ID:93rR.Jk0氏:Desire

 わたしは人より恵まれてるという事に、小さなころから気がついていました。だからわたしは、欲というものが人よりも少なかったのです。知識を得る事は好きでしたが、欲というほどのものではありませんでした。
 けど、稜桜学園に通い始めてから、わたしに一つの欲が生まれました。それはわたしの中でとても大きくなり、自分では押さえることはできなくなっていったのです。


- Desire -


 出会いは一年生の時。正直に言いますと、当時のわたしは彼女が少し苦手でした。気まぐれで奔放、わたしと合う要素など何もないと思っていました。
 でもなぜか、わたしは徐々に彼女が気になり始め、その行動を目で追うようになりました。そして、少しだけでも彼女と話がしたいと思い、その機会を持とうとしましたが、なかなか上手くいきませんでした。
 そうこうしてるうちに、彼女に仲のいい友達ができた事を知りました。同じクラスのその子と彼女は、お昼ご飯も共に食べるようになったようで、楽しそうな声をよく耳にするようになりました。
 それから少し経ち、彼女とお昼を食べる友達がもう一人増えました。委員会で話した事のあるその人は、わたしを見かけると「一緒に食べない?」と誘ってくれました。しかしわたしは、何故か「少し用事がありますので」と断ってしまったのです。彼女と親交が持てる、願ってもないチャンスだったというのに…。
その年の夏休みは、溜息ばかりついて過ごしていました。考える時間が増えると、どうしても彼女の事を思ってしまうのです。どうしてここまで彼女にこだわるのか、いくら考えても答えは少しも見えてきませんでした。
 二学期が始まり、また毎日学校で彼女と会うことができるようになりました。しかし一度距離を置いてしまうと、どうしても近づく事ができなってしまいました。気ばかり焦り、無駄な時間が過ぎていきました。
 再び機会が訪れたのは桜藤祭の時でした。彼女とその友達の班の進行がひどく遅れていたのです。彼女自身は悪い意味で適当で、その友達は頑張ってはいるのですが、不器用というか要領が悪いというか…わたしは実行委員として彼女達を頻繁に手伝うようになりました。そしてごく自然に親交を持つ事ができたのです。
 こうしてわたしは彼女とその友人、泉こなたさんと柊つかささんかがみさんと友達になる事ができました。
 それからの学校生活はとても充実していました。泉さんと友達となる事ができた。ただそれだけで、こうも自分の気持ちが高ぶるとは予想もしていませんでした。でもそれを知られるのはとても恥ずかしく思え、わたしはいつも一歩引いた位置で泉さん達を見ていました。
 泉さんは日常の些細な疑問をよくわたしにぶつけてきました。友達となる以前から、泉さんはオタクと呼ばれるような人だとは知っていましたから、会話が大変なのではと勝手に思っていました。ですが泉さんは時々わたしが理解できない事を話すものの、ほとんどはわたしがたまたま答えを知っているような質問ばかりを振ってきました。
 しばらくして、泉さんは泉さんなりにわたしとの接点を探っていたのではないかと思うようになりました。わたしが最初泉さんを苦手だと感じていたように、泉さんもわたしに苦手意識を持っていたんじゃないか。その溝を彼女なりに埋めようとしてるのではないかと、思ったのです。

 二年生になり、泉さんの事が少しずつ分かるようになってきました。知らない人にも物怖じしない。言いたいことは少しも遠慮せずに言う。意外と友達思いな面もある。コミュニケーションやスキンシップなどの方法に少し問題があって、かがみさんに良く怒られている…そんな泉さんのおかげで、わたしは退屈など感じることなく過ごす事が出来ていました。
 少し経ったとき、わたしは前々から考えていた事を実行してみました。今まで泉さんと名字で呼んでいたのを、こなたさんと名前で呼んでみる事にしたのです。かがみさんやつかささんは名前で呼んでいるのに、泉さんだけ名字はおかしい等理由は有りましたが、急に呼び方を変えたことで泉さんがどういう反応を見せるのかを見たい。それが一番の理由でした。
 しかし、泉さんは特に反応を示す事はありませんでした。というか、わたしが呼び方を変えたことすら気付いていないようでした。結局わたしは数日で呼び方を元に戻しました。
 泉さん自身は自分がどう呼ばれるのかをほとんど気にしない人のようでした。わたしは泉さんが友達の中でわたしだけさん付けで呼んでいる事を、少し気にしていました。しかし、少し考え方を変えたときから、それは気にならないどころか嬉しい事だと思えるようになりました。わたしは友達の中で泉さんだけを名字で呼んでいる。そして泉さんはわたしだけをさん付けで呼んでいる。それはつまり、わたし達はお互いを特別な呼び方で呼んでいるのではないか、と思ったのです。もちろん、わたしのただの自惚れに過ぎないかもしれせんが。
 二年生も終りに近づく頃、わたしは自分の中に今までにないような気持ちが膨らむのを感じていました。泉さんの事をもっと知りたい。少しでも多くの時間を共に過ごしたい。そう思うようになってきたのです。一年生の当初からあった欲、泉さんを知ったときに生まれた欲、それは友達になった事では少しも満たされていませんでした。その時に初めて、わたしはとても欲深い人間だという事に気がついたのです。

