ID:lxYDVEQ0氏:高良みゆき官房長官の憂鬱

1.疲弊する閣僚たち

 岩崎みなみ財務大臣兼金融担当大臣は、金融庁で仕事を処理していた。
 昼間は緊急金融対策のために動き回っていたため、ルーティーンワーク系の仕事が後回しになっていたのだ。これが終わったら、今度は財務省にいって書類を処理しなければならない。そして、明日は補正予算の関係でまた駆けずり回ることになるだろう。

 そこに小早川ゆたか内閣総理大臣が心配そうな顔をしながらやってきた。
(ゆたか)「みなみちゃん、大丈夫? 無理しちゃ駄目だよ」
(みなみ)「大丈夫。心配しないで。ゆたかこそ、もう寝た方がいい」
(ゆたか)「でも、みんな頑張ってるのに、私だけが……」
 そのとき、ゆたかの背後に、黒井ななこ国土交通大臣が現れた。
(ななこ)「岩崎のいうとおりやで。国のトップは、笑顔で元気を振りまいとればいいんや。面倒事はうちらにまかせて、小早川ははよ寝とき」
(ゆたか)「は、はい……。みなみちゃん、無理しちゃ駄目だからね」
 みなみは、黙ってうなずいた。

 ゆたかが去っていったあとで、ななこは書類を差し出した。
(ななこ)「うちの分の補正予算案の概要や。官僚どもからレクチャーはあるやろけど、先に目ぇ通しといた方がいいと思うてな」
(みなみ)「ありがとうございます」
 二人とも、疲労の色は濃い。
(ななこ)「しかし、小早川も悪くはあらへんけど、この危機的状況じゃ力量不足やな」
(みなみ)「それは……」
 幸星党としては、アメリカのリ○マン破綻さえなければ、すぐに解散総選挙に打って出て、ゆたか人気で議席を確保する目論見だったのだ。
 しかし、今は選挙どころではない状態だった。金融市場の混乱状態を収束させ、景気が落ち込まないように対策を打たねばならない。
(ななこ)「まったく、泉のやつは何しとるんや。さっさと党に戻ってこんかい」
 突然辞任した泉こなた前総理は、柊かがみ前官房長官とともに離党して、今は全国鉄道制覇ツアー中である。いつ復党するのかは、全く分からない。
 しかし、この危機的状況下、党内では指導力のあるこなたの復活を待望する声が強くなっていた。
(みなみ)「泉先輩は、気まぐれな人ですからね」
(ななこ)「せめて、柊姉だけでも戻ってくれんと、岩崎だけやなくて、高良まで潰れてまうで」
 魔天ぱとりしあが失言問題で外相を辞任してから、高良みゆき官房長官が外相も兼務している。みゆきは党の幹事長も務めてるので、みなみ以上の激務だ。


2.泉こなた前総理

 そのころ、こなたは、かがみとともに、寝台列車の車中にあった。
(こなた)「おのれ~。あと少しで記録更新だったのに~」
 携帯ゲーム機を手にそんなセリフをもらしている光景は、実にのどかであった。
 その隣で、かがみはノートパソコンとにらめっこ。ネット上のニュースを流し読みしている。世間から浮かないためには、日々の情報収集は欠かせない。
(こなた)「かがみんや。何をそんなに熱心に見ておるのだね?」
(かがみ)「金融危機対策が大変だって話よ」
(こなた)「例のサラリーマン金融がなんたらってやつかな?」
(かがみ)「リ○マンだっつーの。いい加減、覚えろ」
(こなた)「まあまあ、そんな細かいことは気にしない」
(かがみ)「まったく。いくら政界から離れたとはいっても、ちょっと気ぃ抜きすぎなんじゃないの?」
(こなた)「リフレッシュすべきときは、余計なことは考えない方がいいんだよ。かがみも肩の力抜いてさ」
(かがみ)「あんたね。そんな呑気なこといってるうちに、幸星党が野党に落ちちゃうわよ」
(こなた)「それならそれでもいいじゃん。なんだかんだいって、野党時代が一番楽しかったしね。政権党を追い落としていくあのゾクゾク感はたまらないよ」
(かがみ)「……」
 かがみは、しばらく沈黙した。
 そして、
(かがみ)「こなた。私、前から聞きたかったんだけどさ」
(こなた)「なに?」
(かがみ)「あんた、なんで政界に入ろうと思ったの?」
(こなた)「う~ん、なんていうのかな。この世には、リアルより面白いゲームはないんだよ。その中でも、政治は一番面白いゲームなんだよね」
 こなたにとって、この日本、いや世界ですらも、でかいゲームでしかないのだ。
 かがみは、改めて思った。自分はこなたには到底かなわないのだと……。


