ID:kMHlbj20氏:空蝉

今が何月の何日なのかは分からない。ただ、暑いということと、酷くうるさい蝉の声で、夏だという事は分かっている。
 そう言えば、蝉の話をしたのは何時で誰とだったのだろう?よくは覚えてないけど、脱皮がどうとかいう話だった。
 こなたは読んでいた漫画本を置き、天井を見上げた。今日もトイレに行くとき以外は部屋から出ていない。高校を卒業して、進学に失敗してから、この部屋の中だけが彼女の世界になっていた。


 - 空蝉 - 


 自分でも、今の状態が良くない事くらいは分かっている。どうにかしなくちゃいけないとも、思っている。だけど、動く気は全くおきない。身体に何か、重いものがまとわりついているようで、どうにも動けなくなってしまっていた。
 今この家には、こなたと父のそうじろうの二人しかいない。同居していたゆたかは、こなたの現状を知ったゆきに連れ出されてしまっていた。今はどこから稜桜学園に通っているのかは知らない。知る気も起きなかった。
 こなたは再び漫画を手に取り、続きを読み始めた。部屋に篭り始めた当初は、一日中オンラインゲームをやっていたが、ゲーム世界の中でも他人と関わるのが煩わしくなって、止めた。そして、ゲーム自体も徐々にやる気がなくなっていき、今では一日中漫画を読んでばかりだ。
 今日もそうして過ごしていた時、こなたはドアがノックされる音を聞いた。そうじろうがご飯を持って来たのだと思い、こなたはベッドから立ち上がり、ドアの方へと向かった。ご飯を持ってくるとドアの前に置き、ノックだけしてすぐに立ち去る。最近はずっとそうなっていた。父親と会話どころか顔すら合わせなくなって、どれくらいたったのか。こなたには分からなかったし、分かりたくもなかった。

 しかし、その日はいつもとは違っていた。ご飯を取ろうと、こなたがドアを開けると、
「お、なんだ。ちゃんと動いてるじゃない・・・って臭っ!?」
 いきなり、失礼な言葉を浴びせられた。こなたが顔を上げると、そこにいたのは、しかめ面をして自分の鼻を摘んだ、高校時代の友人の一人のかがみだった。
「お姉ちゃん、いくらなんでもいきなりそれは・・・ってホントに臭いっ!」
「かがみさん、言葉は選んだ方が・・・た、確かにこれはちょっと・・・臭いです・・・」
 その後ろにいた二人。同じく高校の友人だった、つかさとみゆきも困りきった顔で鼻を摘んでいた。
 しばらく唖然としていたこなたは、かろうじて、
「・・・な、なんで?」
 とだけ、口にする事が出来た。確かそうじろうには『かがみ達が来ても、絶対家の中に入れないで』と、言い含めておいたはず。それが守られていたからこそ、今の今まで誰一人こなたの部屋には来なかった筈なのだ。
「なんでって言われてもねぇ・・・ま、とりあえず入らせてもらうわよ」
 かがみは未だに唖然としたままのこなたを押しながら、部屋の中に入っていった。つかさとみゆきもその後に続き、そしてかがみが再びしかめっ面になった。
「・・・・・・なんかもう、絵に描いたような引き篭もりの部屋ね」
「・・・・・・足の踏み場とか全然ありませんね・・・あ、つかささん、そこ危ないですよ?」
「ふぇ?・・・わっ、コップ踏んじゃうところだった・・・」
 三人が口々に色んなことを言いながら部屋を見渡し、ほぼ同時にこなたに視線が集まった。
「とりあえず、コレをなんとかしないとね・・・アンタ、一体何時からお風呂入ってないの?」
 かがみが厳し目の口調でそう聞くと、こなたは黙って指を三つ立てた。
「三日前から?・・・よく気持ち悪くないわねぇ」
 そう呆れ顔で言うかがみに、こなたは申し訳なさそうに、
「・・・さ、三ヶ月くらい前から・・・多分だけど・・・」
 と、ボソボソと聞き取りにくい声で答えた。
「さ、三ヶ月・・・・・・なんか、眩暈してきたわ・・・わたしはコイツ風呂で洗ってくるから、つかさとみゆきは部屋片付けて掃除しといて・・・」
 かがみは一通り指示を出すと、ブツブツと文句を垂れながら、部屋の中から下着や衣類を勝手に漁り始めた。
「まったく・・・なんだってこんな事になってるのよ・・・」
 その呟きを聞いたつかさが、かがみに向かって、こう言った。
「お姉ちゃん、こなちゃんはね、きっとまだ殻を取りたくないんだよ」
「・・・・・・は?」
 かがみはつかさの言いたい事がよく分からず、首を傾げるだけだった。



