ID:S1bOV3I0氏:とある聖夜の一幕

「こなたー、こっちこれでいい?」
「んー…おお、上出来上出来」
 クリスマスイブの泉家。こなたとかがみは今夜のパーティーの準備を進めていた。
「それにしてもかがみ、ホントに料理上手になったねぇ」
「そりゃ一人暮らし始めて結構経つからね…自炊するなら美味しいもの食べたいわよ」
 稜桜学園を卒業し進学したかがみは、アパートを借りて一人暮らしをしていた。
「そこは嘘でもいいから師匠が良かったからって言おうよ」
「はいはい、感謝してますよ」
 一人暮らしを始めるに当たって問題だった家事下手…特に料理をなんとかするために、かがみは暇を見つけては泉家に来てこなたに料理を習っていた。
「でも、なんでわたしだったの?つかさでも良かったんじゃない?」
「あー…言いにくいんだけど、つかさに習ってもあんまり上手くならなさそうだったからねぇ」
「そりゃまたどうして」
「あの子、判定甘そうでしょ?その点こなたは悪いところは悪いって、はっきりと言ってくれそうだったから」
「かがみの食う事への情熱は凄いねぇ」
「うるさい」


- とある聖夜の一幕 -


「わたしさ、作家になろうと思うんだ」
 鍋をかき混ぜながら、こなたが唐突にそんなことを言った。
「どうしたの?急に…」
 テーブルに皿を並べながら、かがみがそう訊いた。こなたの唐突な発言はいつもの事。その時はそう軽く考えていた。
「この前ね、お父さんの新しい担当さんに会ったんだ。その人、お父さんのデビュー当時からのファンだったらしくてね、なんか凄くべた褒めするもんだから、ちょっと興味が出てお父さんが書いた小説読んでみたんだ」
 こなたの口調にいつもの軽い感じがない。かがみは少し真剣に話を聞くことにした。
「なんて言うかね…凄いと思った。生まれて初めて、オタク関係以外でお父さんの事…凄いと思ったよ」
 こなたの声が弾むような口調に変わってゆく。まるで、自分だけの宝物を見つけた子どものように。
「わたしにもできないかなって。わたしにもできるかなって。わたしはこの人の娘なんだから、きっとできるんじゃないかって…だから、やってみようって思ったんだ。お父さんみたいに凄いって思われるような小説を書いてみたいんだ」
 かがみは驚いていた。こなたがここまで強く自分の夢を語った事なんて、初めてじゃないか。高校のときは見つけようともしていなかった自分の道を、今のこなたはしっかりと見据え、歩き出そうとしている。
 応援してあげたい。かがみは心からそう思った。しかし、その思いとは逆に、
「それ、凄く大変だと思うわ。きっと楽じゃないわよ」
 釘を刺さずにはいられなかった。
「うん、分かってる、お父さんにも散々脅されたよ…自分のデビューまでの苦労を延々語られたよ」
 その時のことを思い出して、うんざりした顔をするこなた。が、その顔がすぐに笑顔に変わる。
「でも、わたしはきっと大丈夫。支えてくれる人が出来たから」
 そう言って、こなたはかがみの方を向いた。頬を少し染めた、甘い笑顔。それを見てかがみは………心底、げんなりした。
「…あー…そうね、そうよね…あの人ね…ってかそういう決心したのはソレが原因か…」
 うんうんと頷くこなた。それを見ながらかがみは思い出していた。ほんの数ヶ月前、つかさやみゆきも交えた四人でお昼を食べていたときに、こなたが言い放った一言を。

