ID:qwqf32.0氏:雨宿り

「あー、もう最悪!」
 そう悪態を吐きながら、柊かがみは乗っていた自転車から降りると、手近にあった二年ほど前に潰れた飲食店の軒先に飛び込んだ。
 友人の泉こなたの家へ遊びに行った帰り道に、急に降り出した雨。こなたは「降りそうだから、傘持っていきなよ」と言ってくれたが、かがみはそれを断ってきた。
「…20%って言ってたのに」
 当てにならない天気予報を恨みながら、濡れた頭をハンカチで拭く。服もかなりの水を吸っていたが、流石にハンカチでは拭けきれないだろうと、諦めることにした。
「こなたの言うこと、聞いてれば良かったな…」
 溜息をつきながら覗き込むように空を見上げる。降りは酷くなっており、やむ気配はない。
 かがみが家族の誰かに傘を持って来てもらおうと、携帯を鞄から取り出したところで、一人の男性が隣に飛び込んできた。
「うわー、こりゃたまらんな」
 かがみはその声に聞き覚えがあった。隣を見てみると、やはりこなたの父親のそうじろうだった。
「…おじさん」
「ありゃ、かがみちゃんか」
 かがみが声をかけると、驚いたようにそうじろうがこっちを見た。
「いや、奇遇だねー」
「ええ、まあ奇遇なんですけど…遠目に女の子が見えたから、ここに飛び込んできたってのは無しですよ?」
「は、はははは…ま、まさか。いくらなんでもそれは無いよ…うん」
 あからさまに動揺するそうじろうを見ながら、かがみは溜息をついた。
「か、かがみちゃんはこなたと遊んだ帰りかい?」
「ええ、そうです」
 これまたあからさまな話題変えだったが、これ以上追求することでもないので、かがみは話に乗ることにした。
「今日は自転車なんだ」
 そうじろうはかがみの隣に置いてある自転車を見てそういった。
「たまには自転車もいいかと思いまして…おかげでこんな目にあってますけど」
 自嘲気味にそう言うかがみ。そうじろうはそのかがみを見ながら、顎に手を当ててしばらく考え込み、何かを思いついてこう言った。
「ダイエットでなくて?」
「…親子揃って同じこと言わないでください」


- 雨宿り -



「それにしてもおじさん…」
 かがみは改めてそうじろうの服装を見た。いつもの作務衣ではなくスーツ姿だ。
「ちゃんとした服、持ってたんですね」
「いや、流石に持ってるよ…打ち合わせとか部屋着で行くわけにもいかないだろ」
「まあ、そうなんですけど…おじさんは平然とそういうことしそうですから」
「相変わらずきっついな…こなたといい勝負だ」
「う…それはちょっと…」
 俯いて「そんなにきついかしら…」などと呟いているかがみを見て、そうじろうは鞄からタオルを取り出した。
「かがみちゃん、随分濡れてるみたいだし、コレ使うかい?」
 そう言ってそうじろうは、かがみにタオルを手渡そうとする。
「え?…うーん」
「はは、大丈夫だよ。こいつはまだ使ってないやつだから。俺はこっちのがあるし」
 受け取るのを躊躇しているかがみに、そうじろうは鞄からもう一枚のタオルを出して見せた。
「すいません、そういうことなら…ってなんでタオルなんか持ってるんですか?しかも二枚も」
 受け取ったタオルで服を拭きながら、かがみはそう聞いた。
「こなたにね、降りそうだから傘持って行けって言われたんだけど、降水確率が20%だったし、邪魔になるからって断ったんだ。そうしたらせめてタオル持っていけって、これなら邪魔にならないだろうからって…二枚なのは念のためだとさ」
「なるほど…」
「その後、『電話かけてきても、絶対迎えにとかいかないからね。めんどくさいから』って言われたけどな」
「あはは、それはこなたらしいですね…って、そうだ。電話だ」
 かがみは自分の家に電話をかけて、傘を持って来てもらおうとしていたのを思い出した。
 先程取り出していた携帯で自分の家に電話をかける。だが、いくら待っても呼び出し音が続くだけで、誰かが取る気配は無かった。
「…あれ、おっかしいな…誰もいないのかな…」
 しかたなくかがみは、今度は妹のつかさの携帯にかけてみた。
「…あ、つかさ?ちょっと雨に降られちゃって、傘持って来て…え、無理?なんで?…は?あんたも?みゆきと一緒に?…あんたら二人して何やってるのよ…え?いや、まあそうなんだけど…うん、わたしもよ。ごめん、悪かったわよってみゆきに聞くな!聞こえてるぞ!みゆきも余計なこと吹き込むな!………え?ああ、うん。わたしもかけてみたけど、誰も出ないのよね…うん、わかった…それじゃね………いや、分かってるってだからいちいちみゆきに聞くなって!みゆきも律儀に答えるな!切るわよ!」
 かがみは携帯を畳みながら、大きく溜息をついた。
「…で、なんでおじさんはそんなにやけてるんですか?」
 自分の電話している姿を、終始嬉しそうに見ていたそうじろうを、かがみはジト目で見つめた。
「いや、随分楽しそうだなって」
「…そう見えましたか?」
「そうとしか見えなかったよ」
「…多分、さっきの楽しんでたのはみゆきだけだと思いますけど」



