ID:EjC5d2E0氏:栞

読書感想文のためにも少しは本を読めと、お父さんに言われた。
お父さんは私にオススメ作品とやらを渡してきたが、少しも読む気にはなれなかった。
毎日をだらだらと過ごして、夏休みも残り半分。
やはり、今年もアニメ化したラノベを読んだことにして、感想文を片付けようと思う。
ところが、どれだけ探してもDVDが見つからなかった。
記憶を掘り返してみると、かがみに貸してしまったらしい。
他にもアニメになった作品はあるのだけれど、さすがに萌えを前面に押し出した物では書きづらい。
こんな事ならば無理に貸すんじゃなかったと後悔をしたが、文字通り後の祭りだ。
仕方が無く電話をかけると、一つ前に番号を登録してあるはずのつかさが出た。
間違いだと言うのも気が引けて、夏休みの宿題とは無関係の話をした。すぐにかがみと交代してもらえばいい。
本題に触れないまま電話切ってしまったと気がついたのは、ゲームを始めてから二時間後のことだった。
私はもう一度かけなおす。今度こそかがみが出た。
むしろ、代わりに書いて欲しい。そんなことを言ったせいか、返却の話が終わらないまま切られてしまった。
何も言わずに返して欲しいと言うべきだった。しかし、今更そんなことを嘆いても無駄なのはわかっている。
私はすっかりやる気を失って、携帯電話を机の上に放り出す。
乱雑に物が置かれた机の上には、お父さんから受け取った本が十冊強は積まれていた。
改めて数えなおすと九冊だったが、とにかくページ数が多いのでそれ以上に感じられた。
アレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯』
ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』
サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』
どれもこれも聞いたことがない、他国の作家ばかりで、文学に馴染みのない娘に与える本だと思えなかった。
一番最初の本だけは、たしか現在進行形でアニメを放映していたな、と考えて表紙をめくる。
ページを繰り、適当に飛ばしながらアニメに出てきたのと同じ単語だけを追っていく。
そうしていく内に、ふと奇妙な物が本に挟まっていることに気がついた。
なんだろう――そう考えるまでもなく、それは夏目漱石の描かれたお札だった。
おそらくは、しおりとして挟んであったのだ。
私は予想外の臨時収入に喜びながら、残りのページを見てゆくことにした。
奥付まで見て、他には何も挟まっていない事を確認すると、次の本へ。
そこでも同じように、適当な紙切れがあった。
本当らしさの限界、誰もが彼の運命を知っている事について……?
よくわからなかったが、創作のためのメモか何かだと納得してページを繰る。
書き損じの葉書。五千円札。「まだ八月三十二日だから夏休み」と書かれた紙。裂いた新聞紙。
次々と代用品のしおりが見つかった。
そして、七冊目には写真。色褪せていて、まさに、古ぼけたという表現が似合いそうな写真があった。
写っているのは物心もついていない頃の私。そしてお父さん。
フローリング床に敷かれたシーツの上で、私達は気持ちよさそうに眠っていた。
アルバムの中に収められている状態の物を見た事があり、それとは何かが違っている写真。
違和感を感じたのは、構図は同じなのに酷いブレがあることだった。つまり焼き増しではないらしい。
素人が撮ったにしても酷いこんなミスを、過去の私が見逃しているはずがなかった。
これとほとんど同じで、そして微妙に角度が変わっている写真が八冊目にも挟まっていた。
もしかすると、私が見たことのあるありふれた写真は、何度も撮り直しを重ねた成果なのかもしれない。
ともかく、これは失敗作の写真だった。ゴミには違いない。
私は紙幣やメモなどは残らずお父さんに返すことにして、ゴミだけは自分で始末をつけることにした。
誰が撮ったのかもわからない失敗作。それを机の引き出しへ。
捨てようにもゴミ箱が溢れそうになっているのだから、こうするのは仕方がないことだった。
私は最後の一冊を確認し終えると、あとでお父さんに返しに行くことを決めて、本を再び積み上げた。
アニメで知ったあらすじだけで本を読んだかのように偽装することは出来たけれど、やめた。
私はメールを送る。かがみとみゆきさんを頼って、おすすめの本のリストを作ってもらおう。
送信ボタンを押した後、私は写真の中の自分と同じように、仰向けになってベッドに寝転がる。
何度も撮影に失敗した人物のことを考えながら、私はゆっくりと目を閉じた。
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