「わっしゃ、わっしゃ♪わっしゃ、わっしゃ♪」
「・・・・・・ねぇ、かがみ」
「ん、何?かゆい所でもあるの?」
「いや、そうじゃなくて・・・なんでそんな上機嫌なのさ?」
 泉家の風呂場。こなたの言う通り、かがみはやけに嬉しそうにこなたの髪をわっしゃわっしゃと洗っていた。
「いやね、高校の時から思ってたのよ。この無駄にボリュームの有る髪の毛、洗ってみたいって」
「そ、そうだったんだ・・・」
 風呂場まで自分を引きずってきたあげくに、服を無理やり引っぺがし、さらに無理矢理洗い始めたかつての友人に、こなたは泣きたいようなくすぐったいような、妙な気分を感じていた。
「さて、こんなもんかしらね。お湯、かけるわよ?」
「あ、うん・・・」
「さ、次は身体ね」
「か、身体はいいよっ!自分で洗うよっ!」
「遠慮しなくていいのよ?隅々まで洗ってあげるから」
「ちょ!目が怖いっ!手つきが怖いっ!なんか変なオーラ出てる!」
「ふっふっふ。さあ、覚悟しなさい」
「覚悟って・・・・・・いや、せめてスポンジ使って・・・・・・」

「うぅ・・・お嫁にいけない・・・」
「大袈裟よ」
 結局、全身くまなくかがみに洗われたこなたは、かがみに抱かれるような形で湯船に浸かっていた。
「かがみ、大学でなんかあったの?・・・なんか性格変わってる気が・・・」
「そう?わたしから見れば、アンタの方が変わったって言うか・・・知らなかったって感じかな?」
 知らなかった?よく分からず、こなたは無言で首をかしげた。
「受験の失敗で、ここまでへこむとはね。もっと飄々としてるかと思ってたわ」
「うん、そだね・・・」
 それは、こなた自身も思っていた。そして事実、受験失敗のダメージはそれ程でもなかった。『ああ、やっぱりわたしは馬鹿だったんだな』と認識した程度だった。しかし、
「怖かった・・・怖くなった。みんなに会うのが・・・みんなが今何してるのか、分かるのが」
 話しているこなたの表情は、かがみからは見えない。泣いているのかと思ったが、声はしっかりとしている。
「みんなはちゃんと自分のやりたい事選んで、ちゃんと進んでるのに、わたしは適当に進学選んで、適当な大学受けて・・・それで、失敗して・・・そう考えたら、なんだかすごく怖くなって・・・何がどう怖い?って言われたら、分かんないんだけど・・・」
「それで、おじさんにわたし達を家に入れないように、頼んでたのね」
 こなたは何かに気付いたように「あっ」っと声をあげ、かがみの方に顔を向けた。

「そうだ、お父さんだ。お父さん、かがみ達止めてくれなかったの?」
「止められたわよ。それで、わたしやみゆきは大人しく引き下がったわ。『こなたが会いたくないんじゃ、仕方ない』って・・・もう少し時間が経って、落ち着いてからにしようって」
「じゃ、どうして今日は・・・」
「つかさはね、引き下がらなかったの。何度も足運んで、頼み込んで、しまいには、会わせてくれるまで家の前から動かないって言い出して・・・流石におじさんの方が折れたわ」
「なんで、そこまでして・・・」
「こなたは、あの子が初めて自分で作った友達だからよ」
「え・・・」
「引っ込み思案だし、人見知りも結構するから、高校までの友達って、私の紹介とかばかりだったのよね・・・それも、あんまり仲良さそうにしてなかった・・・友達といるより、わたしといる時間の方が多かったわね」
「それ・・・ホント?」
「うん、ホント。だから、あの子にとってあんたは特別なのかもね・・・っと、そろそろあがろっか?のぼせちゃいそうだし」
「あ・・・うん」
 さっさと湯から上がり、脱衣所に向かうかがみの背中に、こなたは思い出したように声をかけた。
「あ、そうだかがみ」
「ん。なに?」
「・・・・・・身体、自分で拭くから。あと、服も自分で着るから」
「・・・・・・・・・ちっ」
「今、舌打ちしたよね・・・なんかもう、色々台無しだなぁ」


