「ダブルインパクトな誕生日」 ID:H5Cf3uqe0氏

教室。

本日の業務過程を終えたこの空間に、複数の人影が写る。
その中心に居るのは、頭に大きなリボンを携えた女の子。辺りに響き渡るのは、発表会が終わった後に観客が奏でるようなクラップ音。
祝いの拍手を四方八方から浴びせられ、顔を僅かに赤らめて頭へと手をやる少女。少し困ったような顔をしつつも、その目からは喜びの涙。

見守る周囲の中にツインテールの女の子が一人。その顔には、リボンの少女と同じく喜びの顔が映し出されている。
周りは気づかない。その表情の裏に、憂いの影が落ちていたことを。




「つかさ、遅いねぇ」

遡ること三日。思い起こせば、何でもない日常の一片が全ての発端になっていた。

昼の休みを利用して、各々の生徒が空きっ腹を埋めようと奮闘している時間帯。
この三人も例外なく授業終了と共にそれぞれ食料を持ち寄り、しばらくしてから三人の中の一人、柊つかさの姉であるかがみが隣のクラスから同じように弁当を片手に小さな輪へと加わる。

だがいつもは四人で囲う一つの机。現在、机を囲っているのは三つ。

「そーいえばトイレに行ったっきり帰ってこないわね、あの子」
「お腹の具合でも悪いのでしょうか‥‥」

顔に手をやり、心配するのは眼鏡をかけたどこぞの令嬢のような女の子。

「拾い食いでもしてお腹壊したのかねぇ?」
「買う予定の無かった漫画をまるで落ちている10円玉拾うみたいに見境なく買っちゃうアンタより全っ然マシだけどね」

トイレから帰ってこないつかさに対して厳しい意見を漏らす少女は、小さな背丈の頂点に大きく飛び出した一筋の髪の毛をくゆらせる。
それを更に手厳しく返す、紫色の髪を両端に束ねた女の子。

「ちっちっ、それは拾うって言わないんだよ。自分の好きなもののみに縛られず、あえて色んな場所を見て回ることで隠れた才能や新たな感動を見出してゆく‥‥コレはもはや拾うとは言わない、発掘というんだよかがみん!」
「発掘とは名ばかりで、財布の中は寂しくなる一方だけどな」
「こーゆうのはお金の問題じゃないんだよかがみん。要は達成感、そしてエクスタシーを得ることで心の教養を得」
「いや意味わかんないから。そもそも言ってることがメチャクチャだし」

かがみん、と呼ばれた少女は半分ほど目蓋を伏せて、呆れたと言わんばかりのため息を一つ。
それを見て普段ボーっとしてそうな目をパッと見開くのは、かがみと押し問答を繰り広げていた小さな女の子。

「そうだよかがみ!」
「な、何よ、こなた‥‥」

いきなり立ち上がった友達を一歩下がったような目で見るかがみを気にも止めず、こなた、と呼ばれた小さな少女は続ける。

「明々後日(しあさって)ってさぁ、七夕だよね?ってことはつかさの誕生日じゃんっ!
ちょうど今つかさも居ないことだし、今のうちに3人で何か考えて、当日につかさをあっと驚かすようなことをしてあげようよー!!」
「おいおい、何でまたそんな唐突に‥‥」
「うふふ、でもいい考えなんじゃないでしょうか」
「みゆきまでっ?!」

柔らかく微笑む少女は、かがみの制止をやんわりと受け流して高貴な微笑を放ちながら。

「私も残念ながら、そういう祝い方をしてもらった経験はありません。でも自分の誕生日を祝ってもらえて嬉しくないわけがないですから。
ましてやビックリ箱を開けるような衝撃的なサプライズまでしてもらえて、きっとつかささんにとってもいい思い出として心に残る誕生日になると思いますよ」
「そーねぇ‥‥でもどうせなら私も一緒に」
「分かってるじゃんみゆきさんっ!じゃあ三人でつかさをギャフンと言わせちゃおーっ!!」
「・・・っ」

