01 かわいいだろ。娘の写真なんだ。
こなた「かわいいでしょ。我が娘の写真なんだよ」
こなたがみなみに写真立てに収まっている写真を見せびらかす。
みなみ「そうですね」
こなた「すごくかわいいんだよ。今すぐ会いたいんだよ」
みなみ「では、今すぐ原稿を仕上げてください」
そのとき、隣の部屋から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
こなた「娘が私を呼んでいる~! 今行くよ! 我が娘よ!」
みなみ「駄目です。娘さんの面倒は旦那さんが見てくれているのですから、泉先輩は原稿を仕上げてください」
こなた「そんな殺生な!」
ラノベ作家と担当編集者のそんな日常。
02 この戦争が終わったら、俺、結婚するんすよ。
みのる「この映画の撮影が終わったら、俺、結婚するんすよ」
あきら「そうかい。まあ、せいぜい死なないように頑張れ」
みのる「ううっ……。ハードアクションものの映画でスタントの代役なしってきつくないっすか?」
あきら「製作費ケチったらしいからな。脇役の代役スタントつけるほどの予算がなかったんだろ。まあ、死んだら骨は拾って婚約者のところに届けやるから、安心しろ」
みのる「いや、それは安心するところが違うっす!」
03 いいか、俺が帰ってくるまでここを動くんじゃないぞ!
こなた「ほほぅ。これがかがみの一人暮らしの部屋かぁ」
かがみ「飲み物もってくるから、そこにおとなしく座って待ってなさい。家捜しとかすんなよ」
こなた「はいよ~」
こなた(といっても、黙って待ってる私じゃないけどね。家捜し、家捜し♪)
ガサゴソ……。
こなた(おっ。ベッドの下から同人誌みっけ♪ ほほぅ、かがみんにもこんな趣味が……)
突如として、背筋に悪寒が走る。
こなたが振り向くとそこには、般若の形相のかがみ様が!
かがみ「見たわね?」
こなた「いや……これは」
かがみ「見たわね?」
こなた「あは……あははは……」
04 おまえなら安心してあとを任せられる。
かなた「そう君なら安心してこなたのことを任せられるわ」
そうじろう「そんなこと言うな、かなた! こなたは俺たち二人で育てるんだろ? だから、そんなこと言うな!」
かなた「そう君、あとはよろしくね。私はそう君とこなたといられてとても幸せだったよ」
かなたの目がゆっくりと閉じられていく。
そうじろう「かなたぁー!」
カバッ!
そうじろう「夢か……」
目の前にあるのは、パソコンの画面。書きかけの小説の文字が途中で途切れている。
ふと視線をずらせば、そこには今は亡きかなたの写真があった。
そうじろう「そうだな。俺が頑張らなきゃいけないんだよな……。よしっ、もうひと踏ん張りいくか」
そうじろうは再びキーボードを打ち始めた。
05 言い訳はそれだけか?
みさお「いや、誰だって、失敗はあるじゃんかよ。しかも、そういうときに限って、なんかいろいろと悪いことが重なるっていうかよ。人間転ぶことはよくあることだし、そのときにたまたまコーヒーのカップを持ってたり、こぼれたコーヒーが運悪くリラッタヌにかかったり……」
あやの「言い訳のそれだけ、みさちゃん?」
みさお「いや、ああ、そのう……ごめんよぉ、あやの~。謝るから許してくれよぉ~」
あやの「ごめんですんだら、警察はいらないわ」
みさお「ごめんってヴぁ」
06 覚えてるか? 俺たちが初めて会ったときのことを。
そうじろう「覚えてるか? 俺たちが初めて会ったときのことを」
かなた「うん。そう君ったらいきなり『なんてかわいい女の子だ』なんて叫ぶから、びっくりしちゃったわ」
そうじろう「あのころからかなたはかわいかったからなぁ」
かなた「あのときはこんなふうになるなんて思いもしなかったけど」
車椅子に座るかなたの腕にはこなたが抱かれていた。
そうじろう「俺はあのころからかなたと結婚するつもりだったぞ」
そうじろうは、車椅子を押しながら、そう宣言した。
かなたはそうじろうを見上げた。
添い遂げるべき人と出会って、そしていつかは別れる。自分の場合は、そのどちらもひとよりは早いのだろう。
