ID:KiCgDYw0氏:新商品のノート

「わっ!?うひゃあああ!」
「熱っ!?ちょっと、何やってんのよ、つかさ!」
「ご、ごめんね、お姉ちゃん!」
「謝るのは後でいいから!ほら、さっさと雑巾をとってくる!」
「う、うん!」
「まったくもう……あ~あ、私のノートが水浸しだわ」

 つかさです。
 勉強を教えてくれていたお姉ちゃんのノートにココアを浴びせてしまいました。


 ~新商品のノート~


 時刻は夜の10時。わたしは今、お姉ちゃんの部屋に向かっています。
 お詫びのしるしとして、夜食代わりにチョコチップクッキーと紅茶を届けるつもりです。
 どちらもお姉ちゃんが、おいしいと絶賛してくれたものです。

「お姉ちゃ~ん、さっきはゴメンね~」 
「ん?ああ、つかさか。昼間のことならもういいわよ。あんたが失敗するのは今日に始まったことじゃないし」
「むー……」
「あははっ、冗談よ。そんな顔しなくてもいいじゃない。それで、何か用?」
「う、うん。あのね、ちょっと休憩しようと思ってクッキーと紅茶を用意したんだけど、お姉ちゃんもどうかなー、って」

「うーん。この時間に甘いものはちょっとなぁ……どんなクッキー?」
「この間つくったチョコチップのやつだよ」
「あー、あれか……それじゃあ、ちょっとだけもらおうかしら」
「そう言うと思って、もうお姉ちゃんの分も用意してきちゃったんだ」
「そうなんだ……何か釈然としないわね……ま、いいか」

 お姉ちゃんは笑顔で私を部屋に招き入れます。
 食べ物で釣って正解――じゃなくって、ちゃんとお詫びができて良かった~。
 なんて安心したのが間違いでした。

「あっ」
「えっ?」

 何も無いはずの部屋の入り口で私はつまづいて、すってんころりん。
 紅茶とクッキーを載せたお盆は空を飛び、かがみお姉ちゃんの方へと――

「熱っ!?ちょ、何やっ!つかっ!熱っ!」
「だ、大丈夫、お姉ちゃん!?」
「熱っ!ああっ!?よ、予備のノートがっ!」
「あわわわわわ、ごめんね、お姉ちゃん!」
「で」
「で?」
「でてけーーーーーーーーーーーーっ!!」






「おはよ~、こなちゃん」
「おはよー、つかさ。今日はかがみと一緒じゃなかったんだねぇ。喧嘩でもしたの?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
「つかささん。私達でよろしければ相談にのりますよ?」
「そうだよ、つかさ。悩み事はみんなで解決すればいいんだから。泥舟に乗ったつもりで、ドーンと私達に任せてよ!」
「ありがとう、ゆきちゃん、こなちゃん」 
「泉さん、泥舟というのはちょっと……」
「あれ?何かマズかった?」

 ………

「なるほどねぇ。確かに1日に2度も同じ目にあったら、かがみも怒って当然だよねぇ」
「それで、今朝もかがみさんは口をきいてくれないんですか?」
「うん。私より早く家を出ちゃってて、顔もあわせてないんだ」
「そういえば、今朝はいつもより早くにかがみさんの姿を学校で見かけましたね」
「うーん。こりゃちょっと重症だねぇ」
「わたし、どうしたらいいのかな……ずっと許してもらえなかったら、どうしよう」

「みゆきさんはどう思う?」
「そうですね。やはり、正面から謝るのが良いのではないでしょうか」
「だよね。後はノートを弁償するくらいかなぁ」
「つかささん、鉄は熱いうちに打て、とも申します。事がこじれる前に謝られてはいかがでしょうか?」
「でも……」
「みゆきさんの言うとおりだよ、つかさ。私も今すぐ謝ってきた方がいいと思うよ?」
「でも……」

 謝りに行って、許してくれなかったらどうしよう。
 そもそも、口さえきいてもらえないかもしれない。
 そんな考えばかりが頭の中を巡って、わたしは俯くことしかできません。
 せっかく2人が真剣に相談にのってくれているのに。

「仕方がないですね……つかささん、これをあげますから、謝りに行ってみませんか?」

 そう言って、ゆきちゃんは黙って俯いている私に1冊のノートを差し出しました。

「ゆきちゃん、これ、ノート?」
「はい。ノートです。でも、ただのノートではありません」
「どういうこと?」
「このノートは少し特別でして、米国のRed otter社で先頃開発された新商品なのです。縁があって入手することが出来ましたが、市場にはまだ流れていないものです」
「そうなんだ」
「はい。そして、このノートが従来の物と何が違うかといいますと、呪術的なパワーを秘めている、という大きな特徴があります」
「じゅじゅつてきぱわー?」

「簡単に言いますと、おまじないを叶える力、といったところでしょうか。このノートには、込められた想いを何らかの力に換える効果があります」
「……よくわかんないや」
「つまり、このノートにつかささんの思いを込めてかがみさんに渡せば、その想いが伝わる、ということです」
「ええっ!?そ、そうなの!?」
「はい。ただし、このノートは試作段階のものですので、よほど強く想いを込めなければ効果はありませんので、注意してください」

「……ゆきちゃん、こんなにスゴいもの、本当にもらっちゃっていいの?」
「もちろんです。たまたま手に入れただけの物ですから、どうかお気になさらず」
「ありがとう、ゆきちゃん!私、今からこのノートを持って謝りに行ってくるよ!」
「はい。頑張ってください」

 私はそのノートの最後の1ページに自分の想いを書き込み、それを持ってお姉ちゃんのクラスへと向かいました。






「……みゆきさん。つかさが持っていったあのノートだけどさ」
「はい。あれは昨日、ここの購買で買ったものです」
「やっぱりね。つかさに足りなかったのはただひとつ、素直に謝りに行く勇気だった、ってとこかな?」
「さすが泉さんです。お見通しでしたか」

「ひとつ聞きたいんだけどさ」
「はい?」
「さっきの話に出てきた米国の会社、レッドなんたらってやつ」
「Red otter社、ですか?」
「そう、ソレ。その会社って実在するの?」
「どうでしょうか……泉さん、Redは赤、otterはカワウソを意味するってご存知でしたか?」
「あー、なるほどね」
「はい。真っ赤なウソ、ということです。少し悪戯が過ぎましたでしょうか?」

「みゆきさんも案外策士なんだねぇ」
「それも萌え要素のひとつ、ということでどうでしょうか」
「むむっ!?さらにできるようになったね、みゆきさん!」
「はい。おかげさまで」
「でも、萌え要素の意味、本当はわからないんでしょ?」
「うふふ。泉さんにはかないませんね」

「おっ。みゆきさん、つかさが戻ってきたよ」
「あの様子ですと、どうやら上手くいったみたいですね」
「で、どうするの?」
「はい?」
「ドッキリってのは、ばらす時が最高に楽しいと思うんだけど?」
「騙したまま、というのも楽しいと思いますが?」
「あはっ。みゆきさんにはかなわないよ」





 暦の上での春。受験勉強も終りにさしかかる頃、かがみはこのノートを使い切ろうとしていた。
 問題集とにらめっこしながら、何気なく開いたノートの最後の1ページに、かがみは見慣れた筆跡を見つける。
 小さく、だがはっきりと書かれたその文字を見て、かがみの頬は自然とほころんだ。

 お姉ちゃんごめんね。大好きだよ。 つかさ

 つかさが顔を真っ赤にしてファミレスの机に突っ伏し、みゆきがつかさに平謝りし、それを見てこなたとかがみが笑うのはもう少し先の日の出来事。
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