「…今のこなたは友達に恵まれてると思うよ」
 なんの前触れもなくそうじろうにそう言われて、かがみはキョトンとした表情を浮かべた。
「なんですか?急に…」
「いや、さっきの電話とか見てて思ったんだけどね…普段はこなたともあんな感じだろ?」
「ええ、まあ…」
「あいつが小さな頃に格闘技を習ってたって、聞いたことはあるかな?」
「は?…それは、聞いたことありますけど」
 あまりな話の飛びっぷりに、かがみは一瞬眼を丸くしたが、すぐに思い至った。相手に合わせない喋り方は、こなたと同じだ、と。
「通っていた道場で、仲のいい友達ができてね。それがよっぽど嬉しかったのか、喜んで通っていたよ。習い事なんて絶対したくないとか言ってたのに」
「…まあ、確かにこなたに習い事って似合わない気が…」
「それが、ある日勝手に辞めてしまったんだ」
「え?」
「『飽きた』…とか言ってね」
「…飽きたて…こなたらしいと言えば、そうなんですけど…」
「なんか隠してるような気がしてね、道場の方に聞きに行ったんだ。そうしたら、練習中にこなたがその友達に怪我をさせてしまったらしいんだ」
「怪我…ですか」
「ああ。受身を取り損ねて、手の骨を折ったらしい…その事をこなたに言ったら、泣いて言われたよ『友達を怪我させるような所には行きたくない』って」
「そうですか…あの、その友達とは?」
「それっきり、連絡も取ってないみたいだよ…それからかな。こなたがあまり友達を作らなくなったのは」

