ID:5wOlsQeH0氏:ふたりぼっち

いつまでも、いっしょだと思ってた

 ただ、いっしょにいたかった

 だから、いっしょにいられるように

 わかってる

 これは私のわがまま

 でも聞いて

 これだけで、いいから

 私の望み

 最後のわがまま


 視界が霞んでる。
なんだろう。ここは・・・どこだろう。
よく見えない。視界は今もぼやけたまま。
夕日で赤く染まった教室に、私はひとりで立っていた。
何かが頬をつたっている。
その何かは止まる気配がない。

わたし―――泣いてるのかな。


「遅刻するわよ!つかさ」
「・・~・・・あと5分・・だ・・け」
「もう!置いてくわよ?」
「ひゃうっ」
いつものように、私はお姉ちゃんにやっとのことで起こされた。
時計を見ると、もう余裕は20分もなさそうだった。
「ったく・・新学期そうそう遅刻じゃ情けないわよ?」
「待って~。すぐ仕度するから~」
今日は新学期1日目。クラス発表も今日やるみたい。
毎年毎年、お姉ちゃんだけ違うクラスだったから、今年こそは一緒になるといいな。
そんなことを考えていると、またお姉ちゃんに怒られた。
「つかさ!ボケ~っとしてないで早く!」


 家を出た私たちを、春風が出迎えてくれた。
なんとかお姉ちゃんのおかげで遅刻はしなさそう。
「間に合いそうでよかったわ」
「そうだね。お姉ちゃんありがとう」
そんな話をしていると、学校はすぐ見えてきた。
「そういえば、今日新学期のクラス発表よね」
「そうだね。お姉ちゃん、今年こそは同じクラスになるといいねっ」
1年生の時も、2年生の時も、お姉ちゃんだけ違うクラスだった。
表には出してないけど、内心けっこうショックみたい。
だから、今年こそは・・・。
昇降口を抜けて、クラス発表の掲示場所はすぐ見つけられた。
「すっごい人だね~」
「クラス発表ごときで騒ぎすぎよ全員」
・・お姉ちゃんも、けっこう気にしてるくせに。
「とりあえず、少し人がひくまで待ちましょ」
たしかにこのままじゃ見ようにも見れないかも。
お姉ちゃんと私は、少し離れた場所で待つことにした。

「おはよー。つかさー、かがみー」
「おはよっ、こなた」
「おはよう、こなちゃん」
「いやー、すごい人だかりだねー」
「そうよねー。騒ぎすぎよね、クラス発表ごときで」
「えー、かがみん。気になってるんでしょー?」
「な、何がよ?」
「毎年かがみだけ違うクラスだもんねー。おー、よしよし。
 今年も期待してるよー」
「おいこらてめぇ」
お姉ちゃんがクラスを気にしてるのはまず間違いないけど。
なんだかんだ言って、こなちゃんも気になってるのかな。
いつも予鈴ぎりぎりにくるこなちゃんが、今日はめずらしく早かった。


「そろそろおさまってきたんじゃない?」
「そうね。よし、見に行くわよ」
「ファイト、かがみーん」
「いや、何をよ」」
だいぶ時間をおいたからか、さっきまで賑わっていたこの場所も落ち着きはじめていた。

えーっと・・私はC組か。あ、みゆきちゃんもおんなじだ!
「お姉ちゃん、こなちゃん、どうだった?」

「あっ」
「おおっ」

「?」
「私とこなた、同じB組ね・・」
「いやぁー、よかったねかがみん。一人ぼっちじゃなくて~」
「別に去年もおととしもひとりぼっちじゃないわよっ」
「うれしいけど強がるかがみ萌え~」
「うっさいつ~に~~~」

