ID:B6h1Wtc0氏:せかんど・こんたくと

二〇〇八年が終わった。
そして二〇〇九年が始まった。
私は今大学生メンバーと一緒に初詣から帰ってきて、いわゆる新年会みたいなのをやっていた。
お父さんは仕事でどっかいっちゃったし、ゆーちゃんは二年生の皆で違うところにでも初詣に行ったんだろう。
鷲宮神社に行かず、あえて家の近くに初詣をしに行ったから、私の提案はすぐにまとまった。
かがみいわく「皆で家に来ると、特にこの時期は大変なことになる」
とのことだったので、まあそれもそうかと思いながら適当にあそこに決めたんだよね。
それがなぜかは皆承知のことだし、今更説明するようなことでもないと思う。
「大丈夫だってーみゆきー。そんなおみくじで凶が出たくらいで死にはしないわよー」
横でかがみがみゆきさんを慰めている。
関係者が言うからこそ、それはしっかりとした慰めになっているのだろうが……。
「でもさー……高翌良……だしやっぱり凶引いちゃうのもしょうがないんじゃぁ……」
 みゆきさんが更に沈み込む。
「ゆきちゃんかわいそう……」
 つかさにまで心配されるみゆきさん。いや、同情か?
「うっ」
 さすがに今のは聞いたらしい。
「あんたらは何でそうとどめをさすかな!」
……新年になりあったらすぐに怒られたと。
ふと思いついたように私はいう。
「ねえかがみ、だったら大吉が出た私もそれくらいで喜ぶなよってことなのかな?」
「あんたはおみくじなんてどうなっても変わらんだろ!」
おうおう、怖い怖い。
つかさだったら適当にごまかしてなんか言ってくれるだろうなと思ってそっちを見ても、あははと曖昧に笑って目をそらした。
「つかさにまで見捨てられた!」
そうしてどうすればいいか更にわからなくなってコップを手に取るつかさが居た。
それでいいのか関係者!
「みさきちー!」
「見てておもしれーから助けねー」
「ひどっ!」
 峰岸さん……には助けを求めても無駄か。
 それでも一応そっちを見る。
「まあ……高翌良ちゃんが……あれ?」
 あの人みゆきさん並にうまいもん。色々と。
 狙ってやってんのかな?

「いーもーん。どうせ私の味方なんていないんですよーだ」
「はいはいわかったから、次あんたの番よ」
 ……すねてもかがみには効かなかったか。
 そういって私は細長いリモコン型のコントローラーを手に取り、軽く動かし始める。
「しかし正月っつってもいつもとやることかわんねーなー」
 みさきちが口を漏らす。
「おもしれーからいーけどー」
「いやー、これこそが私達現代っ子の在るべき姿なのだよ。二人ほど例外がいるけど」
「こなちゃんいくら私達でも普通に過ごしてるよー……でもまあ最近は百人一首とか羽根突きとかしないもんねー」
「でも家って、昔はちょっとそんなことやってたわよ? 最近はもうほとんどしなくなったけど……まあ上の姉さんもいるし、さすがにもうやるような年齢じゃなくなったしね」
「そして今はお餅に精を出すかがみんであった」
突っ込みのかわりに飛んできたのは強烈な熱視線だった。
 ちょ、かがみそれ怖い……いつのまにその粋にたっしましたか……?
「でも一年の計は元旦にありとも言いますし――」
 みゆきさんが口を開く。
 そしてこの後私達は書初めをするはめになってしまった。
 誰もが絶句する中、平然と自分の意見が正しいといえるみゆきさん。
 文化祭の出し物の中でも平然と「筒箪笥の歴史」がどうのこうのとか言うのを意見として出し、一票であえなく惨敗したみゆきさん。
 天然?
 ……いや、もう何もいうまい。
 あの峰岸さんでさえ固まっていたことだし……。

 さて、かがみのダイエット祈願という実らない書初めを目にして散々かがみを冷やかした後、料理が出来る三人で色々と作って適当に夕食にした。
 脇にはさっき皆で書いた書初めが立てかけてある。
 こうしてみるとよくもまあここまで個性を持ってかけるなあとも感心してしまった。 
 私が書いた「二次元潜水」
 ……うん、われながらいい出来だ。
 みさきちが書いた「一億獲得」
もちろんあたったら私に頂戴という台詞は言ってあげたよ?
元陸上部らしく瞬間的に否定されたけどなにか?
かがみが書いた「減量成功」
無理だね。
みゆきさんが書いた「大凶返上」
みゆきさんそんなに悲しかったのか……いつもおとなしいのにこんなことを書くとわ。
――――ちょっと待って、大凶って実際おみくじにあるの!?
つかさが書いた「天然返上」
また返上ですか?
自覚あった……というか、私達と離れて逆に注意されたとか?
つかさ、何があった。
峰岸さんの「背景拡大」
怖!! え、なにこれ! 
いや、凄いなんだか異様なんですけど!
しかもそれを見て何も言わないって何?
出番拡大とかそんなんだったらまだわかるけど。
背景がどんどんでかくなるって……その辺……。
「まあ、皆苦労してるってことでいっか」
「泉さん、いきなり何を……」
 ああ……しかもこのタイミングで来ますか峰岸さん……?
 しかも私の書初めへの視線に気づいていたようですね。
 そりゃ最近みゆきさんがあんなんだからって……。
 ちょっと、顔怖いですよ? そんなに睨まないでください。
「早速拡大を……」
「え? 何のことですか?」
 