「…そんな事が…あ、でも中学のときに凄く仲のいい友達がいたって聞きましたけど…」
「ありゃ、その事も話してたのか…こりゃよっぽどだな」
 なにがどうよっぽどなのか分からず、かがみは首を捻った。
「…『友達がいた』って事しか聞いてないかい?」
「え?…はい、そうですけど…後は、全然連絡取ってないって事くらいしか…」
「そうか…うん、そうだな。かがみちゃんならいいか」
 そうじろうはそう言って、何度か頷いた。
「その子はね、俗に言う引き篭もりだったんだ…たまたま登校した時に、こなたと友達になった…っていうか、こなたが一方的に友達にしたみたいだけど」
「なんでまた急に…」
「感だったみたいだよ…そういう時の、こなたの感は鋭いからね…で、しばらくしてその子がまた引き篭もったんだけど、こなたが引きずって登校させたんだ」
「引きずってって…」
「何回引き篭もっても、引きずり出されるものだから、その子も根負けしたみたいでね…卒業間際には、普通に登校するようになってたよ」
「なんだか、ありがた迷惑な気がしますね…」
「かもね…『絶対に一緒に卒業するんだ』ってこなたは言ってたな。学校にいないんじゃ、一緒に卒業したことにならないんだって」
「…おかしいですよ、それ」
「なにが?」
「だって、今連絡とってないって…それだけこだわった友達なのに、なんでですか?」
「ああ、それは…連絡を取ってないんじゃなくて、取れないんだよ」
「…え?」
「その子は家の都合で、卒業と同時に遠くに引っ越したんだけどね、連絡先をこなたに教えなかったんだ」
「ど、どうして…」
「卒業式の日に家に来てね、俺とこなたにこう言ったんだ…『いつか、こなたさんのような魔法使いになれたら、わたしから連絡します。その時まで待っていてください…それと、こなたさんから連絡されると、また甘えてしまいそうなんで、わたしの連絡先は教えません』ってね」
「…こなたが魔法使いですか」
「ああ。その子からしたら、こなたは舞踏会に連れ出してくれた魔法使いだったんだろうな」
 かがみはこなたの言葉を思い出していた。
「類友とかそんなんじゃなくて、本気だったんだ…将来の夢が魔法使いって」
「卒業文集の事も話してたのか…そこまで話してて、肝心の部分を話してないなんてなあ…まあ、こんな話しといてアレだけど、こなたとは今までどおり付き合ってやってくれないか?あいつは気を使われるのか嫌がるからな」
 それは少し難しそうだと、かがみは思った。しかし、そうじろうがそれを出来ると信じてかがみに話したのだとすれば、その期待には出来るだけ答えようとも思った。
「…多分、大丈夫です。そういうの、加減できない性質ですから」
「それは頼もしい…ってどうしたんだい?」
 かがみが顎に手を当てて、なにやら考え込み始めたのを見て、そうじろうがそう聞いた。
「…その二人の友達って女の子ですか?」
「ん、ああ。どっちも女の子だけど…またなんで?」
「いえ…なぜか気になって…」
 言いよどんだかがみが誤魔化すように空を見上げると、少しだけ雨足が弱まっていた。
「…少し、小降りになりましたね」
「そうだなあ…これなら家まで走れるかな」
 そう言ってそうじろうは、鞄を懐に抱えてタオルを頭の上に乗せた。
「それじゃ俺は行くけど、かがみちゃんは?」
「わたしは、もう少し小降りになるの、待ってみます」
「そっか…じゃ、また」
 そうじろうは手を軽く振ると、小雨の中を走っていった。
「…雨宿り、か」
 かがみは、先程までのそうじろうの話を思い出していた。魔法使いになろうとしている友達を、こなたは今でも待っているのだろうか。そうだとすれば、自分は雨が上がるまでの雨宿りなんじゃないだろうか。
「馬鹿馬鹿しい」
 その考えを、頭を振って追い出そうとしたところで、携帯の着信音がなった。
「こなた?…『かがみん、ちゃんと家につけた?風邪ひきやすいんだから気をつけなよ』…いや、わざわざそんな事…」
 呆れ顔でかがみが空を見ると、さっきよりさらに小降りになった空に、虹がかかってるのが見えた。
「そうね…置いてかれる理由なんて無いわね」
 例え今が雨宿りだとしても、雨が上がれば友達が出て行くとしても、一緒に出て行けばいいだけのこと。
「…そろそろ、行こうかな…っと返信しとくか。一応心配してくれてるみたいだし」
 かがみはこなたにメールを打つと、自転車にまたがって走り出した。


- 終 -



507 名前:雨宿り[saga] 投稿日:2009/01/27(火) 01:28:48.24 ID:qwqf32.0
以上です。
なんとなく、こなたを美化してみようとしたらこんな話に。
それにして、この二人の絡みが書きやすいのはどうしてだろう…?

二人の友達が帰ってきたって設定で、以下のような感じの続編もちょっと考えていたんですが。

「だから!最初にこなたちゃんと友達になったのあたしなんだから、一番の親友はあたしだって!」
「そ、そんな事無いです…あの頃のように、こなたさんはわたしの事、一番に考えてくれてるはずです…」
「ちょっと待て!こなたの現役の友達はわたしなんだから!今の一番は絶対わたしだ!」

「…か、かがみまで混じって、何やってるのかな…」
「泉さん、止めなくていいんですか?」
「い、いや…止めたいんだけど…なんか怖くて…」
「こなちゃん、モテモテだね」
「…つかさ…それ違うと思う…」

冷静に考えると、無理ある上に名前の無いキャラ二人とか難しそうなので断念してます。

今回のNG場面(校正時点で発覚した誤植)

「…おかしいで、それ」
「…何故急に関西弁」
「か、噛んだだけですよ!あー、もうNGじゃない!どうしてくれるのよ!」
「…いや、逆ギレられても困るけど」
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