「あれ?そういえばつかさは?」

「私はC組・・」
「あちゃー。つかさが違うクラスになっちゃったか」
「あ、でもみゆきもC組ね」
「2:2・・これもアリだね」
お姉ちゃんとは、結局一緒のクラスになれなかったな・・
しかもこなちゃんとも違うクラスになっちゃうなんて。
そうこうしている間に、けっこう時間は経っていたみたいで。
「あ、ヤバッ。そろそろ予鈴なるわよ」
「ホントだ。急ごう」
「あぅー。待って~つかさー、かがみー」

「ふぅ。じゃ、お昼にね」
「んじゃねつかさー」
「うんっ」
お姉ちゃんもこなちゃんも、なんだか嬉しそう。
二人を見送ってから、私も急いで教室に駆けこんだ。


「おはようございますつかささん」
「おはよう、ゆきちゃん」
「今学期もよろしくお願いします」
「うんっ。よろしくね」
「いずみさんとかがみさんはお隣のようですね」
「だねー。4人いっしょにはなれなかったね」
「そうですね。でも全員がそれぞれ、ばらばらにならなくてよかったですよね」
「うん。今回はお姉ちゃんも一人じゃないし」
「そういえばつかささん、今日はめずらしく時間ぎりぎりでしたね」
「あ、クラス発表の掲示のとこ、結構混んでたから~~~」

予鈴だ。
ゆきちゃんに手をふって、私は席に着いた。

「かがみんー」
「な、なによっ」
「うれしいんでしょ?」
「何がよ」
「私といっしょでー」
「はぁ!?」
「照れない照れない。素直になりなよかがみ」
「あのね、私は別にあんたと一緒でも~~~」
ガララッ
「おーす。お前ら席に着けーー」
「はいはい。うれしいのは分かるけど、かがみん席に着いた着いたー」
「納得いかねぇ」

「今日から新学期やけどもー。
 今年は3年生っちゅうことでー、受験生としてのうんたらかんたら~~」

「ふぅっ」
やっと昼休み。こなちゃんとお姉ちゃんの方はうまくやってるかな・・

「やほー」
「おーす。来たわよー」
「あ、こなちゃんにお姉ちゃん」
「こんにちわ、いずみさんかがみさん」
「やーやーみゆきさん。今日は早かったみたいだね」
「ええ。新学期一日目ですし、少し気合いが入ってしまいました」
「そうよねー。こういう、事始めって早く目が覚めちゃうのよね~。ね?つかさ?」
「お、お姉ちゃん~!」

「クラスは違いますけど、今学期もよろしくお願いしますね」
「ん~、モチロンだよみゆきさん。よろしくー」
「ん、よろしくねみゆき。あ、つかさのこと頼むわよっ」
「も~。お姉ちゃん、子ども扱いしないでよ」
形だけの反論をしている私の横で、ゆきちゃんが「任せてください」と
言いたげな顔をしている。
この際お世話になろう。


「でもけっこう驚いたわー」
「何が?」
「クラス分けよ。まさか、こんな組み合わせになるなんてね」
「そうだよね。けっこう意外だったかも」
「かがみ、今年は一人じゃなくてよかったねん」
「はいはい、そうね」
「流された・・・」
「今年で高校生活も終わりだし、私たち全員が一緒だったら最高だったのにね」
「そうですね」
「でも、お昼も帰りも私たちけっこう一緒なんだし、クラス同じでも別でも変わらないわよね」
「うんうん、たしかにそうかもね。
 去年もおととしも、かがみいつも私たちのクラス来てたし」
「・・・そうね」
「私がいるんだから、もうさみしくないよ~かがみん」
「むしろ一人の方がよかったわね」
「な、なにをぅっ」
「冗談よ、冗談」
キーンコーンカーンコーン
「あ」
「お昼休み、もう終わってしまいましたね。いずみさん、まだ全然食べていないようですが・・」
「じょぶじょぶ。こんなの一瞬で・・ ふぁぶっっ・・!」

今日の話題は新クラスの話で持ちきり。
それは私たちに限らず、周りのどの生徒にもいえそうだった。
あせってコロネをつめこんでむせているこなちゃんの背中をさすって、
私は次の授業の準備を始めた。