控えめに言い出した言葉は、津波にのまれてく木々のように高揚的な雰囲気の中に霧散していく。

少女は、己自身を持ち上げるような尊大なことを二度も言い出せるほどの度胸もなければ、どこかの権力者みたく自分を崇め讃えよとはやし立てるような無礼者でもなかった。
むしろこの面子では一番の良識人と言える存在。その本質は、双子としてこの世に生まれ落ち、その中で姉として名打たれる自意識の名残りか強がりな一面を持つ。
その一方で純粋無垢な面も併せ持ったが為に、意地っ張りで人の好意を素直に受け取れず、しかし嬉しさを隠し切れない代償として照れてしまうこともあれば、戸惑いを隠せずに慌てふためくこともある。そして当然、損をしてしまうことも。

「じゃあどーする?!つかさの喜びそうなことかぁ‥‥姉として、どうでしょうかがみさん?」
「そ、そうね、えっと‥‥」

勿論自分のそれを、十七年という長い歳月を経ても自覚しないほど鈍感ではない。
しかし後悔したことはありこそすれ、この性質にも利点があることを忘れてはおらず、ひたむきに頑張る自分の姿や勝負心を熱くたぎらせる自分の心は決して嫌にはならなかった。

こんな風に思ったのはこの時が初めてだった。
己の人格の否定。どうして自分は、こんな性格をしているのだろう、と。
私だってつかさとは双子で、同じ日に誕生日なんだから一緒に祝ってくれればいいのに。何でそんな簡単でとても当たり前なことすら言い出せないのだろう、と。
そしてもう一つ。何故つかさの誕生日に気づいて、私も誕生日だと言うことに気づいてくれないのだろう。毎日顔を合わせる者同士なのに、自分はそんなに存在感が無いのか、と。


感情とは、ほとんどが己の主観フィルタを通して作り出すもの。しかしそれが人の身体を蝕んでいく。真っ白だった心に、寂しさの詰まった宵闇の黒を塗りつぶしていく。





準備は滞りなく進んでいった。
『七夕パーティ』という名目を利用して、放課後の教室に皆を招待しよう。もちろん、つかさ以外にはちゃんと『本当の目的』を伝えて。
パーティが盛り上がってきたところで種明かしをしてつかさを祝おう。皆でつかさを取り囲んでプレゼントの渡しっこをしよう。
どれもこれも、自分がやってもらえたら嬉しくて泣いてしまいそうなラインナップだった。何故ならば皆つかさのことが大好きで、心から喜ばせてあげたいと思案して意見を出し合った結果なのだから。

だからこそ、それを自分も受け取れたんじゃなかったのか、という悔しさとやるせなさが心の中で膨張していく。
着々と自分の心の中で陣地を拡大してゆくそれが、自分の心という許容範囲を越えてしまった時、取り繕っている表情は剥がれ落ちて、下手をすれば涙が溢れてくるんじゃないだろうか。
そうなる訳にはいかない。折角のめでたいサプライズパーティを、自分の我侭で潰したくなかった。

「じゃあかがみん、そーゆーことで。明日は皆で盛り上げようね!!」
「それではかがみさん、また明日っ」

みゆきの声が心なしか弾んで聞こえた。

独りよがりな意志に緊縛の命を放つ。己の心に釘をさす。
痛い。心が締め付けられる。
自分に言い聞かせるたびに、いつ主人の意志に反して解き放たれてしまうか分からなくなってしまう自分の心が情けなかった。





時は七月七日。世間的に七夕と称される今日。
一つの教室に、招致に応じた八つの人影がある。
いつもの四人に下級生のゆたかとみなみ、かがみのクラスに居る仲良し二人組であるみさおとあやの。

