ID:V3ksVRc0氏:残影

「紅葉を見に行きましょう」
 とある秋の日。こなた達四人が、何時ものように昼ご飯を食べていると、唐突にみゆきがそう言った。
「きゅ、急だねゆきちゃん…」
「しかも『行きませんか?』じゃなくて『行きましょう』だ…」
「なんでまた、そんなアグレッシブに…」
 なかば呆れたような三人をよそに、みゆきは嬉しそうに先を続ける。
「実は親戚の一人が旅館を経営してまして、そこの紅葉が今が見ごろなんです。毎年お誘いをいただいているのですが、今年は両親の都合がつかなくて行くかどうか迷っていたのですが、代わりに皆さんをお連れしてはどうかと言われまして…いかがでしょう?」
 そこまで一気に言い切り、みゆきは三人の顔を見渡した。
「それって、タダなの?」
「はい、もちろんです」
 こなたの質問に、みゆきが間髪いれずに答える。続いてかがみがみゆきに向かって手を上げてみせる、
「何時行くの?」
「次の連休に二泊三日の予定です」
「特に予定も無いし、悪くないわね…つかさも何もなかったわよね?」
「うん、わたしは大丈夫だよ」
 二人の答えにみゆきは満足気にうなずいて、こなたの方を見た。
「泉さんはいかがでしょう?」
「うん、わたしも予定ないし大丈夫だよ。むしろ好都合かな」
「どうして?」
「その日ね、お父さんが泊まりで出かけるんだ。家で一人だし、掃除とかめんどくさいなーって思ってたんだ」
「ふーん」
「では、みなさんOKと言うことで…ふふ、楽しみですね♪」
 みゆきは弾むような声でそう言うと、自分の弁当の残りに取り掛かった。
「ゆきちゃん、ホントに楽しそうだね…」
「…これ、絶対なんかあるよね」
「そうね、同感だわ」
 そんなみゆきを眺めながら、こなた達三人も弁当の残りを食べ始めた。


- 残影 -


「着きました。ここですよ」
「わぁ、すごーい」
 みゆきが指差した先、そこにある旅館とその後ろに広がる紅葉に、つかさが思わず感嘆の声を上げた。
「これは、確かに凄いとしか言いようがないわね…」
 かがみもぽかんと口をあけて、その風景に見入っていた。
「露天風呂からの景色も素晴らしいですし、旅館の敷地内にある散歩道も最高ですよ」
 誇らしげにそう言った後、みゆきはこなたが旅館の方を見ながらなにやら複雑な表情をしているのに気がついた。
「泉さん?どうかなさいましたか?」
「え?あ、いや、たいしたことじゃないんだけどね…既視感、だっけ?ここ、なんかどっかで見たことあるなって思って」
「似たような場所に、ご旅行に行かれたとか?」
「うーん…無いと思うんだけどね…まあ、いいや。多分気のせい」
「そうですか。では、中に入りましょうか」



「いらっしゃい、みゆきちゃん。お友達の方も、よくおいでくださいました」
 中に入った四人を、品のいい婦人が出迎えた。
「お久しぶりです、叔母さん。今年もお世話になります」
 みゆきが深々と頭を下げる。こなた達もそれに習って、頭を下げた。
「ゆきちゃんの叔母さんって事は、ここの女将さんなのかな?」
「みたいね」
「なんか、みゆきさんと物腰がにてるねー」
 三人がそんなことを話している中、みゆきは落ち着きなく辺りを見渡していた。
「あ、あの、叔母さん…兄さんは?」
 そして、そう女将さんに聞いた。
「あー、あの子ね…なんか急に仕事が入ったって言って、来れなくなったのよ…」
「…え」
「みゆきちゃんが来るって言ってあったんだけど、どうしても外せない仕事だからって…」
「そ、そんな…」
 がっくりと肩を落とすみゆき。その様子を見ていたこなた達三人が、ひそひそと話し合う。
「ゆきちゃんにお兄さんっていたっけ?」
「親戚に実の兄のように慕ってる人がいるって、聞いたことはあるわね。多分、その人なんじゃないかな」
「みゆきさんの様子からすると、今回の旅行はその人目当てだったみたいだね…」
 肩を落としながら「…そーですよね…そーですよね…」などと呟いているみゆきの肩に、女将さんが手を置いた。
「みゆきちゃん、みなさんを部屋に案内してあげてね。部屋はいつもの所だから。はい、これ鍵」
 女将さんはみゆきに無理矢理鍵を握らせると、後ろに回りこんでトンッと背中を押した。すると、押されたそのままの勢いで、みゆきがふらふらと歩き出す。
「それじゃ、ごゆっくり。露天風呂はいつでも入れますから、そちらもどうぞ」
 そう言って手を振る女将さんに一礼して、こなた達はみゆきの後を追いかけた。
「なんか、女将さん慣れてない?」
「うん、しょっちゅうあったりするのかな、こういう事…」