「あ、こなちゃん、お姉ちゃん。おかえり~」
「あ、うん・・・ただいま・・・うわっ」
 風呂から戻ったこなたは、自分の部屋に入るなり驚きの声を上げた。この短時間でどうやったのか、今まで見たことないと思えるくらい、部屋は綺麗になっていた。収納しきれなくて枕元に積まれていた漫画本も、何をどうやったのか綺麗に本棚に入れられている。
「二人ともすごいね・・・わたしの部屋ってこんな綺麗にできたんだ」
 こなたの口から思わず漏れた賛辞の言葉に、みゆきはニコリと笑顔を返し、つかさはバツが悪そうな顔でそっぽを向いた。
「ほ、ほとんどゆきちゃんがやったんだけどね・・・」
 特に言わなくていいことまで付け足す。恐らく漫画本などに気を取られて、ろくに動いてなかった事は、こなたにも容易に想像できた。
「あはは・・・」
 こなたの視線に恥ずかしそうに頬をかくつかさは、高校の時と全然変わってないように見えた。


「こなちゃん、蝉の話をしたの覚えてる?」
 部屋の中央のテーブルを四人で囲み、誰が何を話すでもなく、沈黙が続いた中、唐突にそう聞いてきたのは、つかさだった。
「蝉・・・あっ」
 こなたは思い出した。そうだ、つかさだ。蝉の話をしたのはつかさとだったんだ。
「蝉の脱皮の話だったっけ・・・」
「そうそう、こなちゃんは『あれってめんどくさそうだよねぇ』とか言ってたよね」
 段々と思い出してきた。蝉は脱皮しないと空を飛べない。羽を広げるために、殻は脱ぎ捨てなければならない。でも、それはなんだか悲しいことだ。自分の一部を捨てないと、先に進めないのは悲しいことだと、つかさは言っていた。
「それが、自分にとって邪魔なものでも?いらなくなって捨てるしかないものでも?」
 あの時、聞けなかった疑問。それをこなたは口にしていた。
「蝉だったらね・・・でも、わたし達は蝉じゃないよ」
 そう答えたつかさは、笑顔だった。何の迷いも感じられない、笑顔だった。
「邪魔でもないし、いらなくもないよ。こなちゃんもそれが分かったから、脱げずに困ってるんだよね?」
 図星だった。というより、気付かされたのだろうか。自分にまとわりついて、動けなくしている重い殻。自分にとって大切なもの。時々混じる嫌なもの。それを脱ぎ捨てる事が出来るのか?全部置いて進めるのだろうか?
「でも、ちゃんと脱がないと進めないよ?脱皮できない蝉みたいに、土の中にずっといることになるよ?」
「分かってるけど・・・怖いんだよ・・・」
 自然に顔がうつむく。風呂場でかがみにも言った、怖いという感情。殻を脱ぐ恐怖。それを置いていく恐怖。そして、土の中でみんながどんどん遠くなっていくのを、感じる恐怖。
「大丈夫、怖くなんか無いよ。脱げば軽くなるし、脱いだものは、全部持って行けばいいんだよ」
「それじゃ、何も変わらないんじゃ・・・」
「全然違うよ。脱いでしまえば、それはもう抜け殻だから、全然重くないよ。大切だけど、重くないの。いい事も悪い事も、重くないんだよ」
 つかさは、そこで言葉を切り、うんっと一つうなずくと、一際はっきりとした声で言った。
「わたしは全然重くなかったから、こなちゃんだって、きっと重くないよ」
 それを聞いたこなたは顔を上げた。今の言い方だと、まるでつかさも自分と同じような・・・咄嗟にかがみの方に顔が向く。
「そうよ。つかさもね・・・受験、失敗してたのよ」
 こなたの聞きたいことを察して、かがみがそう答えた。次につかさの方を向く。照れたような顔で、頬をポリポリかいていた。
「つかさも・・・だったんだ」
「うん・・・それでね、色々あって、こなちゃんの事知ったの、結構最近だったの。それで、こなちゃんと話がしたいって思って、こなちゃんはきっと気付いてないだけだと思って・・・・・・わたしは蝉の話を思い出して、ちゃんと・・・少しだけど、ちゃんと進めたから、こなちゃんだって、きっと進めるようになるって、そう思って・・・・・・あはは、ゴメン、なんだか上手く言えないね」
「うん、言いたいことは分かるよ・・・なんとなくだけど・・・でも、わたしもつかさと同じように出来るとは限らないよ・・・・・・」
「大丈夫だよ、こなちゃん」
「なんで、そうはっきり言い切れるのさ・・・」
「だって・・・わたしとこなちゃんは、類友だもの」
 類友。なんだか、この場にはひどく似つかわしくない言葉に思えた。その言葉を何の臆面もなく、笑顔で言い切ったつかさを見て、こなたは、
「ぷっ・・・くくくっ・・・ははっ、あはははははっ」
 笑った。何故だかすごく笑えた。久しぶりに、ホントに久しぶりに、腹の底から笑えた。
「あはははっ・・・そっかぁ、類友かぁ・・・はははっ、それじゃ仕方ないや・・・あはははははっ」
 まるで、些細な事で笑い合えた、あの頃のように。


