隣のクラスの委員長、柊かがみさんに呼ばれ、わたくし高良みゆきは今、かがみさんの家に向かっています。
同じクラスの柊つかささんの姉、ということなので、一緒にいる時はかがみさんとお呼びした方がいいでしょうか。
そうこうしているうちに、かがみさんの家らしきものが見えてきました。
鷹宮神社。この辺りで一番大きな神社がかがみさんの家です。
しかし……神社は見えましたが母屋の場所がわかりませんね。どなたか家の方がいればいいのですが……
「おーい、委員長さ~ん」
辺りをキョロキョロと見渡していると、後ろの方からつかささんが走ってくるのが見えました。
「委員長さん、ごめんね。私達の家の場所言ってなかったよね」
なるほど、わざわざそのために迎えにきてくれたんですね。
本当に優しい方です。ですから逆に、悪い方に騙されなければよいのですが、という心配もあります。
「いえ、私が確認しなかったのが悪かったんです。すみません、つかささん」
「あれ? 委員長さん……」
「うふふ。さぁ、案内してください」
ちょっと強引だったかしら。
でも、これでいいですよね。つかささんは寛容な性格なので、すぐに受け入れてくれるでしょうから。
「……わかった。こっちだよ、ゆきちゃん!!」
うふふ……
☆ ☆ ☆
神社からちょっと離れた場所に立派な建物がありました。
四人姉妹に両親の六人家族ですものね。広くて当たり前でしょう。
私の家の半分……いえ、それ以上はありますね。
まったく、お母さんにも困ったものです。三人家族でもあれだけの豪邸なのに、更に増築したいだなんて……
三階にバルコニー? 必要ないじゃないですか。第一、二階に3つもあるのたから……
「ゆ、ゆきちゃん?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていまして」
いけない、今日は遊びに来ているんでした。母のことは忘れましょう。
「ただいまー」
「お邪魔します」
つかささんに促されて玄関に入り、しっかり靴を揃えて……
「んにゃ?」
あら、ネコの声ですね。
でも、普通のネコとは違う鳴き方です。どちらかといえば、人間がネコのまねをしているような――
「あ、こなちゃん。迎えに来てくれたんだ」
「ふにゃ!」
どうやら家の中にいるみたいですね。かがみさん達の飼い猫でしょうか……
「……え……?」
その『こなちゃん』と呼ばれたネコを見ようと振り向いた時、私は声を失ってしまいました。
だって、その『ネコ』が……ネコ……が……
「が……がが……ガガ、ガガガガ、ガガ、ガ……」
「わぁああぁあ! ゆきちゃんが壊れちゃった!!?」
☆ ☆ ☆
「す、すみません……取り乱してしまいました……」
「……まあ、普通そうなるわよね。言っておいた方がよかったかしら」
ようやく正気を取り戻した私は、かがみさんの部屋でお二人に頭を下げていました。
いくら知らなかったと言っても、お二人に迷惑を掛けてしまったことに変わりはないですから……
「あ、頭を上げてよ。そうやられたら、どうしていいかわからないよぅ……」
「あ、す、すみません……」
つかささんの言葉に、私は慌てて顔を上げました。
「……みゆき、まず何から聞きたいかしら」
そう言って、かがみさんが真剣な瞳で私を見つめてきました。
何から、と言われましても……
「たくさんありすぎて、どれから聞けばいいのか……」
「そうよね……普通そうなるわよねぇ……」
頭を抱えてテーブルに突っ伏すかがみさん。
……言い方はとてつもなく悪いのですが、部屋の隅にいるこの『生物』は一体なんなのでしょうか……
確かに人間の身体ではありますが……耳、しっぽ、鈴。これらはネコのものでは……
「こなちゃん、ちょっと」
「にゃふ?」
と思っていると、つかささんがその『生物』を呼びました。
四足歩行をして歩いてきたところをかがみさんが抱き上げます。
「まず。この子の名前はこなた。3日前、学校からの帰り道で段ボール箱に入ってるところを発見した」
「段ボール……ですか?」
「うん。普通のネコと同じみたいに」
「ふにゃぁ……」
こなたと言う名の『生物』は、私が視線を向けると困ったように俯きました。
この辺りの反応は、人間と同じですね。
ただ、気がかりなのは『言葉を話していない』ということ。
反応も人間とさほど変わりませんし、日本語を理解しているようでもあります。
しかし、先ほどから『にゃ』『にゃふ』とネコのような鳴き声を出すだけです。これは一体……
「昨日、一応動物病院に連れていって診てもらったの」
「お医者さんには、最初は『ふざけてるのですか?』って言われちゃったけどね」
まあ、確かに……
飾りを人間に着けているようにしか見えませんからね……
「いろいろと調べてもらったの。そしたらわかったの」
「何がですか?」
「この子、体組織は人間のものだけど耳としっぽはネコのものなの」
え、と……つまり……人間とネコの複合生物、ってことですか……?
「多分、ね。人間の言葉を理解してるし、ちょっとだけなら喋れるから、人間の方が濃いみたいだけど」
……あら……? このような話、どこかで見聞きした覚えがあるんですが……何だったかしら……
……!?
そ、そうです。思い出しました。
し、しかし、こんなことが現実にあり得るんですか……!?
「……ゆきちゃん、どうしたの?」
「え……」
「なんか、すっごい険しい顔してたわよ」
……これは、まだ言わない方がいいですよね。
これを知ってしまったら、お二人はすごく悲しむでしょう。
いいえ、お二人だけではありません。お二人の家族もきっと……
「いえ……。こんなマンガやアニメのようなキャラクターが現実にいるとは思ってもいなかったので……」
「あ、みゆきもそう思う?」
「にゃ~……」
そのうち、こなた『さん』はもっと日本語を覚えるでしょう。
ですからこのことは、ご本人の口から聞いてください。私には、話す資格はありませんから……
「――…でさー、初日に一緒にお風呂に入ったわけよ。そしたらこなた、鏡を見て叫んだのよ。
多分、あの瞬間まで『自分が人間になってる』なんて思ってなかったんじゃないかしら」
「ふにゃあ……///」
……………………それにしても、かわいいですねぇ。