ID:V1DeEo20氏:あなたならどうしますか?

「どうして…どうして…」
式場にある棺の前で岩崎みなみは泣き崩れていた。
今のみなみからはいつもの冷静さは微塵も感じられない。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ゆたか…」
棺の中のゆたかはとても安らかな顔をしていた。
対称に遺影の中にいる親友は可愛らしい笑顔を振り撒いていた。
みなみは目の前の棺に入っているゆたかに何度も謝っている。周りにいる友達は今のみなみには声をかけることができない。
泣き続けるみなみは、ふと肩に手が置かれたのを感じた。
「みなみのせいではないわよ…」
みなみは声のする後ろの方へ振り返った。
後ろにいたのは自分の母と、隣に住んでいる高翌良みゆきであった。
「あまり気に病まないで下さい。小早川さんが亡くなってしまったのは不慮の事故が原因です。みなみさんのせいではありませんよ。」
二人ともみなみのことを考えて声をかけているが、その声はみなみには届かない。
声どころか姿すら認識していないようである。
今、みなみの網膜に写っているのは、母とみゆきの後ろにいる他の参列者だった。
雨の中、皆ゆたかのために大勢の人が来ている。
その中にはゆたかの従姉妹の泉こなたやその父、そうじろう。また一緒に文化祭でチアをやったメンバーがいた。
こなたとそうじろうはわんわん泣いていて、それをなだめるかがみやつかさも、目に涙を溜めている。
ひよりやパティも涙を流して悲しんでいる。特にパティからはいつもの元気が微塵も感じられず、ただむせび泣いている。
それらを目にしたみなみは、ここにいるのが辛くなってきた。
(ごめんなさい…みんな…ごめんなさい)
自分のせいでゆたかは死んだ、そう思い。もうこの式場にいるのが辛くて、胸が張り裂けそうだった。
「みなみっ!」
「みなみさん!」
みなみは走って式場から、皆から逃げ出した。



みなみは自分の部屋のベットの上でうずくまって泣いていた。
「どうして…こんなことに…」
昨日のことを考えると涙が止まらない。
「ゆたか…」
みなみは昨日のことを思い出した。





「それでね、みなみちゃん」
ここは岩崎みなみの家、二人はみなみの部屋でおしゃべりをしていた。
おしゃべりと言っても、ゆたかが話す方がみなみのそれよりもかなり多い。
「あ、そろそろ帰らなくちゃ。私今日お姉ちゃん達と晩御飯食べに行くから。」
「…そう、駅まで一緒に行こうか?」
「別にいいよ、みなみちゃん。それに急がないと遅れちゃいそうだし。」
「でも…」
「大丈夫だよ、みなみちゃん。それにせっかく今日はプレゼントまで貰ったのになんか申し訳ないよ。」
みなみは今日、ゆたかに先日買ったばかりのかわいらしいリボンをプレゼントしていた。
みなみが買い物中に見つけた物で、ゆたかに似合うと思い買ったのだった。

そして、ゆたかは一人で帰った。
その約一時間後、みなみの家の電話が鳴り響いた。
「はい、岩崎です。」
いつも通りに電話に出たみなみには、この電話が自分を奈落の底に突き落とすような事を告げるとは思ってもいなかった。
「…そんな…」
「とにかく早く病院に来て!」
「わ、わかりました。」
電話の相手はこなただった。話によると、ゆたかはみなみの家から駅に向かう途中にトラックにはねられてしまったらしい。
現在病院に運ばれて緊急手術をうけているようだが、かなり危険な状態らしい。
みなみは急いで病院へと向かった。

病院についたみなみを待っていたのはみゆきだった。みなみはみゆきの後についてゆたかのところに向かった。
その間の二人に会話は無かった。
みなみが着く前にすでにゆたかの手術は終わっていた。
病室に入ったみなみを待っていたのは、こなたと柊姉妹、そしてこなたの父そうじろうだった。
しかしみなみの目にまず入ったのはベットの上で横たわり、顔に布をかけられている少女だった。
みなみは震える手で布を取った。
「そんな…ゆたか…」
「みなみちゃんが来る少し前に…ゆーちゃんは…うっうううう」
こなたは泣き出してしまった。そうじろうやかがみ、つかさ、みゆき達がこなたをなだめているがほとんど効果はない。
「わたしの…せいだ…わたしが…あの時一緒に帰っていれば…ゆたか…ごめん…ゆたか…」
みなみはついに我慢できずに泣き出した。




