ID:rMGn9UY0氏:卒業前のある日の光景

 卒業が間近に迫ったある休日。
 こなたとかがみは、テレビゲームで対戦中だった。
 政治的要素・経済的要素もからむ軍事シミュレーションゲームだ。
 ゲームをしながら、いつもどおりの会話が続く。


「卒業っていってもさぁ、別段どうってことないよね」
「まあね。私は4月になればまた勉強の日々だし、卒業っていっても一区切りでしかないわよ」
「みゆきさんも進学だったよね」
「医者になるんだから、当たり前でしょ」
「かがみんは、弁護士志望だっけ?」
「そうよ。まあ、無事になれたとしても一生勉強だろうけど」
 時代の移ろいとともに、新しい法律ができたり、判例が変わったり、常に変転していくのが法の世界だ。
 弁護士になっても、一生勉強が続くことは間違いない。
「よく続くよね」
「勉強が嫌いってわけでもないしね」


 テレビ画面の中の戦争。
 緒戦。こなたアメリカ連邦軍の奇襲攻撃失敗。戦略原潜部隊と戦略爆撃機を大量に喪失。
 その一方、かがみ日本国統合自衛隊宇宙戦闘集団は、緒戦で衛星軌道上の制宙権を確保し、連邦軍の偵察衛星・攻撃衛星を片っ端から撃墜していた。
 これで、連邦軍の索敵能力は激減。さらにミサイル防衛システムもザルと化した。


「峰岸さんは就職だったけ?」
「そうよ。まあ、2、3年もすれば結婚するだろうけど。専業主婦になるのか共働きするのか、どうするつもりなのかしらね」
「峰岸さんは、専業主婦って雰囲気だよ。なんかそんなオーラが出てる気がする」
「オーラってなぁ……。言いたいことは分からんでもないが、こればかりは雰囲気で決めるわけにもいかんだろ」
「いや、峰岸さんは絶対専業主婦だ」
「勝手に決め付けるな」

 

 統合自衛隊海上機動戦闘集団が、連邦軍太平洋艦隊第1任務部隊を叩きのめしていた。
 連邦軍は、索敵能力の激減を補おうと兵力を広域に分散させていたことが裏目に出た。古今東西、兵力の分散は下策のひとつである。


「みさきちも、峰岸さんと同じところに就職したんだよね。仲いいよね、あの二人」
「子供のころからの腐れ縁らしいしね。一生あんな感じなんじゃないの、あの二人は」
「でも、みさきちはよく就職できたよね」
「おまえ。それはいくらなんでも日下部に失礼だぞ」
「でもさぁ」
「陸上部での成績が買われたみたいよ。会社の陸上部に入って、マラソン大会や駅伝に出るんだって張り切ってたわ」
「みさきちってさ、いつも楽しそうだよね」
「確かに、人生楽しんでるって感じよね、日下部は」


 一方で、シーレーン(海上通商路)を守る統合自衛隊海上護衛総隊は、連邦軍潜水艦隊による通商破壊作戦でかなりのダメージを受けていた。
 資源の輸入が途絶えて日本国の工業力指数・経済力指数が下がれば、統合自衛隊の戦力補充・拡充にも支障が出る。
 だからこそ、かがみ日本国は短期決戦を期して、ほぼ全力を攻撃に傾けていた。


「でも、一番意外だったのは、つかさだよね」
「ああ。それは私も同感だわ」
「卒業も待たずに婚約して、6月には結婚式かぁ。なんていうか、リアリティがないよね」
「まったくね。つかさがあそこまで情熱的だったなんて私も知らなかったわ。白石の方はもう少し落ち着くまで、って言ってたのよ。それなのに、つかさが押し切ったんだから」
「結婚式は神道式だっけ?」
「そうよ。神道式なのに、ジューンブライドにこだわるなんて、なんか違うと思うけどね」
「つかさらしいじゃん」
「まあ、確かにつかさらしいっちゃらしいけどさ。それにしても、峰岸より先に結婚しちゃうなんて思いもしなかったわよ。いくらなんでも早すぎない?って言ったんだけど」
「かがみんは反対なのかな?」  

「親も賛成してるから、私に反対する権利なんてないけどさ。でも、若手芸能人なんて貧乏の代名詞じゃない? あの白石に一家を養っていけるだけの稼ぎがあげられるのか、はなはだ不安だわ」
「最近は売れてきてるって噂だけどね」
「確かにそうみたいだけど、芸能人の流行り廃れなんてあっという間だし、将来が不安ってことは変わらないわよ」
「まあ、つかさなら何とかなるんじゃないかな? あれでなかなか神経図太いし」
「神経太いからって、金が湧いて出るわけじゃないぞ」
「相変わらずリアリストだねぇ、かがみんは」
「友人にファンタジー世界の住人がいるせいでね」
「それは遠まわしに私を侮辱してるのかね? かがみん」
「さぁて、どうかしら?」