「みんな、ありがとね・・・なんか、一人で勝手にふさぎ込んじゃったみたいで、かっこ悪いや」
 ひとしきり笑い終えたこなたは、軽くなった自分を感じていた。
「ううん、お礼を言われるほどの事はしてないと思うよ」
「つかささんはともかく、わたしはお掃除をしただけですし・・・」
 殻が脱げる。その感覚をはっきりと感じた気がした。
「じゃ、貸し一つね」
「うわー・・・一言で台無しにしたよこの人。風呂で私利私欲を満たしてたくせに」
「なによ・・・いいじゃない、それくらいの役得があっても」
「役得て・・・・・・かがみ・・・ホントに大学でなんかあったんじゃないの?」
「無いわよ。ま、それよりこなたもなんだかいい調子になったみたいだし」
 かがみが自分の鞄から、大きなビニール袋を取り出した。その中に入ってたのは、大量の缶ビール。
「飲みましょう」
「・・・うーわー・・・・・・なんかホンキで色々台無しだぁ・・・ってか、お酒なんか飲んでいいの?未成年なんじゃ・・・」
「何言ってるのよ、私たちはもう二十歳になってるわよ・・・ほれ」
 かがみはこなたに、自分の携帯のカレンダーを見せた。
「あ、ホントだ・・・もう、こんなに時間過ぎてたんだ・・・・・・そっか、わたしもう二十歳になったんだ」
「そうそう、だから遠慮なく飲みなさい」
「い、いや、やっぱいいよ・・・お酒飲んだことないし」
「そう?つまんないわねぇ。つかさもお酒ダメだし・・・みゆきは飲むでしょ?」
「はい、もちろんです」
「・・・もちろんて・・・みゆきさんが缶ビールって、なんかイメージ違うなぁ・・・ってみゆきさんは誕生日まだじゃん!未成年じゃん!」
「泉さん・・・その程度は誤差範囲です」
「なにその理屈・・・なんかみゆきさんも微妙におかしいよ・・・」
 大きな溜息を吐きながら、こなたは頭を抱えた。そんなみんなの様子を、つかさは嬉しそうに眺めていた。
「さあ、今日は朝までとことん飲むわよ!」
「ええ、お供しますよ、かがみさん」
「って、泊まるつもりだったの!?・・・つーか二人とも、わたしをダシに飲みたかった訳じゃないよね?・・・ねぇってばぁっ!」
 あの頃とは、随分と違う立ち位置。それでも、楽しかった。