全ては予定通り。担任のななこ先生の助力もあって、今日くらいは下校時間をオーバーしても見逃してくれるとの了承や、部屋に様々な飲食物を持ち込むことへの許可、小さな笹の木を教室の中に持ち込む権利を得た。
しっかりと後片付けをしておくこと、ゴミは持ち帰ること、そしてこの件は絶対に誰にも公言しないことなどの条件付だが、それは高校生にもなれば大体が心得ていることであり、特筆すべきものではない。

舞台は整った。


少し場違いではありつつも、こなたの号令で乾杯が交わされる。
小さな机同士をくっつけて出来た大きな一つのテーブル。その上に並ぶのはパーティと証するには若干貧相な飲食物達だが、教室でのパーティでここまで出来れば十分だ。
様々なスナック菓子、チョコレートやキャラメル、菓子パンやおかきなどもあり、食欲旺盛な女子高生達はどれから手をつけようかと目を輝かしている。

今にも消えんとするその身を焦がし、オレンジ色の光を限界まで届けていた太陽がやがて完全に姿を消した頃。
あえて教室内では電気をつけずに色とりどりのローソクが数え切れないほど用いられ、ぼんやりと、それでいてどこか風情を感じさせる七夕パーティと相成った。

その頃、完全に影を落としている廊下では、何やらひそひそと囁くような話し声が小さく響いていた。

「これで、よしっと」

そこには皆がお金を出し合って購入したホールケーキが一つ。デコレーションと共にケーキを彩るのは、9本のローソク。
その内真ん中に立てられたローソクは大きく、色模様も若干派手なものとなっていた。
中心より少し外れた場所に位置するチョコプレートには“つかさ おたんじょうび おめでとう”と表記されている。

「つかさ、喜んでくれるかな?」
「大丈夫よ、こんなのされて嬉しくないわけがないじゃない。私だってこんなことされたら‥‥」
「? どしたのかがみ?」
「ううん、行きましょ!」

胸の奥底に眠る暗闇を必死に追い払う。
大丈夫。私は大丈夫。


がら。
僅かな喧騒が響く教室に、大きくドアの開く音がした。
全員の視線が音のした方へと集約される。

入ってきたのはかがみとこなた。
見回りに来た教師や警備員ではないことにまず安堵すると、かがみの抱えているものが淡く光を放っていることに気づいた。
そこにはぼんやりと、教室に散りばめられたローソクと同じ灯火が一つ。
だがよく見るとそれを成しているのは一本のローソクではなく、複数のローソクが集まった姿だということに気づく。

「今日のメインディッシュのフルーツケーキ、皆で食べない?」

わぁ、と歓声が上がる。
それを受けつつ、かがみは皆の目当てであるケーキをテーブルの中心に置いた。
だが勿論つかさ以外の皆が、このケーキの正体を知っているわけで。

「お姉ちゃんもしかして自分で買ったの?奮発したんだね‥‥‥‥あれ?」

つかさがきょとん、とした目で配置されたばかりのケーキを見つめる。
色とりどりのフルーツ、その周囲にはローソクが数本。そこで何かが引っかかった。
最後にチョコプレートに描いてある文字を視覚から脳内に取り入れ、情報を整理する。ローソクの数。中心にある大きいローソクは一本で「十」と数えて、残りが八本。
そして何よりもプレートに書いてある言葉が、自分の中で不確定だった要素を決定づけた。

「お姉ちゃん、これって‥‥!」
「うん」

ケーキを疑り深く見つめていたどんぐり眼が一瞬で輝きを見せて、歓喜の表情へと変化する。
妹の顔が告げる。このケーキの正体に気づいた、と。

それを見計らった姉は一息ついてから、

「お誕生日おめでとう、つかさ」

姉の祝辞が指揮棒となり、祝いの音楽を奏で始めた。

《ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデーディアーつーかさー♪》

静かな部屋に共鳴する少女達の歌声は、渦中にいる人物の涙腺を確実に緩める役割を果たして。
生まれてきてくれて、ありがとう。これからもよろしくね。そして、十八歳の誕生日おめでとう、と。
歌声が響く。気持ちが響く。心に響く。

