つかさ「こなちゃんって、笑ってること多いよね。」
とある冬の放課後、学校の帰り道をいつものメンバーで歩いていると、不意につかさがそんなことを言い出した。
みゆき「言われてみれば、そうですね。」
こなた「いや~、そうでもないよ。かがみの鋭い突っ込みに何度涙を流したことか。うぅ、ホロリ。」
かがみ「ほぉ、その涙とやらを見せていただきましょうか?」
かがみはこなたを見下げながら(身長的な意味で)こぶしをボキバキと鳴らした。いち早く危険を察知したこなたはみゆきの後ろに素早く隠れた。
こなた「も~、かがみったら、冗談に決まってるじゃん。」
かがみ「まったく・・・。」
こなた「あはははは、・・・・・・ふぅ・・・。」
つかさ「どうしたの、こなちゃん?」
こなた「え?あ、いや、・・・ちょっと、昔のこと思い出しちゃって。」
みゆき「昔のこと、ですか?」
かがみ「どうせ、くだらないことなんでしょ。」
こなた「う、うん、まぁ・・・ね・・・。」
いつもと様子の違うこなたにかがみたちは一瞬戸惑った。
かがみ「ど、どうしたのよ、あんたらしくないじゃない。」
つかさ「こなちゃん?」
みゆき「あまり思い出したくないことでもあったのですか?」
こなたの様子が変わったのは、“昔のことを思い出した”というあとである。そのことから、みゆきのような結論に達するのは至極当然であろう。
こなた「あ、いや、えと・・・。」
かがみ「言いたくないことなの?」
こなた「・・・」
つかさ「こなちゃん・・・」
みゆき「泉さん・・・」
かがみ「・・・」
こなた「まぁ、べつに隠さなきゃいけないことでもないし、話しちゃうよ。」
こなたたちは近くの公園のベンチに座わった。こなたの左にかがみ、右につかさとみゆきがそれぞれ座っている。手には途中で買ったらしい紙パックの飲み物がある。こなたとみゆきはココア、つかさはオレンジジュース、かがみはお茶が入っていた。中身から察するに、かがみはダイエット中のようだ。
こなた「4年前の中学2年生の時にね、約束したんだ。笑ってるって・・・」
こなたと魔法使いの約束
こなた「さぁ、帰ろうか、魔法使いくん。」
魔法使いくん「おぅ!」
とある中学校に仲の良い男女がいた。女の方はこなたである。そして、男の方は魔法使いと呼ばれていた。
魔法使いくん「ところでこなた。」
こなた「何、魔法使いくん?」
魔法使いくん「その魔法使いくんって言うのやめてくんない?かなり恥ずいんだけど・・・。」
こなた「え~、だってこの間の授業参観の時に将来の夢は魔法使いですって言ったじゃん。」
魔法使いくん「た、たしかにそう言ったけど・・・。」
こなた「だから、君は魔法使いくん!あなたに拒否権はありません!以上!!」
こなたは魔法使いと呼ぶ男に“ビシッ”と指を突き立てて言い放った。
魔法使いくん「なんじゃそりゃ・・・。」
魔法使いと呼ばれる男も少々呆れぎみだった。
魔法使いくん「まぁ、いいや。とっとと帰るか。」
こなた「うん!」
そう言うとこなたは、魔法使いと呼ぶ男の腕にしがみついた。そして、二人はそのまま教室を出て行った。
(((((お熱いことで・・・)))))
教室に残っていたクラスメイトはそんなことを考えるのであった。
魔法使いくん「ふぁ~」
こなた「どうしたの、そんな大きな欠伸しちゃって。」
魔法使いくん「いや、昨日お前に付き合わされてずっとネトゲやってたから。」
こなた「ふ~~ん。」
魔法使いくん「しかし、よくお前は平気だな。俺と一緒にネトゲやってたのに。」
こなた「大丈夫、その辺のところは鍛えてあるから。」
魔法使いくん「もうちょっと有意義なことしろよ。」
こなた「えっへん!」
魔法使いくん「ほめてないから・・・」
極小な胸を突き出して威張っているこなたに、呆れて溜息を吐く魔法使いくん。
魔法使いくん「時々お前の将来が心配になるよ・・・。」
こなた「うん?」
魔法使いくん「そういや、お前、この間の授業参観の時に将来の夢、なんつったっけ?」
こなた「私?私はねぇ・・・誰かに寄生して生きたい、だよ。」
魔法使いくん「なんじゃそりゃ。」
