ID:UYNUQTQ0氏:柊かがみ法律事務所──クリスマスイブオフ会事件

 クリスマスイブ。
 秋葉原に居を構える柊かがみ法律事務所は、閑散としていた。
 雇っている弁護士や事務員のほとんどが休暇をとっていたからだ。残っているのは、かがみ本人とベテランの女性事務員が一人。
 みんな、いまごろはどこぞでデートでもしているかその準備にいそしんでいるかのいずれかだろう。
 かがみも、他人のそれをやっかむほど子供ではないつもりだが。

「今年も二人きりですね」
「そうね。いつものことでしょ」
 かがみは、男関係はとことんうまくいかない。前の彼氏と別れてだいぶたっていた。
 そして、事務員の方も男っ気が全くなかった。それなりの歳とはいえまだまだ頑張れる年齢ではあるはずなのだが、何か深いわけがありそうな感じであった。しかし、かがみはそれを聞き出そうとは思わなかった。ひとの過去に触れるのは野暮というものだ。
「しかし、今日は一段と騒がしいですね」
 いつもに比べると外は確かに騒がしかった。
「某掲示板に、イブに秋葉原で大規模オフってスレ立ってたわ。それでしょ」
 秋葉原情報に関してはありとあらゆる方法で収集している。当然、某掲示板も情報源の一つである。

 やがて、喧騒が激しくなった。
 そして、足早に通り過ぎる警察官の姿が窓の外に映る。
「ちょっと、物騒になってきましたね」
 秋葉原という土地柄もあり、節度を守っている限り、警察もたいがいのことには寛大だ。
 その警察が出動したとなれば、単なる馬鹿騒ぎでは収まらない状況になっているのだろう。
「はっちゃけすぎた馬鹿者でも出たのかしらね。あのスレの雰囲気からしてちょっとやばいかもとは思ってたけど」
 秋葉原に集うオタクたちのほとんどは、たいがいはおとなしい人たちだ。何かイベントでもない限りリアルで騒ぐことはないし、騒ぐにしても節度は守っている。
 しかし、どんなものにも少数の例外というのはある。

 かがみは、リモコンを手にとってテレビをつけた。
 メディアサーバーからネット上のストリーミング配信動画を選んで映し出す。
 かつて見事にこけた市民メディア、その後継者たちは今はビデオカメラをネットに直接接続して生放送なんかをしている。いまいち流行ってない「ウェブ3.0」という言葉にひっかけて、「ヤジウマ3.0」などと揶揄されてもいるが。

 秋葉原の動向を専門に扱う者もおり、かがみが選んだのは、そのうちの一つだった。
 映し出された映像は、警察官ともみ合いになっている若者たちだった。

「やれやれね」
 かがみは、かばんを手にとって、仕事道具を詰め込み始めた。
「どちらへ?」
「準備だけはしておいた方がいいでしょ。今日は当番弁護士だし」

 やがて、喧騒が徐々に収まっていく。
 テレビ画面には、警察に連行されていく若者たちの姿が映し出されていた。

 その一時間後。
 電話が鳴り響いた。
「はい。柊かがみ法律事務所です」
 電話の相手は、所轄の警察署だった。
「はい。ええ、さきほどの騒ぎは存じております。……容疑は、器物損壊と公務執行妨害ですね。……はい、分かりました。すぐに接見に参ります」
 電話を切る。
「ちょっと、馬鹿者たちの世話してくるわ」
「ご苦労様です」

 こうして、柊かがみのクリスマスイブは、仕事で暮れていく。

終わり
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。