リボンをぴこぴこと揺らしながら戸惑いの表情できょろきょろと周囲を見渡す。どれもが心からの賛辞を表す表情を成していた。
教室の床に、ぽたぽたと雫が落ちてゆく。涙が溢れて止まらない。

「ありがとっ、みんな、ありがとうっ‥‥!!」
「ホラ、つかさ。泣いてないでろうそく消さなきゃ」

泣きじゃくって既にまともに話せなくなってる妹の背中をぽん、と優しく叩く。
促されるがまま、ひくひくと痙攣している喉をおして息を吸い込み、火の灯るローソクへと吹きかけた。
だが中々消えてくれない。元々肺活量が少ないのか、それとも嬉しさで自分の息すらまともに制御できなくなっているのか。
仕方なく姉が助け舟を出す。落ち着いて息を大きく吸い込むと、ケーキに灯る炎に目標を定めて正確なブレスを一つ。
それだけで、ケーキに残っていた灯火は全て鎮火した。

「えへへ、ありがとう、お姉ちゃん」
「いいわよ、どーせいつものことだし」

軽く会釈をしつつ、妹の顔を見つめる。
抱えきれない幸せを貰って、あっぷあっぷしている状態だと一目見て分かった。
周りからパチパチと瞬くような拍手が鳴り、涙を少し拭いながらもう片方の手を照れくさそうに頭へとやる。



瞬間、かがみの心の奥底で封印していたはずの暗闇が目を覚ました。
それは瞬く間に領土を広げて、かがみの心を支配し始める。

もしかしたら。
双子であり、妹であるつかさなら。
姉だって、同じ日にこの世に生まれ落ちたのだと気づいてくれるかもしれない。私だけじゃなくて、お姉ちゃんも誕生日なんだよ、と言ってくれるかもしれない。

確かにこの空気でそれを言い出すのは少し気まずいのかもしれない。今まで気づかなかった後ろめたさなどから、周りはきっとやりづらい雰囲気になってしまっただろう。
でも、それでもよかった。誰か、一人くらい自分を救ってくれたって。


知らずに己の心の中に創られていた、最後の希望。
たった一つ残された蜘蛛の糸が儚く千切れていくのを見た。

「‥‥っ」

ヤバい。
かがみは左胸辺りの制服を掴んで、ぎゅっ、と握り締める。
ここまで耐えたのに、一番肝心なところでダメになっちゃうかもしれない。


「どしたのかがみ?ホラ、かがみがプレゼントを渡す番だよ」

刹那で現実世界に引き戻される。
目の前には、他の六人が用意した様々なプレゼント達を両手で大事そうに抱え込んでいる妹の姿があった。

「‥‥っふぅ」

一呼吸。
あと少しなんだ。頑張れ自分。
掴んでいた左胸を開放すると、机の下から小さめの包みを取り出した。
表面には星模様の付いた包装。袋口は金色のリボンで締められている。

「おめでとう、つかさ」
「ありがとう、お姉ちゃんっ」

抱え込んだ贈り物の配置を腕の中で調節して、何とか受け取る手を差し出す。
リボンで結んだ先っぽにある袋の端をつまむと、また目を見てふにっ、と笑みを見せるつかさ。

良かった。本当に嬉しそうだ。
それだけで少し楽になる。
大丈夫、自分は皆にとって不必要な存在なんかじゃない。誕生日なのを気づいてもらえないのもきっとたまたま。

「じゃあ最後に、みんなで願い事を書いて笹の葉に飾ろうー!!」

こなたの元気な声が上がり、ゆたかの無邪気な掛け声が聞こえ、みさおのハイテンションなシャウトが響く。
みんないる。自分だって、ここにいる。
かがみの手に配布されたのはどこにでもあるような短冊と、HPの鉛筆。紙の手触りが心地よい。これは和紙なのだろうか。