でも、後悔はない。それだけは絶対にない。
かなた「そう君ったら、あのころから全然変わらないんだから」
07 やっぱり、あいつには言っておくべきだったかな……。
ゆたかが卒業して泉家から実家に帰ったあとの話。
ゆき「ちょっと、兄さん。どういうことよ!? うちのゆたかがオタクになっちゃってるじゃないの!」
電話口から妹の怒声が響きわたった。
そうじろう「まあ、朱に交われば赤くなるというやつじゃないか」
ゆき「そうじゃなくて! なんで早く言ってくれなかったのよ!?」
そうじろう「いやぁ、言おうとは思ったんだけど、なかなか言い出せなくてな」
やっぱり、こいつには言っておくべきだったかな……。
そうは思ってももう遅い。
ゆき「今からそっちに行くから首洗って待ってなさい!」
通話が一方的に切られた。
そうじろうは受話器を置いた。
そうじろう「こなた」
こなた「なに?」
そうじろう「お父さんはこれから少し旅に出る」
こなた「いってらっしゃーい」
そうじろうが出ていってから、数時間後。
ゆき「兄さんはどこ!?」
こなた「あっ、おばさん、こんちわ。久しぶりだね」
ゆき「兄さんはどこに行ったの!?」
こなた「お父さんなら旅に出るってどっか行ったよ」
ゆき「あの腐れ外道がぁー!」
ゆきは来たときの勢いそのままに走り出ていった。
08 おまえと二人きりで話すのは、久しぶりだな。
そうじろう「こうして二人きりで話すのは、久しぶりだな」
かなた「そうね。最近はずっとこなたも一緒だったから」
今、こなたの面倒は、ゆきが見ている。
だから、こうして二人きりで話すことができていた。
かなた「そう君、話したいことってなぁに?」
そうじろう「いや、そのう、なんだ、かなたの体のことなんだが……」
そうじろうが言いよどんでいると、
かなた「分かってるよ、そう君。私もそうじゃないかなぁとは思ってたから」
病院のベッドの上で衰弱していく自分の体。その行き着く先は、想像はつく。
そうじろう「かなた……」
09 大丈夫だ! 傷は浅いぞ!
konakona:ぐはぁ! やられた!
yamanka:大丈夫だ! 傷は浅いぞ!
gatongo:いや、HP1しか残ってないから
konakona:そんなこと言ってないで、回復魔法頼むよ! って、死んだぁー!
nanakon:この辺のモンスターは素早いヤツが多いんやな。ほれ、攻撃魔法
モンスターを倒した。
gatongo:攻撃魔法には弱いのか
konakona:デスペがぁー!
nanakon:このゲーム、デスペナルティきついんやったな
gatongo:ご愁傷様
10 恨まれるようなことをした覚えなど金輪際ない!
そうじろう「カミソリレターか。ひとから恨まれるようなことをした覚えは金輪際ないんだがなぁ」
こなた「ほんとにないの? お父さんの書いてる小説で読者に人気のキャラを殺したりとか」
そうじろう「それはない。あっ……」
こなた「なんか心当たりでもあるの?」
そうじろう「ああ、かなたを独り占めしたことで、世の男性からは恨まれてるかもしれないなぁと」
こなた「お父さん、こんなときにノロケはいいから」
11 そういや、最近、敵からの攻撃がないな。
yamanka:そういや、最近、モンスターが出ないな
konakona:2時間ぐらい、ずっとチャット状態だね
nanakon:この辺は、モンスターが少ないんやろ
モンスターが現れた!
yamanka:って言った瞬間にモンスターがぁ!
nanakon:なんやコイツ、強いで!
gatongo:うはっ、強すぎ
nanakon:逃げるで! 三十六計逃げるにしかずや!
konakona:たいきゃーく!
しかし、回り込まれてしまった!
yamanka:ぎゃー!
konakona:ぎゃー!
nanakon:ぎゃー!
gatongo:ぎゃー!
12 また来てくれるよね?
yamanka:すまん、俺しばらく、ネトゲにインできなくなるんだ
gatongo:そうか……理由は聞かんが、いつかまた来てくれるんだろ?
