ねこなた 第一話

高校に入ってから一週間、か。意外に早かったわね。
委員長に推薦されて、それから委員長同士の会議で隣のクラスの委員長・みゆきと仲良くなったのが三日前。
三日しか経ってないのにタメ口で話せるようになって、正直びっくりよね。

「遅くなっちゃったわね」
「そうだね。早く帰ってみんなと夕ご飯食べよ」

今は委員長会議を終えて、待ってくれていたつかさと一緒に帰る途中。
いつのまにか太陽が沈みかけていた。向こうの山にちょうど半分が入っているくらい。
『暮れ泥む』って、日が暮れそうで暮れないってことだったかしら。それとも日が暮れたばかりのことだったかしら。
なんてことを考えていると、

「あ、段ボール……」
「え? あ、ホントだ」

つかさの声で視線を前に持っていくと、電信柱の横に段ボール箱が置かれていた。
横に何か書きなぐっているように見える。ということは、あれは……

「捨てネコさんとか、かな」

ここはあまり人通りが多い道とは言えない。こういう時間になると、私達以外でこの道を歩いてる人はほとんど見かけないのだ。
子供の頃からこの道を使ってるけど、人で溢れかえってる様子なんか一度も見たことないわね。
それでも通学・通勤で誰かが毎日必ず通る道でもある。『大勢の人の前では見向きもされないだろう』という心理が働いたのかしら。

「とりあえず、無事かどうか確認しましょ」
「うん」

私達はちょっとだけ早足でその段ボール箱に向かう。
……な、なによ。私だって動物は結構好きなのよ?
特にネコとか猫とかねことかいぬとか犬とかイヌとか、もうとにかく可愛いじゃない。
どんなネコorイヌがいるんだろうという期待が、私達を早足にしていく。
 
 
 
「「……?」」

だけど、中の様子が見えるにしたがって、私の歩みは次第に遅くなる。
段ボール箱の中身が何か判別できた時、私達は絶句した。

耳。
しっぽ。
首輪。
鈴。
これらは確かにネコのパーツだ。
だけど、この段ボール箱に入っているのはネコじゃない。
 
 
 
 
 
他の部分は、人間だった。
青くて長い髪、肌色の皮膚……紛れもない女の子が、段ボールの中で丸くなって眠っていた。

「お、おおおお、お姉ちゃ……こここ、これって……」

ふざけてる。
こんな小さな女の子をネコに見立てて棄てるなんて、ほとんど犯罪じゃない!!
この子の親を捜し出す。捜し出して、訴えてやる。
人の命をなんだと思ってるの!? 子供を簡単に棄てるなんて薄情にも限度ってものがあるわ!!
この子にどんな非があるっていうの!? ネコ耳とかのパーツを着けてネコと同じように……ひどい、ひどすぎる!!

「……ぅにゃ……?」

一人心の中でありとあらゆる罵詈雑言を顔も知らないこの子の親に浴びせ終えた頃、女の子がうっすらと目を開けた。
次に頭の中に浮かんできたのは、不安。
多分知らないところに棄てられてるんだろうな。目の前にいきなり知らない景色・知らない人達がいたら、混乱しちゃうかも……
 
 
 
「ふにゃぁぁ~~~あ……」
「「へ?」」
 
 
 
混乱したのは、私達だった。
両手両足を段ボールの床につけて、本当にネコのように身体を伸ばす……
四足歩行にこの行動、それに……

「にゃ?」

さっきから『にゃ』としか言ってない。
私の目の前で、しっぽがウネウネ動いてる。

「ね、ねぇ、お姉ちゃん。この子、まさか……」
「……本当に、ネコなの……?」


☆ ☆ ☆


「――…で、連れてきたと」

帰ってきて、姉さん二人とお父さんお母さんにさっきあったことを伝えた。
私の膝の上には、さっきの子がいる。ちょ、鼻の前でしっぽを振らないでよ。

「……こんな子、初めてみるわ。ネコ娘……かしらね」

いや、お母さん。それはちょっと違うでしょ。
ネコ娘は言葉話せるし、第一あれはアニメの……

……いいえ、この思考はおかしいわ。アニメのキャラみたいなのが目の前にいるんだから。

「とりあえずは、ネコとして扱っていいのかしら。だとしたら、親が見つからない以上は養わないといけないわね」
「ホント!?」
「まあ、飼い主……って言っていいのかわからないけど、見つかるまではうちで面倒を見よう」

いのり姉さんとお父さんの言葉に、つかさの目がキラキラと輝く。
そういえばつかさ、前にネコを飼いたいって言ってたわね。
外見は人でも、ネコを飼えるってことが嬉しいみたい。
……いや、つかさのことだから外見で見てるかも……

「うう~ん♪ よろしくね~♪」
「うにゃっ」
「つかさ、その子が嫌がってるじゃない」

頬擦りをするつかさにまつり姉さんがぴしゃりと言い放つ。今回は意外に姉としての役割を果たしてるわね。

「かがみ、なんか言った」
「いえ、別に」

私とまつり姉さんでコントを始めた時、お母さんが小さく呟いた。

「……名前はなんていうのかしら……」

そうだ、名前。まったく気にしてなかった。
もとは飼い猫だったんだろうし、名前はあるんだろうけど、段ボール箱には『可愛がってください』としかなかったし……

「『たま』はどうかな?」
「ありきたりね。思い切って『ジョセフィーヌ』なんてのは?」
「まつり、それは思い切りすぎ」

姉さん達は新しい名前を付けることを決めたみたいだ。
今までと違う名前で呼ばれたら、この子だって混乱しちゃうじゃない。
……それにしても、人懐っこいわよね。警戒心とか、ないのかしら……

「ねぇねぇ、お名前は?」

私の横から、つかさがこの子に質問をしてきた。
いや、我が妹ながら……なんと天然な……

「つかさ。この子はこんな外見だけどネコなのよ?」
「あ、そっか……」
「名前を聞いたって、答えてくれるはずが……」

つかさの問に答えてくれるはずがないと、そう思っていた。思い込んでいた。
 
 
 
 
 
「こな、たっ」
 
 
 
 
 
そう、今の今までは。

「この子、喋った……?」

本日三回目の絶句。
あり得ないと思ってたことが、次々に事実へと変わっていく。

「ちょっ、今なんて言ったの!?」

あまりの&突然の出来事に、誰もこの子の言葉を聞いていた人はいないようだった。
私が聞くと同時に、みんながこの子に顔を近付ける。

「なまえっ、こな、たっ!」
「こな、た……『こなた』って名前なのね?」
「ふにゃ!」

私の問いかけに右手を挙げる。
間違いない。この子――こなたは、人の言葉を理解している。
これって……うまく教育したら、私達と同じ生活が送れるってことかしら……?

「こなた……じゃあ『こなちゃん』だね。よろしく、こなちゃん!」
「にゃ」

まあ何にせよ、これからしばらくは騒がしくなるわね。
 
 
 
 
 
「それじゃご飯にしましょうか。こなたちゃんには、私の秋刀魚を半分あげるわね」
「にゃ~お♪」
「お、秋刀魚で喜ぶなんて本当にネコみたいだね」

……この子がネコなのか人間なのか、わからなくなってきたわ……

 

 

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