「ういー」
「つかさー、帰るわよー」
「あ、はーい」
新学期初日だったからだろうか。
時間はあっという間に過ぎていて、気付くともう放課後だった。

「今日かがみがさ~~~」
「はぁ!?それよりもこなたが~~~」
「えー、かがみんのアレは~~~」
「あはは」
「何言ってんのよ。それはあんたでしょうが」
「~~~」
「~~~」
「あはは」

もう… どっちもどっちだよ。とでかけたけどやめておいた。
なんだか余計にややこしくなりそうだし。
それでもおもしろがって、結局はそんなことを言ってみた。
帰り道、お姉ちゃんの目つきがいつも以上に鋭かったのは、たぶん気のせいじゃないかも。


「今日は災難だったわー」
「えー、なんで?」
「だって、あのこなたとクラス同じなのよ。最悪だわ」
「そうなの?でもお姉ちゃん、けっこう嬉しそうだったよね」
「帰り道といい、あんたもこなたみたいなこと言うのね・・」
「じょ、冗談だよお姉ちゃんっ。あははっ・・」
「まぁ正直、あいつと同じクラスで悪い気はしないけどね」
「やっぱり~」

「こなちゃんも、なんだか嬉しそうだったなぁ・・」
「え?何か言った?」
「あ、ううんっ。何でもないよー」
「なによ、気になるわねー」
「お姉ちゃんもこなちゃんも、素直じゃないよねーってこと」
「だからそれ、私のどこが素直じゃないのよ」
「え、だから~~~」
「つかさー、かがみー、晩ごはんよー!」
「あ、はーい」
説明に時間がかかりそうだし、お姉ちゃんは素直に納得しないだろう。
私はごまかしながらさっさとリビングへと急ぐことにした。
ぶーぶー言いながら後から遅れて来たお姉ちゃんは、晩ごはんの間、始終変な顔してた。


「疲れたねー今日は」
「そうね。変に力が入ったわー」
「今日はぐっすり眠れそう」
「つかさ、それいつもじゃない」
「え・・と、そうかなっ?あははっ・・」
「ぐっすり寝るのはいいけど・・」
「明日はちゃんと起きてよね」
「あ、今日はごめんなさい」
「いいわよ。慣れてるし」
それもどうなんだろう。

「うん。明日はちゃんと起きれるように努力から」
「努力ってのが怖いわね。すごく」

「つかさー、もう時間ないわよー」
「・・ん・・むにゅ・・あ・・と・・50分・・」
「はぁ!?もう・・置いてくわよ?」
「・・はぁぅっっ!」
やっちゃった。
お姉ちゃんの不安通り、私は見事に寝坊した。
怒りながらもどこか冷静で手慣れた感のあるお姉ちゃん。
慣れてるし、はたしかにその通りだった。
「ボサッとしてないで早くしなさい」
「ごめん~」
私、一人暮らしなんてできるのかな。
ふいに浮かんだ疑問は、ぽっと出の割にあまりに壮大だった。
今は時間がないことだし、そんなことよりも準備準備。

なんとか今日も遅れることなく学校に着いた。
「えへへー。ホントにごめんね・・お姉ちゃん」
「まぁいいわよ。なんとかく覚悟してたし」
「あはは・・」
「やほーつかさかがみー」
「おーす」
「おはようこなちゃん」
「あ、じゃああとでね。つかさ」
「ばいにー」
そうだった。もうこなちゃんとは違うクラスだったんだ。
「うん。こなちゃん、お姉ちゃんあとでねー」

その日もいつも通りだった。
お昼にはこなちゃんとお姉ちゃんが私たちのクラスにやってきて、
4人で楽しくお昼ごはん。
帰りもこなちゃんとお姉ちゃんに私、3人でおしゃべりしながら下校。
お姉ちゃんとこなちゃんは昨日よりもいがみあっていて、
昨日よりも嬉しそうで。
二人をほほえましく見る一方。
なんだろう。
私はなにか、
漠然としない何かを感じていた。