yamanka:もちろんだ
konakona:待ってるよ
nanakon:何があったか知らへんけど、うちらは待っとるで
yamanka:みんな、ありがとう
その後、ネトゲ上でyamankaの姿を見た者は誰もいない。
13 雨か……。
雨か……。
みなみは、空を見上げた。
あの日もこんな天気だった。
逝く友を見送ったあの日は、ずっと雨が降り続いていた。泣くことすらできないほどに呆然として立ち尽くす自分の涙の代わりであるかのように。
そして、今日は十二回目の命日。
みなみの目の前には、生涯でただ唯一、親友と呼ぶに値する人の名が刻まれた墓石があった。
目を閉じて手を合わせる。
無心、ただ無心。
何かを思えば、胸が張り裂けそうになるから。
14 達者でな。
学校の職員室。
こなた「先生、3年間いろいろと世話になったというかなってないというか」
ななこ「いっぱい世話してやったやろが。無事卒業できたんは、誰のおかげだと思っとるんや。散々補習やら追試やらで疲れたわ」
こなた「感謝してますって」
ななこ「おまえがいうと全然心がこもっとるように聞こえんで」
こなた「酷いなぁ」
ななこ「まあ、そんなんはいまさらだからどうでもええわ。達者でな」
こなた「先生もお元気で」
そう言って母校に別れを告げた夜。
konakona:狩り行きませんか? チャモロ村で待ってますんで
nanakon:おお、行くでぇ。っていうか、こんなんだとおまえが卒業したっちゅう気が全然せんな
konakona:私も同感ですよ
15 あのころは何をやっても楽しかったな。
病院の一室。
みなみが見舞いに来たのを見て、ゆたかはベッドから上半身を起こした。
みなみ「無理しないで」
ゆたか「今日は調子もいいし、大丈夫だよ」
二人はそのあといろんなことを話した。
話はいつしか、二人が出会ったときの話、高校時代での思い出に移っていった。
ゆたか「あのころは何をしても楽しかったよね」
その言葉が過去に限定されたもののように感じたみなみは反論した。
みなみ「病気が治れば、これからだって楽しいことはいっぱいある」
ゆたか「うん、そうだね」
16 この仕事が終わったら二人で暮らそう。
きよたか「ゆい。この仕事が終わったら二人で暮らせるよ」
ゆい「帰ってこれるんだね、きよたかさん」
電話口から聞こえてくるゆいの声は期待に弾んでいた。
きよたか「うん。この仕事が終われば転勤だって内々に言われててね。勤務地もまずそこで間違いないだろうって」
そして、数ヵ月後、再び電話。
きよたか「ごめん、ゆい。転勤先が変更になった。また、単身赴任だよ」
ゆい「きよたかさんの馬鹿ぁー!」
17 ここからは別行動だ。
konakona:このイベント、パーティ全員バラバラになんなきゃ駄目なんだよね
nanakon:ここからは別行動ってわけやな
yamanka:まあ、たいしたイベントじゃないし、一人でも楽勝でしょ?
gatongo:さっさと終わらせようぜ
そして……
konakona:って、なんで生き残ってるのが私一人だけなんですかっ!?
yamanka:油断した\(^o^)/
gatongo:あそこであれが来るとは予想外(T_T)
nanakon:あそこであれは反則やで!
konakona:デスペの回復に何日かかることやら……orz
18 ここは俺に任せろ! お前は早くいってあいつを助けるんだ!
誘拐された村人を救い出すイベント。
ベタすぎるイベントだが、報酬のアイテムが貴重なものだったので、パーティはそれに挑戦していた。
村人救出まであと一歩のところで、強敵が立ちはだかる。
yamanka:よし、ここは俺に任せろ! おまいらは早くいって村人を助けるんだ!
nanakon:すまんな
gatongo:感謝
yamanka:いいってことよ
konakona:yamankaをパーティ連結解除
gatongo:可及的すみやかに、ダッシュ、ダッシュ
konakona:村人ゲット
nanakon:よっしゃー! 追っ手が来ないうちにとんずらやー!
yamanka:って、おい! 村人救ったんなら、こっち助けろや!
konakona:君の尊い犠牲は忘れないよ
gatongo:君の犠牲は忘れない
nanakon:おまえの犠牲は忘れないで
yamanka:うぎゃー! 死んだぁー!