「ゆたか…」
みなみは少しだけ落ち着きを取り戻してきた。みなみが式場から飛び出してきてから数時間が経過していた。
「…どうすれば…」
ふとみなみはベット置いていた手に何かが触れているのに気がついた。
「リボン…これは…私があげた…どうして……!」
みなみがリボンを持ち上げた時…世界が歪んだ。みなみは目を開けていられなくなった。




「それでね、みなみちゃん」
耳に懐かしい声が聞こえた気がした
「どうしたの?みなみちゃん?」
目を開けたみなみが見たのは、死んだはずのゆたかだった。
「みなみちゃん?」
みなみは驚きで声が出なかった。しかし目からは大粒の涙がこぼれていた。
「みなみちゃん、泣いてるの?どうしたの、何かあったの?私変なこと言っちゃった?」
「…ゆたか」
「ど、どうしたのみなみちゃ…ひゃあ!」
突然抱きついてきたみなみにゆたかは小さな悲鳴とともに驚いた。
「み、みなみちゃん…」
ゆたかはどうすればいいのかわからなかったが、みなみの尋常じゃない様子を見て、みなみを抱き返した。
「ゆたか…よかった…」
「…何があったの、みなみちゃん?わたし、相談に乗るよ。」
ゆたかはみなみが何か大変なことを抱え込んでいると思った。
「ううん、違うよ…ちょっと怖い夢を見ただけだから」
「…大丈夫だよ、みなみちゃん」
それから数分の間この状態が続いた。その間に、みゆきの母であるゆかりに密かに写真を取られていたのを二人は知らない。


ゆたかに慰められ、みなみ冷静さを少しづつ取り戻してきた。
「みなみちゃん、もう大丈夫?」
「うん…ごめんゆたか、迷惑かけちゃって。」
「いいよ、いつもみなみちゃんに助けてもらってるし。」
ゆたかは明るい笑顔でみなみに言った。
「…ありがとう、ゆたか。」
もう二度と見ることができないと思った親友の笑顔を見れて、みなみは心が透き通っていくのを感じた。
しかし、その心は次の瞬間から少しづつ陰りを見せ始めることになる。
「あ、そろそろ帰らなくちゃ。私今日お姉ちゃん達と晩御飯食べに行くから。」
「え?今なんて…」
「ごめんね、みなみちゃん。」
このときみなみは思った。
(一緒だ…あのときと)
「どうしたの?」
「ゆたか!」
「は、はい!」
いつもとは違う声の大きさと気迫にゆたかは驚いた。
「あ、ごめん、ゆたか、大きい声出して。」
「い、いいけど…どうしたの?」
「な、なんでもない。」
みなみはこのままゆたかを一人で帰してはいけないと思った。
「駅まで一緒に行くよ」
「別にいいよ、みなみちゃん。」
(この受け答えも同じ…、もしかしたら、このままじゃゆたかは…)
「一緒に行かせて!」
「え、は、はいぃ」
ゆたかは少し驚いた様子で、みなみの願いを承諾した。