新学期初日から、今日でちょうど1週間になった。
1週間もたてば、みんな新しいクラスにも慣れてくる。
いい意味で、パターン化してきている毎日。
安定した日々が続こうとしていた。

「やと終わったネー」
「そだねー。ぽかぽかしてて、眠っちゃいそうだったよ」
「うぁっ。そうだかがみ!明日までだったよねあれ」
「あれ、じゃ分からん」
「宿題だよ」
「あー、そうね。だから?」
「かがみ様」
「な、なによ。気持ち悪いわね」
「宿題を見せてくださいませ」
「・・・ああ、そゆこと」
「お姉ちゃんたちは宿題あるんだ?」
「うん」
「そっか。つかさの方の担当はこっちと違うんだっけ」
「そういうことでかがみん、頼むよ」
「まぁ、別にいいけど」
「じゃあよろしくー」

「ったく。たまには自分でやりなさいよね」
「ごめんごめん。なーんかいつもやる気出なくて」
「そんなんで済むほど社会は甘くないぞ」
「でもまだ私高校生だし」
「いや、だから・・・もういいわ。さっさとしなさいよ」
「ok~。ふんふんふ~ん」
「つかさの方はいいわねー。宿題、ほとんど出してこないんでしょ?」
「うん。めったに出さないって聞いてる」
「こっちの担当は毎週出してくるからねー」
「つまり毎週お世話になるわけだよかがみんっ」
「おいっ」
「あははっ。お姉ちゃんもこなちゃんも大変だね」
「いや、こいつは全然苦労してない」
「そんなー、こんなに一生懸命な私を・・」
「てめえ写すのに必死なだけだろがっ!」
「あ、かがみ。ここ分かんない」
「え?」
「え、ってなにさ」
「あんた・・中身は全然無視でただ写してるのかと思ってたわよ」
「ちゃんと理解はしようとしてるのね!」
「いぁー、ちょっとここの字が黒ずんでて見えな・・」
「前言撤回」

「まあ、せっかくだから教えてもらおかな。かがみせんせー」
「うおっ・・なんだよそれ。教えるのはいいけどそれ気味悪いからやめてくれ」
「はいはい。かがみ様教えてー」
「えーと、そこはねー」
「様はいいんだ・・」
「え?つかさ何か言った?」
「う、ううん。何も」
「そう?あ、ここはね、~~~して~~だから~~」
「な~る」
「こっちは~~~」
「私、あっちで本読んでるね」
「はいよ~。あ、こなた!そこ違うって。だから~~~」
私は一人本を読むことにした。
ただでさえ勉強は苦手なのに、出されてもいない宿題の手助けができるほど、私は優秀じゃない。

お姉ちゃんとこなちゃん、楽しそうだなぁ。
少しだけそんなことが頭をよぎる。
私はすぐに本に没入していった。

「おわたおわた。今日も疲れたー」
「ねーねー。土曜日、アレ見に行かない?」
「あー、××の新作?前作もけっこうおもしろかったしねー」
「うんうん、すごいよねー。こう、しゅばーって。行こう行こう!」
「じゃあ、土曜日○時に~~前で」
「らじゃっ」

「楽しみだね~。明日の映画」
「そうね。つかさ、あのシリーズ大好きだもんね」
「だってすごいかっこいいから~。しゅーって飛ばしてひょいひょーいって。ターザンみたい」
「タ、ターザン。まあたしかにそんな感じだけど、その例えはどうなのよ」
「?」
「あ、もう夜遅いわね。今日はもう寝ましょ」
「そうだね。おやすみなさーい」
「つかさ」
「なに?」
「寝坊するんじゃないわよ?」
「し、しないよ。大丈夫だよっ」
「そう言っていつも寝坊するのがつかさよね~」
「明日は大丈夫!絶対大丈夫だから!」
「まあ、期待してるわよー」
「むぅ~・・」