その後一ヶ月ほど、yamankaはいじけてネトゲにインしてこなかった。
19 今日は妙にやさしいっすねぇ。
みのる「なんか、今日は妙にやさしいっすねぇ、あきら様」
あきら「私がやさしいとそんなに変かよ?」
みのる「いや、そういうわけじゃないっすけど、なんかあったんすか?」
あきら「おまえはよほどいじめられたいらしいな?」
みのる「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! なんでいきなり黒あきら様モードになるんすか!?」
あきら「さぁな。そんな気分だからじゃねぇか?」
みのる「いや、それ理屈になってませんから!」
あきら(ちくしょう。バレンタインチョコ渡しそびれちまったじゃねぇかよ)
みのるをいびり倒してからあとでこっそり確認したら、小箱に入れられたチョコレートは原形をとどめないほどに融けてお亡くなりになっていた。
20 縁起でもないこと言うなよ。
そうじろうは、かなたが乗った車椅子を押して、外を散歩していた。
かなたの腕には、こなたが抱かれている。
かなた「ポカポカしていい天気ね」
そうじろう「そうだなぁ」
かなた「なんだか眠くなってきちゃうわね。眠っちゃったら、そのままずっと目覚めなかったりして」
そうじろう「おいおい、縁起でもないこと言うなよ」
かなた「フフフ、大丈夫よ。私は王子様のキスがあればすぐに目覚めるから」
21 おまえだけは絶対守る。
そうじろう「おまえだけは絶対守るって、ずっとそう思ってたんだけどなぁ……」
かなたの写真を眺めながら、つぶやく。
ふと視線を移せば、ベビーベッドで眠るこなたの姿。
そうじろう「せめて、おまえの忘れ形見、こなただけは俺が絶対守ってやるからな」
写真の中のかなたは何も答えない。
それでも微笑んでくれているように見えた。
22 実は俺……いや、なんでもない。
こなた「かがみ」
かがみ「何よ?」
こなた「実は私……プププ、いや、なんでもない」
こなたが吹きそうになって、口を手で押さえた。
かがみ「何よ、言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ」
こなたは意を決したように両手でかがみの肩をつかんだ。
こなた「私、実はツインテール萌えなんだよ」
かがみ「はぁ?」
こなた「かがみんのツインテールはそりゃもう反則的なまでに似合ってるよ」
かがみ「何言ってるのよ、あんたは」
ここで、こなたが素に戻った。
こなた「かがみんや、ひとがせっかくハルヒネタで攻めてるんだから、合わせてくれないと」
かがみ「って、ハルヒネタだったのか。おまえなぁ、そんなの女同士でやってどうするのよ?」
こなた「いや、今の時代はそういうニーズも……」
かがみがこなたの口をふさいだ。
かがみ「危ない発言禁止~」
23 来月には、はれて退役だ。
ななこ「来月には、はれて定年退職やなぁ」
ななこは、そうつぶやきながら、長年職場としてきた校舎の廊下を歩いていた。
むやみに感傷にひたる趣味はないけど、それでも何かしらの感慨というものはある。
教師A「黒井先生」
ななこ「なんや?」
教師A「校長先生がお呼びですよ」
ななこ「なんやろな?」
教師A「なんかお話があるそうですよ」
彼はメッセンジャーをおおせつかっただけであり、詳しいことは知らないらしい。
ななこは校長室に向かった。
ななこ「話ってなんでっしゃろ?」
校長「ちょっと黒井先生にお願いしたいことがあるんですよ」
ななこ「はぁ」
校長「実は新年度の2年D組の担任を予定してた先生が急に産休をとることになりましてね。今からだと代替教員の確保も難しい状況でして」
なんか嫌な予感がする。
校長「まあ、そういうわけで、黒井先生には定年を1年延ばして2年D組の担任をお願いします」
新年度のクラス割はもう決まっている。
2年D組といえば、かつてのこなたやパティやひよりみたいなのがたくさんいるクラスで、ぶっちゃけいえば問題児クラスだ。
いくら豪放な性格でならしてきたななこでも、年齢的にというか体力的にきつい仕事になる。
しかし、担任予定だった先生を除けば、その手の問題児の相手ができる先生は、ななこしか残ってないのも現実だった。
ななこ(せめて、桜庭先生が残っとったらなぁ)
ないものねだりをしても仕方がない。
ななこ「拒否権はないんやろな?」
諦め気味な口調の質問に対して、校長は止めを刺した。
校長「ええ、その通りです」
ななこ「殺生やなぁ。まあ、仕方あらへんか。引き受けたる」
校長「ありがとうございます」
24 ん、なんか音がしなかったか? ちょっと見てくるわ。
泉家において、みんなで勉強会。
そのさなかに事件は起きた。
ガチャン!
かがみ「ん、なんか音がしなかった?」
みゆき「そうですね。何かが壊れたような音でした」
つかさ「なんだろう?」
かがみ「ちょっと見てくるわ」
かがみが部屋から出ていこうとドアを開けた瞬間、
ガン!