こなた「え~、誰だって憧れるでしょう、そういう生活。」
魔法使いくん「憧れねぇよ。て言うか、寄生された方はものすごく迷惑だ。」
こなた「やっぱり、料理ができる人がいいよね。それともお医者さんがいいかな。」
魔法使いくん「待て待て、誰もそんなこと聞いてないから。」
こなた「それとも・・・弁護士がいいかな。」
魔法使いくん「いやいやいやいや、ちょっっと待て。お前、なんかやらかす気満々か!?」
こなた「さぁ、どうだろうねぇ。」
魔法使いくん「・・・」
ニマニマと笑うこなたに、魔法使いくんはかなり引き気味になってしまった。
こなた「冗談だよ、冗談。いくら私でも、警察のお世話になるようなことはしないよ。」
魔法使いくん「そうであってほしいな・・・。」
こなた「で、君の将来の夢は魔法使いだったね。」
魔法使いくん「いや、あれはうけねらいで・・・」
こなた「そっか。じゃ、将来は“ピー○カ・ピリ○ラ・○ポリナ・ペー○ルト”とか言うわけだ。」
魔法使いくん「おい!それ、魔法使いじゃなくて魔女だし!!しかも見習いの!!!」
こなた「ん?それとも“汝のある○き姿に戻れ”?」
魔法使いくん「それも魔法使いとは少し違うって!まぁ、さっきのよりはメジャーだろうけど・・・。」
こなた「“テクマ○マヤコン”?」
魔法使いくん「古い!!」
こなたに対する突っ込みの連続のせいか、魔法使いくんは疲れだしたようであった。
魔法使いくん「はぁ~」
こなた「くすくすくす・・・」
魔法使いくん「な、なんだよ、なに笑ってんだよ。」
こなた「ん~ん?いやぁ、なんだかんだ言っても魔法使いくんは私にあわせてくれてるなぁ、と思ってね。」
魔法使いくん「へ?」
こなた「こうやって私の言うことに突っ込んでくれるし、買い物にも一緒に行ってくれるし、ネトゲもそうだしね。」
魔法使いくん「そ、それは・・・」
こなた「まぁ、だから好きなんだけどね、魔法使いくんのこと。」
いきなり、なんのためらいもなく“好き”と言われて魔法使いくんの顔が赤くなる。確かに、二人は付き合っている、という仲なのだが、不意にそんなことを言われれば顔が赤くなるのも当然かもしれない。
魔法使いくん「や、べ、別に、お、お前にあわせてるわけじゃなくて、ち、違うものを違うと言ってるだけで、買い物だって、お、俺が行きたい所がたまたま一緒なだけで、その、えと・・・」
こなた「ニヤニヤ。」
魔法使いくん「こ、こなた?」
こなた「男のツンデレっていうのもけっこう乙だね。」
魔法使いくん「こ・な・た~!!」
こなた「いや~ん、魔法使いくんにおっそわれる~ん。」
こぶしを握って怒りを表している魔法使いくんに対して、キャハキャハとはしゃぐこなたなのであった。
魔法使いくん「まったく、お前は。」
こなた「にゃははは、怒らない怒らない。あ、そうだ、今日もネトゲしよ。一緒に森の怪物を倒しにさ。」
魔法使いくん「は?いや、今日は無理だろ。」
こなた「え?なんで?」
魔法使いくん「だって今日、英語の宿題出ただろ。明日提出の。ネトゲしてる時間ないって。」
こなた「そっか・・・。じゃ、明日、写させて。」
魔法使いくん「自分でしようという選択はないんかい。」
こなた「ない!」
魔法使いくん「即答かい・・・。でも、それも無理だぜ。提出は明日の1時限目だから写してる時間はないと思うぞ。」
それを聞いたこなたはピタリと歩くのが止まった。魔法使いくんが振り返ると、そこにはなにやらごそごそと自分のかばんを漁っているこなたがいた。
魔法使いくん「こなた、もしかして英語の教科書置いてきたのか?」
こなた「英語に限らず全部置いてってるけどね。」
魔法使いくん「おいおい・・・。」
こなた「ごめん、一回教室に戻って取ってくる。」
そう言うとこなたは、来た道を戻り始めた。
悲劇はその時に起きた。
こなたが戻り始めた道の先の交差点はあまり見通しの良い所ではなかった。
それゆえにこなたは自分に近づいてくる車に気が付かなかった。
車の方もこなたに気が付いていないようだった。
車はスピードを緩めずこなたも交差点を飛び出す形となってしまった。
結果・・・
キーーーーー、ドン!!