「つかさー・・・起きなさいよー!!」
「むぅ~・・・あと・・5・・時間~・・・」
「・・はぁ」
「今日はぜんっぜん起きないわね・・」

「まったく・・つかさーーーー!!起きろーー!!」
「・・にゃむ・・・おやす・・・みこすー・・すー・・」
「携帯、洗濯物に入れっぱなしよ。あー、洗濯始まっちゃったー」
「はぁうっっ」
「やっと起きたか」
「携帯はっ?携帯!!」
「冗談よ。そこにあるじゃない」
「あ、ほんとだ」
「なんでもいいけど、時間・・ないわよ?」
「あっっ・・!」
「ごめんお姉ちゃん!すぐに準備するから~」
「はいはい。急ぎなさい」
「うぅ~~」

「やほー」
「おっ、ちょうどね~」
「おはようこなちゃん」
「いやー、私だっていつも遅れるってわけじゃないんだよ」
「やればできるじゃない」
「えっへん」
「褒めてないっつーの」
「ええっっ」
「とりあえず、中に入りましょ」
「うんっ」
「おけ」


「うわー。すっごい混んでるねー」
「さすが××だね。ホントすごい人だー」
「あんたたち、はぐれるんじゃないわよ?」

「ふうっ」
「なんとか座れそうだねー」
「そうね。立ち見はきついからねー。よかったわ」
「かがみはそのほうが運動になっていいんじゃないの?」
「なんか言ったか?」
「いやぁ~。その両手のポップコーン、さすがだなぁ~って」
「くっ・・」
「あはは・・」
お姉ちゃんはなぜかポップコーンを3つ買っていた。
塩1つとキャラメル2つ。
お姉ちゃんいわく、ずっとキャラメルだと飽きるから時々塩でリセットするらしい。
こなちゃんの言うとおり、お姉ちゃんは立ち見でもいい気がちょっとした。


「あ、始まったよ~」
「キター。わくわくっ、わくわくっ」
「・・・・」
お姉ちゃんはポップコーンに夢中だ。がんばって。

「うわー。かっこいー」
「すごーい。わぁ、これどうなってるのー?」
一人興奮する私。
「わっ、危ないっ!」
「あ、ああっ」
「そこっ、いけぇっ」
「やったーー」
上映中、周りのお客さんから変な目で見られていた気がする。
映画館の暗さからいって、ものすごい速さでポップコーンにぱくついていた、
お姉ちゃんに向けたものではないようだった。

「おもしろかったねー」
「そうねー」
「かがみんは、おいしかったーでしょ?」
「そういうあんたは、途中で寝てたじゃない」
「うっ」
「えー。こなちゃん寝てたの?」
「面目ないー」
「とりあえずお昼にしましょ。お腹すいてきたわ」
「なんという消化スピード。ポップコーンあわれなり」
「別バラよ別バラ」
私たちは近くのお店でお昼にすることにした。

二人はそろってあまり映画は見てなかったみたいだし、話題に出せるような状況じゃなかった。
「いやー、これおいしー」
「えー、どれどれー?」
こなちゃんとお姉ちゃんは楽しそうに、それぞれが注文したものをつまみ合っている。
「「つかさのもいただき!!」」
「・・・・・・」



「そういえばかがみ。アレ、どうする?」
「あぁ、アレ?」

突然出てきたアレというのがなんなのか、もちろん私は知らなかった。
「アレって?」
「ん、と。私たちのクラスで、今度研究発表みたいなのがあってね。っていっても簡単なものよ?
 それで私とこなた、二人でやってるんだけど・・」
「これがなかなか、テーマからして決まらなくて」
「アレってのは、そのテーマのことなのよ」
「え!?じゃあ今日映画見に行ったのまずかったんじゃない?」
「? なんで?」
「え。だって、まだ全然できてないんでしょ?」
「だいじょぶだいじょぶ」
「映画の後、家でコレ、やることにしてたのよ」
「そ、そうだったんだ・・」
「そういうわけで」
「行きますかかがみん」
「まあ待ちなさいよ。デザートにあと何個か~~を・・・」


