ID:KY2EcaM0氏:かぜのゆめがたり

~こなたが遠くで手を振っている。
よく晴れていて、時折雲が日差しを隠す。気持ちいい。
ふと、何か重要な事を忘れている気がした。
気持ちがいい風。目を閉じて、ゆっくりと思い出してみようか。~

私はバイクに跨りながら、こなたの家にやって来た。
今日は土曜日で時間が空いていた。
かと言って勉強をする気にはなれず、ごろごろと部屋を転がっていたときに、都合よくこなたから遊びに来ないかと誘われたのだ。
明日は私とつかさの22回目の誕生日。喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、どうにもむんむんとした気分になっていた。
重低音を轟かせ続ける私の大型バイク。ハヤブサと言う名の、かつて世界最速の称号を欲しいがままにしたレーサータイプのバイクだ。
エンジンを切り、バイクを路肩に寄せて停め、窮屈なヘルメットを脱いだ。
高校を卒業してからもこなたの家には週一度程度で遊びに来ていたため、ここまで来る道順を体が覚えてしまった。
私の妹のつかさは今日、料理教室のため来なかったが、つかさも一緒にここへ来る事は多い。

「よ、こなた」

私が泉家の電話にワン切りすると、こなたがひょっこりと玄関から顔を出した。

「やあやあ、いらっしゃい」

相変わらず身長が伸びないままのこなたを見ると、何故か安心感のようなものを感じるものだ。
私はこなたの部屋に案内され、いつもと変わらない散らかった部屋を見て、また安堵を感じた。

「かがみ、このゲームしない?」

こなたが取り出したのは、いわゆる「ホラーゲーム」だった。こなたは人差し指を立てながら説明する。

「ほら、夏と言ったらホラーじゃん?死者のさ迷う島から、無事に脱出する事は出来るのか!?」
「ほう、面白そうじゃない。ちょっくらやらせてもらうわよ」

ゲームを起動するとおどろおどろしいBGMと共に、ホラー風味な書体で書かれた作品のタイトルがテレビ画面いっぱいに映し出された。
こなたも今日初めてプレイするらしく、新規でセーブデータを作成することになった。


「やっぱり変わらないわね」
「んー?」

画面内ではオープニングムービーがこのゲームのストーリーを演出していた。
私は目線をそこに向けたまま、こなたに言った。

「だって、多少ラノベをかじったくらいの人だったら、ほとんどがこなたの名前を知ってるくらいに有名になったのよ?」
「そだねー」
「お金だって沢山入ってくるんじゃないの?なのにこなたの生活って、昔と今で何にも変わってないじゃない」
「んー。いや、ほら。フィギアが増えたよ?」
「それだけ?」

こなたが小説界に名を現したのが、高校を卒業してすぐの事だった。
なんとなく書いてみた、と言って私とつかさに見せてくれた小説を出版社に持って行ったそうだ。
そのデビュー作がファンタジー小説で、なんともこなたらしい摩訶不思議な内容だったが、人をひきつけ放さない独特の力も宿していたらしい。
アイデア満載の変化球的なストーリー展開。続きが気になってしまう、ハラハラする戦闘シーン。
これらの才能を出版社が認めたらしく、これまたこなたらしい文法間違いや誤字脱字を修正して、全国の本屋にライトノベルとして出版された。
こなたの小説を読んだ人からの口コミや、ネットでの書き込みなどから評判が広がり、あれよあれよと言う間にこなたはラノベ界の頂点に達した。

「確かにあんまり変わってないかもね。昔も今もやりたい事は同じだからじゃない?」
「まあ、そんなもんかね」

~私は野原に寝そべっている。
こなたがこちらに向かおうとしているが、私とこなたの間には川が流れていて渡れない。
仕方がない。私が向こうに行ってみようか。
しかし、いまいち気合が入らない。どうしたものだろう?まあいいか、特に何かあるわけでもなし。
こなたならマイペースに、私のところへやってくるだろうし。
プレッシャーをストレスとは感じず、褒められても受け流してしまう程、まるで目の前の川のように自由に流れていく体質。
こなたがマイペースだからこそ、周りの環境が変わろうとも、今までどおりでいられるんだろうと思った。
そう言えば、高校の卒業式の日がその逆パターンだったのかも知れない~

春。まだ寒さを残していて、体育館の中ではストーブが活躍していた。
卒業式を終え、皆が塵々に下校していく中で、私たち四人は集まっていた。
この学校を卒業したからと言って、私たちは会えなくなる訳ではない訳だが、今までのような当たり前の生活が出来なくなるのも事実。
教室で四人弁当囲んで、毎日しょーもない雑談にいそしむ事も、もうないだろう。
そういったなか、こなたが泣いていた。
つかさもみゆきも泣いていないのに、この中で、言っちゃ悪いが一番泣きそうにもないこなただけが泣いていた。