「もぉーかがみんボーっとしてないで、チャッチャと書く!」

顔を上げる。状況が把握できない。よく周りを見ると、自分以外は全員事を成したようで皆思い思いの行動を取っていた。
無言で再び短冊を凝視。
普段なら「せかすな!」とか言いながらじゃれあっている流れ。でも今の彼女にそこまでの精神的余裕はなかった。
裏切られたような悲壮感と、自分を必死に封じ込める意識。それが全てだった。

結局、誰にも気づいてもらえなかった。それは何故か。
きっとまだ気づいてもらえるだけの印象がなく、そこまでの友達とは思われていないから。
何故?私だって、つかさと同じ位の時間を共に過ごしてきたのに。
やっぱりつかさの方が可愛いし、かまってあげたくなるから?
それともただ単に、私は影で嫌われている、とか?


ぎり。拳を強く握り締める音。
それも一瞬。手の力を抜いて、胸中での問答に一旦ピリオドを打った。
考えていてもしょうがない。過ぎたことは悔やんでも、時間はもう戻ってこないのだから。
ならば、来年こそはつかさと二人一緒に祝ってもらえるように。私という存在を認めてもらうために。


『もっと皆と仲良くなれますように』


もう一人でこんな悲しい思いはしたくないから。
次こそは、心から皆で祝える誕生日にしたいから。
切な願いを一片の短冊に込めた。

「ぁー、ダメだよかがみん、そんなこと書いちゃ」

とはいえ、あまり見られたくもない願いごと。出来るなら上に飾りたかった。
しかし背伸びをする気力も残っていない。しょうがないのでしゃがみ込むと、下の方へと手を伸ばす。落ちない程度に短冊についてる紐と笹を結び合わせた時だった。

隣にいた親友からトドメと言わんばかりの言葉。
冗談。それはわかっていた。どうせ「ツンデレがそんなこと書いたらキャラ的におかしくなるじゃん」とか言って、何故か元気のない自分を少しでも励まそうとおどけて見せただけなのだと。

でも、でも。
私は。


問いかけに返答はない。身体が震える。行方が定まらない。もうダメだ。
心が解き放たれようとした、その時。

「かがみんも、自分の誕生日を祝わないと」

不可解な言葉。震えが止まる。


逆光。
ぼんやりとローソクの灯りのみが頼りだった教室の電気がつけられる。宵闇が晴れていく。
チカチカと副作用の残る目をぐっと閉じて、見極めるための目をしっかりと開いた。
真っ先に電気を着けた人物を確かめるべく、スイッチのある教室の入り口へと視線をやる。微笑した妹を視認。
目の前に笹の木。眩さに逆らって思わず上方を見上げれば、いくつもの短冊が光を受けて白く輝いていた。

立ち上がって、ふらつく足で回れ右。
視野に映るのは、笹の木をぐるりと取り囲むような形で自分を見つめる皆の姿。
聞こえてくるのは、いつか耳にしたような祝いの歌声。

《♪ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデーディアーかーがみー♪》

呆然。
しかしその歌声が、どう考えても自分に向けられている、ということだけはわかる。つじつまは合わないが。
ほんの数秒だった賛美歌は程なく終曲を迎えた。

《♪ハッピバースデートゥーユ~~~♪》


パン!パン!パパパパン!

炸裂音が共鳴し、それぞれの持つ小さな円錐型のクラッカーが威として弾けた。
無。今現在のかがみを表す、シンプルかつ的確な言葉。

「いやぁ~ゴメンねかがみん。今回の七夕パーティ‥‥実は二重のサプライズ計画だったんだ」
「わざとかがみさんの誕生日に気づかないフリをして、最後に思いっきり祝って差し上げようという、ちょっとしたドッキリだったんです」
「やーい柊、引っかかってやんのーっ!」
「先輩、おめでとうございます‥‥」
「クスクス、柊ちゃん、ごめんねっ」

