ID:AqV2Oq20氏:純粋な子に色々教えると後が怖い

『俺、この戦いが終わったら故郷に帰って結婚するんだ……へへっ』
 いきなりとんでもない事を言い出しているが、これはテレビ番組の音声だ。
 休日の三時ちょっと過ぎ。こなたとゆたかは居間でテレビを見ている。ゆたかがケーキ
を作ってみたという事で普段はあまりしない少しリッチなティータイム。そこでこなたが
テレビをつけ、チャンネルを回していたら調度こんなシーンだったのである。
「あー、こりゃ死亡フラグだねぇ」
「お姉ちゃん、死亡フラグってなぁに?」
 聞き慣れない単語に苺を口に含もうとしていた手が止まり、質問するゆたか。
「え? うーん、死亡フラグって言うのは~、「死への伏線」って言う意味で、今みたい
 な台詞を吐いた人物がこの後死にやすいっていう時に使う~言葉なんだよ」
 こなた自身も上手く説明できず、少し曖昧な答えをしてしまう。
「え? じゃあこの人死んじゃうの?」
「そうだねぇ。死ぬ確立は増えたよ。まぁ見ててご覧」
 再びテレビに視線を戻す二人。そこでは先程、結婚すると言っていた男が「うおぉっ」
等と叫びながら敵に向かって走っていくシーンが映し出されていた。そして男はあっさり
と敵に返り討ちにされ、仲間の腕の中で息を引き取っていた。
「ね?」
「本当だ。お姉ちゃん凄いね」
「まぁ、色々やってて自然と知識が頭に入っただけだけどね」
 テレビからは仲間の叫びが聞こえてくる。
「ねぇ、他にも死亡フラグって言うのはあるの?」
「あるよ。数えれば結構ね」
 こなたはジュースを飲もうとするが、コップの中身は空だった。
「どんな物があるか知りたいって顔してるね」
「えへへ。ちょっと気になるかなぁって」
 ゆたかがこなたのコップにジュースを注ぐ。
「ありがと。そうだねぇ……一番有名なのはさっきの結婚話として、その次といったらあ
 れかな」
 こなたはジュースを一口飲み、ふぅ、と満足的な顔をする。
「ミステリー物によくあるんだけど、『犯人なんかと一緒に居られるか! 俺は自分の部
 屋に行く!』っていうの」
「あ、それ分かる! その後、悲鳴を上げて死んじゃってるんだよね」
「そそ。あ、ゆーちゃん鼻にクリーム付いてるよ」
 指摘され、慌ててクリームを拭き取るゆたか。こなたはそれを見ながらにんまりとジュ
ースを飲む。酒の肴のつもりらしい。そして飲み干した。よっぽど喉が渇いていたのだろ
うか。
「そ、そーいうのが死亡フラグって言うんだぁ~」
「そうだよ。他にも『先に行って待ってるぞ』とか、ホラーなんかで『一人でお風呂・ト
 イレに入る』とかね」
「物音に気付いて、見てみたら何もなくて、振り向いたら……とか」
「ふふ。なぁんだ、ゆーちゃん分かってるじゃん」
「えへへ。言われてみればそういうの、映画とかでよく見てたから」

 その後、しばらく死亡フラグ談義は続いた。テレビ番組も既に終わっており、今ではC
Mが流れている。
 おやつも食べ終わり、やや満足気味な二人。こなたは、んん、と背伸びをすると席を立
った。

「と、ちょっとトイレ行ってくるね」
「うん。じゃあ私はお皿片付け……」
 言いかけてゆたかはある事に気付いた。それは今こなたが言った台詞。
「待ってお姉ちゃん!」
 リビングを出ようとしたこなたはゆたかに腕を掴まれてしまう。
「な、何ゆーちゃん?」
 こなたは先程ジュースを大量に飲んでいて、一刻も早くトイレに行きたかった。しかし
ゆたかはそれを許さなかった。
「一人でトイレに行っちゃダメ! 死んじゃうよ!」
「はい? あー、大丈夫だよ。現実で、」
「その甘さが命取りだよっ!」
 こなたはマジで早くトイレに行きたかった。なのでゆたかを説得するよりもそれに納得
する形をとった。
「分かった。じゃあ一緒に行こう? それなら良いでしょ?」
「うん……」
 どうやらゆたかは死亡フラグが現実でも通用すると思い込んでいるらしい。ゆたかは知
らない事が多い子なので、自分よりも先輩な人の意見は大体鵜呑みにしてしまう事がある
のだ。こなたの説明不足も原因だが。


 リビングを出て、トイレ前に着いた二人。こなたは早くトイレに入りたいのだが、ゆた
かがそれを許さなかった。
「一人で入ったら死んじゃうんだよ? お姉ちゃんは分かってない」
「いや、まだ昼間、だし、それに、」
「その甘さが命取りなんだよ。お姉ちゃんには死んで欲しくないんだもん……」
 ゆたかは半泣き状態。こなたは下が半泣き状態。こなたは限界だった。
「分かった……分かったから」
 そして仕方なく二人でトイレに入ることにした。




