第7話 罠

第7話 罠


夜の秋葉原。
明るい電気街から少し外れた場所。
暗がりの中に佇む廃ビルの前に私は立っていた。
一見したところ、周りに人はいないようだ。

それを確認してから私は持ったままだった携帯に再び耳を当てる。

「もしm『あら、泉ちゃん。あなたの方から来てくれたの?』

私が発言しようとするや否や、峰岸さんが優しく問いかけてきた。
優しく、言っても私にとってはものすごく不気味に聞こえるのだけれど。

私は再び辺りを見渡した。
先ほどの言動から察するに、向こうから私の姿は見えているということになる。
しかし、人影みたいなものは見当たらない。
暗がりの中、シーンとした風景がより一層不気味さを醸し出す。

「・・・みんなはどこ?」

『大丈夫よ、そんな心配しなくても。今はまだ、何もしてないわ』

「どこって言ってんの」

『あ~ら、怖いwwそんな怖い顔しないでよ』

「っ・・・!!ふ、ふざけないでよ!」

会話をしている時も私はしきりに辺りを見渡し、峰岸さんの影を探っていた。
向こうにだけ自分の居場所が知れているのはなかなかよろしいこととは言えない。

『泉ちゃん、どこ見てるの?』

「っ!?」

『上よ』

言われて私は素直に上へと視線をめぐらした。
廃ビルの窓から顔を少し覗かせているのは、紛れもなく峰岸さんだった。
もちろん耳に当てているのはかがみの携帯だ。

『ふふっ、いい度胸ね泉ちゃん。感心したわ』

「・・・峰岸さん」

『歓迎するわ。さあ、入ってきていいわよ?』

「・・・」

ここは素直に峰岸さんの言うことを聞くべきだろうか?
いや、けど普通に考えて何か罠があるかもしれない。
迂闊に行動するべきではない。

私はしばらく立ち往生していた。

『柊ちゃんたちも、私も3階にいるわよ』

・・・みんな。

私は意を決した。
携帯の電源ボタンを押して通話を切った。
それから廃ビルに1歩1歩近づく。

みんなを取り返さなきゃ・・・!
そのために、来たんだから。

廃ビルに入った。
しかし私の心配とは裏腹に何もなく、あっさりと3階にたどり着いた。
狭いフロアにでっかいランプが煌々と光っており、私は一瞬目を細めた。

「ふふふ、来たわねww」

峰岸さんの声が前方から聞こえたかと思うと、目の前に現れた。
思わず私は身構えて、微笑している峰岸さんを睨んだ。

「こなた!!」

突如かがみの声が聞こえた。
峰岸さんの後方、かがみ、つかさ、みゆきさんが壁に寄りかかって座っている。

「みんなっ!」

私は視界に3人の姿を認め、一瞬安堵する。
鎖で手の動きを封じられているが、意識はちゃんとあり、外傷もなさそうだ。

私はフロア内を軽く見渡した。
私、峰岸さん、そしてかがみたち3人以外人はいない。
驚いたことに峰岸さん陣営の人たちは見受けられない。
てっきり私を誘いだして捕まえようとすると思ってたんだけど・・・。
それとこのフロア内を照らすランプが置かれていて、その近くに3人のフィギュアとらきすたの単行本が置いてある。

それからまた私は峰岸さんに視線を合わせて睨む。
今、敵は峰岸さんただ1人だけだ。勝算はある。
まずは話合おう。みんなを解放してもらって、原作者についての情報ももらう。
それがダメならば、止むを得ないが、実力行使も考えられる。
737 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/04/05(日) 04:15:59.67 ID:V4qp1ac0
「こなた、だめ!逃げて!!」

そう思案していると、かがみの声が耳に飛び込んでくる。

「・・・えっ」

予想外の言葉に、私は声を漏らす。
逃げる?・・・どうして?今がチャンスなんじゃ・・・

峰岸さんはポカーンとする私に背を向け舌うちしながら、軽くかがみを睨みつけた。
かがみはそれを睨み返す。つかさは横で目に涙を溜めた。

「罠です!!」

今度はみゆきさんが叫んだ。

「・・・罠?」

私は一瞬思考停止。
え、だってこのビルには今私たちしか・・・アレ?

「しょうがないわ・・少し予定が早まったけど、作戦決行!!」

峰岸さんが機嫌悪そうに叫んだ。
あれ、なんか・・・やば、そう。

「こなちゃん、逃げてーっ!!」

つかさの発言を聞いた瞬間、私は反射的に動いていた。
猛スピードで元来た階段を駆け降りる。
しかし2階まで下りた時、私は思わず急停止した。
1階から峰岸さん陣営3人は上って来ているところだった。