 ブツブツと何かを呟きながらふらふら歩くみゆきに案内されて、こなた達は『楓』と書かれた部屋にやってきた。
 みゆきが慣れた手つきで部屋の鍵を開け、中に入っていく。こなた達もみゆきに続いて中に入った。
「へー、いい部屋じゃない」
 かがみが思わず感嘆の声を出した。
「うん、景色もすごくいいよ」
 窓の外を見ながら、つかさがそう言った。
「これって普通に泊まったら高いんだろうねー」
「まあ、そうなんだろうけど…いちいち雰囲気壊すな」
 達筆で何を書いているのかよく分からない掛け軸を見ながら呟くこなたに、かがみが突っ込みを入れる。
「でもさ、なんかおかしいよね」
 しばらく掛け軸を見ていたこなたが、かがみ達の方に向き直ってそう言った。
「なにが?」
「部屋も綺麗だし、景色も良いし、時期的にも今が最高なのにさ、この部屋来るまで他の客に一人も会わなかったじゃん。なんか旅館全体が静かだったし、従業員も少ないんじゃないかな」
「流行ってないってこと?」
「うん。流行ってても全然おかしくないのにね」
「うーん、よくわかんないけど、ゆきちゃんなら何か知ってるんじゃないかな?ゆきちゃんは?」
 そう言いながら、つかさは部屋を見渡した。
「そういや、部屋入ってから見てないわね」
 かがみもみゆきの姿を探して、部屋を見渡す。
「みゆきさんなら、あそこにいるよ」
 こなたが部屋の隅の方を指差す。そこにはみゆきが壁に向かって寝転がっていた。
「…なにやってるんだ、みゆき…」
「…なんか『シクシク』って泣き声が聞こえるんだけど…」
 少しばかり引き気味のかがみとつかさを置いて、こなたはみゆきに近づく。
「この分だと、色々聞くのは無理ぽいけど、お風呂の場所は教えてもらわないと困る」
 そしてこなたは、寝転んでいるみゆきの肩を掴んで、ゆっさゆっさと揺さぶった。
「みゆきさーん。とりあえずお風呂入りたいからさ、案内してよー」
 聞こえているのかいないのか、みゆきは返事もせずに立ち上がると、ふらふらと部屋を出て行った。
「ほらかがみ、つかさ、置いてかれるよ」
 こなたがその後を追って部屋を出る。
「ま、待ってよ、こなちゃん、ゆきちゃん」
「ちょ、ちょっと、鍵かけていかないとダメでしょ?」
 つかさとかがみも、部屋の鍵を持って慌てて部屋を出た。