 トイレに入り、便器を見つめるこなた。早く済ませたい。楽になりたいと頭の中でそん
な葛藤が繰り広げられているが、ゆたかがそれを許さなかった。
「ゆーちゃん……向こう向いてて欲しいんだけど……」
「そんな、私が向こう向いてる間にお姉ちゃんが殺されちゃったら嫌だよっ」
 この場で誰に殺されるというのか。
「ないない……あのさ、恥ずかし、」
「命と比べればなんてことないよっ」
 この従妹の行動が理解できない。もう全てが終わったらちゃんと説明しよう。今はやる
ことをやらねば。漏らしてしまったそれこそ恥だ。と思考回路を巡らせ、便器のフタを開
け、ズボンとショーツを下ろし便座に座り、いつでもOKな体制をとった。が。
「どうしたのお姉ちゃん? 早く済ませてこんな所出ようよ」
「うん……」
 やはり出来ない。見られながらでは出来るはずも無い。ましてや見てる相手は自分より
年下の従妹なのだ。ここで用を済ます事など姉としてのプライドが許さなかった。でも身
体は限界なのだ。これは変えようが無い事実。どうしようもない。
「ゆーちゃん、せめて私の顔を見、」
「お姉ちゃん出ないの? じゃあ手伝ってあげるよ」
「え、ちょ、あ――」

 そして二人は無事にトイレから出ることが出来た。


 その後、死亡フラグの現実と非現実について説明しようとしていたこなたであったが、
ゆたかはのらりくらりとそれを回避してしまう。
 買い物の時には、
「ゆーちゃん、さっきの死亡フラグの、」
『只今からタイムサービスです』
「お姉ちゃん早く!」
「あ、待ってよ!」
 夕食の時には、
「ゆーちゃん、さっきの死、」
「お、これ旨いな。今日はゆーちゃんが当番だっけ?」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです」
 と、こんな感じである。タイミングが悪いのか、はたまた全てはゆたかの思い通りなの
か真相は誰にも分からない。
「ま、いっか。明日になれば忘れてるよ」
 と、こなたは諦め。気楽に今夜を過ごすことにした。あれから特に何も無いし大丈夫だろ
うと確信も持ち始めた。
 だが、その甘さが命取りになろうとはこの時、思いもしなかっただろう。



 それはこなたが就寝しようとしていた時だった。
「ほらね、あれからゆーちゃん何もしてこないし。もう忘れちゃってるんだよ」
 お風呂にも、寝る前のお手洗いにも現れなかったゆたかに安心して部屋に入ろうとする
こなた。ドアノブに手を掛け、扉を開けた。
 その時。
 ゴッ、という音と共にこなたは宙に舞った。
「ふぇ?」
 戸惑うこなたなどに容赦はしない。どこからか現れた触手の様な物はこなたの両手両足
を縛り、自由を奪う。そしてベッドに無理やり仰向けに寝かされると今度はベッドの両端
から透明のプラスチックがこなたを囲うようにドームを作る。まるでSF小説のカプセル
ベッドだ。
「何?」
 自由になった両腕でプラスチックケースをバンバンと叩く。訳が分からない。一体何が
どうなっているのか。こなたは混乱するばかりだった。
 そんなこなたの前に、てててと可愛らしい足音が聞こえてきた様な気がした。
「ゆー、ちゃん」
 そこに居たのは従妹のゆたか。天使の様な笑みでこなたに近づいてくる。
「防弾防音ガラス」
「え?」
 こなたには聞こえない。ゆたかの口が少し動いたが、防音ガラスの為、何を言ってるの
か分からなかった。
「眠っているときは一番危険だからね。頑張って作ったの」
 何をどうしたらこんな物が作れるのか。勿論こなたも突っ込む余裕も無く。
「ゆーちゃん出して! ここから出して!」
「そんなに喜んでくれるなんて嬉しいな」
 防音なので話が全く噛み合っていない。
「これでお姉ちゃんはぐっすり眠れる。敵が来ても大丈夫」
 いや、当社には襲ってくるような輩は居ません。とは正にこの事。
「今日は私もここで寝るよ。お姉ちゃん一人でなんか寝させない」
「お願い、ゆーちゃん……」
「お姉ちゃんは私が守る!」
 なんて姉想いな妹でしょう。こんな子が欲しいです。などと思ったら大間違いである。
下手すればこなたは既に死んでいたのだから。
「ゆー……」
 もはやこなたは呼びかけを諦めかけてた。そしてあることに気付いた。
「……?」
 何か息苦しい。こなたは焦り、周囲を見渡す。しかし無いのだ。何処を探しても。

 空気穴が。


「ちょっ!」
 叫ぼうとしてやめた。防音で聞こえない上に空気も少なくなる。こなたは咄嗟に起き上
が――ろうとしたがケースに頭をぶつけて撥ね返されてしまう。
「っつぅ」
 痛がっている暇など無い。今度はケースをバシバシと叩いて、ゆたかを呼ぶ。言葉が通
じないならジェスチャーでやるしかないと思ったのだろう。しかし!
「むにゃむにゃ、もう食べられないよ……」
 ゆたかは床に布団を敷いて既に寝ていたのだった。
「――っ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
 こなたは絶望した。そして……。

 夜が明けた。




 こうして、世界にまた新たな死亡フラグが生まれた。

 ペンネーム。故なたさんからの死亡フラグ。


 純粋な子には物事をしっかり最後まで教えないと、死ねる。


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