 三年生になり、受験生となったわたしの周囲は、とても慌しくなってきました。その中でも泉さんは自分のペースを崩すことなく過ごしていました。かがみさんはその事についてよく泉さんに意見していましたが、泉さんはあまりちゃんと聞いていないようでした。進路や受験をまるで他人事のように受け止めている泉さんを、わたしも少し心配でした。このまま進路も決まらずに卒業するのではないか?など、よからぬ考えが頭から離れませんでした。
 二学期が始まってすぐのある日の放課後、わたしは委員会の人に「いつまで泉さんと付き合っているの?」と聞かれました。わたしはその質問の意図がつかめず、どういうことなのかと問い返しました。その人は泉さんの成績の事を持ち出してきました。そして、あまり良くない生活態度の事も。そして、それがわたしにとっての悪影響になると。その人は言いました「友達は選んだ方がいいよ」…わたしは頭の奥の方が熱くなるのを感じていました。
 冗談じゃない。わたしが嫌々泉さんに付き合ってるとでも言うのか。泉さんと友達でいる事を決めたのはわたしだ。あなたじゃない。泉さん自身にならともかくあなたにそんな事を言われたくない。泉さんの事を何も知らないくせに。
 その人がその場からいなくなった後も、わたしの頭の熱はなかなか冷めませんでした。これほどまでに人に強く意見した事などいつ以来だったでしょうか。少し頭が冷えるのを待って、私はその場を離れようとしました。その時にばつの悪そうな顔でこちらを見ている泉さんに気がつきました。
 わたしが声をかけるより早く、泉さんが「みゆきさん、大丈夫?」と話しかけてきました。わたしはその質問には答えず、逆に泉さんにどこから聞いていたのかを質問していました。泉さんはわたしから目を逸らして、最初の方から聞いていたと素直に答えてくれました。わたしが何を言うべきか迷っていると、泉さんがもう用事がないなら一緒に帰ろうかと、誘ってくれました。
 泉さんの提案で、わたし達はバスを使わず徒歩で駅に向かう事になりました。そして、気がつきました。泉さんと二人きりで下校するのは、これが初めてではないかと。
 しばらくは二人とも無言で歩いていました。わたしは、先ほどの事を泉さんがどう思ってるのかそればかり考えていて、何か適当な事も話す事は出来ませんでした。
「さっきのアレ、わたしのために怒ってくれたのかな?」
 駅まで半分ほど来た辺りで、泉さんは唐突にそう聞いてきました。わたしはは黙ってうなずきました。そのわたしを見て泉さんは目を瞑ってしばらく考えるような仕草の後、いつもと同じ笑顔を浮かべわたしに向かって親指を立てて見せ、こう言いました。
「いやーおしい。女同士じゃなかったらコレ絶対フラグ立ってたね」
 わたしはそんな彼女に対し、苦笑するしかありませんでした。


 そこまで書き終えると、みゆきはシャーペンを置きノートを閉じた。
「こんなの書いて、どうするんでしょうね…」
 自嘲気味に呟くと、ノートを引き出しの奥の方にしまいこむ。
 未だに自分は満たされていない。それどころかどんどん乾いていくようだ。
「まるで恋みたいですね」
 恋愛経験など皆無だというのに。ましてや自分たちは女同士だというのに。なぜかみゆきはそう感じた。そして、そう思った自分が可笑しくなり、クスクスと控えめに笑った。
 泉さん達はどうなのだろう。みゆきはふとそう思った。彼女たちも自分と同じように、欲を満たすために友達としているのだとうか。
 きっとそうだ。妙な確信を持って、みゆきは自分の考えを肯定した。四人が四人とも欲を満たそうと求め合うからこそ、わたし達はここまで友達でいられたのだろう。そしてこれからもそれはきっと、変わりはしないだろう。
 みゆきは晴々とした気分で消灯をし、布団に潜り込んだ。今日はきっといい夢が見れる。そして、明日もきっと。


 明日は卒業式。旅立ちの時、巣立ちの日と人は言う。
 違う道を歩んでいこうとも、欲深いわたし達は望むがままにお互いを求め合うのだろう。
 満たされることなく、いつまでも。


- 終 -

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