「おー、こりゃいいや。絶景かな絶景かな」
「…ちょっと、こなた」
「ん、なに、かがみ?」
「絶景はいいんだけど…前隠せ。全裸で仁王立ちするな」
 なかなかの広さを持つ露天風呂。その中央で眼前に広がる紅葉を眺めながら、こなたはタオルを首にかけただけの格好で堂々と立っていた。
「いいじゃん別に。他に誰もいないんだし」
「見てて恥ずかしいのよ…」
「恥ずかしい?わたしの身体に恥ずかしいところなど無い!」
 更に大きく胸を張るこなた。それを見たかがみは大きくため息をついた。
「…こなちゃん、生えてないんだね」
 いつの間にか、こなたの前にしゃがみ込んでいたつかさが、そう呟いた。
「いやん、どこ見てんのつかさのスケベ…」
 思わず身体のあちこちを隠しながら、しゃがみ込むこなた。それを見ていたかがみが再びため息をついた。
「二人してなにやってんのよ…って生えてない?マジで?」
 かがみは、しゃがんだままで何やら言い合ってるこなたとつかさに近付こうとして、一生懸命に湯船の中を覗き込もうとしているみゆきに気がついた。
「どうしたのみゆき?…っていうか復活したんだ」
「ええ、何とか持ち直しました…えっと、眼鏡が無いのでよく見えないのですが、お湯の中に何か黒いものが見えるんです」
 そう言ってみゆきが指差した先を、かがみも覗き込んでみた。湯気と濁ったお湯でよくは見えないものの、確かに黒いものがお湯の中に見えた。
「ホントだ、何かしらあれ…って、あの形…人じゃないの!?」
「ええっ!?」
「のぼせて倒れたのかしら…みゆき!」
「はい!」
 かがみが湯船の中に入り、人影の方に向かう。みゆきもそれについていった。そして、かがみがしゃがんで、沈んでいる人影に手を伸ばした。
「…ぶはぁっ!」
 すると、急に人影が立ち上がった。
「ふー、危ない危ない。寝てしまってたよ…」
 かがみの後ろにいたみゆきにははっきりと分かった…その人物は男性だ。そして、かがみの顔の位置が、その人物の『男性自身』の真ん前にあるという事を。
「…い…あ…きゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 悲鳴と共に放たれた左ストレート。嫌な音。嫌な感触。その男性はうめき声を上げて、再びお湯の中に倒れ伏した。
「な、なに?お姉ちゃん、大丈夫?」
 悲鳴を聞きつけたこなたとつかさも湯船の中に入ってきた。
「つかさーっ!」
 つかさにかがみが抱きついた。
「…なんか、なんかぶらぶらしてたよー…」
「え、えっと…よく分からないけど、大丈夫だよ。お姉ちゃん…」
 こなたが二人の横を通り過ぎて、うつ伏せに浮かんでいる男性に近づいた。
「かがみより、この人が大丈夫かって感じなんだけど…あれ、なんか見たことある後頭部…みゆきさん、ちょっとそっちもって。とりあえず、湯船から出そう」
「はい、わかりました」
 こなたとみゆきは二人がかりでその男性を湯船から引きずり出した。
「あ、やっぱりお父さんだ」
 仰向けに転がされた男性は、こなたの父そうじろうだった。
「では、泉さんのお父さんが仰られてた泊りがけで出かけると言うのは…」
「うん、ここだったみたいね。偶然とはいえ、出来すぎだなー」



「ホンットーにすいませんでした…」
 数分後、意識を取り戻したそうじろうに、かがみが思い切り頭を下げて謝っていた。
「うん、もういいよ…俺も風呂入りながら寝るなんて、不注意だったからね」
「ってーかお父さん。潰れてない?」
 そうじろうの横から顔を出しながら、こなたがそう聞いた。
「…もう少し強力なのがきてたら、ヤバかったかもな」
「…ごめんなさい」
「あれ、でもどうしておじさんが入ってたの?ここって女湯じゃ…」
 今度は、かがみの横からつかさが顔を出してそう聞いた。
「ん?ああ、知らなかったのかい?ここは混浴だよ」
 そう言ってそうじろうは更衣室の方を指差した。つかさがそちらの方を見ると、自分たちが入ってきたドアの隣に「男」と書かれたドアがあった。
「ホントだ…全然知らなかったよ」
「ってーか聞けなかったよね。みゆきさんがああだったし」
「それは…すいませんでした」
 今度はみゆきが頭を下げる。それを見ていたこなたがぶるっと身体を震わせた。
「なんか冷えてきたね。お湯に入らない?」
「そうだね。わたし達、お湯に全然浸かって無かったよ」
 こなたの提案につかさが同意し、かがみとみゆきも頷いていた。