家に着いてからは、こなちゃんとお姉ちゃんは課題につきっきりだった。
あれこれと話してるけど、私に話がふられることはない。
「私部屋で本読んでるね」
「ほーい」
お姉ちゃんの生返事を聞いて、私は自分の部屋へと向かう。

全然知らなかった。
課題のこととかじゃなく。
クラスが違うだけなのに。
二人の中の私が、どんどん薄くなっていくような。
私だけが取り残されていくような。

今日の映画、二人の中では別にどうでもよかったのかも。
そんなことを考えた私がいやだった。
お姉ちゃんとこなちゃんの楽しそうな笑い声や話し声、言い争いが聞こえてくる。
私は耳をふさぎ、ふとんにもぐりこんだ。



宿題は、クラスが違うことでその内容は大半が違うものだから、
滅多に一緒にやることはなかった。
普段の会話は、お姉ちゃんとこなちゃんの間にクラスでの話が増えて、私はどこか少し蚊帳の外だった。
3人で映画を見に行ったあの時から、特に意識していたのかもしれない。
避けるとか避けられるとか、そういうことではないんだけど。

「どうかなされたんですか?つかささん」
「・・え?」
「最近、あまり元気がないような気がしていまして」
「そ、そんなことないよ。あっ、最近梅雨でじめじめしてるじゃない?それでかな」
「そうですか・・?私の勘違いでしたね。すみません」
「あはは、謝らないでよ。気にかけてくれてありがとうゆきちゃん」

いけない。
はたから見た私は、そんなにもおかしかったのだろうか。
最近、少し考えすぎなのかもしれない。
そうだ。
すべて私の考えすぎなのかも。

形だけの、自分への慰めをよそに。
私の感じていた漠然としない何かは、少しずつ、はっきりとした形になろうとしていた。
寂しさという形に。


「あの、かがみさん。ちょっとよろしいでしょうか」
「? みゆき?」
「どうしたの?休み時間に。めずらしいわね」
「実は、お話したいことがありまして」
「なに?」
「つかささんのことで」
「つかさの?」
「私の思いすごしかもしれないのですが・・」

「最近つかささん、元気がないような気がするんです」
「え?そう?」
「特にそうは見えなかったけど」
「つかささん自身も、もちろん否定はしてらしたんですが」
「考え込んでいる姿を、よく見かけて」
「なにかあったのかと思いまして・・」
「そうだったの・・」
「でも、つかさが元気なくすとか考え込むようなことには、心当たりないわね・・」
「もちろん、最初に言ったとおり、私の思いすごしである可能性もあるのですが」
「・・・。わかった、ありがとうねみゆき。ちょっとつかさの様子、気にしてみるわ」


6月もそろそろ終わろうとしている。
今年の夏は少し長くなるらしい。
私はぼうっと外に目を向けていた。
最近は、外ばかり見ている気がする。

「つかさー!帰るわよー」
「あ、はーい」
「あれ?こなちゃんは?」
「ああ。あいつバイト始めたじゃない?」
「うん」
「今日は臨時で入ったみたいで」
「ふーん」
「帰り、どっか寄っていこうか?」
「え?」
「最近、二人でいること少なかったし」
「いやなら別にいいんだけど」
「ううん。いこっ!」

二人で出かけるなんて、ホントに久しぶり。
お姉ちゃんの手をひいて、私は走り出した。


「最近暑いわねー」
「そうだねー。もうすぐ夏だもんねー」
「今年は梅雨が短かったからねー、~~~」
久しぶりに二人で買い物して、楽しかった。
自然に笑ったのも、久しぶりだったかも。
他愛もない話でも、その一つひとつが。