3.悪魔の計画

 みゆきは、官房長官室で、私物のノートパソコンの画面を見ていた。
 画面に映し出されているのは、テキストファイル。暗号化処理がされており、パスワードを入れないと開けないようになっているファイルだった。
表題は「デビルプラン」
 その下には、赤文字で「コピー不可、幸星党幹部以外閲覧を禁ず」
 作成者は「柊かがみ」
 内容は、「日本のオタク文化をグローバル化から防衛するにはどうしたらよいか」という泉こなたの諮問に答えるもの。
 まず、結論として「この計画の実現可能性は著しく低い」と記されている。その上で、長々と記述が続く。
 それを簡潔にまとめると、下記のとおりだ。

 グローバル化による文化侵略から日本文化を防衛するためには、まず、日本を世界から隔離する必要がある。
 そのためには、輸出入に頼らない産業構造の確立が不可欠。
 まず、輸入資源に頼らないエネルギー体制を構築。火力発電・原子力発電等はすべて常温核融合炉発電に転換し、自動車等の内燃機関はすべて水素ガス機関等に転換する。
 また、各種資源の100%リサイクル体制を確立する必要もある。
 次に、食料自給率100%の達成が必要。そのためには、日本国人口を5000万人にまで削減することが必須。高齢者医療の供給停止、老齢年金その他高齢者福祉の全廃により、短期間での人口削減を図る。それにより浮いた予算は、産業構造の転換に必要な諸施策にまわす。
 その上で、貿易を極小化し政府直轄管理へ移行。
 続いて、インターネットその他の情報伝達手段をすべて国有化し、国外からの情報流入を政府においてコントロールする。
 さらに、出入国管理の徹底、一国の力のみで自国を守り切るための自衛隊の増強などが必要。
 以上の政策の推進は現行日本国憲法に基づく立憲民主政体下においては著しく困難であるため、幸星党一党独裁体制への移行が不可欠。そのためには、最低でも自衛隊を完全掌握する必要がある。短期間でそれを達成するため、自衛隊員に対する洗脳工作を推進する。

 まさに、デビルプランの名に恥じない内容であった。
 この忙しいときにこんな実現可能性がほぼ皆無の計画を読んでいる自分はやはり疲れているのだろうかと、みゆきは思った。
 純真でいられた高校時代が遠い昔のことのように感じられた。
 何もかも投げ出したい気分であったが、真面目な彼女にはそれもできない。
 幸星党本部に電話をつないで、とある人物に呼び出しをかけた。

 しばらくして、呼び出しを受けた人物、永森やまとがやってきた。
(やまと)「ご用件は?」
 幸星党の裏工作部門の総括責任者であるやまとは、ただ簡潔に問う。
(みゆき)「日本国民総オタク化洗脳工作計画の自衛隊パートの実行を命じます」
 そろそろ、野党に転落したあとのことを考えねばならないと、みゆきは判断していた。
 政権に復帰する最も手っ取り早い手段は、クーデターによる国家権力の簒奪だ。そのための手駒として自衛隊を支配下におさめる。
 実際にクーデターを実行するかどうかはともかくとして、少なくても選択肢の一つとして用意しておく価値はあった。
(やまと)「かしこまりました。防衛大臣には?」
(みゆき)「黙っておきましょう。日下部さんには汚い仕事とは無縁でいてもらった方がいいですから」
 日下部みさおがこの事実を知ったら烈火のごとく怒るだろうが、そのときは平謝りに謝るしかあるまい。
(やまと)「了解です」
(みゆき)「あと、あなたには外務大臣に就任してもらいます」
(やまと)「表に出るのは好みではないのですが」
(みゆき)「いつまでも兼務では私の体がもちません。そして、この状況下で外相を任せられる空いてる人材はあなたぐらいしか思い浮かびません」
(やまと)「相当お疲れのようですね?」
(みゆき)「泉さんとかがみさんが抜けた穴は大きいですよ。私には荷が重すぎます。お二人には早く復党してもらいたいのですが」
(やまと)「まあ、泉さんなら、うちが野党に転落したあとで、ぬけぬけと戻ってきそうな気がしますが」
(みゆき)「そうでしょうね。泉さんにとっては、政治もしょせんはゲームでしかないのでしょうから。私のような凡人にできることは、ゲームの舞台を整えることぐらいです」
(やまと)「そのための洗脳工作の実行ですか」
(みゆき)「いざというときに選択肢が多いに越したことはありません。まあ、こういう発想自体が凡人なのかもしれませんが」
(やまと)「天才の考えることは、私たち凡人には想像もつきませんからね。それはともかく、せめて、柊かがみさんだけでも戻っていただくことはできないのですか?」
(みゆき)「かがみさんは、泉さんにべったりですからね。泉さんが戻らない限りは無理でしょう」
(やまと)「田村大臣あたりが喜びそうな話ですね」
(みゆき)「田村さんの創作意欲を掻き立てるのような事実はないと思いますよ。泉さん自身はそういう事柄からは超然とした存在ですし、かがみさんは子離れできない母親のようなものでしょう」

 やまとは、しぶしぶ外相就任を承諾して去っていった。

 ノートパソコンの電源を落とす。
 人はこうやってダークサイドに落ちていくのだろう。みゆきはそんなことを思った。
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