 翌朝。泉家の門前。二日酔いでぐったりとしたかがみにつかさが肩を貸し、それをこなたが呆れた顔で見ていた。
「うーあー・・・・・・頭痛いー・・・・・・」
「お、お姉ちゃん・・・だから、もうちょっと控えようって・・・」
「みゆきの方が量飲んでたのに・・・なんで平気なのよー・・・・・・納得いかないわ・・・・・・」
「それは・・・何故でしょうね?」
「なんかもう・・・底なしに台無しだよかがみんや・・・」
 気持ちのいい青空。少し助走をつければ、その中に飛び上がれるような気がした。
「じゃ、わたし達は帰るわね・・・」
「うん・・・なんかもう、いろんな意味で気をつけて帰ってね・・・」
「こなちゃん、またね」
 かがみを引き摺るように、つかさが歩き出す。
「つかさー・・・もうちょっとゆっくりー・・・・」
「これ以上ゆっくりは無理だよぉ・・・っていうかお姉ちゃんもちゃんと歩いてよ・・・」
 その背中が見えなくなるまで、こなたは見送っていた。そして、いまだ横にみゆきが立っている事に気がついた。
「みゆきさんは、帰らないの?」
「かがみさんは・・・嬉しかったんですよ」
「ふぇ?」
「前にお会いした時に、仰られてました。『大学には、こなたみたいな強烈なのがいなくて、味気ない』って・・・だから、泉さんに会えて、話が出来て、嬉しかったんだと思いますよ」
「・・・・・・それで、あんなにはっちゃけてたんだ」
「少しはしゃぎ過ぎではありましたけどね・・・迷惑でしたか?」
「ううん、全然・・・・・・わたしも、楽しかったし」
「ふふ、ですよね・・・では、わたしも帰りますね」
「うん、またね」
 軽く手を振り、歩き始めるみゆき。少し進んだところで、こなたの方に振り返り、ニコッと笑い、
「わたしもですよ、泉さん・・・嬉しくて、楽しかったです」
 そう言ったみゆきに、こなたはうんっと力強く頷いて答えた。



「さて、やる事たくさんあるよね・・・まずはっと」
 みゆきを最後まで見送ったこなたは、家の中に戻った。そして、真っ直ぐに父の書斎へと向かう。ドアをノックしてみるが、返事はなかった。こなたは少し迷った後、ドアを開け中に入った。
 そうじろうは仏壇の前に座っていた。こなたはその後ろに座ったものの、何を話していいかまるで分からなかった。
「お父さん・・・」
 とりあえず声をかけてみたが、その先が続かない。言いたかった事はあるはずなのに、なかなか口にできない。なんともいえない沈黙が、しばらく続いた。
「こなた」
 先に沈黙を破ったのは、そうじろうの方だった。久しぶりに聴く父の声に、こなたは身を堅くした。
「さっき、ゆーちゃんに電話をしたよ」
「ゆーちゃんに・・・?」
「ああ、こなたはもう大丈夫だから、今ならちゃんと会えるからって」
 そうじろうが振り向く。その顔はこなたの記憶の中にある顔より、少し痩せて見えた。
「こなた・・・すまなかったな。何にもしてやれなくて・・・俺は情けない父親だな」
「そんなこと・・・ないよ・・・」
 こなたは言いたかったことを思い出していた。ゆっくりと、噛み締めるように言葉にする。
「ありがとう、お父さん・・・見捨てないでいてくれて。こんな簡単に折れちゃうような娘を、見捨てないでくれて・・・・・・それだけで、わたしは嬉しいよ」
「・・・・・・そうか」
 少しでも、ゆっくりでも、進んでいける。殻を脱ぎ、心に仕舞いこんで。それを教えてくれた類友や、色々な形で自分を大切に思ってくれている親友達の為にも。
「ねえ、お父さん」
「ん・・・なんだ?」
「久しぶりに、格ゲーで対戦でもしよっか?」
 まずは、この一歩から。

- 終 -
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