金たらいが落ちてきて、かがみの脳天を直撃した。
こなた「かがみん、グッジョブ」
みゆきとつかさが唖然とする中、こなたは親指を立てていた。
すべては、こなたの悪戯だったとさ。
このあと、こなたも頭にタンコブを作ることになったのはいうまでもない。
25 少し外の空気を吸ってくる。
夏のさなか、泉家において、みんなで勉強会。
こなた「あつ~。今日は風もないし、扇風機の風もなまぬるいし、やる気でなーい」
かがみ「確かに今日は暑いわね」
みゆき「空気もよどんでますしね。少し外の空気を吸ってきた方がよろしいのではないしょうか?」
つかさ「そうだね」
みんなでぞろぞろと、部屋を出た。
玄関で靴を履き替え、最初に外に出たのはみゆきだった。
玄関のドアが閉まった瞬間、
「きゃー!」
ドアの向こうからみゆきの悲鳴が聞こえた。
かがみ「みゆき、どうしたの!?」
こなた「みゆきさん!」
つかさ「ゆきちゃん!」
三人が慌ててドアを開けて外に出ると、みゆきが転んでいた。
みゆき「すみません。つまずいて転んでしまいました。お恥ずかしい限りです」
みゆきがほこりを払いながら立ち上がる。
かがみ「ああ、もう。びっくりしたわよ」
こなた「何もないところで転ぶなんて、ドジッ娘属性だね」
26 また一緒にここに来ようね、約束だよ。
新婚旅行の二人。
かなた「綺麗ね」
かなたは、あたり一面の紅葉を見渡していた。
そうじろう「そうだな」
丘の上から見渡す紅葉は、本当に見事としかいいようがない光景だった。
かなた「いつかまた来たいわね」
そうじろう「紅葉は毎年あるんだ。毎年来ればいいさ」
かなた「また一緒にここに来ましょうね、約束よ」
そうじろう「ああ、もちろんだ」
毎年旅行に出かけられるぐらいの収入はある。それぐらいお安い御用だった。
しかし、その約束は一度も果たせない運命にあることを、このときの二人はまだ知らない。
27 おまえら先に行ってくれ。少し休んだらすぐに追いつくからよ。
みさお「だる~」
みさおはテーブルに上半身を預けてダレていた。
かがみ「相変わらず、やる気のないやつだな」
みさお「柊たち先にやっててくれよぉ。少し休んだからすぐに追いつくから」
かがみ「一周遅れどころか二十周ぐらい遅れてるやつがいえたセリフじゃないわな」
みさお「うう~。あやの~、柊が冷たい」
あやの「あとでクッキー持ってくるから、頑張ろうよ」
みさお「だる~」
夏休みが終わるまであと二日。
宿題を片付けてる三人の光景。
28 今日はやけに星が綺麗だな。
ゆたかは、夜中に目が覚めた。
病院の個室。自分以外には誰もいない。
窓の外の夜空を見上げると、満天の空に星が輝いていた。
新月の夜。雲ひとつない快晴。今日は、やけに星が綺麗だ。
そんな夜空を眺めていると、吸い込まれていきそうな感覚にとらわれる。
あの夜空に吸い込まれていったなら、私も楽になれるだろうか?
ふと浮かんだその考えを、ゆたかは慌てて振り払った。
なんとしても生きるんだ。今までの人生の中で、それだけは諦めたことはない。
たとえ死にゆくのが運命なのだとしても、最後まであがくことにはきっと意味があるはずだ。
29 あとであいつに謝んなきゃいけねぇなぁ。
かがみ「あとでみんなには謝んなきゃいけないかな……」
空港のロビーで、かがみはそうつぶやきながら立ち上がった。
搭乗手続が始まっている。まもなく、彼女はこの日本を旅立って、アメリカに行くのだった。
ロースクールへの三年間の留学。
その事実を、かがみは誰にも話してはいなかった。
一応、実家あてに手紙は書いておいた。たぶん、今日中には届くだろう。
見送りは誰もいない。それでいい。誰かいたらたぶん泣いちゃうと思うから。
手荷物検査ゲートに向かおうとしたそのときだった。
「かがみ!」
自分を呼ぶ叫び声に驚いて振り向くと、こなたが走ってきて、かがみに飛びついた。
かがみ「こなた、あんた、なんで……?」
こなた「ひどいよ! かがみ! なんで言ってくれなかったんだよ!」
こなたを落ち着かせて、事情を聞く。
かがみの一人暮らしの部屋に遊びに行ったらもぬけの殻で、携帯にかけたら通じなくて、いろいろと聞いて回ってたら、大学の事務局でかがみの留学の事実を知ったということだった。
こなた「なんで言ってくれなかったんだよ……」
かがみ「ごめん……こんなふうに泣きたくなかったから……」
かがみもこなたも泣いていた。
かがみ「ほんとごめん……みんなにもあとで謝るから……」
こなた「かがみ、帰ってくるんだよね!? そのままあっちで暮らすなんていわないよね!?」
かがみ「もちろんよ。3年したら帰ってくるわ」
こなた「絶対だよ!」
30 これを……おまえに預けておくよ。
かなた「これを……そう君に預けておくね」
かなたは、封筒をそうじろうに手渡した。