 峰岸さんが怖いです――泉こなた。

 さて、適当に話をしている中、皆で大学の話とかいろいろまだ続いているわけで。
 どこがどうのこうのサークルがどうのこうのと言っている間にすぐ時間は過ぎていく。
「そういえばさー、私達ってもうすぐ二十歳になるんだよねー」
 なんとなくおもいついたことを話題に出す。
「そうだねー、来年の今頃は成人式に出るんだよねー」
「あんた、ちゃんと成人式でなさいよね?」
 かがみ、ダメ押し担当。
「おうおう、かがみんは心配してくれるのかな? かな?」
「はいはい、いってろいってろ。あと成人してまであんたにかがみんとか言われたくないわ」
「じゃあ、かがみ様?」
 まだ覚えていたのか、という具合にまた熱視線が来る。
 う……まだまだぁ!
「きょうちゃん?」
 一瞬かがみがふらりとする。つかさまでがちょっと驚いたようにこっちを見る。
 そっか、これつかさがいったあだ名だっけ?
 確か一年生くらいだっけなー?
「お姉ちゃん、ごめん……」
 つかさの声が徐々に小さくなっていく。
「そういえばちびっ子、そんなこと言ってたよなーあれつかさの入れ知恵だったのかぁ」
「あれ? みさきち妹じゃなくてつかさって呼ぶんだ?」
「ん? なんかおかしいか?」
 いや、別に……という風に曖昧に濁して言葉をなくす。
 そういえばかがみがまだ復帰していないような……。
 そう思ってちらりとかがみの方向を向いたところ。
 や、やばい、熱視線が今度はスキルあがってレーザー化しそうな表情を……や、やめて。
「ごめんかがみ、私が悪かったから、許して! え? 何でそんなものもってんの? それ 雑誌の特典についてたハリセン……ちょ、痛いって! ハリセンでも結構ダメージある!そんな風に乱打したら、いくらなんでもハリセンにもダメージできてかわいそうとか思わないの? ちょ、タイム! うわぁぁぁぁぁぁ!」


「あーあ、結構レアだったのにこのハリセン」
「知るか!」
「……今日のかがみは手ごわいなぁ」
「うるさいわね。……そういえばあんた、初詣で何をお祈りしてきたの?」
おうおうかがみ、話題そらそうと必死なのが丸わかりだよ?
「んー、なんだっけ? つかさは?」
間があった。
結構長かった。
なんかもう、ネタになるくらい長かった。
それよりも謎なのは、つかさが全く動いていなかった。
「……つかさ?」
「い、いきなり振られるとちょっと……何言うかはわかるんだけど――」
なんだかなぁ……なんだろうこの微妙な空気……。
「これじゃあ天然返上なんて絶対出来ないと思わない? みさきち」
「いやあーこれはちょっと違うと思うぞ?」
「で、結局何をお祈りしたの?」
かがみ、もう話題それてるのにまだ頑張ってるのか。
やっぱりかがみはわかりやすいツンデレだなぁ。
「えっと……いつもと同じだよ。皆で仲良く笑っていられますようにって」
 つかさが恥ずかしそうに言う。
 今更そんなこと恥ずかしがっていうような仲でもないだろうに。
「でもさあ……そんなの祈るまでもないことじゃない?」
 ああ……かがみ、あなたはなんて残酷な人なんだ。
 心の中で突っ込みを入れる。
「で、あんたは……まあどうせ二次元潜水なんて書くような奴だしね」
「今日のかがみはなんだか元気だねー、よっぽど話題をソラシタイノカナ?」
 そしてまた例の視線が飛んでくる。
「わかった、わかったって。えっと……私は、身長が伸びますようにって祈ってきたよー」
「なんだちびっ子、まだあきらめてなかったのか?」
「あんた、ゆたかちゃんにあきらめることも必要だよーなんて言ってた割には、ちゃっかり自分でも祈ってるんじゃない」
「こなちゃん……が、がんばって、ね?」
「――泉さん、がんばってください……ね?」
「まだ伸びるよ……たぶん、」
 今度も私の味方は誰も居なかったようだ。というかみゆきさんもつかさも峰岸さんも、戸惑ってるのも無理してるのも、ばればれすぎる。
 何で声があそこまで小さくなるかなぁ?
なんで簡単なお世辞もいえないかなぁこの人たち。
 ――かがみとみさきちはどうでもいいとして。

にしてもさあ……いくらなんでも二十歳で百五十近いなんて……。
ないよねぇ……そういえばお母さんって何センチくらいだったんだろう?
写真見る限りお父さんとの慎重さ凄かったから、案外私より低かったりして。
……やめよう、こんなこと考えるのは。