『そうそう、わたし結婚したんだ』

 かがみは自分どう反応したのか、いまいち覚えていなかったが、きっと呆然としていたのだろうと思っている。みゆきが飲んでいたお茶を、つかさの顔面に向かって思い切り吹いていた事だけはよく覚えているのだが。
「…交際半年で結婚するか…まだ大学生だってのに…」
「そこはそれ、愛ってやつで…ってか最近、かがみに会うたびにそれ言われてる気がするよ」
「それだけショックがでかかったのよ…」
 かがみは大きく溜息をつくと、こなたの方へ向き直った。
「ま、自分で決めたんだから、頑張りなさいよ?」
「うん、もちろん頑張るよ」
 そう、何の迷いもない笑顔で答えるこなたを見て、かがみはやれやれとお手上げのジェスチャーをした。
「いつまで経っても、あんたには振り回されるわね…」
 そこで、かがみはふと思い出したことがあった。前々からこなたに聞こうとしてその機会がなかった事。
「そういやこなた、告白も求婚もあんたからだったわよね?」
「うん、そうだよ」
「なんて言ったの?その時」
「…う…そ、ソレ聞いてどうするのかな…」
「あんたの事だからなんの参考にもならないとは思うんだけどねぇ…やっぱ気になるじゃない…ってどうしたの?」
 こなたは表情を強張らせて、ダラダラと脂汗を流していた。
「い、いや…言いたくないって言うか聞かないでって言うか…」
「ほほう…」
 かがみがニヤリと笑う。
「そう言われると、是が非でも聞きたくなるわね…さあ、言ってごらん。どんな恥ずかしい台詞を言ったのよ。あんたの事だから、ギャルゲか何かの台詞だろうけどね」
「あ…その…なんてーか…最初はそのつもりだったんだよ…ギャルゲで経験値積んでるわたしなら楽勝とか思ってたんだけど…いざその時になったら、無茶苦茶緊張して頭ん中真っ白になって…その…とんでもない台詞を…」
 こなたがそこまで喋ったところで、ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
「ああ、ほら!きっとつかさとみゆきさんだよ!わたし鍋見てるからさ、かがみ出てきてよ!」
「…ちっ、逃げられたか」
 玄関で待ってる二人を放っておく訳にもいかず、かがみはしぶしぶキッチンを出て行った。


 かがみが玄関のドアを開けると、つかさとみゆきが手を振っていた。かがみもそれに手を振って答え、二人を玄関の中に招き入れた。
「うーす。二人とも遅かったわねー」
「こんばんは、かがみさん。すいません、少し準備に手間取りまして」
「うん、ごめんねお姉ちゃん…こなちゃんは?」
「まだ料理がもうちょっとかかるみたい…もうすぐ終わると思うけど」
「じゃあ、わたし手伝ってくるね」
 つかさは靴を脱ぎ捨てると、パタパタと小走りにキッチンの方に向かっていった。
「もう、ほとんど手伝うところなんて無いと思うんだけどね…」
「つかささんはこういう事が大好きですから」
 そこでかがみは、みゆきが持っている綺麗にラッピングされた箱に気がついた。
「あ、それってもしかして…つかさが作ったケーキ?」
「はい、自信作らしいですよ」
 みゆきが嬉しそうに、その箱を顔の高さまで上げて見せた。
「へー…それは楽しみね」
「つまみ食いは駄目ですよ?」
「しないわよ。こなたじゃあるまいし…って、なんでつかさじゃなくてみゆきが持ってるの?」
「つかささんが持ち歩くと、その…落したりしそうでしたから」
「あんたも言うようになったわねぇ。こなたの悪影響かしら…ってか危険度で言ったらみゆきもあんま変わんない気がする」
「そ、そうでしょうか…?」


 かがみとみゆきがリビングに入ると、つかさが一人で料理の盛り付けをしていた。
「あれ?こなたは?」
「うん。なんか電話だって。携帯持って出てっちゃったよ…うん、これでいいかな」
 テーブルに並ぶ、なかなかに豪華な料理を前に、つかさは満足そうに頷いた。
「そういえば、こなちゃんのお父さんも旦那さんも、ゆたかちゃんもいないんだね」
「あー、うん。なんかみんな、別口のパーティーにお呼ばれしてるってこなたが言ってたわね」
「こなちゃん、新婚さんなのに寂しくないのかな」
「そうですね…あ、でも寂しいからわたし達を誘ってくれたのではないでしょうか?」
「アレがそんなタマか…?」
 三人で話をしていると、携帯を持ったこなたがリビングに戻ってきた。申し訳ないような嬉しいような微妙な顔つきで。
「どうしたの、こなちゃん?変な顔して」
 つかさがそう聞くと、こなたは照れくさそうに俯いて、頭をかいた。
「あー…その、なんてーか…思ってたより早く終わったみたいで、旦那が帰ってくるって…ってーかもう家の近くまで来てるって」
 こなたの言葉に、つかさとみゆきは嬉しそうな顔をした。
「へー、そうなんだ。わたしこなちゃんの旦那さん、どういう人か見てみたかったんだ」
「そうですね。わたしもちょっと楽しみです」
「…まあ、必要以上にいちゃつかないんだったらいいけど」
「お姉ちゃんは旦那さん知ってるんだよね?」
「まあね…料理習いに来たときに、何回か会ってるわ」
「そう言えばお姉ちゃん、前から聞きたかったんだけど」
「うん」
「どうして、こなちゃんなの?わたしでも料理なら教えられたと思うんだけど…」
「うっ…」
 かがみが言葉に詰まる。冬だというのに一気に汗が噴出してきた。その様子をニヤニヤしながら見ていたこなたに、みゆきが耳打ちをした。
「やっぱり、言いにくいですよね。あの理由は」
「あ、みゆきさんは知ってるんだ」
「ええ、以前かがみさんにお聞きしました」
「知らぬはつかさばかりなり…か」
 かがみの方を見ると、なにやら手をわたわたと動かしながら、つかさに向かって色々まくし立てていた。
「い、いやほらつかさはなんだか忙しそうだったしその点こなたはいつも暇してそうだし…」
 かがみがそこまで言ったところで、玄関のドアが開く音と、男の声が聞こえた。
「ただいま」
「おっかえり!ダーリン!」
 そしてこなたの弾む声と、抱きついたであろう激突音。
「あ、あれ?こなちゃん!?い、今ゆきちゃんの隣にいたよね!?どうして玄関に!?」
「い、泉さんの動きが全く見えませんでした…」
 超常現象とも言えるこなたの動きに戸惑う二人をよそに、かがみは助かったとばかりに溜息をついた。


