ID:uHh7kik0氏:とある海水浴場にて

「あっ、待ってよ」
 赤髪の小さな女の子が海辺をばしゃばしゃと駆ける。
「あう!」
 バシャン!
 見事にこけて、海水へと頭を突っ込んだ。
「うう~、しょっぱいよ~」
「大丈夫?」
 緑髪の少女が右手を差し出す。
 身長にだいぶ差があるが、二人は同い年だ。
 赤髪の少女が立ち上がったところで、
「そぉーれ!」
 バシャ!
「「ひゃっ!」」
 海水を浴びせられて、二人は同時に悲鳴をあげた。
「お姉ちゃん!」
 赤髪の少女にお姉ちゃんと呼ばれたのは、二人よりも年上の少女だった。
「お二人さん。せっかく海に来たんだから、遊ばなきゃ損だよ!」
「えい!」
 バシャ!
 お返しとばかり、赤髪の少女は海水を浴びせかけた。
「うひゃっ!」
 そして、海水のかけあいが始まった。


 その光景をビーチパラソルの陰で眺める視線が二つ。
「平和だね~」
「そうですね」
「子供たちも楽しそうで何よりだよ」
「今日はお休みのところ、付き合わせてしまってすみません」
「全然いいよ。どうせ、暇人の独身おばさんだからね。それに、お姫様たちのためなら、たとえ原稿の締め切りが明日であっても、はせ参じてしんぜよう」
「それはまずいと思いますが……」
「締め切りなんてどうせ延長きくんだし、大丈夫だって」
「担当編集者の私に対して、そう堂々と言われても困るのですが……」
 子供たちは海の中ではしゃぎまわっている。
 それを見つめる瞳がふと曇った。
「どったの?」
「いえ……その……」
 一瞬、言いよどむ。
「なぜ、この場にゆたかがいないのかと……」
「いつまでも引きずってちゃ駄目だよ、みなみちゃん」
「分かってはいるのですが……」
 目の前ではしゃぎまわるゆたかにそっくりな赤髪の少女の年齢は、ゆたかがこの世を去ってからの年月とほぼ同じだった。
「あの子には、母親がいなくたって、ゆい姉さんもみなみちゃんも、それに私だっているよ。それに、ゆい姉さんの娘がお姉さん代わりなんだし、みなみちゃんの娘が親友なんだし、何も心配することはないと思うよ」
「分かってます。分かってはいるつもりなんです。でも、ゆたかにもここにいる権利はあったはずなのに。そう思うとどうしても……」
「そんな後ろ向きなことばっかりいってると、ゆーちゃんに怒られるよ」
「……そうですね」


「「こなたおばちゃーん! みなみおばちゃーん! 一緒に遊ぼう!」」
 視線をあげると、ゆいの娘とゆたかの娘がこっちに向かって手を振っている。
 みなみの娘は控えめにたたずんでいた。
「ほらっ、お姫様たちがお呼びだよ。ゆーちゃんの分まで遊んでやらなきゃ」
「はい」
 二人は立ち上がって、ゆっくりと歩き出した。
「泉先輩。一つだけいいですか?」
 みなみが後ろから声をかける。
 こなたが立ち止まり、振り返った。
「その歳で、スクール水着はいかがなものかと……」
「ハッハッハッ。気持ちは若くもたないと駄目だよ、みなみちゃん」
「若くといっても、限度というものがあるでしょうに」
「固いことはいいっこなしだよ」


 その後、三人の子供と二人の大人は、ヘトヘトになるまで海辺で遊びたおした。


終わり
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