ID:KiCgDYw0氏:続・衝撃のホワイトデー

 前回までのあらすじ

 とある事情により、初めてバレンタインに親しい多くの人にチョコを贈ったかがみ。
 チョコを配ったのが初めての事なら、ホワイトデーのお返しを受けるのも初めて。
 そしてホワイトデー当日。
 お返しを貰えるかもしれない立場にあり、浮き足立つ彼女の前に思わぬところから魔の手がのびる。
 罠を仕掛けたのは彼女の姉、まつりである。
 まつりは飲み物にお酒を仕込み、かがみの判断能力を鈍らせ、おいしくいただこうとしたのであった。
 もう1人の姉、いのりの助けにより辛くも難を逃れたかがみであったが、いのりもまたかがみの事を狙っていたのであった。
 かがみの運命や如何に……

 ~続・衝撃のホワイトデー~

 私の顔――左の頬――に、いのり姉さんは優しく手を添える。

「まつりに譲るわけにはいかないのよね……」
「い、いのり姉さん……」

 いのり姉さんは、かがみは私が貰うの、と優しく言ってから、その顔をさらに近づけてきた。
 あまりの展開についていけず、今度は目を閉じることすらできなかった





「かがみに何をしようとしているのかしら、いのり?」
「ひあっ!?」
「お、お母さん!?……ち、違うの!コレは、その、ホワイトデーがいのり姉さんで!コーヒーなまつり姉さんにお酒で!」
「落ち着きなさい、かがみ……そう。まつりも関係してるのね。かがみ、悪いけどまつりを今すぐ呼んできてちょうだい」
「え?……う、うん。わかった」

 顔面蒼白でガタガタと体を震わせているいのり姉さんをその場に残し、まつり姉さんを呼びにいく。
 お母さんが呼んでるんだけど、と声をかけると、まつり姉さんはこの世の終わりのような顔をした。
 まつり姉さんを伴って戻ると、いのり姉さんはこれ以上ないくらい正しい姿勢で床に正座をしていた。
 お母さんはいつもと変わらない穏やかな表情で椅子に腰掛けていた。

「まつり、ここへ来て。いのりの横に座りなさい」
「は、はいぃっ!」
「かがみは自分の部屋に戻って、学校に行く準備をしなさい。あと、つかさを起こすのもお願いするわね」
「う、うん。わかった」
「それと、かがみ。これから2時間ほどここには戻ってこないで頂戴ね。もちろん、絶対にのぞいちゃダメよ?」
「え?……それって、ま、まさか……」
「久しぶりに本気で御仕置きをしなくちゃいけないみたいだから」
 
 いつもと変わらぬ表情だが、内に秘めたるオーラは凄まじいのだろう。
 お母さんを中心に、部屋の空気がぴんと張り詰めたものに変わっていく。
 眼前に座るいのり姉さんとまつり姉さんは、何か一線を通り越したのだろう、澄み切った静かな表情になっていた。
 私は2人の無事を願いながら、逃げるようにつかさの部屋へと向かった。

「つかさー、そろそろ起きないと遅刻しちゃうわよー……って、あれ?」

 ドアを開けてつかさの部屋に入るが、ベッドの上につかさの姿はなかった。
 つかさの姿どころか、通学用のカバンもいつもの場所から消えていた。
 まさか、私より早い時間に起きて学校に向かったというのだろうか。
 どこかに隠れているのではないか、なんて思ったりしてキョロキョロと辺りを見回すと、机の上に何か書置きがあるのに気がついた。

 かがみお姉ちゃんへ
 今日は ほわいとでー だね。
 顔を合わせるのが なんかはずかしいから 先に学校に行くね。

 ごめん、妹よ。意味がわからない。
 ホワイトデーだから顔を合わせるのが恥ずかしいってのはどんな理論なんだ。
 何も恥ずかしいことなんて――

 脳裏に先程までの姉さん達の行為が鮮明に蘇る。
 その相手役がつかさに入れ替わり、私とつかさはその唇を……
 ちょ、ちょっと!何を考えてるのよ!私は!