「逃がしはせんぞwwwwこなたん^^」

私は冷や汗がどっと出てくるのを感じた。
そして元来た階段を駆けのぼる。
再び3階に戻って来た。
しかし、3階にも既に峰岸さん陣営が数人いたのである。

「・・・っ!」

「逃げ場はないわよ、泉ちゃん。諦めなさい」

先ほど遭遇した僕たちも3階に到着し、私は出入り口を塞がれた。
狭いフロア内を後ずさり、壁際、つまりはかがみたちのところで止まる。

「う・・・」
どうする?どうする・・・!?
実力行使でもいいが、数が数だ。さすがに無理がある。
考えろ考えろ考えろ・・・何か策があるはずだ。

「・・くっ、あんたたち・・!」
「私たちどうなっちゃうの~~!?」

部屋を見渡してもあるのは、ランプとみんなのフィギュアとらきすたの単行本。
武器になりそうなものは、ない。けど、ここで捕まってしまうのはゲームオーバーだ。
だったらイチかバチかで、当たってみるのが・・・ん?
フィギュアと・・・単行本?
そうか!
私は右手でスカートのポケットを探りながら左手で単行本を手繰り寄せる。

「・・・?こなちゃん、何を・・・?」

つかさが訝しげに私を見上げる。

「あんた・・まさか・・・!」

かがみが悟ったように呟く。

「ん・・・?何する気?いっとくけど、抵抗しても無駄よ」

峰岸さんが私の動作を不思議そうに見つつ、また笑った。

フィギュアと単行本があれば、2次元に戻ることが可能だ。
そうすればこの危機も回避できる。
2次元は今オカシくなっているとはいえ、一旦戻るだけだ。
そんなに影響はでない筈・・・。
このまま3次元で全員捕まってゲームオーバーになるよりは有効な策と言える。
私は3人にもフィギュアを転がす。
手が拘束されているとはいえ、握ることはできる。

つかさはようやく理解したのか、ナルホドと表情を明るくさせた。
かがみも複雑そうにフィギュアを握って私に視線を送った。
みゆきさんはずっと黙りこんで、何かを考えているように見える。
こうしている間にも峰岸さん陣営は私ににじり寄って来ている。
峰岸さんたちは私の動作が何を意味するのか分かっていないらしく、表情はみな、不審そうだ。
でも会話で悟られるワケにもいかない。
私は3人を見渡して、空いている方の手でつかさの手を握った。
手をつないでいれば、1つの単行本で数人での次元移動が可能なことは知っている。
つかさはそれに気付いて、隣のかがみと手を繋ごうと手を伸ばしているのを見てから、再び私は正面を見た。
峰岸さんに向けて、私は笑う。
そう簡単に捕まらないぞ!
峰岸さんは私の笑みに不安を覚えたのか、

「何もたもたしてるの!!すぐ捕まえなさい!!」

叫んだ。
その声で峰岸さん陣営はいっきに私に向かって走って来る。

でも、もう遅いよ。私たちの方が早い!

私はらきすたの単行本のページをバッと開いた。

そのとき、後方からみゆきさんが何か叫ぶ声が聞こえたような気がした。
気にはなったが、振り向く暇もなく、私は3次元から消えた。


気付けば私は誰も居ない暗い廃ビルに居た。
峰岸さんもいなければ、明るいランプもなく、ただ、手の中にフィギュアがあるのみだ。

2次元に、私たちの世界に、戻って来た。

「ふぇ~・・・危なかったね・・・」

私はそう言って後ろを振り向いた。
成功していればみんなが、いるはずだった。

「え・・・、あれ?」

私は驚愕した。人数が足りない。ていうか、つかさしか、いない。
つかさは今目を覚ましたところなのか、ぼんやりと目を細めながら上体を起こした。

「つ、つかさ!!みんなは!?かがみとみゆきさんは!?」

私は半ばパニック状態だった。
2人がいない、ということは2人はまだ3次元にいるということだ。
嘘だ。何でいない?あの作戦は完璧だったはずなのに。

「ふぇ?・・・こなちゃん!!」

つかさはこなたを見上げると、申し訳なさそうな表情に変わった。

「ごめん・・・私、手繋いで、なかった・・・」
「なっ・・・!!」

再びごめんと呟くつかさ。
どうして?
私はつかさがかがみと手を繋ごうとしてるとこ見たし、あれだけ時間があれば全員が手を繋ぐには十分だった。

「何やってんだよ、もう・・・!」
「・・・ごめんね・・、繋いだと思ったのになぁ・・・」

つかさは申し訳なさそうに頭を垂れた。

「謝ってすむ問題じゃないよ!現に繋いでなかったからみんなここにいないんでしょ!?」

知らずのうちに私はつかさを怒鳴っていた。
しかし原因は紛れもなくつかさにあるのだ。
不安が怒りへと変換されてしまう。

「峰岸さん、存在を消すとか言ってたんだよ!?聞いてたでしょ!?」
「・・・・ぅん」

つかさは更にしゅんとうつむいてしまった。
責任を感じているらしい。

「とにかく、早く3次元に戻るよ。2人が心配」
「・・・は、はぃ・・」

それに2次元に長く駐留していては危険が生じる。
峰岸さんの影響で、2次元はオカシくなってしまっているのだから。

私はつかさと一緒に廃ビルを出て電気街へと向かった。
アキバならばパソコンに困ることは無い。
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