封筒の表面には「大人になったこなたへ」と書かれてあった。裏面には「かなたより」とある。
病床のかなたの腕に抱かれているこなた、いずれは大人になるだろう彼女への手紙だった。
かなた「こなたに渡すまで絶対に封を切っちゃ駄目よ」
そうじろう「何を書いたんだ?」
かなた「内緒」
そうじろう「俺にも秘密なのか?」
かなた「女同士には男の人にはいえない秘密があるのよ」
そうじろう「そんなふうに言われると気になるじゃないか」
かなた「絶対に見ちゃ駄目だからね」
そんなやりとりがあってから、はや20年近くがたった。
そうじろう「こなた。ちょっと来なさい」
こなた「何? お父さん」
そうじろう「おまえに渡すものがある」
そうじろうは、あの封筒をこなたに渡した。
こなたは、裏面を見て驚く。
こなた「お父さん、これの中身知ってるの?」
そうじろう「いや、知らない。かなたから絶対見ちゃ駄目って念押されたからな」
こなた「そういうのって、余計に見たくなんない?」
そうじろう「確かにそうだけどな。でも、俺にとってはかなたとの約束の方が大事だから」
こなた「律儀だねぇ」
こなたは、封を切って便箋を取り出した。
一文字一文字確かめるように読み進める。
すべて読み終わってから、再び封筒にしまいこんだ。
そうじろう「なんて書いてあったんだ?」
こなた「教えない。お父さんには教えないでって書いてあったからね。私とお母さんとの約束だもん。絶対に教えなーい」
こなたはそういうと、封筒を持って自分の部屋に戻っていった。
そうじろう「酷いな、かなた。俺は20年も我慢したってのに……」
31 あなた、少し調子に乗りすぎたみたいね。
かがみ「こなた。あんた、少し調子に乗りすぎたみたいね」
かがみがゆっくりと近づいてきた。その顔は能面のように無表情でかえって怖い。
こなた「ちょっと待った。軽い悪戯じゃないか、かがみん。そんな怖い顔しなくても」
かがみ「人間誰にだって許せないことの一つや二つはあるものよ」
凄みのあるセリフに、こなたは震え上がった。
こなた「ごめん、ごめんよ、かがみん! これこの通り謝るから許してよ!」
こなたは、その場に土下座した。
みゆき「泉さんはいったいどんな悪戯をしたのですか? かがみさんがあんなにお怒りになるなんて」
つかさ「お姉ちゃんが使ってる体重計に悪戯して、お姉ちゃんの体重が重く表示されるようにしたんだって」
みゆき「そうですか。それであんなにお怒りになっているのですね」
32 おまえは生きろ。
病院のベッドに、そうじろうが横たわっている。
かなた「そう君!」
容態の急変の報を聞いてかけつけたかなたの呼び声に、そうじろうの目が開かれた。
そうじろう「かなた。おまえは生きろ。こなたを頼んだぞ」
それが最期のセリフだった。
目が閉じられ、そして、心電図の表示が平らになった。
かなた「嘘でしょ、そう君? 嘘よ、こんなの嘘よぉー!」
唐突にすべてが暗転した。
悪夢から現実へと覚醒する。
病床に伏せているのは、夫ではなく自分。それがまぎれもない現実だった。
よりにもよって、なんであんな夢を……?
いくらなんでもあんまりだ。
かなたは、その夜、自己嫌悪にさいなまれて、ずっと眠ることができなかった。
33 ふぅ、ここまでくればもう大丈夫だ。
みゆき「ふぅ、ここまでくればもう大丈夫ですよね」
相手をうまく撒いて全速力で逃げてきたのだ。
そう簡単に追いつけるわけが……、
「みゆきさん、みーつけた」
みゆき「!」
みゆきが振り向くと、そこには負のオーラをまとったこなたの姿が!
こなた「食べ物の恨みは恐ろしいんだよ、みゆきさん」
みゆき「すみません! 泉さん! つい出来心で! この償いは必ずいたしますから!」
こなた「限定品特上チョココロネの恨み、晴らさずにはいられない」
みゆきの悲鳴があたりに響き渡った。
こなた「さて、次はかがみとつかさだね」
みゆきの亡骸を残して、こなたは再び走り始めた。
34 この技だけは使うまいと思っていたが……。
泉家で、こなたとかがみが二人でゲーム中。
やってるゲームはシミュレーションRPGで、対戦モードでプレイしていた。
こなたがこのゲームを買ってきたのは出てくるキャラが萌え要素満載だったからだが、シミュレーションゲームとしても充分な内容。
戦略的思考となれば、こなたよりはかがみの方が上だ。対戦プレイは、かがみに有利に展開していた。
かがみ「あんたのターンよ。まあ、もう対抗策は何もないでしょうけどね」
こなた「うぬぬ、ゲームでかがみんに遅れをとるとは」
かがみ「何をいっても負け惜しみでしかないわよ」
こなた「こうなったら最後の手段。この技だけは使うまいと思っていたが……」
こなたは、ゲーム機本体に手を伸ばした。
こなた「究極の奥義、電源オフ!」
かがみ「アァーッ!!」
35 天佑を確信し、全軍突撃せよ!
