ID:XojNX4o0氏:A memory blackout

 ある日の放課後、陵桜学園高等部の3年が居る階の廊下で怒鳴り声がした。
怒鳴っているのは柊かがみで、謝っているのは柊つかさであった。
彼女達は二卵性双生児の姉妹である。
「つかさ、どうしてくれるの?」
「ごめんなさい、何とかするから」
何でかがみが起こっているのかと言うと、それはつかさがかがみからノートを借りたのだがそれをなんかの拍子で紛失してしまったのである。
つかさはかがみの気迫に押されグスン、グスンと泣き出した。
騒ぎを聞きつけた姉妹の親友である、泉こなたと高良みゆきが話しかけた。
「かがみんや、少し熱くなりすぎだよ。少し落ち着いたら?」
「アンタは黙っていろ!ややこしくなるから。今日という今日こそはつかさにガツンと言わないと私の気が済まないわ」
「かがみさん、少し場所をわきまえたらどうですか?他の方々が見ていますよ?」
だが、一度振り上げたこぶしを下げようにも下げられないほど怒っている彼女には土台無理であった。
「もういいわ。私、帰るから。みゆき、済まないんだけれど今度ノートをコピーさせて?」
「良いですけれど、このまま帰ってしまうのですか?」
「つかさと帰ると何をするか分からないから」
そう言ってかがみは廊下に下ろしていた鞄を取るとずかずかと階段へ向けて歩いていった。
つかさはまだ泣いていた。
そうした中、こなたはみゆきに話しかけた。
「みゆきさん、済まないんだけれどつかさをお願いできる?」
「わかりました。泉さんはかがみさんをお願いします」
「合点承知だよ」
そう言ってこなたが階段へ向けて歩を進めようとした矢先、その階段から悲鳴が聞こえた。
「きゃー」
こなたとみゆきは顔を見合わせた。
かがみに何かあった、考えが一致するとつかさの手を引っ張った。
「つかさ、かがみのところへ行こう」
「で、でもー」
「つかささん、とにかく行きますよ」
そう言って悲鳴が聞こえたほうへ行った。
階段を下りて踊り場を折り返すとそこには凄惨な光景が広がっていた。
かがみは階段の下に血を出して倒れていた。
「お、お姉ちゃん…。おねーちゃーん、イヤー!」
そう言ってつかさはかがみに駆け寄っていった。
それをみたこなたとみゆきはただ事ではないと感じ、声を掛け合った。
「みゆきさん、私は保健室へ行って天原先生を呼んでくる」
「分かりました。私は応急処置を行いますのでお願いします」
そう言ってかがみを助けるべく、手を尽くし始めた。
ただつかさは気が動転し、かがみが死ぬのではないかと思っていた。
そう、私がもう少ししっかりしていればと…。