「…ホント、いい景色だね」
「だろ?あんまりいい景色なんで、思わず寝ちまったからなあ」
「ところで…なんで、かがみ達はそんなに離れてるの?」
 隣り合わせで湯に浸かって、話をしているこなたとそうじろう。そこから出来るだけ離れた位置に、かがみ達三人は浸かっていた。
「いや、普通離れるでしょ…男の人がいるってのに」
「そう?わたしは平気だけど」
「こなちゃん達は親子だから…えーっと…でも、普通一緒に入ったりしないよね…」
「あの…気になったのですが、泉さんはいつ頃までお父さんと一緒にお風呂に入られてたのですか?」
「なんか、中学くらいまで入ってそうだな…」
「んー…お父さん、最後に一緒に入ったのっていつだっけ?」
「二週間前くらいだったかな?」
「うそぉっ!?」
「現役でかよ!?ってかそれマジで!?ギャグじゃなくて!?」
「うん。別に、やましいことはしてないから大丈夫だよ」
「いや、してたら洒落にならんて…」
「なんだか、予想外でしたね…」
「ここまで規格外な親子だったとは…」
「そんなに変かなあ…あ、そうだ」
 色々と疲れたのか、ぐったりしているかがみ達を見ていたこなたが、ふと何か思いついてそうじろうの方を見た。
「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
「ん?何だ?」
「わたし、ここに来たことある?小さい時とかに」
 旅館に着いた時に感じた既視感。こなたはそれが気になっていた。
「いや、無いはずだぞ。ここにはお前が生まれてから一度も来てないからな」
「ふーん、そっか…なんで来なくなったの?」
「お前を産んですぐに、かなたの体調が悪くなったからな…」
 そうじろうは紅葉の方を見た。つられてこなたも同じ方を見た。
「この景色はかなたのお気に入りだったんだ。かなたが来れないのなら、ここに来る理由が無いと思って、ずっと来てなかったんだ」
「…ふーん」
 こなたはもう一度そうじろうの方を見た。そこにある過去を懐かしむ、あまり見せない父の顔。
「じゃあ、どうして今年は来たの?」
「最後に、この景色をもう一度見てみたいと思ってな」
「…最後?」
「ああ、この旅館。今年一杯で閉めてしまうらしいんだ」
「ええっ!?」
 驚きの声は、かがみ達がいるほうから聞こえた。みゆきが立ち上がり、こなた達の方を見ていた。
「そ、それ本当ですか?わたし、何も聞いていないのですが…」
 そのままこなた達の方へと来て、そうじろうに詰め寄った。
「あ、ああ…間違いないよ…えーっと」
 そうじろうは困った顔で、こなたの方を見た。
「うん、ここの女将さん、みゆきさんの親戚なんだって」
「あー、なるほど…えーっと…」
「みゆきさん、見えてるから。上から下まで全部」
「…へ?」
 みゆきは思わず自分の姿を確認した。当然のことながら真っ裸。目の前にはそうじろう。みゆきの顔が見る見る真っ赤に染まっていった。
「ひあぁぁぁぁっ!?」
 みゆきは胸の辺りを両手で隠して、お湯の中に座り込んだ。
「…す、すいません…なんだかその…すいません…」
「いや、謝るようなことじゃないような…っていうか見てないから、うん」
「そ、そうですか…」
「むしろ感謝するよ。いいもの見させていただきました」
 こなたが手を合わせて、みゆきにお辞儀した。それに習って、そうじろうもお辞儀をする。
「見させていただきました」
「見てるじゃないですか~」
「やめんか、セクハラ親子!」
 たまらずに、かがみの突っ込みが飛んできた。みゆきは気を取り直すために、咳払いを一つして、改めてそうじろうに聞いた。
「そ、それで、あの…旅館を閉める理由とか聞かれてますか?」
「え、ああ。ほら、ここってそれなりに高い宿泊費だろ?それで、客足が少なくなってるところに、近くに安い旅館が出来たんだ。半分道楽でやってるとはいえ、潮時だろうなって言ってたよ…」
「そうですか…仕方がないとは言え、寂しいですね…毎年来てましたから、思い入れはあったんです」
 みゆきは少し顔を上げて、複雑な表情で紅葉を眺めた。
「ねえ、お父さん。お父さんも、お母さんが生きてた頃は毎年来てたの?」
 そのみゆきを見ながら、こなたはそうじろうにそう聞いた。
「ああ、小説が売れ始めて、少し余裕が出来てからは、毎年来てたな…ここに来ると、かなたはホントに嬉しそうな顔をしてくれたからなあ」
「ふーん…そっか…」
 こなたは顔の下半分を湯に沈めて、ブクブクと何かを呟いた。
「ん?何かいったか、こなた?」
 そう聞いてきたそうじろうに、こなたは何でもないと言うように黙って首を横に振った。