 確かに、あれは恥ずかしかった。
 恥ずかしかったけど、まさかね。
 まさか、つかさまでもがあんな破廉恥なことをしでかすとは思えない。
 考えているとさえ思えない。
 だいたい、つかさとはバレンタイン当日にお互いチョコを贈りあったではないか。
 そしてその時に言ったではないか、お互いお返しは無しってことにしよう、と。

 頭の中が変な思考に偏りがちなのはお酒のせいか、空腹のせいか。
 朝ごはんを食べたいところだが、今はお母さんが姉さん達に御仕置きしている頃だから台所へは近づけない。
 コンビニでパンでも買って食べよう。
 私はそそくさと学校に行く準備を整え、姉達の悲鳴が大音量の2重奏となっている我が家を早々に後にした。
 あの時みたいに警察でも呼ばれなきゃいいけど、なんて思いながら。

 ☆

「おはよー、かがみ。今日は遅かったねぇ。それになんか覇気が無いよ?」
「ああ、おはよ。朝ごはん食べ損ねちゃったのよ」
「お姉ちゃんが朝ごはんを抜いてくるなんて珍しいね。もしかして寝坊しちゃった?」
「寝坊なんてしてないわよ。家でお母さんが本気を出しちゃってさ」
「本気?本気ッテマサカ……ううう、鬼が来るよー。鬼が来るよー」
「つ、つかささん?」
「大丈夫よ、みゆき。ちょっと変なスイッチが入っただけだと思うから」

「よくわかんないけどさ、家で食べられなかったんならどっかでパンでも買えばよかったのに」
「それが近くのコンビニが改装中で、駅のコンビニは社会人が列をつくっててさ……遅刻するわけにもいかないしね」
「なるほど。それで食いっぱぐれたと」
「そうよ。こんなことならお菓子でも持ってくればよかったわ」
「ふっふっふ。何か忘れていやしませんか、かがみ様?」

 ニヤリと笑って、こなたは机に掛けてある自分のカバンから紙袋をとりだす。
 話の流れから察するに、何か食べるものでも入っているんだろうけど……
 その紙袋が、今朝まつり姉さんが持っていた紙袋と妙に似ていて、私は思わず後ずさる。

「バレンタインのお返しだヨ……って、何やってんの、かがみ?」
「な、なんでもないわ」
「そう?さっきから何か変なんだよね。、顔も赤いままだしさ。走ってきたからだと思ってたけど、そうでもないみたいだし」
「もしかして、風邪でもひかれたのですか?」
「だ、大丈夫よ。顔が赤いのは……そ、そう、たぶん外が寒かったからよ。それに今日は風も強かったでしょ?」
「ふーん。まあ、いいや。とりあえずコレを受け取りたまへ、かがみんや。中身は焼菓子だよー」
「ああ、ありがと」

 こなたに促され、素直に受け取ろうと伸ばした手が空を切る。
 私が紙袋を掴む寸前で、こなたがそれを素早く引っ込めてしまったのだ。
 軽く睨んでやると、さらにニヤニヤした顔つきでこちらを見てくる。

「残念だけど、ただではあげられないねぇ」
「なんでだよ。あんた、さっきそれはバレンタインのお返しだって言ってたじゃない」
「いやぁ、人の弱味につけこまない手はないからネ。ここはひとつ、私のお願いをきいてもらおうじゃありませんか」
「何よ?宿題でも見せろっての?」
「ほほう。そんな簡単な事で、私がこの貴重な食料を渡すとでも?甘いねぇ、かがみ様」
「なら、早くそのお願いってのが何なのか言いなさいよ。食べる時間がなくなっちゃうじゃない」

 こなたは腕を組み、いかにも何か考えています的な態度をとる。
 始業まであまり時間が無いというのに、コイツはあえてゆっくりとした動作をすることで私を焦らしているのだ。
 十分な間をとった後、こなたは邪悪な笑みを浮かべ、こう言い放った。

「私にファーストキスを献上したまへ。そうすればこのお菓子を――」





 次の瞬間、私の視界には声を上げることもなく椅子ごと吹っ飛んでいくこなたが映っていた。

 私が利き腕を思い切り振りぬいた結果だろう。
 それにしても、私って意外と力持ちさんなのね。自分でもびっくりだわ。
 白石とかいうクラスメイトがクッションになり、こなたと椅子はかろうじて軟着陸に成功する。
 紙袋はその手にしっかり握ったままだ。
 落としてくれれば話は早かったのにな。
 こなたはプルプルと震える手で、その紙袋をこれ見よがしに掲げる。