(どういうことだろう、私、タイムスリップしたってこと?……とにかくゆたかを守らないと)
(みなみちゃん、今日どうしたんだろう…)
駅までの道のりに二人の会話はいつもとは段違いに少なかった。
(確か泉先輩の話ではトラックにひかれて…。じゃあとにかく周りに気をつけないと)
みなみは自分にそう言い聞かせ、周りを見渡している。
(みなみちゃん、さっきからきょろきょろしてどうしたんだろう。落ち着かないのかな…)
いつものみなみが見せない挙動不審な姿にゆたかは少しだけ不安を感じていた。
二人とも会話の無い分、歩く早さも少し遅くなっていた。
目の前の曲がり角を曲がった瞬間、ゆたかが何かに気づいた。
「みなみちゃん、あれ!」
ゆたかが指をさした方を見ると、遠くの大通りで大型のトラックが電信柱に衝突し、大破していた。
「まさか…これがゆたかを。」
みなみは、これがゆたかをひいたトラックだと直感した。
「これが…私?どういうこと?」
みなみの独り言がゆたかの耳に届いていたらしい。ゆたかが聞いてきた。
「…なんでもない」
「そう、でもすごい状態だね…」
「そうだね。」
「誰も怪我してないといいけど…」
「!」
今の言葉でみなみは事故の起こった方へ走り出した。
「みなみちゃん!」
「怪我をしてる人を助けないと。」
「待ってよ、みなみちゃん。」
ゆたかはみなみを追いかけて行った。



「誰も怪我してなくてよかったね、みなみちゃん。」
「そうだね…本当によかった。」
事故現場についたみなみとゆたかはまずトラックの運転席を見たが誰ものっておらず、
みなみが運転席をよく見ようとトラックに乗ろうとしたとき、下から声をかけられた。
声の主はそのトラックの運転手だった。運転手は擦り傷ひとつ無く元気そうだった。
事故の原因は運転手によると、過労がたたったのが原因らしい。
極度の睡眠不足でウトウトしていてハンドル操作を間違えてしまったようだ。
「警察も来たし、一安心だね。」
ゆたかの純粋な笑顔を見て、みなみの不安は消え去っていた。何よりゆたかの死を未然に回避出来たことがなによりも嬉しかった。
「もしかしたら、私が事故に巻き込まれてたかもね。」
(確かに、ゆたかを一人で行かせていれば、歩く早さも違ったかもしれない。確かゆたかはあのとき晩御飯に間に合ために急いでいた。
やっぱりあのトラックがゆたかを…)
今度は冷静になったぶん、声に出すような真似はせず、心の中で分析した。
「本当によかった…」
「そうだね、みなみちゃん。あ、ここまででいいよ。」
みなみが前を見ると少し先に駅が見えてきた。
「じゃあね、みなみちゃん。」
「ゆたか、気をつけて。」




家の門をくぐったみなみを出迎えたのは愛犬チェリーだった。
チェリーはみなみにじゃれついてきた。
「今日は暗いし散歩はまた明日ね、チェリー。」
そう言って家の中に入ったみなみの耳に入ったのは電話の呼び出し音だった。
おそるおそる電話を取ったみなみは、奈落の底に再び落とされた。



「…泉先輩、どうしてゆたかは…」
「駅前でバイクにはねられて…打ち所が悪かったみたい。」
ゆたかの病室でみなみは物言わぬ状態となったゆたかの横にいた。あの電話は再びこなたからだった。
内容もほとんど同じ。違ったのはゆたかが死んだ原因だった。
「そんな…そんな…うあああああああああああああああああああ!」



次の日、みなみは以前と同じく式場を抜け出し再び自分の家に帰った。
今、みなみはベットの上で座り、うつむいている。
(もしかしたら、昨日のように…)
そう思い、みなみは家に帰ると、早速ベットの周りをくまなく調べたが、あのリボンは見つからなかったのだ。
家に帰ってから数時間が経過した。
「!」
手に布の感触があった。ふと自分の手を見るとそれは前回に自分が掴んだゆたかのリボンだった。
(お願い…もう一度だけ…)
みなみがリボンを持ち上げた時…世界が歪んだ。みなみは目を開けていられなくなった。




「それでね、みなみちゃん」
(また戻ってきた…)
「みなみちゃん?」
「あ、ごめん、なんだっけ?」
目を開けたみなみが見たのはやはり死んだはずのゆたかだった。場所も時間も全てが同じ、みなみは少し気が遠くなった。
(どういうこと…また私は戻ったの…この時に…)
「どうしたの、みなみちゃん?」
(会話も全て同じ…、やっぱり昨日に再び戻ったとしか思えない。だったら…)
「ゆたか…、時間は大丈夫?」
ここでもしゆたかが帰ろうとすれば確実に昨日に戻ったということになる。
それを確かめる為にみなみはゆたかに聞いた。
「あ…そういえばもう帰らないといけない時間だ。」
みなみは自分の仮説が当たっていると確信した。
(やっぱり…じゃあこれからゆたかはまた…、今度こそ私はゆたかを守る)
みなみは心に中で強く誓った。