「こなちゃん泣かないで、会おうと思えば明日でも会えるよ」
「んっ、うん……。ぐす……」
「そうですよ泉さん。寂しい事は無いですよ」
「う、うん……」

たまにはこなたも泣く事があるのかと思い、その時は納得していた。
しかし数ヵ月後、こなたとつかさと私でレストランへ行く機会があったため、ここぞとばかりにこなたにその時の事を聞いてみた。

「いや、大したことじゃないって……」
「あの時はまさかあんたが泣くとは思わなかったわ」
「んー、そうだね。高校生活がさ、なんだかんだで楽しかったのかな~?と」
「ほう、あんたにしちゃ、まともな事を考えてたのね」
「お父さんの受け売りなんだけどさ、『人生は夢』って言ってね、つまり夢の中なんだから覚めるまでに楽しんだもの勝ちってわけさ」
「だからこなちゃんは、高校のときに目いっぱい楽しんでたの?」
「そだよ、卒業式に流した涙は、その反動ってことさ」
「はは~ん、だからあんたは楽しようと、平気で宿題を見せてもらおうとしてたわけね」
「か、かがみ様?ちょっと顔が怖いっすヨ?そ、そ、そうだ、ちょっとさ、実は私、小説書いてみたんだけどさ、読んでみない?」

~こなたが船を用意している。
さすがこなた。どこかの橋を渡ってくるのかと思っていたら、まさか船でこっちへやって来るとは~

ホラーゲームは徐々に盛り上がりを見せていた。
雰囲気は和風と言った感じか。マップの中には椿の生垣があったり、瓦屋根の小屋が並んでいたり。
ついさっきはおまわりさんの幽霊と戦い、なんとか成仏させる事ができた。
どちらかと言うと、謎を解く事に重点が置かれているようで、なかなかヒントを見つける事が出来ない。
そのため主人公はさっきからマップの中をうろちょろ動き回っているばかりだ。

「明日はかがみんの誕生日だよね、しかも七夕で。短冊は今年は飾るの?」
「多分つかさが準備するんじゃないかな?と、言っても、つかさ一人にやらせる訳にはいかないけどね」
「つかさだから、竹を一本切るのに苦労してそうだね。ところで今日はつかさはどうして来なかったの?」
「あの子は料理教室を開いてるのよ。第一土曜と第三土曜はね」
「ああ、そう言えばそうだったね」

つかさは家に近所の人を集めて、アイデア料理を教えていた。
腕前はまだ学生とは言え、やはりプロを目指しているだけありそこら辺の主婦よりも断然料理が上手だった。
アルバイトの代わりとして開き始めた料理教室だが、こなたが小説家になった時と同じように、つかさが料理教室をやると言い出したときは驚いたものだ。
あのつかさが人に物を教えるようになったのだから、その時はつかさが別人になってしまったのではないかと思えたほどだ。

「そうだ、待ってて。今アイス持ってくるから」
「お、サンキュ」

そう言って隣に座っていたこなたが立ち上がった。こなたの長い髪の毛からやさしい香りがした。
誰もいなくなった部屋を見渡すと、棚の上に置かれた写真の中のこなたの母親と目が合った気がした。
こなたもつかさも変わった。いや、本質的には変わっていない。しかし、確実に成長している。
みゆきも、アメリカへ留学していて、今頃私よりずっとレベルの高い勉強をしてるんだろう。
その中で、私だけが取り残されてしまっているようだった。

「ほい、バニラとチョコどっちがいい?」
「あ、ありがと、こなた。ねえ、みんな変わったわよね、なんかさみしいな、なんて」
「……」ニヤリ
「お、おまっ」
「さみしんぼかがみん、萌え~。やっぱりウサギみたいでかわいいの~!」

昔と全く変わらず、今もこなたと同じようにはしゃいでいた。
もう帰らなくてはならない。そんな時間になるのはあっという間の事だった。
日が沈んだばかりでまだ若干明るかったが、やはりつかさの事を考えると少し早めに帰ったほうが良いだろうと思った。

「じゃあ、またねこなた」
「ほい、またねー」

私のハヤブサのアクセルを少しだけ回すと、スムーズに加速していき徐々にこなたの家が遠ざかっていく。
少し暗いが、まだ少しは時間があった。せっかくの休みなのだから、山に走りに行ってみようかと思い、少し遠回りをして帰る事にした。
山の一角に、夜景のきれいなスポットがあった。気晴らしにはちょうどいいと思ったのだ。
前々から風を切って走るこの乗り物は楽しそうだとは思っていた。
しかしバイクの免許を取ろうと決断する事が、一番ハードルが高いものだ。
そこに、こなたの『人生は夢』と言う言葉が頭をよぎったのだ。我慢するより、楽しまなくては。
バイクの免許を取ってしまえば、あとはするすると魅力にはまって行くばかりだった。
そしてとうとう、バイクの一つの到達点とも言える、ハヤブサを購入するに至った。