こなたは突き飛ばされてしまった。
しかし、痛みはほとんどなかった。
車に撥ねられたような感覚はなく、どちらといえば人に押し飛ばされたような感じであった。
こなた「あ・・・あれ?」
こなたは自分の置かれている状況がつかめずにいた。自分は車に轢かれたのではないのか、と考えていたが、そうではないのだとすぐに分かった。こなたは後ろを振り返った。
こなた「え?」
そこには先ほど走っていた車があった。そして、その先には、
こなた「そ、そん・・・」
こなたを車に突き飛ばされるのを助けた、ついさっきまで一緒に話していた魔法使いくんの姿があった。
こなた「いやぁぁぁあああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
黒い制服の一部を赤くして・・・。
ピーポーピーポーピーポー・・・
こなたと魔法使いくんを乗せた救急車が病院に向かって走っていた。魔法使いくんの体には脈を計るためにコードが付けられている。魔法使いくんはまだ、意識がなかった。
こなた「ねぇ、起きて・・・お願い、死なないで・・・」
救急隊員「患者を揺すらないでください、脳震盪を起こしている可能性があります。」
泣きながら魔法使いくんの揺すっているこなたを救急隊員が止めた。
魔法使いくん「う・・・あ・・・」
魔法使いくんが意識を取り戻したようだ。
こなた「あ!起きたの!!」
魔法使いくんはその声のする方、つまりこなたのに向かってゆったりと顔を向けた。
魔法使いくん「ひでぇ顔してんな、こなた。」
魔法使いくんはクスリと笑いながらそう言った。
こなた「え?」
魔法使いくん「すっげぇ泣き顔だぜ。」
魔法使いくんは弱々しい声になっていた。
こなた「だって、だって・・・」
こなたはその先何も言わなかった。否、言えなかった。それは、魔法使いくんがゆっくりと手を伸ばして、こなたの頬に触れたからである。そして、触れている手の人差し指で優しく涙を拭き取った。
魔法使いくん「笑え。」
こなた「え・・・?」
魔法使いくん「こなたに泣き顔なんか似合わない。」
こなた「・・・」
魔法使いくん「だから、笑ってくれ。こなたに一番似合ってるのは笑ってる顔だから。」
こなた「・・・うん!」
こなたは笑顔で答えた。さっきまで泣いていたのだからうまく笑えなかったが、それでも精一杯の笑顔を見せた。そして、頬に触れている魔法使いくんの手をそっと両手で掴みながら言った。
こなた「私、笑っているよ。だから、だから・・・」
魔法使いくん「こなた、俺少し寝るわ。」
こなた「え!?だ、だめだよ、寝ちゃ。もし寝ちゃったら・・・」
魔法使いくん「おやすみ、こな、た・・・」
魔法使いくんは再び意識を失った。こなたが掴んでいた手が滑り落ち、ベッドの下に落ちた。と、同時に脈を計っている機械から“ピー”という無情な音が響いた。
こなた「・・・うそ、だよね?ねぇ、ねぇ・・・う、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
こなたの泣き声が救急車の中を支配したのであった。
こなた「それでねその後、」
つかさ「もういいよ、こなちゃん!!」
かがみ「こなた!!」
こなたの隣で話を聞いていたかがみとつかさはこなたに抱きついた。二人とも泣いているようだ。みゆきもハンカチを取り出して涙を拭っている。
つかさ「辛かったよね、こなちゃん。好きな人が目の前で死んじゃって。私だったらたぶん立ち直れないよ。」
こなた「あの、つかさ・・・」
かがみ「あんたはいつも楽しく笑ってるんだから、きっと天国の魔法使いって人も安心して見守ってるわよ。」
こなた「えと、かがみ・・・」
みゆき「私たちはその方の変わりにはなれません。しかし、泉さんのことを親友だと思っています。ですから、泉さんを悲しませるようなことはしません。私たちも泉さんには笑っていてもらいたいですから。」
こなた「み、みゆきさん?」
かがみ「そうよ、私たちはこなたを悲しませるようなことは絶対にしないわ!」
つかさ「そうだよ、こなちゃん!」
こなた「ああ・・・えっとぉ・・・」
つかさやみゆきだけでなく、いつもは突っ込みをいれるかがみまでもこなたの話しに感傷的になっていた。こなたはなにか言いたいようだが、言うタイミングを逃してしまっているようだった。
“しばらく連絡とってないけど、今何してんのかな”
かがみ(あれ?)