一瞬のライトアップ、歌声に続いてクラッカーを鳴らし、笑い声と祝いの言葉が混入されて、教室内は一気にボルテージを上げていく。
瞬間、かがみの身体は力をなくした。地面に立つ力、反応する力、声に出す力さえも失われて。
ぺたん、と身体を地に落とす音。

「‥‥かがみん?」
「あのさぁ‥‥この数日間、私がどんな気持ちで過ごしてたか分かる?どんだけ寂しかったか‥‥
それでも折角の誕生パーティを邪魔しちゃいけないから、誰も気づいてくれないからってそんな我侭言っちゃダメだ、って‥‥」

作り上げていた障壁がいとも容易く崩壊していく。
悲しみ、切なさ、こみ上げる気持ち。堤防が決壊して、ドロドロと自分の中で澱んでいたとは思えないくらいの速度で開放されてゆく。
へたれ込んだかがみにあわせて座ると視線が重なって。合致した眼を先にそらしたのはこなた。それは一瞬、戸惑いと気まずさを覚えたための逃避。
しかし気持ちを伝えるために、その瞳は再びかがみへと向けられる。

「ゴメン。でも、おめでと、かがみ」
「バカっ!!バカバカバカバカっっ!!!」

目の前の親友に抱きついた。
嗚咽。でもそれは先ほどまでかがみの内にあった葛藤とは違う。
夜を照らす月。輝く星空。昇る朝日。心の闇を消し去った後の副作用。



数分の間であれ、親友に体温を分け与えてもらったせいか嘘みたいに気持ちが晴れてゆく。
普段の冷静さを取り戻したかがみは、こなたを開放すると素朴な疑問をぶつけるべく怪訝な視線を込めて相手の眼を睨みつけた。
「ひっ」とこなたが口の中で小さな悲鳴を上げる。

「‥‥で、一体こんなしょーもないことを考え付いたのは誰なワケ?」
「あっ、あわわわわ‥‥」

こなたの頭の中で緊急回避せよ、と警鐘が鳴る。
リミットオーバー。気迫が迸って教室全体を包み込む。さっきまでこなたの斜め後ろで見守っていたゆたかが一歩後退。その小さな身体を支えるようにみなみも下がる。
だがかがみはそれを見ることなく、目の前に居る人物、先ほどまで抱擁を交わしていた相手の肩に手を置いた。

「まぁ‥‥アンタしかいないわよねぇ、こなたっ!!」
「だっ、だからそれはホラ、アレだって!かがみにもつかさにもいつもとは一味違う誕生日をプレゼントしてあげたいなぁーって‥‥ほ、ホラ、一生の思い出にならない?こういうのって‥‥」
「こんなの黒歴史以外のナニモンでもないでしょーがーーーっ!!」
「うわぁっ!!ちょ、そんなこと言ってないで、ホラっ!せめてみんなの短冊見てから‥‥く、くるし・・・」
「‥‥短冊?」

一瞬にして背後を取ったかと思うと、相手の首に腕を回してスリーパーホールドを発動。こなたの頚動脈を容赦なく極めてゆく。
その中で息も絶え絶えに発せられたこなたの言葉を何とか理解すると、腕の力を瞬時緩和、一時的に首を開放した。
立ち上がり、笹の木に吊るされた短冊を閲覧し始める。


『お誕生日おめでとっ!たまには私らのことも優先して考えてくれよなv 日下部みさお』
『柊ちゃん、18歳のお誕生日おめでとう! 今度とびっきり美味しいお菓子作ってあげるねv 峰岸あやの』
『かがみ先輩、おめでとうございます!また勉強が分からない時は教えてください♪ 小早川ゆたか』
『誕生日おめでとうございます これからもいつもの元気で頑張ってください 岩崎みなみ』
『かがみさん、お誕生日おめでとうございます。粗相をかけてばかりかも知れませんが、これからも宜しくお願い致します 高良みゆき』
『お誕生日おめでとう、お姉ちゃん!いつもいつも迷惑かけてばかりだけど、そんな私に付き合ってくれる優しいお姉ちゃんが大好きです 柊つかさ』
『誕生日おめでと~かがみんvvいよいよ18歳になったことだし、ツンデレにも磨きをかけてみてはいかがでしょーか? 泉こなた』