 連邦軍太平洋艦隊第1任務部隊を撃破した統合自衛隊海上機動戦闘集団は、強襲揚陸部隊を援護しつつ、ハワイに猛攻をかける。
 ほどなくして、ハワイは日本国の占領するところとなった。これで、太平洋の制海権・制空権はほぼ日本国の手に落ちた。
 平行して、統合自衛隊宇宙戦闘集団が、アメリカ本土に対する直接攻撃を継続中。
 数少ない核ミサイルを有効活用し、主要な港と空港、カナダ及びメキシコとの国境をまたぐ主要道路を破壊。アメリカ連邦の輸入能力をほぼ完全に奪いとった。続けて、油脂焼夷(ナパーム)弾頭ミサイルで農業地帯と森林地帯を焼き払う。
 さらに、アメリカ全土の食品加工工場や食料倉庫を通常弾頭ミサイルで片っ端から攻撃。ダメ押しで、飲料水の水源となる主なダムにダーティボム(直訳では「汚い爆弾」。放射性物質をばらまく爆弾である)をぶち込む。
 統合自衛隊統合幕僚本部が立案したアメリカ人民餓死作戦、名付けて「滅1号作戦」。ゲームの中のかがみ首相は、その完璧な実行を命じていた。まさに、悪逆非道。
 ミサイル防衛システムを無効化された連邦軍に、これを防ぐすべはない。
 国際非難の高まりで、非戦争当事国が一斉に日本国への禁輸措置をとる。
 しかし、かがみは気にもかけなかった。食料と石油の備蓄は充分にある。要は、勝利するまでもてばいいのだ。政治が軍事に従属するゲームの世界であればこそ、それが可能だった。


「こなたはラノベ作家かぁ。うまくいってるの?」
「一本連載が決まったしね。何とかやっていけると思うよ」
「でも、ちょっと意外だったなぁ。こなただったら、ゲームクリエイターとかそういう趣味を生かせるような仕事に就くって思ってたんだけど」
「趣味を仕事にしちゃうと楽しめなくなっちゃうからね。かといって、全然興味ないことを仕事にしてもたぶんもたないし。そういう意味で、ラノベ書きはちょうどいい位置にあったんだよ。趣味そのものじゃないけど、それから遠いわけでもないってところ」
「なるほどね」


 こなた大統領は、連邦軍戦略攻撃部隊に、日本本土に対する全面核攻撃を命じた。

 アメリカ全土の基地から一斉に核弾頭ミサイルが発射される。
 これに対抗して、統合自衛隊は統合ミサイル防衛システムを起動させた。宇宙戦闘集団が中心となって、ミサイルを次々と打ち落としていく。
 しかし、すべてを打ち落とし切ることはできなかった。日本国の五つの都市が核爆発で吹き飛んだ。
 それでも、関東圏は無傷。工業力指数・経済力指数は大幅に落ちたが、まだ継戦可能だった。
 日本国内では過激平和主義団体による暴動が勃発したが、かがみ首相は統合自衛隊陸上戦闘集団に治安出動を命じて、これを徹底的に弾圧した。


「でも、こなたの場合は卒業できたこと自体が不思議よね」
「ひどいなぁ。私だって、やるときはやるんだよ。試験は一夜漬けで何とかなったし」
「ホント変わらないわね、あんたは」
「人間いきなりは変われないものなのだよ」
「もしかして、卒論まで一夜漬けだったんじゃないだろな?」
「……」
 いきなりの沈黙。
 かがみがこなたの方を向くと、こなたはふいに笑った。
「ふっ……」
「おまっ。まさか、ホントに一夜漬けか!?」
「まあ、さすがにそれはないけど、一週間ぐらいだったかな?」
「それでよく担当教授が認めてくれたな」
「教授とは趣味が合ったからね」
「類友かよ! って、日本の高等教育は大丈夫なのか!?」
「二流私大の文学部教授なんて、そんなもんだよ」
「おまえ、全国の文学部教授に謝れ」
「いいじゃん、そんなことは。とにかく、晴れて私は文学学士様なのだよ。博士様になるみゆきさんやかがみんにはかなわないけど」


 アメリカ全土で暴動が頻発。
 州兵及び連邦軍では制圧不可能なほどに拡大し、収拾がつかなくなっていた。
 ついに、連邦議会が大統領弾劾を決議。こなたは連邦軍に対する指揮権を喪失した。
 続いて、連邦議会が日本国に対する無条件降伏を決議。

 かがみ日本国、勝利。
 ゲーム終了。


「かがみん、これはいくらなんでも悪逆非道でございませんか?」
「所詮はゲームでしょ。RPGでモンスターを虐殺しまくってる英雄様にいわれたくはないわね」
「うぬぬ。このままかがみんに負けるわけにはいかない。次は、格ゲーで勝負だ」
「はいはい。分かったわよ」


 二人は、その後もゲームに興じ続けた。
 二人のそんな関係は、進学しても就職してもきっと変わらないだろう

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