんなさい、後をつけるつもりは無かったのですが」
つかさ「うんん、一緒に祈ってありがとう」
みゆき「花をあげたのですね」
つかさ「今日は私じゃない」
みゆき「え、他に誰が」
つかさ「たまに置いてあるの、たぶん用務員のおばさんかな、よくこの公園で掃除とかしてるし」
   「今度見かけたら、お礼言っておくよ」
みゆき「そうですね、私も気にかけておきます。 それにしても、だいぶ涼しくなりましたね」
するとつかささんは黙り込んだ。
しばらく考えたのか再び思い切ったように、
つかさ「手の中の雀、すごく暖かかった」
   「でも、埋める時、まるで氷のように冷たかった」
   「今でも、その冷たいのが手に残ってる」
両手を見ながら話し出した。
つかさ「机の上で寒いように体を震わせている姿が目に焼きついて離れない」
   「もう一ヶ月も経つのに」
   「忘れようとしても気が付くといつの間にここに居るの」
   「祈っても、祈っても、忘れられない」
   「雀、私を赦してくれない」
今にも泣き出しそうな表情。
時間がつかささんの心を癒すとおもっていた。
しかしこの様子では悲しみはより深くなってしまっている。
私は答えた。
「そんなことはありません」
「私ならば見つけても、そのまま帰っていました」
「おそらく、ほとんどの人がそうだったと思います」
「そんな中、つかささんは助ける方を選択しました」
「素晴らしいことだと思います。」 
「それに、雀を埋めるときの行いはとても優しく、厳粛で」
「最高の弔いだったと・・」
「雀はきっと喜んでいるでしょう」
遅まきながら、教室でのつかささんの問いに答える形となった。
しかしつかささんは両目を閉じているだけだった。

 腕時計を見ると、委員会での調べ物の時間が無くなってきたことに気が付いた。
みゆき「すみませんつかさん、私、もう時間がなくて戻らないと、つかささんはどうしますか」
つかさ「私、もう少しここに居たい」
つかささんに後ろを向き歩き始めると、
つかさ「ゆきちゃん・・・さっきのとっても嬉しかったよ」
そう言ってくれた。
みゆき「それはなによりです」
一言言い、そのまま図書室に向かった。
 図書室で一通り調べ物が済み、教室に戻ると昼休みも終わりに近かった。
ががみさんはもう自分のクラスに戻ったよう、
しかしつかささんの姿が見えない。
泉さんに聞くと、教室に入ってくるなり気分が悪くなったと言い、そのまま早退してしまったの事。
   嬉しかったよ。
確かにそう言ったはず。
この言葉が私の頭の中で空しく響いた。
ではなぜ早退なんかを、
しばらく考えたが理由は思い浮かばなかった。
その代わり二つだけわかったことがあった。
 つかささんは自分の過ちを未だに責めている。
そして雀にその赦しを求めている。
土の中に居る雀に、得られるはずもないのに。
そんな切ない祈りを一ヶ月も続けていた。
 二つ目は、そんなつかささんに私はなにも
してあげる事が出来ず、解決方法さえ教えられなかった。
自分の無力さを痛感した。
 午後からの授業が始まった。
出席を確認する先生の声と返事が行き交う。
つかささんの名前を呼ぶ順番がきたが返事があるはずない。
一つだけ空いた席がとても悲しく見えた。

 それから三日が経った。
登校時に、今日もつかささんは休むとかがみさんから言われた。
それとお昼休みは必ず空けておくようにと言われた。
私もかがみさんに用があったので了解した。
つかささんに会いに行く相談がしたかった。