かがみは前にこなたがそんなことを言っていたのを思い出した。先ほどの話しの流れからいくとそのようなセリフはおかしいのではないか、と疑問を持ち始めた。
かがみ「ねぇ、こな」
?????「あれ、こなたじゃねえか?」
不意に同学年くらいの男子がこなたに話しかけて来た。
?????「やっぱりこなただ。ひさしぶりだな!」
こなた「あ、魔法使いくん!ひさしぶり。」
かがみ「・・・は?」
みゆき「・・・」
こなたのセリフに呆けているかがみとみゆき。つかさはなぜか怯えていた。
みゆき「つかささん、どうなされたのですか?」
我に返ったみゆきが様子のおかしいつかさに話しかけた。
つかさ「だ、だって、魔法使いくんって車に跳ねられて死んじゃった人でしょ?と、ということは、ゆ、ゆ、ゆうれぇぇぇぇぇ!?」
かがみ「違うわよ!ていうか、こなた、あんたさっきの話し、うそ!?言っていいうそと悪いうそがあるでしょ!なに考えてるのよあんたは!!」
こなた「ちょ、ちょっと待ってかがみ、落ち着いてよ。」
怒っているかがみをこなたはどうにか宥めようとした。かがみはうそを言ったことよりも人を勝手に死なせたことを怒っているようだった。ちなみに、「え?ゆうれいじゃないの?」「はい、違います、そもそもゆうれいというのは(中略)ということなのです。」「どんだけ~」という会話がつかさとみゆきの間で交わされていたが、ここでは割愛させてもらう。
魔法使いくん「えっと・・・」
話しについていけずに置いてきぼりを食らってしまっている魔法使いくん。
かがみ「あんたもなんか言ってやんなさい。こいつ、あんたのこと交通事故で勝手に死なせてるのよ。」
そんな魔法使いくんの様子に気づいたのか、それとも無意識か、かがみは魔法使いくんに話しを振った。
魔法使いくん「交通事故?もしかして4年前のことか?」
かがみ「え?え、えぇぇぇ?」
かがみは話しが分からずにこなたと魔法使いくんを交互に見ていた。
つかさ「や、やっぱり、ゆうれぇぇぇぇぇ!?」
こなた「つかさも落ち着いてよ。みんな話し、最後まで聞かないんだから。」
かがみ「ど、どういうことよ。」
こなた「この話しには続きがあってね、」
こなた「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
“バコッ!!”
こなた「ふが!?」
突然、泣いているこなたの頭に衝撃が来て、間抜けな声を出してしまった。なにが起こったのか分からずにキョトンとしていると、魔法使いくんは上半身を起こした。
魔法使いくん「うるさいぞこなた、おやすみって言ったのが聞こえなかったのか!?あいててて・・・」
魔法使いくんは体を抑えて再びベッドに倒れ込んだ。
こなた「え?え?ええ??」
状況が掴めずこなたはオロオロしていた。
魔法使いくん「昨日はお前に付き合わされてずっとネトゲしてて寝みぃんだ。寝かせてくれ。」
こなた「え?いや、だって、いま、ピーって・・・」
救急隊員「すいません、抜けたコード付け直したいので少し退いていただけますか?」
こなた」「・・・はい?」
救急隊員が魔法使いくんの手に引っかかっているコードを機械に付け直すと、魔法使いくんの脈が正常であることを示し始めた。こなたはそれを引きつった顔で見ていた。
魔法使いくん「頼むからうるさいしないでくれよ、マジで寝むいから。」
魔法使いくんは欠伸をしながら言った。
“ブチッ!!”