「あ、みなみちゃん、ここまででいいよ。」
今二人は駅の少し手前のところまで来ていた。途中のトラックの事故は同じように起こっていたが、
今回は何もせずに通り過ぎるだけにしておいた。
「…もう少しだけ…」
今回はトラックにかけた時間がないため、ゆたかは前回と同じようにバイクにひかれることはないとは思ったが、
みなみは念のためもう少しついて行くことにした。
改札の前まで二人は並んで歩いていた。周りの人が見れば仲の良い姉妹に見えたかもしれない。
「じゃあね、みなみちゃん。また明日」
「……」
みなみは黙ってゆたかを見送った、否、見送るつもりだった。
「え?みなみちゃん?」
改札を通り抜けたゆたかの横にはみなみが立っていた。
「少し暗くなってきたし、家まで送るよ。」
「い、いいよ、みなみちゃん、遠いし一人でも大丈夫だよ。」
「もし何かあったら大変。」
ゆたかはこの言葉は自分を子ども扱いしていると思ったが、親友が心配してくれているのだから文句は言わないで二人で帰ることにした。



「遅いよー、ゆーちゃん。」
「ごめんね、お姉ちゃん。ちょっとみなみちゃんの家を出るのが遅くなっちゃって。」
「ま、ゆたかも帰ってきたんだし、そろそろ出発しようか!」
「そうだね、ゆい姉さん。」
家に着いた二人を待っていたのは、こなたとゆいだった。二人ともゆたかが遅いので心配して家の外で待っていたようだ。
「お~、みなみちゃん久しぶり~。」
こなたが能天気な声で言った。
「ありがとね、みなみちゃん、ゆたかを送ってくれて。遠かったのに悪いね、大変だったでしょ?」
「いえ、そんなことは…」
「そだね、ありがとみなみちゃん。」
ゆいとこなたに礼を言われて、みなみの顔が赤くなった。
「じゃ、みんな車に乗ってー。」
ゆいの号令にゆたかとこなたは車に乗り込んだ。
「みなみちゃんも一緒に行く?」
ゆいは軽くみなみに聞いてきたがみなみはこの質問に少し悩んだ。
(もしかしたらまたゆたかに何かあるかもしれない。…でも今回は泉先輩と成美さんが着いているし…)
悩んで末にみなみは遠慮することにした。
「またね、みなみちゃん。」
「うん、またね。」
みなみはゆたかを乗せた車が見えなくなるまで見送った。



家に帰ったみなみはまず電話の前に行った。
(今度こそ大丈夫…大丈夫。)
みなみは祈るような気持ちだった。しかし今回はゆたかの周りのは二人の姉がいる、それがみなみの心の支えになっていた。
みなみは気を紛らわそうとテレビをつけた。画面に出ていた時間を見ると零時十分前を示していた。
丁度テレビではニュースを放送していた。今全国のニュースが終わり地方のニュースが始まった。
普段ならこんな時間にテレビなど見ないで眠っているのだが、今の精神状態では眠ることなどおそらく不可能だろう。
(ゆたか…、大丈夫、きっと大丈夫)
みなみは自分に言い聞かせるようにして、どうにか安心しようとしている。
『次のニュースです。』
ふとみなみはテレビのニュースに耳を澄ました。
『今日、夜八時ごろ、普通乗用車同士の正面衝突事故があり、車に乗っていた三人の女性が死亡、一人が軽い怪我をしました……』
「え…」
みなみはこのニュースに言い知れぬ不安感を抱いた。
『……死亡したのは○○○さんとその娘の○○ちゃんと○○ちゃんです……』
「よかった…」
みなみはようやくほっとすることができた。少しだけ心の中で喜んだ。
(……こうやって喜んでいる人もいれば、さっきの事故で悲しんでいる人もいるかもしれない)
そう思い、みなみは心の中の喜びをかき消した。少しだけ自己嫌悪に陥った。
『次のニュースです。』
テレビに目をやると、次のニュースが始まっていた。
『今日、夜九時半ごろ、停止していた普通乗車の側面にハンドル操作を誤った車が追突。
追突された車に乗っていた女性三人が負傷、病院に運ばれましたが三人ともまもなく死亡しました。』
「…まさか…」
みなみの心をまたしても不安が襲う。
『……死亡したのは』
みなみは息を呑んだ。
『運転席にいた警察官、成美ゆいさんと後部座席に乗っていた小早川ゆたかさんと泉こなたさんです。
警察の調べによると今日午後九時半ごろ○○交差点付近で信号待ちをしていた成美さんの車に、
飲酒運転の車がハンドルを誤り側面から衝突しました。衝突された車は大破しましが、
衝突した車に乗っていた、無職○○○容疑者で、警察はこの男を危険運転過失致死傷罪で現行犯逮捕しました。調べによると……』
「そんな…」
みなみは茫然自失に陥った。