konakona:MP切れた
yamanka:みんなのHPもあとわずか
gatongo:回復アイテムもない
nanakon:移動アイテムもないで
モンスターが現れた!
gatongo:うげっ!
yamanka:逃げても回り込まれるだろうなぁ
konakona:諸君、この絶望的な状況の中で我らがなすべきことはただひとつ! 天佑を確信し、全軍突撃せよ!
nanakon:突撃やー!
yamanka:うぉりゃー!
gatongo:とつげーき!
こうしてパーティはあえなく全滅し、全員のデスペナルティの回復に一週間を費やしましたとさ。
36 俺に構わず逃げろ!
「「はぁ、はぁ……」」
息を切らしながら逃げるかがみとつかさ。
かがみ「きゃー!」
かがみがつまづいて転んだ。
つかさ「お姉ちゃん!」
かがみ「ううっ……」
つかさ「大丈夫?」
かがみ「私はもう駄目。つかさ、私に構わず逃げて」
つかさ「駄目だよ、お姉ちゃん。一緒に逃げようよ」
「みーつけた」
二人が顔をあげると、そこには負のオーラをまとったこなたの姿が!
つかさ「あう……」
かがみ「……」
二人の顔に汗がつたう。
こなた「さぁ、二人とも、私の限定品特上チョココロネを勝手に食べた罪、ここで償ってもらうよ」
つかさとかがみの悲鳴があたりに響き渡った。
37 馬鹿やろう! こんなお宝みすみす逃したら、一生後悔するぞ!
konakona:うーん、あからさまにトラップがいっぱいあるね
nanakon:そうやな
yamanka:回復手段もないし、ここは無理せず、出直してきた方が
gatongo:馬鹿やろう! こんなお宝みすみす逃したら、一生後悔するぞ!
yamanka:無理して突破しても途中で死ぬだろ
gatongo:出直してきたときには誰かにとられてるかもしれないんだぞ! ここは無理してでもとっておくべきだ!
nanakon:そうは言ってもなぁ
gatongo:ええーい! こうなったら俺だけでも行ってくる!
konakona:ちょっと待った!
制止の声を無視して突き進むgatongoに、次々とトラップが襲いかかる。
そして、
gatongo:アァーッ!
konakona:死んだね
yamanka:死んだな
nanakon:言わんこっちゃないで
38 呪いなんてバカバカしい! そんなもんは絶対信じないぞ!
こなた「ねえねえ、知ってる? 理科室で一晩過ごすと呪われるって噂」
つかさ「それホント? こなちゃん」
こなた「実際に試してみないと分かんないけどさ。つかさ、やってみる?」
つかさ「絶対嫌だよ」
かがみ「そんなのバカバカしい噂でしょ。つかさも真に受けちゃ駄目よ」
つかさ「そうだよね」
こなた「かがみならそういうと思ったよ。呪いなんて絶対信じないタイプだもんね」
かがみ「そんなことないわよ。ただ、そういう呪いってね、ちゃんと怨念をこめてしっかりやらないと、効果が出ないものなのよ」
こなた「およ? かがみんから意外な発言が」
かがみ「私だって、神社の娘なんかやってるから、その手の呪術はいくつか知ってるわよ。それでつかさをいじめてる奴を呪ってやったこともあるしね。あれは結構効果があったわね」
つかさ「えっ? お姉ちゃん、そんなことしてたの?」
かがみ「久しぶりに試してみようかしら? こなたあたりで。日頃から散々からかわれてる恨みを晴らすのもいいかもね」
こなた「ちょっ、ちょっと待った! かがみ、それは冗談だよね!?」
かがみ「冗談に聞こえるかしら?」
こなた「絶対冗談だ!」
かがみ「まあね。半分は冗談よ」
かがみは笑顔でそういうと、席を立って自分のクラスに戻っていった。
こなた「半分ってどういう意味?」
つかさ「そういえば、昔、私をいじめてた人が、みんないきなり入院したりとか交通事故にあったりとかしてたような……」
こなた「……」
39 おまえが家族のことを話すのは珍しいな。
ふゆき「私の父は、母を早くに亡くしたせいか、私を甘やかしすぎでした。私が自分でやれることまで、家政婦さんとかにやらせようとする人でした」
病院の個室。ひかるが横たわるベッドの横に座って、ふゆきはそんなことを語りだした。