そんな音が聞こえてこなたの方を見ると、ものすごい顔でこちらを睨みつけていた。
魔法使いくん「こな・・・た?」
こなた「そっかそっか、寝たいのか。OK、OKぐっすり寝かしてあげるよ。」
こなたはこぶしをバキボキと鳴らしながら表情を変えずにそう言った。
魔法使いくん「こ、こなた?こなたさん??こなた様???」
こなた「おやすみ・・・」
そう言うとこなたはこぶしを振り落とした。
“ドスッ!!”
魔法使いくん「ぐえ!?」
救急隊員「あ・・・」
小さい頃合気道をしていて、運動神経も良いこなたのこぶしは強力だった。しかも、振り下ろした所は・・・
魔法使いくん「こなた、どう、して・・・」
こなた「私を心配させたバツです!」
魔法使いくん「ぐ・・・、ガクッ、チ~ン・・・」
救急隊員「えっと・・・死因は“キン打撲”でいいでしょうか?」
こなた「はい、いいと思います。」
こなたはハンカチで手を拭きながら答えた。
こなたと魔法使いくんを乗せて走っている救急車のサイレンが、さみしく響いていたそうな。
かがみ「・・・」
つかさ「・・・」
みゆき「・・・」
魔法使いくん「・・・」
こなた「・・・あは。」
かがみ「あは、じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
こなたはその場の雰囲気を変えようとかわいらしく言ってみたが、どうやら逆効果だったようだ。
かがみ「なんじゃそりゃ、どういうオチだ!どこの漫画ネタだそれは!!」
こなた「オチって・・・別にネタとかじゃなくて、全部本当の話しだよ、ねぇ?」
魔法使いくん「あ?ああ、全部本当の話しだが。」
こなた「ほらね。」
かがみ「なによそれ。隠すほどの話しでも思い出したくないほどの話しでもないじゃないの。」
こなた「隠してはなかったけど・・・思い出したくないことではあったけどね。」
かがみ「なんでよ。」
こなた「私のせいでさ、魔法使いくんけがさせちゃったわけだしさ。」
かがみ「あ・・・」
こなたは毒舌ではあるが、とても友達思いである。そんなこなたにとって、自分のせいでけがをさせてしまった、ということはあまり良い思い出ではないようだ。
魔法使いくん「気にすることないって。大したケガでもなかったし、跡が残ったわけでもないんだから。」
こなた「それは、そうなんだけど・・・」
こなたはうつむいてしまった。表情はよく見えないが暗くなっているように見える。
魔法使いくん「こなた・・・」
かがみ「こな、た?」
こなた「そうだよねぇ、気にする必要ないよねぇ。」
顔を上げたこなたはいつもの猫口に糸目でニヤニヤとしていた。
つかさ「わ、こなちゃん立ち直り早!!」
こなた「いつまでもうじうじしてちゃダメなのだよ、皆の衆。」
みゆき「それは、そうですが・・・」
こなた「むふふ。あ、そうだ、魔法使いくん。」
魔法使いくん「ん?」
こなた「君はちゃんと魔法の修行してるかね?」
魔法使いくん「するか!てか、どうやってするんだよ!!」
こなた「え~、してないの?“ファンファ○ファイン・ラン○ンレイン”とか。」
魔法使いくん「しません!しかもマイナーすぎだろ。」
こなた「じゃ、“魔法変身マー○・マジ・マ○ーロ”とかは?」
魔法使いくん「意外と古いぞ、それ!まぁ、俺は“ボ○ケンジャーVSマ○レンジャー”を見てみたかったがな。」
こなた「“メタモ○フォーゼ!!”」
魔法使いくん「猫ですか?蝶ですか?」
こなた「いえ、薔薇です。」
魔法使いくん「蝶と変わんないから!てか、魔法関係なくなってるし!!」
こなたと魔法使いくんのそんなやり取りをかがみとつかさは意味が分からないような感じで呆けていた。みゆきはニコニコしながらおもしろそうに聞いていたようだが。
つかさ「えっと・・・こなちゃんと魔法使いくんって仲良いね。今でも付き合ってたりするの?」