かがみへの想いを描いた短冊達が、一つ一つその手に受け取られてゆく。
文は違えど言いたい事は皆同じ。
生まれてきてくれて、ありがとう。これからもよろしくね。
そして、十八歳の誕生日おめでとう。

「何、これ‥‥‥」
「どう、かがみん?感動した??」
「こなた‥‥っ!」

目じりに涙を溜めながら腕を振り上げたかと思うと、掌を思い切り張って親友の頬に叩きつけた。
ばちん。軽快な音が響く。

「ぃ、いたっ!!ちょ、何すんのさかがみん!!」
「何って、なにアンタは一人だけまたしょーもないこと書いてんのよ!!この展開からして唯一の見せ場なんだからビシッと決めなさいよ!!ったく、今度からこなたのことKYって呼ぶわよ!?」
「けっ、KYっ?!何かがみん、そのへんてこりんな名前‥‥」
「『空気を読めないヤツ』の略よ!前から散々思ってたけどアンタの空気の読めなささは異常!!このKYっ!KYっ!!」

機関銃のような罵倒文を述べながら、両拳を握り締める。
狙いはこめかみ。硬くしたそれをあてがうと、まるでドリルでもねじ込むかのようにしてぐりぐりと回し始めた。

「いたいいたいいたいってばかがみん!!あぅあぅあぅ~!!」
「そーよコレは私の心の痛みなのよ!存分に味わえっ!!」
「そもそもあたしにまともな文が書けるだなんて期待するのがまず間違って‥‥うぁ!!ゴメンゴメン今のナシ!!ぎああぁあぁあー!!」
「い・っ・ぺ・ん・死・ん・で・来・い!!!」

力を更に強く、そして骨を立てて与えるダメージを強化していく。
そんな渦中の二人を見つめながら和やかに会話する二人がいた。

「あははは、アイツらホンっトに仲いいよなー!」
「柊ちゃんはああ言ってるけど、やっぱりあの二人は今のままが一番なんだよね」
「っかー!なんかあーゆぅのっていいよなぁー!!くそっ!」

傍観者達の中から一つの足が踏み出される。
何だかんだで柊とは5年の付き合いなんだから、この美味しい場面(トコロ)をアイツに独り占めさせてたまるか、と意気込んで。

「こらちびっ子ー!自分ばっか柊を独占してないで私にも貸せー!!」
「だから人をモノ扱いするなっ!」
「そうそう、柊ちゃんは私達のモノなんだからー☆」
「──ってあやのぉ!?アンタもなに悪ノリして‥‥」
「やめてよー!お姉ちゃんは私のモノなんだよ?!」
「かがみさん、大人気ですね‥‥でも最終的に、かがみさんは私の‥‥いえいえ、特に他意はありませんよ?」
「怖っ!!ってゆーかみゆきどこ触っ‥‥」
「こなたお姉ちゃーん!私にもかがみ先輩わけて~♪」
「‥‥胸、分けてほしい‥‥」
「ぎゃー!!」

甘いものに群がる蟻。肉に集まるハイエナ。
みさおを皮切りに、気が付けば全員が獲物を喰いつくさんとばかりにかがみに襲い掛かっていた。
熱量と気持ちが1つになって、友情は深まっていく‥‥かも。


その頃、阿鼻叫喚の地獄絵図と化したこの教室の窓からは怪しげに揺らめく一つの影が。

「うわぁ~‥‥かがみ先輩総受けっスか!このネタいただきっス!!
で、でももう少しだけ・・・じゅるっ」


で、見ているうちに我慢出来なくなったひよりが「私も入れてほしいっス!!」っと飛び込むことになるのはお決まりとして、あまりの物音に耐えかねたななこ先生が着々とこの教室へと歩を進めていたりするのは別の話。




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