後ろからスポーツカーが私の後ろにピッタリと付いて走っている。のんびりと走っていた私を、いつ追い抜こうか見計らっているらしい。
車体が小さいためか、バイクは自動車から甘く見られやすいため、こんなことは良くあることだった。
赤信号で止まると、先ほどのうなりを上げるスポーツカーが私の隣に並んだ。信号が青になり、スポーツカーが発進する。
私も強くアクセルを回すと脳味噌がずれそうになるほどの強烈な加速Gと共に、あっという間にミラーに写るスポーツカーを小さな点にしていってしまう。
どんな自動車でも、加速力でこのバイクに勝てるわけが無いのだ。
まったくこんな事にむきになるなんて。その時は自分が何かに置いていかれる事に敏感になっていたのかもしれない。
高校の時にはこなたやつかさに勉強を教えていたし、面倒を見ていたのは私だった。なのにいつからだろう。
みんなかが変わっていく中で、私だけはさなぎになったまま春を過ごそうとしてるのだ。


3秒もしないうちにメーターの針は100kmを超えていた。そのスピードのまま私は山道に突っ込んだ。
見通しが悪く、くねくねと曲がる山道を高速で私とハヤブサが登っていく。
明らかに危険なのは分かっていたが、何かに追われているような気がして、スピードを緩めようとはしなかった。
日はすっかり沈み、あたりは暗くヘッドライトで照らされた部分しか視界はない。
竹がぶんぶんと通り過ぎていく。明日は七夕。短冊にはなにを書こうか。
皆は私と違って、短冊に書くべき事はすでに叶っていると言える。そして更に高みを目指すのだ。
私が願いを書けば、皆に追いつく事が出来るだろうか?
天を望めば、生い茂る木々の隙間から、ベガとアルタイルが時折姿を現す。
流石にここでは天の川は見えないが、織姫と彦星が川を隔てて離れ離れになっているのだ。

~こなたが船を漕いでやって来る。
織姫と彦星みたいに、橋を渡って来れたら良かったのに。
そうか、七夕は明日だったっけ。まだ橋は架からない。仕方が無いのかもしれない~

もう少し行けば、夜景のきれいな場所に到着する。
あたり一面を見下ろしてみたい。ベガとアルタイルを見てみたい。
そうだ、短冊には「自信が欲しい」と書いてみよう。
22歳にもなって、短冊に願いを書くなんて、やっぱり私たちは根本的には変わっていないのだろう。
きついコーナーを曲がり終わると、直ぐ先で光る点が動いているのが見えた。。
その時はなんなのか分からなかったが、少し近づくとウサギの目が光っていたのだと気が付いた。
ウサギが私のバイクの進行方向で立ち止まる。危ない、このままでは轢いてしまう!
私は何かを叫んだ。こなたが私の事をウサギに似ているといっていた事を一瞬だけ思い出した。
ハヤブサがウサギに襲い掛かる。私はパニック状態のままブレーキをかけた。
しかし強くかけすぎたらしく、バイクはバランスを失い、私を放り出した。
宙に浮いている私は、ウサギが山に隠れていくが分かった。
大きな音を立てて地面を道路を滑っていくバイクと私。
その先には、切り立った崖がある。
人生は夢。いつかは覚めるものだ。

~船が近づいてくる。
驚いた。
船に乗っているのはずっとこなただと思っていたが、こなたのチャームポイントのアホ毛、泣きボクロ、猫口がない。
こなたの部屋に置かれた写真の中で、いつも微笑んでいたこなたの母親が、今私の目の前にいるのだ。
名前はかなたと言うのだとこなたから聞いているが、確かこなたが幼い時に亡くなっているはずだ。
気持ちのいい風が、私の髪の毛を悪戯に乱し、かなたさんのワンピースをひらひらと揺らし、太陽の光が私とかなたさんを照らしている。

「かがみちゃん、今までこなたと仲良くしてくれて、ありがとう」
「お迎えに、来てくれたんですか?」
「そうです。この川は三途の川といって、この向こう岸があの世ですよ」
「そんな、やっぱり私、死んじゃったんですか?」
「残念だけれど、そうなんです。私が抱いてあげますよ。その体じゃあ立てません」

そう言われて気が付いた。私の下半身がない。きっと事故のせいだろう。こんな体じゃあ、生きていられるはずが無い。

「さあ私に掴まってください」

私はかなたさんに抱かれたまま、三途の川を渡っていく。
かなたさんの髪の香りは、こなたと同じやさしい香りだった。

それから三年後、こなたは一つの小説を書き上げたらしい。
それは、バイクに乗った女の子を主人公にした、日常と非日常を組み合わせた、わくわくするような物語だという。
タイトルは「かぜのゆめがたり」
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