次の日、ゆたか達の通夜が今までと同じように執り行われた。
今までと違うのは、遺影と棺が三つになっていることと、式に来た人数だった。
もうここにはゆたかの死を悲しんでいたこなたやゆいはいない。今こなたの棺の前では柊姉妹とみゆきが泣き叫んでいた。
いつもは冷静なみゆきも、親友が死んだとあってはいつもの落ち着いている面影は無い。
一回目の通夜の時より確実にここで流れている涙の量は増えていた。
みなみはまた通夜から抜け出した。




(どうすればいい…どうすれば…)
みなみは自分の部屋で悩んだ、一体どうすれば自分はゆたかを救えるのかを。
(もうこうなったら一日中ゆたかの傍にいるしかない!)
みなみの手にリボンの感触があった。
(今度こそ!)
みなみがリボンを持ち上げた時…世界が歪んだ。みなみは目を開けていられなくなった。



「それでね、みなみちゃん」
目を開けたみなみの前にいたのはやはり死んだはずのゆたかだった。
今回もゆたかの言うことは全て同じだった
(…ゆたかは私が守る!)
みなみは再び自分に言い聞かせ、行動に出た。



「遅いよー、ゆーちゃん。」
「ごめんね、お姉ちゃん。ちょっとみなみちゃんの家を出るのが遅くなっちゃって。」
「ま、ゆたかも帰ってきたんだし、そろそろ出発しようか!」
「そうだね、ゆい姉さん。」
帰ってきた二人を迎えたゆいとこなた、そしてゆたかの行っている事は前回と全て同じだった。
「ありがとね、みなみちゃん、ゆたかを送ってくれて。遠かったのに悪いね、大変だったでしょ?」
「そだね、ありがとみなみちゃん。」
前回と同じくお礼の言葉を言う二人に、みなみは適当に答えた。
「じゃ、みんな車に乗ってー。」
ゆいの号令にゆたかとこなたは前回と車の席に乗り込んだ。
「みなみちゃんも一緒に行く?」
ゆいは軽くみなみに聞いてきた。
(ここだ、ここが分岐点、運命の別れ道…、ゆたかを救うには…)
「迷惑でなければ一緒に行かせてください。」
普段ならここでは遠慮するみなみだったが今回は違った。
事故が起こらないようにするには自分が同行し、行き先をできるだけ近くに変更してもらえばいいとみなみは考えたからだ。
「いいよいいよ、んじゃ乗って~。」
「…すみません、ご迷惑をおかけして。」
「みなみちゃん一緒に来てくれるんだ。ありがとうね、みなみちゃん。」
ゆたかの明るい笑顔が薄暗くなってきた辺りを照らした、みなみはそんな気がした。
みなみは少しだけ希望を取り戻した。