幸せな一方で、不安な私。
ずっとこのまま。
そうなればいいなと、思っていた。


6月最後の週も今日で終わり、週明けからは7月だ。
夏休みが近いせいか、なんだか周りのテンションも高い。
授業中を除けば。
私は私で、今日も外を見つめている。

不安は現実になっていた。
また、私は蚊帳の外にいる。

それでも。
以前の私よりは、この状況も耐えられていた。
お姉ちゃんが、完全に私を見てくれなくなった訳ではなかったから。
あの日のことは、この時の私にはとても大きなものだった。

「つかささん、先生が呼んでいましたよ。なんでも、二者面談の時間を、少し早めるということで」
「そうなの?ありがとうゆきちゃん。行ってくるね」
私の次はゆきちゃんだから・・・
振り返りゆきちゃんに手をふって、先生の待つ面談室へ向かった。

進路指導のための二者面談。
この時期は多すぎると言ってもいいくらい入ってくる。
進路が確定していてもしていなくても、この手のものは避けられないからやっかいだ。
そんなことを考え、ふと足を止める。
お姉ちゃんとこなちゃんに言っておかなくちゃ。


B組の教室を後ろからのぞいてみる。
ロングヘアーとツインテール。
お姉ちゃんもこなちゃんも、すぐに見つけることができる。

お姉ちゃん!
私がそう声に出そうとした時。
私の耳に、信じたくない言葉が聞こえてきた。

「明日のこと、つかさには話してないよね?」
「大丈夫よ。私がそんなヘマ、するわけないじゃない」
「絶対ばれちゃダメだよかがみん。つかさが来ちゃったら、台無しなんだから」
「しっつこいわね。分かってるわよ」

私はこの日、二者面談を受けることなく、そのまま家へ帰った。



いつの間にか、私は二人の中で邪魔な存在になっていたのだろうか。
私自身が思っていたより、二人との距離は。

何も考える気力がない。
考えたくない。
考えると、悲しくなるばかりだった。
私はただ、お姉ちゃんと。
今まで通り、お姉ちゃんと。

私はやっと気づいた。
ずっと感じていた「それ」は。
漠然としなかった「何か」は。
寂しさでも。
不安でも。
恐怖でもなくて。

それはただの、嫉妬だった。


次の日、お姉ちゃんは一人で出かけて行った。
私は何も感じない。
二人が何をするのかなんて、どうでもよかった。
どうでも。

私は何もかもが、私自身さえ分からなくなっていた。


「おはようございます。つかささん」
「おはよー。ゆきちゃん」
「明日は七夕ですね」
「そうだね」
結局あの日、お姉ちゃんは何も言ってくれなかった。
今日まで、お姉ちゃんもこなちゃんも何もそのことは言ってこない。
私が聞いたわけでもないし、二人とも、私は何も知らないと思っているんだから、当たり前か。
私が邪魔なら、はっきり言えばいいのに。

「つかささんは、何をお願いするか考えてありますか?」
「………」

お願い…か…

私の…お願い…

「つかささん?」
「つかささんっ」
「え?あ、ごめんゆきちゃん。えーと、何だっけ?」
「………」
「…あの」
「なに?」
「何か、あったのでしょうか。最近つかささん、すごく辛そうに見えるのですが…」
お姉ちゃんとこなちゃんは全く気づかない。
私がそう振る舞ってるから。
その分、教室に入ってからの私は。
「もし悩んでいることがおありでしたら、遠慮なく言ってください」
やさしい言葉をかけられるだけ、今の私には辛かった。
私の異常に、ゆきちゃんは気づいてくれたのに。
「別になんでもないよ」
「つかささん…。あの… 無理はしないでくださいね」
「一人で考えこま…」

「分かったようなこと、言わないで」
「…え?」
「うるさいよ」
「あ…すみません…。私…そんなつもりじゃ…」
「うるさいって言ってるの!いいからあっち行ってよ!」

私は何を言ってるんだろう。
謝り続けるゆきちゃんに、それ以上、私は何の言葉もかけず。
ただ机に伏していた。

帰り際にも、ゆきちゃんは謝ってくれていた。
こんな私に。

でも、私は何も言わない。
そんな態度を取らせる私と、なんでそんな態度を取るのか信じられないでいる私。
ばかばかしい。
もうそんなこと、どうでもいいや。
私は、一つのことだけを考える。

