ID:ztbe7uc0氏:柊かがみ法律事務所──専門家同士のぶっちゃけトーク

 日本弁護士連合会会議室。
 日本弁護士連合会刑事法制委員会柊かがみ委員と日本医師会医事法関係検討委員会高良みゆき委員が、意見交換という名目で打ち合わせをしていた。
 議題は政府で現在検討中の「触法精神病患者にかかる刑事訴訟制度等の改正」。過去何度も改正された制度であるが、とある事件をきっかけにまた改正が議論されていたのだった。
 政府の審議会には、日弁連も日本医師会も審議委員を送り込んでる。その審議委員の意見を決めるのが、かがみとみゆきが属するそれぞれの委員会なわけで、そういう意味で二人はかなり重要なポジションを占めていた。


 数時間かけての打ち合わせが終わり、残りは雑談となった。
「こういう形でお会いするとは思ってもみなかったですね」
「そうね。お互い厄介事を押し付けられるような歳になったってことね」
 お互い、既に50代後半だ(ただし、遺伝的な形質からか、二人とも30代といっても通用しそうな容姿ではある)。
 かがみは弁護士、みゆきは精神科医。立場は違えどそれなりの能力と責任感を有する人間であったから、組織の中でそれなりの役割を担うようになったのも極自然な流れであろう。
「責任ある役割を担うようになったといった方がよろしいかと思いますが」
「どっちだって同じことよ。私なんて知財委員会の委員まで兼務なんだからやってらんないわ」
「かがみさんはその方面の権威ですし、致し方ないのではありませんか?」
 二次創作をめぐる著作権と表現の自由に関する法的問題についてはかがみは日本でも第一人者だ。日弁連の知的財産制度委員会委員への就任も周囲からは当然視されていた。
「なら、知財委員会だけに絞ってほしいわよ。刑事関連は得意分野ってわけじゃないし、本業だって暇じゃないのよ」
「得意分野の知財委員会の方では議論をリードなさっているともお聞きしてますが」
「私の独壇場ってわけじゃないけどね。委員の一人に著作人格権擁護論の権威がいてさ。私はどちらかといえば、表現の自由擁護論者だから、議論のたびにガチンコ勝負よ」
「そのわりには、日弁連の著作権法関係の提言はよくまとまっていらっしゃるようにお見受けしますが」
「徹底的に議論したうえで結論をまとめてるから。正反合、ヘーゲルの弁証法の実践ってとこかしらね。まあ、裁判自体がそういう構造だから、弁護士にとっちゃ慣れてることでもあるし」
 裁判の審理過程は単純化すれば、原告の主張(正)→被告の反論(反)→裁判官の判断(合)、といった具合で弁証法的である。
「なるほど。それは医師会も見習いたいところですね」
「それに、二人とも著作財産権がらみの利権をむさぼる団体には批判的だから、その点では一致してるのよね。利権団体を擁護する意見は二人がかりで叩き潰してるし」
「お二人とも、創作活動者の味方というわけですか」
「まあ、そんなとこ。ところで、みゆきは、今回も問題になってる触法精神病患者問題で法律分野に首突っ込んだクチかしら?」
「そうですね。精神科医として刑事事件での精神鑑定の仕事は多かったですし、その関連でいろいろと勉強していたら、いつの間にか日本医師会の医事法関係検討委員会の委員にまでなってしまっていたといったところです」
「勉強好きが招いた悲劇ね」
「悲劇というのは大げさな表現かと思いますが。ただ、法律問題をきちんと議論できる医者が少ないのは事実です。医者は科学と技術の世界ですから、法律の世界とは思考様式自体が根本的に異なりますし」
「ああ、それは分かるわ。大学のときに教授がいってたもの。医学部や医科大に出張して法律の講義するときに、法的な思考方法がなかなか理解してもらえなくて苦労するって。そういう意味では、みゆきみたいな文系の医者は貴重かもね」
「そうですね」
「で、本業の方はどうなのよ?」
「私は精神科医ですから忙しすぎるということはないですけど、他の科は過密労働が恒常的に問題になってますね。病院自体も経営がギリギリですし。医療過誤が起きれば莫大な損害賠償の支払いで破産は確実でしょう」
「厳しいわね」
「いまどきは、どこの病院でもそうですよ」
「うまくやってるのは開業医だけってやつ?」
「公的健康保険制度が破綻寸前ですから、開業医も安穏としてられる状況ではないですね」
「うわっ。それって日本の医療体制自体がやばいんじゃ……」
「正直にいえばそのとおりです。マスコミはあまり報道しませんけど、医療の完全崩壊は目前まで迫ってるんです」
「医師会としては何か対策を考えてるの?」
「これは口外無用にしていただきたいですが、一部では医療の国営化が真剣に検討されてます。民営・自治体営+公的健康保険の体制ではもうもたないので、国営化して税金で運営しようというわけです。具体的には、特定独立行政法人化が有力視されてますね」
「昔のどこぞの社会主義国みたいな話ね。どのみち、日本医師会の重鎮がそのまま独法に横滑りするつもりなんでしょ?」
「医師会の長老方はそのつもりでしょうけど、私個人はそんなにすんなりいくとは思ってはいません」
「そりゃそうね。医療の効率化を口実に政府が介入してくるのは確実だもの。最初のうちは医師会の長老方にポストを用意してても、そのうち厚労省からの天下り官僚で乗っ取られるわ。落ちたりとはいえ官僚たちを甘く見てたら痛い目にあうわよ」
「まあ、その辺は長老方も甘くは見てないでしょうが、どちらが上手かといったところですね。私は傍観者を決め込むつもりですが」
 みゆきは時計をちらっと見ると、
「おや、もうこんな時間ですね。長居してもいけないですし、今日はこの辺で」
「ちょっと待った。みゆきはこの後ヒマ? 久しぶりに会ったんだし、硬い話以外の話もしたいわ。夕食でも一緒にどう?」
「そうですね。ご相伴に預かりましょう」


 その後、二人は一緒にレストランで食事をとった。
 そして、高校時代の話とか共通の友人とかの話題でおおいに盛り上がったことはいうまでもない。

終わり
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