魔法使いくんがこなたへの突っ込みに疲れてゼェゼェいい始またところにつかさが話しかけてきた。
魔法使いくん「え?あぁ・・・それは」
こなた「いえ、もう別れました。」
つかさ「ほぇ?な、なんで?」
こなた「あんな紛らわしい寝方する人とは付き合ってられません。」
かがみ「なによそれ・・・」
こなた「ん~、まぁそういうもんだよ。あ、もうみんな飲み終わってるね。私捨ててくるよ。」
そう言うとこなたはかがみたちからコップを(ほぼ強引に)受け取り、自販機横のゴミ箱へ捨てにいった。
かがみ「無理しちゃって・・・。」
つかさ「え?」
みゆき「かがみさん?」
かがみ「わざと明るく振舞って心配させないようにしてさ、別れた理由だってたぶん違うんでしょ?」
かがみは魔法使いくんを横目で見ながら言った。
魔法使いくん「ああ、たぶん、負い目があるんだろうな。気にする必要もないのにさ。」
かがみ「こなたはあんなのだからね。」
魔法使いくん「そうだな。毒舌で、」
かがみ「人のことおちょくって、」
魔法使いくん「楽天的で、」
かがみ「セクハラまがいのことして、でも、」
魔法使いくん「元気で、」
かがみ「友達思いで、」
魔法使いくん「少し寂しがりなとこがあって、」
かがみ「ちょっと甘えん坊なところがある。それが、」
魔法使いくん「そう、それが、」
「「すごくかわいらしい。」」
かがみと魔法使いくんはクスリと笑った。ここまで同じ考えの人はめずらしいだろう。
かがみ「まぁ、振られちゃったのは残念だけどね。」
魔法使いくん「そうだな。でも、まだ諦めてないけどな。」
かがみ「え?」
魔法使いくん「いつかもう一度振り向かせてやるよ。こなたは俺の嫁だからな。」
魔法使いくんは親指を自分に向けて言った。その言葉にかがみはムッとした。
かがみ「残念だけど、それは無理ね。」
魔法使いくん「ん?なんでだ?」
かがみ「私がこなたの嫁だからよ。」
魔法使いくんは一瞬呆気にとられたが、すぐにその意味に気付いた。
魔法使いくん「なるほど、こなたがそう言ってわけだ。」
かがみ「ええ、そうよ。」
魔法使いくん「つまり、俺たちは一種のライバル、というわけだ。」
かがみ「そういうことね。」
二人はお互いの目を離さずにいた。表情こそ穏やかに見えるがその裏では一歩も譲ることのない戦いが繰り広げられているようだ。
つかさ「ゆ、ゆきちゃん、お姉ちゃんたち、どうしたんだろう?」
みゆき「さ、さぁ、よく、分かりませんね・・・。」
そんな二人をつかさとみゆきは半ばおびえるように見ていた。
こなた「お~い、みんな、そろそろ帰ろ。」
こなたがカップを捨てて戻ってきた。しかし、戻ってみると、かがみと魔法使いくんの様子がおかしいことに気が付いた。
こなた「どうしたの、かがみ?」
かがみ「なんでもないわよ、こなた。」
かがみはこなたの方を向いてそう答えた。だが、目はチラチラと魔法使いくんの方に向けられていた。
こなた「そう?それならいいんだけど・・・。」
こなたは少々納得できないようだった。
魔法使いくん「それじゃ俺、もう帰るわ。」
こなた「え?あ、そう。じゃあね。」
こなたは軽く手を振った。魔法使いくんも片手を軽くあげてそれに答え、そのまま後ろを向いて歩きだした。
かがみ「待ちなさい。」
魔法使いくんはその言葉に足をピタリと止めた。しかし、振り向くことはしなかった。
こなた「か、かがみ?」
つかさ「・・・」
みゆき「・・・」
つかさとみゆきは無言で見守っていた。
かがみ「私の名前は柊かがみ。あなたの名前も教えてもらえるかしら?」
魔法使いくんはクルリと振り返った。そこには不敵に笑うかがみがいた。魔法使いくんも相応の表情で返した。
魔法使いくん「宣戦布告、というわけだ。いいぜ、教えてやるよ。」
こなたをめぐる二人の戦いが静かに始まろうとしていた。
魔法使いくん「俺の名は・・・・・・
~おわり~
最終更新:2009年01月18日 01:47