 昼休みの時間。
 泉さんは昨日、つかささんの所へお見舞いに行っていた。
私はその話を聞いていた。
熱もなく、寝ていた様子もなかった。
いつもの元気と笑顔はまったく無く、
ほんの数回言葉を交わしただけで泉さんは帰ったと。
 泉さんはこの原因を私が知っているのではないかと聞いてきた。
さすがにもう隠せない、隠す必要もない。
私は今までのことを泉さんに話した。
そして話し終わると丁度かがみさんが教室に入ってきた。
いつになく真剣な顔で挨拶もなく話しかけてきた。
かがみ「みゆき、つかさがとんでもない事に巻き込んでしまったみたいね」
   「私からも謝りたくて、それでお昼空けてもらったわけ」
   「この前みたいに、離席されちゃったら困るからね」
   「それにしても水臭いわね、一ヶ月も黙ってるなんて」
みゆき「つかささんが話したくないようでしたので、私はなにもお役にたてませんでした、でもなぜこの事を」
かがみ「昨日、こなたが帰った後、問いただしたら泣きながら話したわよ」
   「だいたい慣れないことするからこうゆう事になるんだから」
こなた「そんなこと言ってるけど、かがみなら雀見つけたらどうしたのさ」
かがみ「可哀想だけどそのままにしてバスに乗ってるわね」
こなた「双子姉妹とは思えない差だね」
かがみ「なんだと、それなら、こなたならどうしたよの」
こなた「私? 私なら・・・」
そういうと泉さんは腕を組んで考え込んでしまった。
みゆき「即答なされましたけど、理由はあるのですか」
かがみ「そう改まって聞かれると考えちゃうけど」
   「雀って野鳥じゃない、自然に生まれて、自然に育ってきた」
   「だから、私達人間がどうこうするべきじゃないような気がして」
みゆき「そんな考え方もあるのですね」
かがみ「まあ、実際にそうなってみないとどうするかなんて分からないけどね」
   「つかさは助ける方を選んだ、つかさらしいと言えばそれまでだけど」
   「それに泣きながら訴えられちゃうと」
   「さすがになにも言えないわね」
みゆき「つかささんに何かしてあげたのですか」
かがみ「正直、お手上げ状態、家族で話し合ったけど」
   「話せば話すほど落ち込んでしまって」
みゆき「そこまでだったなんて」
かがみ「今朝は、一度も部屋から出ていないわ」
みゆき「やはり、つかささんを早退させたのは私みたいですね」
   「三日前、雀を救おうをしたのはつかささんだけ、みたいに励ましたのですが」
   「かえって、雀を死なせたことを強調させてしまったのでは」
かがみ「考えすぎよ、つかさはそこまで深く考えていないわよ」
   「今思えば、もっと早くつかさの異変に気付くべきだったわね」
   「そうゆう意味では、私が一番いけないかもしれない」
みゆき「もしよろしければ、放課後、つかささんに会いに行きたいのですが」
かがみ「私はいいとは思うけど、こなたが来てあの状態だったからね、それでもいいなら」
みゆき「買い物とかもあるので少し遅れますが」
かがみ「悪いわね、気を使わせちゃって」
   「どっちにしろ明日は引きずってでも学校にこさせるつもり」
   「ところでこなた、さっきから何黙ってるのよ、少しは会話に参加しなさいよ」
こなた「え、雀を選ぶかバスを選ぶかで考えてた」
かがみ「何、まだ決めてないの、最終バスだったらどうする、雀だって野良猫に取られちゃうわよ」
こなた「こうゆう選択肢ってセーブして両方の結果みないとさ」
かがみ「もうその台詞は聞き飽きたわ」
暗かった空気が一変して明るくなった。
しかし、答えをすぐ出さなかったのは私も同じであった。

私はこの会話で多くを学んだ。
こなた「ところで何話してたの」
かがみ「まったく、みゆきがつかさに会いに行く話し」
みゆき「行って何をするわけではないのですが」
こなた「いや、みゆきさんが行けばつかさもきっと喜ぶよ」
   「今日、バイトだけど、帰りに私も寄っていこうかな、かがみ、いいかな」
かがみ「こうゆう時は、一人でも多いほうがいいわね、遅くなるようなら電話して」
こうして昼休みは終わった。


 放課後になると、泉さんはバイトのためすぐに帰宅した。
かがみさんも準備があると、足早に帰宅した。
しかし私はまだ教室にいる。
かがみさんには買い物があると言ったが、昨日のうちに全て済ませてある。
つかささんに会う前にしておきたいことがあった。
私一人で雀に祈る。