私の願い事。
七夕の、お願い。



「つかさー。明日の放課後、ちょっと残っててほしいんだけど」
なにか用?
「内緒。とりあえず、みんなが帰ったあたりにB組に来てよ」
うん。分かった。
「じゃ、よろしくー」


そうだ。
私のお願いは。

「え?」
ううん、なんでもないよ。おやすみ。
「うん。おやすみ」


放課後―――

私は言われた通り、みんながほぼ下校しただろうという頃に、教室へと入った。
校舎もとい教室は静まりかえっている。

教室の奥の窓際に、お姉ちゃんは立っていた。
私に気づき、にっこりと笑う。
「なに?お姉ちゃん」
「ん、ちょっとね」


「今日。何の日か分かる?」
「今日?」
「えーっと… 七夕?」
「それもそうだけど…」
「嘘だよ。私たちの、誕生日だよね」
「そ。まあ忘れてる訳はないわよね」

「ちょっと、目閉じてて」
「え?」
「いいからほらっ」
言われるがまま目をとじる。
なんだろう。
首のあたりで、何かもぞもぞとやっている。
「まだー?」
「も、もうちょっと待って」

「はいっ、つかさ。目、あけていいわよ」
「……?」
さっき感じた違和感のもと、首元を見てみる。
「あっ…」
何かが付けてある。
それは、とても綺麗なネックレスだった。
「これ…」

私はさらに気付く。
お姉ちゃんも、同じネックレスを付けている。


「私からの、誕生日プレゼント」
「こなたがね。つかさに、それぞれ何かプレゼントしようって言いだして」
「つかさ、いつからか元気なかったじゃない?こなたも気になってたみたいで」
「この前の休みに、二人でいろいろ見に行ってきたのよ」
「私たちそれぞれで、つかさのために考えたのよー」

「で、私からはこのお揃いのネックレス」
「いつでも私がついてると思って、元気出しなさいよね!」

そっか。
あの日の会話は、そういうことだったんだ。
お姉ちゃんもこなちゃんも。
私のことは何も分かっていないけど。
ちゃんと考えては、くれてたんだね。
ありがとう。お姉ちゃん、こなちゃん。

「こなたも来るはずなんだけど、おっそいわねー」
「あいつのプレゼント、すごいわよー。ある意味」

「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
「今日、何の日か分かる?」


「? 私たちの誕生日でしょ?」
「七夕」
「え?」
「私ね。七夕のお願い、ずっと考えてたの」
「けっこう悩んだよ」
「でも、最初から決まってたのかも」

「お姉ちゃんと、ずっと一緒にいたい。って」
「つかさ……」
「何言ってんのよ。私たちはいつもいっ…」
「………」

「つ…かさ…?」



お姉ちゃんの瞳が、虚ろになっていく。
「なん…で…」
私の刃を受けながら、お姉ちゃんはそれだけを呟いていた。

お姉ちゃんもこなちゃんも、何も分かってない。
すべての原因は、二人にあったのに。
いや、それも違うか。
すべては私が。私自身が。

すでに事切れたお姉ちゃんを、私はゆっくりと抱き起こした。
お姉ちゃんは、確かにここにいる。
でも、お姉ちゃんはもういない。




視界が霞んでいる。
赤く染まった教室に、私はふたりぼっちで立っていた。
何かが頬をつたっていて。
その何かは止まる気配がない。

わたし―――泣いてる。


廊下でぱたぱた走る音。
音はだんだんと近づいてきている。

私は再び、刃を握りしめた。




 いつまでも、いっしょだと思ってた

 ただ、いっしょにいたかった

 だから、いっしょにいられるように

 すべては私のわがまま

 だけど

 こんなはずじゃなかった

 私の望み

 最後のわがままは

             
                 ―終―
ツールボックス

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