ID:GoVzToAO氏:私の特別な日

今日は私の誕生日だ。
かなり子供っぽく思えることだけれど、私はこの日を特別楽しみにしていた。
別に年を一つ増やすことには大して感心を持っていなかったし、最近では年を取りたいとは思えなくなりつつある。
そりゃ、女として生まれたなら少しでも若いままでいたい、と願うものなのだから自然なことだろう。
いやでも、この胸を少しでも成長させるにはそれなりの月日が必要になってくる訳だから、やっぱりある程度年をとっておいた方が理想的な……。
いや、それを考えると少し自分が貧相に思えるので、この話はここで切り上げよう。

とにかく私には誕生日に対して、年をとることよりももっと重要な事があった。
それはつまり私が誰かに祝ってもえる事が、誕生日と言う日で一番重要で特別な事だと考えているわけだ。

その日が来るまでは自分の誕生日について、すすんで誰かに話すことはせず、当日になって誰から祝って貰えるだろうかと、ウズウズしながら待っているのが私の誕生日の楽しみ方だった。


そしてその日。
朝、目が覚めて、朝食を食べながら、最初におめでとうと言ってくれたのがお母さんだった。
それに気が付いたのか、お父さんも続いておめでとうと、ぶっきらぼうに言ってくれた。

「ありがとう」

この二人に祝って貰えるのはいつもの事で、対して驚く事でもない。
もちろん祝って貰える事には十分嬉しいのだが、誕生日としての楽しみの本番はここではなかった。

続いて家から出てすぐに、みゆきさんから、おめでとございます、と祝いの言葉を頂いた。
両親に比べれば少しはウキウキ感があったものの、やっぱり、これも十分に予測が付いていたおめでとうだった。
もちろん、嬉しくないなんて事は有り得ないのだけれど……。


さて、学校に着いたこの時点から、誕生日の本番が始まる。

廊下ではパトリシアさんがこなた先輩とアニメの内容について熱く語り合っていた。
それはとても熱く熱く語り合っているものだから、誕生日の事どころか、私がパトリシアさんの背後に立っていることにも気が付かない様子だった。
今の二人にとって、私はただの背景に過ぎないのだろう。
私はだまって後ずさる事にした。

田村さんはその近くにいるものの、部活の部長さんと何か真剣に話をしていたが為に、私に構う隙はなさそうだった。

教室ではゆたかが……、なんだろう?
絵本をハサミでチョキチョキと切り込んでいた。
いったい何をしているんだろうか?
ゆたかに、おはようと一言声をかけると、ビクッと肩を震わせて慌てて絵本を机の中に隠し入れた。

ゆたかはおはようと、取り繕うような奇妙な笑顔で返す。
その純粋な心が作る不純な笑顔に、私も不慣れな笑顔で返して見るが、
普段と違ってゆたかの考えていることが全く理解出来ないというのは、少々恐ろしく思えた。

一限目の授業が始まる。
今日は誕生日。
まだ学校では誰にも祝ってもらっていないけれど、本番は始まったばかりだ。
 

しかし、私の期待はビルの倒壊みたいに轟音をとどろかせて崩れ去った。
六時限目がの終わりのチャイムが、ボクシングのゴングのように聞こえる。
タイムアップというか、私がTKO負け。
学校に来てから誰にも祝ってもらえぬまま、一日が過ぎてしまった……。

一番期待していたゆたかからも、何の言葉ももらっていない。
朝会った時、誕生日に付いて何も話題が出てこなかったその時点で、もつ決着は付いていたのかもしれない。
そもそも、誕生日の事を話したのは確か入学してすぐの頃で、田村さんともやっと親しくなれたばかりの時期だったはずだ。
もうあれから随分時間がたってしまっているのだから、忘れてしまっていても、しょうがないのかもしれない。

何を子供みたいに浮かれていたんだろう、私。
全くもってバカらしい。
そりゃあそうさ。友人を試すような事をしてバチが当たったのかもしれない。
当然だ。

机から立ち上がろうとしない私を不思議に思ったのかも知れない。
ゆたかは、どうしたのと、私の心配をしてくれている。
どうしたも、こうしたもない。
自分で勝手に舞い上がって、それで裏切られて……。

ゆたかの後ろから、田村さんとパトリシアさんが顔を覗かせた。
どうか私を笑ってください。
こんなこびていて、身勝手な私をけなしてください。

私はどんな顔をしているんだろう?
すごくみにくい顔をしているんだろうか?
それとも何も現れずに、いつも通りの無表情なんだろうか?
わからないけれど、みんなの顔を直視する勇気なんて、今の私には持ち合わせていなかった。

俯く私の肩に、スッと、腕が延ばされた。
軽くて、柔らかい。
でも、顔だけは上げられなかった。
私の隣でガサゴソと、ゆたかはなにやらカバンから取り出すと、そっと……。

え……?

これは……?

「私と田村さんとパティちゃんで、みなみちゃんの誕生日プレゼントって言うことで、絵本を書いたんだよ」
「いやぁ、ほとんど小早川さんが書いちゅってて、私は製本しただけなんだけどね」
「私も手伝いましタ。Happybirthdayネ、みなみー」
「ごめんね、絵本なのに絵だけは間に合わなくて、他の絵本を切り抜いて貼ったんだけど……。
やっぱりそんなのじゃダメだよね。ごめんねみなみちゃん」

そうか、そうだったんだ。
みんな、今日が私の誕生日だって知ってたんだ。
本当に私は何やってんだろう。
そうだ、忘れる筈がないんだ。

忘れてたのは結局、私だけだったんだね。
もう私たちって親友なんだから。

本当にみんなが親友なのかを疑って、挙げ句の果てに、みんなを試すような事をして……。

最低だ私。
謝るのは私の方だ。

ごめん。

違う。

そんなのじゃない!

今ここで使う言葉はこれじゃない。
自分を責める事なんていつでも出来るじゃないか。
目の前ではゆたかが誕生日プレゼントの絵本を差し出している。
そのとなりでは田村さんとパトリシアさんが、笑いながら私が受け取るのを待ちわびている。
今日は9月12日。
一年で一度の特別な日。
今日は私の誕生日。

みんなが祝ってくれているのなら、私がみんなに恩返しをしなくてはいけない。
私が出来る、究極の恩返しで。
ならば、みんなが期待している、最高の言葉を贈ろう!


あ り が と う !

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