「何を食べに行くのですか?」
みなみはゆいに尋ねた。
「今日はお寿司だよ~。」
「…そうですか。」
「みなみちゃんお寿司嫌いだったっけ?」
「いえ、そんなことわ。」
「それはよかった。」
車は今、ゆいオススメのお寿司屋に向かっている。
ちなみに運転席にはゆい、その後ろにみなみ、その横にゆたか、そして助手席にこなたがそれぞれ座っている。
こなたが車に乗る際にみなみにゆたかの横の席を譲ってくれたのだった。
「あとどのくらい?」
助手席のこなたがゆいに尋ねている。その会話はみなみの耳には届いていない。
(この今が前と同じならば、前のニュースが言っていた通りの時間に事故が起こる…。確かニュースでは九時半だったはず。
今の時間から考えてもお寿司を食べた帰りに恐らく事故は起こった。…それを回避するには…。
店を出る時間を調整すれば事故は避けられるはず。…でも確実に避ける為には…)
「あの、すみません成美さん。」
「ん~、何かなみなみちゃん。」
「…実は私お寿司苦手なんです。」
「えっ!そうなんだ!お姉さんびっくりだ!」
ゆいが驚いている。するとこなたとゆたかが尋ねた。
「でもさっきはお寿司は大丈夫って言ってなかったっけ?」
「…確かにそう言ってたよね。みなみちゃん、急にどうしたの?」
「まあまあ、それじゃお姉さんオススメのお好み焼き屋に変更だあ。…お好み焼きは好きだよね?」
「…はい、大丈夫です。」
(…あんまり好きじゃないんだけど……仕方が無い。)
みなみは少ししょんぼりした。助手席ではこなたがゆいに何やら文句を言っているようだ。
「あの、すいません泉先輩。私の勝手で。」
「いやいや違うよみなみちゃん。お寿司はしょうがないけどお好み焼きはちょっと…。」
「泉先輩、お好み焼き苦手なんですか?」
「いや、そうじゃなくて昨日お好み焼き食べたばかりでさ、さすがにまた食べるのはちょっとね…。」
「…すいません。」
「謝ることないよ。というわけでゆい姉さん、お好み焼き屋はパス。」
結局この後車を止めて話し合った末に、焼肉食べ放題で決定した。



「ふ~、食った食った。」
「お姉ちゃん…なんかオヤジくさいよ…」
「うおっ!妹に言われるとさすがにきくね…」
食べ終えて店から出たこなたとゆたかは二人でおしゃべりしている。みなみは時計を気にしていた。ちなみにゆいは会計中である。
「それにしてもみなみちゃん、今日はどうしたの?さっきから時計ばかり気にしてるみたいだけど。」
ゆたかがみなみに尋ねた。確かにゆたかの言う通り、食事の中みなみは時計をずっと気にしていてろくに食べていなかったのであった。
「ゆーちゃん、みなみちゃんは見たいアニメに間に合うか心配なんだよ。」
「それはお姉ちゃんじゃ…」
「ま、ともかくみなみちゃんは何でそんなに時間を気にしてるのかな?」
「……」
この質問にみなみは答えることが出来なかった。




「またね、みなみちゃん。」
「じゃね~。」
「また遊びにおいでね、みなみちゃん。」
泉家についたみなみは三人に別れを告げて、そのまま帰宅の戸についた。
と見せかけた。みなみは一旦泉家から離れた後に、再び泉家に戻って来たのだった。
ゆたかを守る為にはゆたかの近くにいる、それがみなみがゆたかを守る為に自分に下した決断だった。
みなみは家を見張れるところにずっと立っていることにした。時間は現在午後十時半。
普段のみなみならもう寝ていてもおかしくわない時間だ。
ちなみに今日、みなみの両親は共に用事で明日まで帰ってこない予定なので両親がみなみを心配して探し回ることもない。
よってみなみは落ち着いて家を見張ることが出来るのだった。
「…寒い」
今の時期の深夜になると気温は五度ぐらいとなる。
しかも今日はいつもより風が強く体感温度は氷点下に達していてもおかしくはなかった。
ふとみなみは携帯を取り出し画面をのぞいた。
(十時三十五分…せめて今日が終わるまではここにいよう。)
その時だった。

