ID:h2OCNrk0氏:under the rainbow

「今日雨だね。残念だなー」

今日はこなちゃんと遊びに行く約束をしている。
いつもなら憂鬱な雨だけど今日はちょっと嬉しい。
新しい傘をおろせるから…

「そう言ってる割に嬉しそうに見えるけどね」

お姉ちゃんには隠し事できないな。
見抜かれたのが恥ずかしかったので、えへへ…と照れ笑いをしているとお姉ちゃんの携帯電話が鳴った。

「あ~、うん……そう、分かった」

電話を終えたお姉ちゃんは私に申し訳なさそうに言った。

「つかさ、こなたが雨降ってるから予定延期したいって言ってるんだけど…」

そうだよね…
普通こんな雨の日に出掛けたくないもんね…

結局傘さんの誕生日も延期になりそうだな。
しょうがないか…そう思って部屋でごろごろしているとお母さんが部屋に入ってきた。

「つかさ、暇だったらお父さん駅まで迎えに行ってくれる?朝、傘持っていかなかったから」

天気予報では晴れのはずだったからお父さん傘持っていかなかったんだな。

「うん、いいよ」


思いがけず新しい傘の出番が来た。
新しいものを初めて使うときは少しドキドキする。
玄関を出てつぼみが開くようにぱっと傘が開く。
真新しい傘は雨を玉にしてはじく。
いつもは嫌いな、雨が傘をたたく音も今日は心地よく感じられる。
いつもより軽快な足取りで、駅まであっという間に来てしまった。

「あ、お父さん!」

お父さんが困った顔をして駅の出口で立っていた。
その向こう側によく知った顔が見えて私は驚いた。

「峰岸さん?」

お姉ちゃんのクラスメイトがそこに立っていた。
その困った様子から、傘を持っていないのは明らかだった。
天気予報の被害者がここにもいた。

「お父さん、はいこれ」
「つかさ、ありがとう」

とりあえずお父さんに持ってきたもう一本の傘を渡す。

「お父さん、友達が傘がなくて困ってるから、家まで送ってあげるから先に帰ってて」

私は思わずそんなことを言って峰岸さんのもとに駆け寄った。

「あら妹ちゃん、こんにちは」
「こ、こんにちは。あの、もしかして傘持ってないの?」
「うん、それで止むまで待とうかなって。急がないし」
「なら私と一緒に帰ろうよ。峰岸さんが嫌じゃなければ」
「そんな…嫌だなんて…でもほんとにいいの?」

峰岸さんの家と私の家は駅をはさんで反対方向。
でも雨は当分止みそうにない…

「大丈夫だよ、峰岸さんとお話ししたいし」
「実は私も妹ちゃんと二人で話してみたかったんだ。じゃあよろしくね」

新しい傘の中に二人並んで歩きだした。

「この傘、新しいの?」

並んで会話をしている途中、峰岸さんが言った。

「うん!分かった?今日初めて使うんだよ」
「そうなんだ。じゃあ今日がこの傘の誕生日だね」

あ、私と同じこと思ってる。
そう思うと一気に私と峰岸さんの距離が縮まった気がする。

「峰岸さんも私みたいなこと考えるんだね。すごいしっかりして大人っぽいイメージだからなんか意外」
「そうかしら。みさちゃんにはよくおっとりし過ぎって言われるわよ」
「私はよくお姉ちゃんにしっかりしなきゃダメだって言われるよ」
「確かに柊ちゃんはすごくしっかりしてるわよね」
「うん、だから私お姉ちゃんみたいになりたいんだ」
「でも妹ちゃんには妹ちゃんのいいところがあるわよ」
「そんな…私なんか全然だめだよ~」

「そんなことないわよ」

顔は微笑んだままだった。
でも急に峰岸さんの口調が少し真剣なものになったので私は少しびっくりした。

「柊ちゃんはしっかりしているから私もすごく頼りにしているし憧れる面もあるわ。でも同じように、妹ちゃんにも、私、うらやましいな~って思うところいっぱいあるわよ」
「え…?」
「だから無理に柊ちゃんみたいになろうと思わなくていいんじゃないかしら」

それは…意外というか、考えもしたこともないことだった。
お姉ちゃんが憧れられるのはすごくよくわかる。
でも私なんかにそんなうらやましがられるようなところってあったっけ?

「すごく料理得意だし」
「でも峰岸さんもお菓子作ったりするのすごい上手だよね」
「とっても素直だし」
「そ、そうかな?」
「それに妹ちゃんの笑顔を見てるとすごく癒されるの。多分、みんなそう思ってるわよ」

そうなのかな。私は私でいいのかな。
いつもお姉ちゃんみたいになりたいと思ってきた。
お姉ちゃんみたいにならなきゃいけないと思ってきた。
無理にお姉ちゃんみたいにならなくてもいい…そう考えると少し心が軽くなった気がした。


「あ、見て妹ちゃん」

峰岸さんが指さした方を見る。
目の前に広がる光景に目を奪われる。

「…綺麗……」

雲の切れ目から射した日の光が大空に虹を作っていた。

「虹の根本には宝物が眠ってる…」
「え?」
「そういう言い伝えがあるんだよ」

どこで聞いたのかは思い出せない。
テレビか、どこかで読んだ本か、もしかしたらお母さんに昔聞いたのかもしれない。

「そうなんだ。いつか見つけられるかな」

お姉ちゃんなら、多分「つかさはロマンチストだね」で終わってしまうだろう。
そしてそういう考えの方が現実的で正しいということも頭では分かっている。
でもそれでもいいと思った。
私は虹の根本を探し続けよう…いつか見つけられることを信じて。

もしかしたら……ここがその虹の根本なのかもしれない。
偶然、峰岸さんと出会って、ここでした会話が宝物なのかもしれない。

「ありがとう、妹ちゃん。助かったわ。また明日ね!」
「うん、じゃあね!」

峰岸さんを家に送り届けるころには雨は上がっていた。
私は傘を畳んで、家までの道を駆け足で帰った。
通り道の水たまりが太陽の光を反射してきらきら輝いていた。



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