なんとなくお母さんのことを思い出したので、トイレに行くふりをしてリビングの写真の前に行った。
よいしょと声を少しだけ立てる。
「……まだそんな年じゃないよねぇ」
なんとなくつぶやいてしまう。
誰も居ない空間は、私が感傷に浸るのに十分な空間だった。
暖房の効いていないその部屋は、私の部屋からの喧騒が聞こえても、この空間自体は閑散としているように思う。
少しだけ肌寒い。
写真の中のお母さんは笑っていた。
お父さんは、最後まで笑っていたよと私に教えてくれたけど、きっとそれは本当のことだと思う。
私はこの人のことを全然覚えていないけれど、それでもお父さんの様子やゆい姉さんの様子から、ああ、この人は本当に私のお母さんなんだなと思ったものだ。
そういえば……今年はまだ言ってなかったな。
私は深々とお辞儀をしてこう言った。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
私の長い髪の毛が少しだけ揺れるのがわかる。
風が吹いてきたようだ。
「――――――――――どこから?」
思わず呟いてしまった。
立ち上がり、どこから吹いてきたのかを確認しようとそこら中の戸を急いでチェックした。
さっき私が入ってきたところだけ少しあいていた。
でも部屋の中には当たり前のようにどこからの風もない。
ふと振り返ると、お母さんは相変わらず笑っていた。
「……なるほどね、お母さんって、結構いたずら好きなんだ」
そう思うとさっきの風がとてもやさしかったように思えた。
とても暖かかったように思えた。
どうして?
――よくわからない。
写真のところに行っても、何も変わっていないのは確かで。
「当たり前だよね」
また、独り言。
それでもいい。
私がそう思いたいだけなんだから。
「やっぱりもう一度いうよ」
形式的だけど、今この場にあう言葉はこれが一番あっているように思える。
「今年もよろしくお願いします」
そして――ありがとう。
あなたはやっぱり私のお母さんだった。
たとえそれがただ単に隙間から吹いた風だったとしても。
なんかどっかの変なおっさんがそんなことありえないなんて言ったとしても。
これがただの私の感傷が招いた心理学的錯覚だったとか言う人が居ても。

きっと――これが私とお母さんが久しぶりに会った時間なんだろうな。
「……じゃあそろそろ戻るね」
 そう言って部屋を出る。
 でもその前に一度振り返って、あの見慣れた笑顔をもう一度見ておいた。
 なんとなく、私にどうして欲しいのかお母さんが話しかけているような気がしたから。
 大丈夫だよ。
 私がどうするのかは、もう自分でわかっているから。



「随分長かったわね、体調でも悪いの?」
 私を出迎えてくれた友人達は、さっきと変わらないと思えた。
 私だけ少し変わったかのような思いが出来て、少しだけうれしくなってしまう。
「別にー。ちょっとねー」
「……嬉しそうね」
 まあね、と曖昧に返事をして座る。
それにしても何だろうこの空気。
 さっきは変わらないと思っていたはずの風景が、何か違う。
 私が空けていたのは三十分か四十分くらいで、その間に何が変わったんだろう?
「……カメラ?」
 私の目に入ったものはそれである。
 つまり……お父さんの持ち物の一つがそこに置かれていた。
 確か私が高校の文化祭のデータを欲しいといったら、カメラの中に記録されているといわれて持ってきた奴だ。
 んー。それをテレビにつないであるってことは、何があったんだろう。
 文化祭の踊りでも見たいのかな?
「さーて、じゃあこれからちびっこの感動シーン上映会に入りまーす!」
 ……。
「私は止めたんだけど、みさちゃんが折角だからって……」
「私は、日下部さんと峰岸さんがそんなことをしているとは気づいていなくて……申し訳ありません」
「私たち二人も気づかなかったわよ。なんかこなたの様子を見てくるとかいって二人ともどっかいっちゃってさ。何が映っているのかも私は知らない」

 ということは、だ。
 きっとあの少しだけあいていた隙間から私の姿をとっていたのだろうか。
 私が確認したとき、どうせ風なんて吹いているわけないと思って閉めなかったあの入り口。
「いや、じつを言うとあやのも何が入ってるかしらねーんだよ」
「みさちゃんが、泉さんが何やってるか見に行こうって。それで、なんかやってるみたいだから適当にカメラを仕掛けておいたらしいんだけど……」
 つまり、みさきちと私しか内容は知らない。
 あー、これはあれか。
 止める人なんて誰も居ないし、皆何が入ってるかわからない人ばかりだし。
 つまり。
「人の恥ずかしいところの暴露現場?」
「んー、まあそんなところだな。いやあー。ドラマ見させてもらったぜ! ありがとう!」
 よーし、阻止しよう。
 やめさせよう。
 たとえ皆からブーイングを受けても、絶対にこれは止めさせよう。
 皆正月気分でハイになっちゃってるから、こんなの見てもギャグにしかならない。
 必死で阻止しようとする私は、結局大衆の荒波には勝てなかった。



 ――私は最後まで笑っていたお母さんのように、この時間を大切に、笑ってすごしていこう。
 それが嬉しいことでも、悲しいことでも、私は皆を明るくすることが出来る人間になろう。
 きっと――お母さんもそれが言いたかったんだよね?
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