ドォーン

「きゃあ!」
突如ものすごい音と風がみなみを襲った。
それらが来た方角を見て、みなみは全身から力が抜けるような感触を味わった。
「…そんな、家が…」
みなみは泉家が紅蓮の業火に焼かれていくのをただひたすらに見ていることしか出来なかった。



翌日、みなみは泉家の爆発及び火災はガス管のひびから漏れたガスに火が引火しておこったものだと聞いた。
(…そんなの、避けようがない…どうすれば…いい…)
しかし考えてもさっぱりいい案が思いつかない。それどころか考えはどんどんマイナスに向かってしまう。
(それに犠牲者が…最初はゆたかだけだったのに今回は四人も…)
今回亡くなったのは、ゆたか、こなた、ゆいにそうじろうだった。
ゆいはその日の内に家に帰らずに、泉家に一泊していくと車の中でこなたと話しているのをみなみは聞いていた。
確かにゆたかを助けようとすればするほど犠牲者は増えていた。
(…もうどうすればいいか…わからない。)
みなみはベットの上でじっと考えている。すると手にあの感触があった。
みなみは目線を下に落とした。
(…リボン…また…。これを取ればゆたかを救えるかもしれない。でも…どうすれば…。また犠牲者が増えるかもしれない…。
それに今度こそリボンが現れないかもしれない…。…こんな時、ゆたかならどうするかな…。)
みなみは考えた後、再びリボンを手に取った。
みなみがリボンを持ち上げた時…世界が歪んだ。みなみは目を開けていられなくなった。




「それでね、みなみちゃん」
(…よかった。戻ってこれた…。)
「…ねえ、ゆたか。」
「何?みなみちゃん。」
「もしゆたかの大事な人死んじゃったけど、その人を助けるチャンスがあったらどうする?」
「もちろん助けに行くよ。」
「でも助けるたびに自分の大事な人たちが次々と死んじゃうことになったら?」
「…う~ん、難しいな~。でも助けるチャンスがあるのにそれを見過ごしたくないな。」
「…そう。」
「そういえばもう帰らないと。今日お姉ちゃん達と一緒に外に食べに行くんだ。ちょっと急がなきゃ。それじゃあね、みなみちゃ!」
みなみはゆたかに抱きついた。
「どうしたのみなみちゃん、苦しいよ…」
最初は少し抵抗したが、みなみが泣いているのに気がつき、みなみを抱き返した。
「ごめんね、ごめんねゆたか。助けられなくてごめんなさい。」
ゆたかにはその言葉が意味することはわからない。

みなみはその後、ゆたかを開放し、玄関まで見送った。

(…もうどうしようもない。ゆたかを助けようとすれば他の人たちまで巻き込んでしまう。)
ゆたかを見送った後、みなみは部屋の中でうずくまって泣いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ゆたか…、ごめん…」
泣いているみなみの脳裏にゆたかの言葉が響きだした。

(「助けるチャンスがあるのにそれを見過ごしたくないな」)

みなみはゆたかの言葉を思い出し、家をとび出した。



(私はなんてばかなんだ。ゆたかを見殺しにしようなんて!)
みなみは走っていた。息は絶え絶えだがスピードはまったく落ちていない。
(ゆたかに追いつかないと。)
みなみの足は限界に達していたが、今のみなみにはそれを感じている余裕も時間もなかった。
みなみはただ走った、親友の為に。
(見えた!ゆたか!)
曲がり角を曲がった時、遠くにゆたかの姿が映った。どうやら信号待ちのようだ。
しかし声を張り上げても届く範囲ではない。その時みなみは気づいた。
(あの交差点、確かトラックの…、ゆたかの横にある電柱は…確かトラックがぶつかった場所…このままゆたかがあの場所にいたら…)
恐らくゆたかはトラックに轢かれて帰らぬ人となるだろう、みなみは瞬時にそう悟った。
「ゆたか!」
みなみはゆたか越えをにそこから離れるように伝えようとしたが、ゆたかには声がとどいていないようである。
「ゆたか!」
みなみは走りながらもう一度声を出した。ゆたかまでの距離は十メートル前後だった。
あっちもみなみに気づいたようでこちらを振り向いた。
しかし安心しようとしたみなみの視界にゆたかに向かってくるトラックに気が付いた。
「ゆたか、危ない!」
みなみの声が夕方の町に響き渡った。