 その日の真夜中。つかさは不意に目が覚めて、上半身を起こした。
「…ん…今何時だろ…」
 夜中に目を覚ますなど何時以来だろうか。つかさは時間を確認しようと時計を探して、窓の方にこなたが座ってるのを見つけた。
「こなちゃん?」
 つかさは布団を抜け出して、こなたの方に向かった。こなたもつかさに気がつき、窓の外を見ていた顔をつかさの方に向けた。
「こなちゃんも目が覚めちゃったんだ」
「…うん」
 つかさはこなたの横に座り、窓の外を見た。こなたも、つかさにつられて再び窓の外へと視線を向けた。月明かりに照らされた紅葉は、昼間とは違った美しさを見せていた。
「綺麗だね、こなちゃん」
「…うん…そうだね」
 こなたの元気のない返事に、つかさは不安になってこなたの顔を見た。
「こなちゃん、どうかしたの?」
「ん…うん、まあ…ねえ、つかさ」
 こなたもつかさの方を向く。
「お父さんはね、なんでわたしをここに連れてこなかったんだろうね」
「…え?」
「お母さんとの思い出の場所、わたしを連れてきたくなかったのかな…」
「そ、それは…」
「今年でこの旅館閉めるってのに、一人で来ようとしてたしね」
「………」
「お父さんが、ちょっとだけ分からなくなったよ…」
 つかさが顔を俯かせる。それを見たこなたは、ばつの悪そうな顔をした。
「…ごめん。変なこと言っちゃったね」
 つかさから顔を逸らし、こなたはまた窓の外を見た。
「…おじさんは、見せたくなかったんじゃないかな」
 俯いたまま、つかさがそう言った。
「…なにを?」
 窓の外を見たまま、こなたが聞いた。
「思い出の場所なんだからさ、色々思い出しちゃって、寂しくなると思うんだ…こなたちゃんに、そういうところ見せたくなかったんじゃないかな」
 つかさが顔を上げた。
「…そうかな」
 こなたは、窓の外見たままだった。
「きっとそうだよ」
「そうだったら…お父さん、バカだよね。そんなこと、わたしは気にしないのに」
「おじさんの方が気にするんじゃないかな。かっこ悪いとか、そんなんで」
「…バカだね。ホントに」
 そのまま、しばらく二人で景色を見ていると、つかさが大きな欠伸をした。
「こなちゃん、わたし寝るね…」
「…つかさ、ありがとう」
「…うん…おやすみ、こなちゃん」
「おやすみ…」
 つかさが布団に入った後も、こなたは景色を見続けていた。



「よーし、次はあっちだ」
「ちょ、ちょっと待ってよお父さん」
 翌日の朝。こなた達四人はそうじろうに連れられて、旅館の散歩道を歩いていた。
「…ホント、仲の良い親子ね」
 先頭に立って、右手でカメラを構え、左手でこなたの手を引いているそうじろうを見ながら、かがみが呆れたようにそう言った。
「そうですね…つかささん?」
 かがみに相槌を打ったみゆきは、つかさが少し遅れているのに気がついた。
「気分でも悪いのですか?」
「え?ううん、大丈夫。昨日夜中に目が覚めちゃって、ちょっと眠たいだけだから」
 つかさは少し距離の離れたこなたとそうじろうを見ながら、昨晩の会話を思い出していた。
 少しばかり抱いた不安や疑念。それでも、こなたはいつも通りに父親と接している。
「…こういうときって、こなちゃんが凄いなって思えるよ」
 つかさはこなた達から目をそらして、周りの景色を見た。少しばかりそうして歩いていると、前を歩いているかがみの背中にぶつかった。
「な、なに?お姉ちゃん。立ち止まって…」
「あ、あれ…あれ見て…」
 かがみが少し震える手で、前にいるこなた達を指差した。
「え…」
 つかさはそれを見て、固まってしまう。隣にいたみゆきも、同じ方を見て絶句していた。
 嬉しそうにカメラを構え、紅葉の中を歩くそうじろう。そのそうじろうに手を引かれ、「しょうがないなー」といった表情で付いていくこなた。そのすぐ後ろに、二人を優しく見守る人影があった。淡い光に包まれたその人は、かがみ達が見ているのに気がつくと、左手の人差し指を口に当て、ゆっくりと消えていった。
「…今の見た?」
「う、うん…あれって…」
「泉さんの…お母さん…ですよね?」
 三人が思わず顔を見合わせる。お互い何もいえないまま、しばらくの間固まっていた。
「おーい、どしたの?三人で固まってさ」
 三人が付いて来てないのに気がついたこなたが、近づいて声をかけた。
「あ、こなた…えっとさ…」
「ん?なに?」
「あー…いや、なんでもない…」
「んー…まあ、いいけど。それよりさ、お父さんが集合写真撮ってくれるって。こっちだよ」
 そう言ってパタパタとこなたは走り出した。かがみ達三人も、こなたを追って走り出す。

 紅葉を撫でる風の中、一際優しい風がこなた達を追って流れて行った。


‐ 終 ‐
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