 少しして、首にかじりついたこなたをぶら下げた男性が、リビングに入ってきた。
「いらっしゃい、かがみさん…っとそちらの二人は初めましてかな?いや、ごめんね。急に人増えたりして」
「いやいや、構わないよダーリン。ここにそんな事気にするような、小さい人間いないって」
「勝手に代弁するな」
「お邪魔してます。高良みゆきと申します」
「え、えっと…柊かがみの妹で、柊つかさです…よ、よろしくお願いします」
 それぞれに挨拶を交わす中、つかさは気になっていた事をこなたの旦那に聞いてみることにした。
「あの、旦那さん」
「ん?なんだい?」
「こなちゃんずっとぶら下げてて、首疲れません?」
「ああ、こなたは軽いしね。もう慣れたよ。最初は結構痛かったんだけどね」
「…振りほどくって選択肢は無いのか」
 かがみがボソリとそう言うと、旦那はポンッと手を叩いた。
「あ、そうか。その手があったか」
「気づいてなかったのかよ!?」
「かがみーそういう事いっちゃダメだよー…空気読めない子だねぇ…ってかダーリン、振りほどいたりしないよね?」
「しないけど…とりあえず着替えてきたいから、降りては欲しい」
「へーい」
 こなたが降りると、旦那はみんなに軽く頭を下げてリビングを出て行った。
「なんかお姉ちゃん、旦那さんに普通に突っ込んでたね」
「初めて会って、一時間もしない内にこうなってたわ…流石はこなたが選んだ人なだけはある…」
「接しやすい人なんですね」
「…そうともいうわね」


 パーティーが始まると、やはり話題はこなたの旦那に集中した。特につかさとみゆきが興味津々に話を聞き出していた。
「そう言えばお姉ちゃんから聞いたんだけど、告白ってこなちゃんからだったんだよね?なんて言ったの?」
 つかさのその質問に、かがみの目がキラリと光った。
「さっきそれ聞きそびれたのよね…さあこなた、今度は聞かせてもらおうかしら」
「いいですね。わたしも是非聞きたいです」
 三人から詰め寄られたこなたは、ぶんぶんと音がするくらいの勢いで首を振った。
「い、嫌だ…断固拒否します」
「ふむ…じゃあ、旦那さんに聞こうか。こなたの告白ってどんなのだったの?」
「できれば、なりそめの辺りからお願いします」
「あーあれは…」
「ちょっとダーリン!?嫁の恥をなんかあっさりと!?」
「なりそめっていうか…いきなり呼び出されたんだよな。それまで一回も話したこと無かったのに」
「やーめーてー」
 すがり付いてくるこなたを完全に無視して、旦那は話を続ける。
「んで、指定の場所に行ったらいきなり言われたんだ」
「うんうん、なんて?」
 つかさとみゆきが頷きながらその話を聞く。かがみも興味があることだからか、テーブルに少し身を乗り出しながら聞いていた。
「『あなたが振り向いてくれないから、わたしはギャルゲー好きな女になったんだ!』って」
 ゴンッと鈍い音がした。かがみがテーブルに思い切り頭をぶつけたのだ。つかさとみゆきは、唖然とした表情を浮かべて固まっていた。