緋色の空に、一人の少女の体が、宙を舞った。




「ごめんなさい、ごめんなさい。」
一人の少女が眠る棺の前で、その少女の親友が涙を流して謝り続けている。その少女の肩に手が置かれた。
「仕方がなかったのよ、あなたのせいじゃないわ。」
声をかけたのはその少女の母だった。
「でも……でも。」
「これは不運な事故だったのよ。」
「でも……みなみちゃんは私をかばって!」
「だからこそゆたかがそんな顔してちゃ、天国にいるみなみさんも悲しむことになるのよ。」
「…みなみちゃん」
今日は岩崎みなみの通夜がいとなわれていた。参列者にはみなみの家族やチアをやったメンバー、
みなみの中学のころの友達など多くに人々がみなみのために足を運んでくれていた。
「ゆーちゃん、泣いてちゃだめだよ。みなみちゃんが心配しちゃうよ。」
「お姉ちゃん…ヒック…ヒック…うええええええええええええええん…」
「…ゆーちゃん。」

予定時刻通りにみなみの通夜がいとなわれた。



「みなみちゃん!みなみちゃん!目を開けてよ!みなみちゃんてば!」
ゆたかは自分をかばって宙を舞い、地面に叩きつけられた親友に向かって必死に声をかけていた。
(…何か声が聞こえる。…私を…呼んでる…)
「……」
みなみは目を開けた。まず見えたのはゆたかの泣き叫ぶ顔、そしてゆたかが握っていた自分の血まみれの手だった。
「みなみちゃん!よかった、よかったよう。」
「…ゆ…た…か…。」
薄れ行く意識の中、みなみは親友の名を呼んだ。
「みなみちゃん、しゃべっちゃだめだよう!」
「け…がは…な…い?」
かろうじて聞き取れた声に、ゆたかは答えた。
「わ、私は大丈夫だからしゃべっちゃだめだよ。」
みなみはその言葉に安心し、そして皆にはっきりと分かるような笑顔を浮かべた。
「…よ…かっ…た。」
「みなみちゃん…?」
ゆたかは自分が握っている手から力が抜けたのを感じた。
「みなみちゃん……そんな…、みなみちゃん!」
その声がみなみに聞こえることはなかった。




昨日の事を思い出してゆたかは再び親友の名前を声に出していた。
「…みなみちゃん…みなみちゃん…。」
ゆたかはベットの上で泣き続けていた。ゆたかは通夜終了後、みなみの部屋に入れてもらった。
ゆたかにとってはこの部屋がゆたかがみなみを最後に見た場所だった。
みなみの両親もゆたかを責めずに優しく接してくれたが、ゆたかにはそれすらもつらく感じていた。
ふいにドアの開く音がした。
「ゆたかちゃん…大丈夫?」
入ってきたのはみなみの母だった。ゆたかの事が心配なようだ。
「ごめんなさい…おばさん…。」
「謝ることないわよ。みなみだってゆたかちゃんにそんな事してほしいなんて望んでないわよ。」
ゆたかはみなみの母に抱きつき、泣き続けた。

ゆたかが目を開けると、そこにあったのは天井、辺りは暗い。
(私眠っちゃったんだ…。)
自分の体には布団がかけられていた。みなみの母がかけてくれたのだろうとゆたかは思った。
ゆたかはおもむろに体を起こした。
「…みなみちゃん。」
もう今日で何度この名前を口に出しただろうか。今のゆたかには後悔しかない。
(あの時、みなみちゃんは私に伝えようとしてた。危ないって…。どうして私は気づかなかったんだろう…。親友なのに…。)
ふと手をベットに下ろすと何かの感触があった。
「あれ?これって、確かみなみちゃんが私にくれたリボン…、私あの時もって帰ったはずなのに…どうして……!」
ゆたかがリボンを持ち上げた時…世界が歪んだ。ゆたかは目を開けていられなくなった。
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