「冗談が過ぎるわよ、こなた!」
「ぐはあっ……か、かがみ、言うことをきかないとコレはあげないよ……ダイエットでもする気なのかい?」
「くっ!腹ペコの私に対して、お菓子を人質に交渉するだなんて卑怯よ!おのれ!謀ったわね、こなたぁ!」
「あっはっはぁ!かがみんよ、我が身の不幸を呪うがいい!」
「オニガクルヨー。オニガクルヨー」

 そうか、すっかり油断をしていたがここは戦場だったのか。
 戦わざるもの食うべからず。
 こなたはそう言っているに違いない。
 ならば、応えよう。この命をもって。
 悲しいけど、これ、戦争なのよね。

「あの、かがみさん。お取り込み中、申し訳ありません」
「何?みゆき?銃弾なら足りてるわよ」
「あ、いえ。そうではなくて、お菓子なら私も持っていますので、よろしければこちらをどうぞ」
「え?本当に?」
「はい。ですから、いたずらに争いを起こされなくても大丈夫かと」
「あ、ありがとう、みゆき!」
「み、みゆきさん!私を裏切るつもりなの!?」
「裏切る?何のことでしょう?私は最初からかがみさんの味方ですよ?」
「なっ!?かがみの好感度を得るために……私を踏み台にしたぁ!?」
「うふふ。私は泉さんとは違うんですよ、泉さんとは!」

 みゆきから綺麗に包装された箱を受け取る。
 嗚呼、このお腹の空きよう、もうなりふりかまってなどいられない。
 すぐに包装を破り捨て、箱を開け、金色に輝くマドレーヌを取り出す。
 そして個別包装の袋を破り、おもむろにかぶりつく。

「どうですか?かがみさん?」
「んん~!おいし~!最高よ、みゆき!」
「喜んでいただけて光栄です」
「こんなに良い物をもらえるだなんて、何かお礼しなきゃいけないかしら?」
「いえ、いいんですよ、かがみさん。そもそもこれがお礼なのですから」
「でも、それじゃあ私の気がおさまらないわよ」
「そうですか。では――」

 みゆきは優雅な動きでふわりと私の懐に飛び込んできた。
 私の体を支えるように右手を腰にまわし、余った左手で私の顎を軽く持ち上げる。
 その手から、みゆきの体がわずかに震えているのが伝わってきた。

「み、みゆき……?」
「いざとなると怖いものですね。手の震えがとまりません……」

 みゆきは優しい目をして微笑み、その顔を近づけてくる。
 目をギュッと瞑った私は、みゆきの髪のいい匂いだけを感じていた。





「私にファーストキスを献上したまへ。そうすればこのお菓子を――って、かがみぃ!?」
「かがみさん!」
「うわぁぁぁ!どうしよう、みゆきさん!かがみが真っ赤になって倒れちゃったよ!軽い冗談のつもりだったのに!」
「お、落ち着いてください、泉さん!とりあえず保健室まで運びましょう!急いでかがみさんを私の背中に乗せてください!」
「オニガクルヨー。オニガクルヨー」
「ちょ、つかさ!違う世界に飛んでる場合じゃないから!戻ってきて手伝って!」
「ああっ、泉さん!紙袋が落ちて、中身の焼き菓子が床に!」
「うわっ!?で、でも今はそんなの気にしてる場合じゃな……かがみが拾って、しかも袋を開けて食べたぁ!?」
「そ、そんな!?まだ意識は戻っていないはずですが……かがみさん!しっかりしてください!かがみさん!?」
「う~ん……最高よ、みゆきぃ……」
「ああっ!?なんか笑いながらうわ言を言い始めた!?」
「これはマズイですね……泉さん!早くかがみさんを運びましょう!」
「うん、わかった!みゆきさん、かがみを乗せるよ、いい?」

 こうしてかがみはみゆきに背負われ、保健室へと運ばれていった。
 みゆきの髪に包まれるようにして背中で眠るかがみは、本当に幸せそうな顔をしていたという。
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