 今まで私は、一度も自分の意思で公園に足を向けたことがなかった。
私が公園に居るときはいつもつかささんが居た。
つかささんが拾ってきた雀、結局そんな程度の認識でしかなかったのかもしれない。
 雀の死をもう一度真剣に見つめ、それからつかささんに会おうと思った。
それで、感じたことをつかささんにそのまま話そうと思った。
かがみさんも居る、お昼での会話をそのまま話してもいい、
泉さんも来てくれれば、雰囲気を明るくしてくるはず、
それでもつかささんが、立ち直れないようであれば、
いや、まだ終わってもいない事に、出来なかった場合の詮索をするのは止めよう。
 私は鞄にしまってある花を取り出した。
そして、公園に向かった。


 公園の入り口にさしかかると
用務員さんと鉢合わせとなった。
みゆき「先日はいろいろお手数をおかけしてすみませんでした」
用務員「あら、このあいだの、久しぶりね」
「夕方、いきなり訪ねてきた時は驚いたけどね」
   「最近の子にしては、感心したことをしたわね」
   「あのリボンの子の悲しい顔が今でも印象に残ってるよ」
   「その子はどうしたの、一緒じゃないね」
みゆき「実は、風邪で三日ほど休んでいまして」
用務員「どうりで、最近、公園で見かけないと思ったら、残念ね」
みゆき「残念?」
聞き返すと、用務員さんは微笑み、雀の眠る花壇へと案内した。
 すると、目の前に花壇いっぱいに咲く花の光景が飛び込んできた。
みゆき「こんなことまでして頂けるなんて、なんてお礼を言えば」
用務員「それは私じゃないわよ」
みゆき「三日前にも花が飾ってありましたけど」
用務員「スコップを借りに来た時に渡した花が最初で最後よ」
困惑した表情をすると用務員さんは話し始めた。
「あのリボンの子が何度も熱心に祈ってるせいなのかね」
「この公園に遊びに来ている子供達が真似しだしてね」
「この花壇に野花を置いていくようになっての」
「それを見ていた子供の父兄さんたちがこの公園の花壇に花が少ないのに気付いてね」
「町内でカンパして花の苗を寄贈されたんだよ」
「昨日、町内の人達がこの花壇に植えていったよ」
「そうそう、雀の居るところは植えないよう言っておいたから安心して」
「カンパが予想以上に集まったらしくてね、この公園全ての花壇を同じようにしてくれるって」
「学校の予算がこの公園まで回らなくて困ってたのよ、あの子には感謝するわ」
「あの子の祈りが雀に届いたのね」
「それじゃ、あの子にお大事にと伝えておいてね」
そう言うと雀に数秒手を合わせから、公園の掃除へと向かっていった。


 祈りが雀に届いた。
そう用務員さんは言った。
それならば、三日前に置かれていた花も、
そして、つかささんが最初に祈ったときに捧げた花もそう、
どれも、私とつかささん以外の人達の気持ちによってもたらされた花、
なぜもっと早くそれに気付かなかったのか、
祈りは届いている。
これでもかと花壇いっぱいに咲いている花達は、気付かない私達にそう訴えかけてるように風で揺れてる。

 つかささん、もう雀の震える姿を思い出さなくていい。
冷たい手の感触は、生きていた時の暖かさだけ感じていればいい。
雀を助けたかったやさしい心だけが残っていればそれでいい。
もうすでに貴方は赦されてる。
 私は目を閉じ、感謝の意を表し祈った。
しばらくすると左目から一筋だけ涙が流れた。
初めて私が雀のために流した涙だった。
それはつかささんが流した涙とは違う、嬉しさと喜びの涙。

 目を開け、雀の埋まっている真上に自分の持ってきた花を置いた。
ふと気付くと、苗と苗の間に四葉のクローバが無造作に置かれいるのに気が付いた。
用務員さんの言ってた子供が置いたものだろうか。
私は四葉のクローバを手に取り生徒手帳に挟んだ。

 つかささんに会ったら、かがみさん、泉さんと共に、この四葉のクローバを渡して、一言、
雀から預かってきた、とだけ言おう。
そして、この公園につかささんが立った時、
つかささんの祈りが起こした奇跡を語ろう。
四葉のクローバの意味、真実に私は全てを託した。
私は早る気持ちを抑え、柊家へと向かった。

涙を笑顔に変えるために。

終  

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