ふゆき「私はそれが嫌で、自分でなんでもやれるようにいろいろと頑張ったんですよ。でも、自分で働きたいっていう私の希望にも、父は大反対でした。結局、私は家を飛び出してきたわけですけど」
ひかる「おまえが家族のことを話すのは珍しいな」
ふゆき「そうですね。それはともかく、私がいいたいことは、ひかるさんも食事ぐらいは一人できちんとできるようになった方がいいですよってことです」
ふゆきは、落花生の殻を丁寧に剥いて一つ一つ皿にのせていた。
ふゆき「私が三週間ほど旅行に行ってただけで、脚気(かっけ)にかかって入院とはどういうことですか?」
ひかる「面目ない」
40 おまえには私のすべての技を教えたつもりだ。行くがよい。
そうじろう「こなた。おまえには俺のすべての技を教えたつもりだ。思い切って行ってこい」
こなた「うん、行ってくるよ」
こなたは、想い人の前で一世一代の告白をする。
こなた「あなたが振り向いてくれないから、私はこんなギャルゲ好きになったんだ!」
その結果は……、
こなた「お父さん、玉砕したぁ~」
こなたは、滂沱の涙を流しながら、そう報告した。
そうじろう「おかしいなぁ。かなたはこれで一発だったんだが」
特殊な事例を他に当てはめようとしてはいけない。
41 この仕事がうまくいけば、一生遊んでくらせるだけの金が手に入る。
この仕事がうまくいけば、一生遊んでくらせるだけの金が手に入る……というわけではないが、この仕事のギャラがいいことは確かだった。
でなければ、みのるもこんな仕事を引き受けたりはしなかっただろう。
上空何千メートルの飛行機からのスカイダイビング。とあるテレビ番組でのみのるいじめ企画の生放送だった。
素人が一人でスカイダイビングはできないので、みのるは資格をもつダイバーとの二人羽織状態で待機していた。
スタジオで司会を務めているあきらからの声がイヤホンに入る。
あきら「白石、眺めはどうだ?」
みのる「ええ、雲ひとつない快晴でまったくの絶景っすよ」
あきら「飛び降りるにはいい天気ってことだな。今生の別れになるかもしれんから、奥さんにつないでおいたぞ」
テレビ画面がみのるの自宅を預かる妻つかさの映像に切り替わった。
つかさ「みのるさん! 無理しないで! 死んじゃったら嫌だよぉ!」
みのる「ちゃんと資格をもってるダイバーが一緒だから心配ないっすよ」
つかさ「駄目ぇー!」
あきら「白石さんは奥様に愛されてますねぇ。うらやましい限りです。おい、白石」
画面が飛行機の中のみのるの映像に戻された。
みのる「なんすか?」
あきら「おまえ、生命保険には入ってるんだろうな?」
みのる「入ってますよ」
あきら「なら思い残すことはないな。行ってこい」
テレビ画面にテロップが出る。「逝ってこい」と。
みのる「ええ、行きますよ。さっさと終わらせてたんまりギャラいただきますからね」
ダイバーと二人羽織状態のまま、みのるは飛行機から飛び降りた。
つかさ「きゃー!」
つかさの悲鳴が全国のお茶の間に響き渡った。
結論からいうと、パラシュートは無事に開き、みのるはケガひとつすることなく地上に降りてきた。
42 俺は抜けさせてもらうぜ。
アニ研部室。
こう「全部ボツ、やり直し」
ひより「マジっスか!? 部誌原稿の〆切は明日っスよね!?」
こう「そう」
ひより「絶対無理っス。だいたい、死亡フラグなんてお題で42本も四コマなんて無茶だったんスよ。それなのにせっかく捻り出したネタが全部ボツなんて無茶苦茶っス!」
こう「我がアニ研に不可能の文字はないよ、ひよりん」
ひより「もう付き合ってられないっス! 今回は、私は抜けさせてもらうっスよ!」
ひよりが部室のドアに手をかけた瞬間。
ひより「うっ。なんで開かないっスか!?」
こう「そのドア、内側からも鍵がかけられるように改造したから。私が素直に逃がすと思ってたのかい、ひよりん? さぁ、明日までにネタ出しして原稿を仕上げよう」
ひより「無理っス! 絶対無理っス!」
終わり
お題提供
そこはかとなく死にそうな42のお題 著作権者mount-root-yy(http://f21.aaa.livedoor.jp/~mtrootyy/)
最終更新:2009年03月02日 18:40