「で、俺が『それは、責任とって付き合えって事か?』って聞いたら頷いたから、それで付き合うことに…」
「ま、まって…」
 よろよろとかがみが身体を起こす。
「それまで一回も話したこと無いって言ったわね…それじゃ、出会って最初の会話が珍妙な告白とその返事だったってわけ?」
「そうなるなあ」
 のん気に答える旦那。かがみは疲れたように溜息をついた。
「あんたらおかしいわ…ってこなたは?」
 見渡してみると、さっきまで旦那にすがり付いていたこなたの姿が見えなくなっていた。
「こなたなら…」
 旦那がテーブルの下を指差す。三人が覗き込むと、丸くなって頭を抱えて「ふうぉぉぉぉぉ…」と奇妙な声を出しているこなたがいた。
「こなちゃん、なにしてるの…?」
「照れてる…のではないでしょうか…」
 とりあえず害はないと判断した三人は、テーブルの上に顔を戻した。
「にしても、あんたもよくそんな告白でオーケーしたわね…」
「いやまあ、ほとんど勢いだけで答えたんだけど…後から聞いたらこの台詞、そうじろう養父さんが使ったのと同じだったらしいんだ」
「へー。親子二代で同じ台詞ってなんかロマンチックだね」
「…いや、それは台詞の内容にもよるだろ」
 感心するつかさに突っ込みを入れながら、かがみはもう一つの方も聞いておこうと思った。この分だと、期待は持てないとも思っていたが。
「それじゃさ、求婚の時はどうだったの?」
「必要なんだって、言われたよ」
 予想外のまともそうな答えに、かがみ達は逆に呆気に取られた。テーブルの下から再び「ふうぉぉぉぉぉ…」と、こなたの声が聞こえた。
「『今のわたしにあなたが必要だから、一緒になって欲しい』ってね」
 言いながら旦那は、テーブルの下からこなたを引っ張り出して自分の膝の上に乗せた。
「うわー…こなちゃん耳まで真っ赤だ…」
「余程恥ずかしいんでしょうね…」
 そのこなたを眺めながら、かがみがポツリと言った、
「…で、その台詞はどこのギャルゲから?」
「…求婚する三日前にクリアしたのから」
 律儀に答えるこなた。
「だ、そうなんだけど…あんたは知ってたの?」
 かがみが旦那にそう振ると、ニコリと笑い答えた。
「これも後で聞いて、知ってたよ。でも…」
 旦那は、真っ赤な顔を両手で隠して唸っているこなたの頭をポンッと軽く撫でた。
「嬉しかったよ。こいつに必要とされてるって事がさ」
 旦那のその言葉に、つかさとみゆきは感心したような溜息をつき、かがみはやれやれとお手上げのジェスチャーをした。
「…ご馳走さま」


「良い人ですね」
 泉家からの帰り道で、みゆきがそう呟いた。
「うん、なんだかこなちゃんが羨ましくなったよ」
 つかさが相槌を打つ。
「…そういえばお姉ちゃん、こなちゃんち出る時に何か聞いてたみたいだけど、あれ何だったの?」
「あー、あれはね…話聞いてたらこなたの一目惚れっぽかったから、なんであいつをえらんだのかって聞いたのよ」
「へー、それでこなちゃんはなんて?」
「感…だってさ。直感で『この人だ!』っ思ったとか言ってたわ」
「それはまた…泉さんらしいと言いますか…」
「アバウトすぎるよ、こなちゃん…」
 呆れる二人に、かがみが苦笑を返す。
「ま、それで上手くいってる辺りが…こなたらしいっちゃこなたらしいんだけどね」
 そうい言いながらかがみが空を見上げると、ひらひらと白いものが舞い降りてきた。つかさが思わず歓声を上げる。
「わー、雪だよ」
「本当ですね…それほど冷えてないと思ったのですが」
「ま、あれだけ熱気に当てられたら、錯覚もするわね」
 三人は足を止めてしばらく雪を眺めていた。そして、かがみがポツリと呟いた。
「それにしても…よくあのおじさんが、交際だの結婚だの認めたわね」
「そ、それは…」
「どうしてここでそういう事を…」
「いや、なんか急に気になって…まあ、今度聞けばいいか。さ、行きましょうか」
 そう言って歩き出すかがみ。つかさとみゆきは苦笑いで顔を見合わせた。
「こなちゃんもお姉ちゃんも、なんだかマイペースだね…」
「そうですね…少し、見習うべきかもしれませんね」
「ほら、何してんの。行くわよー」
 前の方でかがみが呼ぶ声が聞こえ、二人は小走りでその後を追いかけた。


- 終 -
ツールボックス

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