「まずは、こうなってしまった経緯を説明して戴けますか?」
困惑する私を救ってくれたのは、冷静なみゆきの言葉だった。
「うん。昨日、お父さんの書斎で魔術書っぽい本を見つけたんだよ。二人はホムンクルスって知ってる?」
「ああ、聞いたことがあるわね。人造人間でしょ?」
私の答えに、オリジナルのこなたは元気よく頷いた。
「私がその本を読んで試したのは、クローン人間みたいな奴を造る術なんだけど……失敗しちゃってさ」
「ちょっと! オリジナルだからってどうして一人で話すのよ。私達にも話させなさいよ!」
三人で進むと思われていた会話に、別のこなたが割り込む。私は同族嫌悪のようなものを感じた。
「あー、つかさ。ちょっといい? この四人の相手をしておいて」
「えっ? 相手って……。あの。お姉ちゃ――」
四人に引っ張られて、家の奥へと歩かされていくつかさを私達は見送る。
私とみゆき、そしてオリジナルのこなたは静かになった玄関で立ち話をする事にした。
「それで、なんだっけ。クローンを造ったのはいいけど、どうして性格がまったく違うのよ?」
本物のクローン技術では、性格や外見などが同じにならないことは知っていた。
しかし、魔法の類によって産まれたのであれば、完全なコピーが誕生してもおかしくないと思えたのだ。
「それなんだけど、本当は私を増やそうとしたわけじゃないんだよね」
「……というと、他のどなたかを造ろうとしたわけですか?」
みゆきの問いかけに、こなたは首を縦に振って答える。
「最初はつかさをイメージして造ったんだ。でも、私の髪の毛と血を使ったせいか外見はあれでさ」
次は私、その次はみゆき、そして最後にゆたかちゃんを思い浮かべたのだとこなたは言った。
「それで、外見と中身がちぐはぐになっているこなたが四人もいるのね」
私はそう言ってみたものの、未だに目の前の出来事が現実だとは信じられなかった。
つかさの悲鳴が聞こえてこなければ、いつものとおり、こなたがアニメの話をしているだけだと思えただろう。
あまりの異常事態に考えがまとまらずに私が困り果てていると、みゆきが口を開いた。
「彼女達の性格は、造るときに自由に決められるんですか?」
私はその質問の意図が分からず、こなたが何かを言うより先にみゆきに訊ねた。
「まさか、これ以上こなたを増やす気じゃないでしょうね」
笑って否定をしてくれるだろうという私の予想は、
「いえ、あと一人だけ増やすつもりです」
あっさりと裏切られた。
「出来るよ。たぶんだけど。でも、それでどうしようって言うの?」
こなたの疑問は私が抱いているものとまったく同じだった。
私達に助けを求めるという事は、こなたにもホムンクルス達を消す手段がわからないからだろう。
それなのに、どうして問題を拡大しようという話に?
「素材の提供者と同じ外見。そして、人格を自在に決定できるという事は」
勿体をつけて焦らすみゆきを急かしたくなる気持ちを抑え、私は続きの言葉を待った。
こなたはみゆきの発想に気がついたのか、口に震える手を当てて訊ねた。
「みゆきさん、まさか……」
「はい。泉さんのお母様を、その方法によって造ることが出来るのではないでしょうか?」
「なるほど、こなたのお母さんに面倒を見てもらうって事ね!」
「えぇ」
「それは私に『持って行かれた……!』的な事をやらせたいの?」
こなたの声質が変わった。
「こなた……?」
「死んだ人間を蘇らせるということがどういうことか分かってるの?」
「泉さんの言いたいことは分かりますが、決して蘇らせる訳ではありません。同じ性格の――」
「それを創っても根本的な解決にはならないじゃん」
こなたが怒ってる……。そりゃあ、お母さんを気軽に「創れ」と言われれば誰しも怒るわよね……気まずい空気だな……。
「………………」
この三点リーダーは私たち三人分のものである。おいおい、頼むから誰か喋ってくれ!
そんな私の願いが通じたのか、誰かの息を吸う音が聞こえた。
「良いよ、創って見る。それで解決出来るとは思わないけど……みゆきさんには何か打開策があるんでしょ?」
「…………」
そういって、こなたは家の奥に進んで行った。私たちもとりあえず付いていくことにしたけど……、ちょっと前は明るい感じの空気だったのに……。
「みゆき、ホントになんとかなるの?」
こなたに聞こえない程度にみゆきに話し掛ける。って、なんだその余裕の顔はぁー!? それでどーにもならなかったら、あんたを一生空気扱いするからね!!
「きゃあぁぁあぁぁっ!?」
おわっ、この叫び声はつかさ!? 何があったのよ!!
「始まったか……」
ってオジサン……急に現れて変な事言わないでよ……。