 かがみはその後救急車で運ばれた。
病院での診断の結果、かがみに対するみゆきの応急処置とこなたが大急ぎで天原先生を呼んだことにより失血はそれほど多くなかった事とCTやMRI等による脳の診断を行った結果が異常は見られない事が判明し、それほど問題はないとのことだった。
ただ、頭を強く打ったことにより脳震盪を起こし意識が回復していなかったが、それも数時間もすれば回復するであろうということだった。
かがみは一般病室に入っていた。
病室にはつかさとこなた、みゆきの3人が意識回復していないかがみを見ていた。
「私が悪いんだ。ちゃんとノートを持っていれば…」
「つかささん、だれでもなくし物はあります。私達も探しますから絶対に見つけましょう」
「そうだよ、つかさ。かがみにぎゃふんと言わせようよ」
「ゆきちゃん、こなちゃん、励ましてくれてありがとう」
つかさがそういった瞬間にかがみのほうからうめき声がした。
「うーん」
みゆきはすかさず声をかけた。
「かがみさん?」
かがみは意識を回復した。
「えーと、済みませんがどちら様ですか?」
突拍子もない反応に空気が凍りついた。
「えーとかがみ、冗談でしょ?」
「本当に、どちら様ですか?ちょっとどちら様か記憶がないもので」
こなたとみゆきは顔を見合わせた。
まさかと思うがそのまさかが起こってしまったのではと2人は勘繰った。
ただ、つかさはかがみの反応に対して恐る恐る声をかけた。
「やだなぁ、お姉ちゃん。こなちゃんとゆきちゃんでしょ?」
「いや、本当に思い出せないんだけれど。というか、貴方だれですか?」
「え?私よ?妹のつかさよ?」
かがみはつかさのその考え込んだ。
そして、かがみは驚愕の一言を放ってしまうのである。
「え?私は末っ子よ。確かお父さんとお母さん、それにいのり姉さんにまつり姉さんがいると思っていたけれど」
つかさは動揺した。
私はいないの?じゃぁ、私は一体何なの?と考えてしまった。
「お姉ちゃん、私は双子の妹のつかさよ?忘れてしまったの?」
明らかに錯乱しているつかさを見てまずいと感じた二人はナースコールをこなたが押し、みゆきが錯乱しているつかさをかがみから引き離した。
「つかささん、少し落ち着いてください」
「いやー。そんなのいやだー」
そうするうちに看護師がきた。
「どうなされましたか?」
「かがみさんの意識が回復したのですが、私達の記憶がないんですよ」
それを聞いた看護師は先生を呼んだ。
医師の再度の診断は外傷性による部分健忘と診断された。
階段から踏み外し、落ちたときに頭を強く打った事がその主な原因と推定された。
また、そのことにより身近な友人と家族との記憶が忘れられていたが今まで学んだことや見たニュースの内容などは思い出せることが結果となった。
外傷だが頭の切り傷を除けばひじやひざなどに擦り傷がある程度で、CTやMRIでの診断結果は問題がないとなった。
そのことから、その日のうちに退院して経過を通院にて行う事が決定した。
かがみの両親が車で迎えに来ていたのでつかさと一緒に家路に着いた。
夕食ではつかさの記憶がないことでのぎこちなさは在ったものの、ほぼ進んだ。
頭に包帯を巻いたかがみをみたいのりとまつりは声をかけた。
「かがみ、大丈夫?頭が急に痛くなったら言いなさいよ」
「うん、分かった。今は大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「しっかし、かがみが階段から踏み外すとは思わなかったよ」
「悪かったわね。私だってミスを犯すことだってあるわよ。失礼ね」
「悪い悪い」
そう言って会話は盛り上がっていたものの、つかさ一人だけが蚊帳の外に置かれていた。
いつものつかさなら、食事中に話していていつの間にか食べるものがなくなっていたと言う事が起こるくらいしゃべるのだが、今日は一切自分から話さなかった。
話しかけられても相槌を打つか話しても一言二言が精一杯であった。
「かがみ、つかさのことを本当に思い出せないの?」
「うん、本当に思い出せないの。というよりも覚えていないの」
「まぁ母さんや、焦っても悪影響を与えるだけかもしれないから、今はそっとしようや。それに一番ショックを受けているのはつかさだし」
そうしているうちに食事が終わり、かがみは医者からその日は風呂には入ることを禁じられていたので体を濡れタオルで拭いて自室で寝ることになった。
かがみがベッドに入って寝ようとしたときにドアをたたく音がした。
「お姉ちゃん、入るよ」
「いいわよー」
そう言って入ってくるつかさ。
つかさの手には分厚い本とノートらしきものを持っていた。
「お姉ちゃん、怪我する前になくしたって行ったノートが見つかったよ。これ、返すね。」
「そう。ありがとう。ところで、その分厚い本は?」
「これ、今まで撮った家族写真や小学校と中学の卒業アルバムだよ。記憶を戻すために手助けになればと思って持ってきたんだよ。」
「ありがとう。じゃあ、一緒に見ようよ」
「うん」
このとき、つかさは気分が少し軽くなったので少し明るくなった。
だが、かがみはアルバムの写真を見ても記憶が戻らず、確かにあったのねというこという感想だけしか出てこなかったのであった。

かがみは翌日から何日か間隔で病院へ通院し学校を遅刻することになった。
数日経って頭の傷のためにつけていた包帯も無事に取れ、記憶が戻らないことをのぞけば普通に生活できつつあった。
実際、小テストの点数も以前と変わらず、中学から同じクラスである日下部みさおや峰岸あやのの記憶はなくなっていなかったのである。
だが、全ておいて今までどおりの普通に生活できているのかと言えばそうでもなく、今までなら週の殆どをつかさ達と一緒に昼食をとっていたが記憶が無くなって以降はみさおとあやのと一緒にしかとらなくなった。
そして、今日の昼休みもかがみは自分のクラスでみさおとあやのと一緒に昼食をとっていた。
「柊―、傷はもう大丈夫なのか?」
「おかげさまで。ただ、まだ記憶の一部が戻っていないのよ」
「柊ちゃん、無理しないでね。そう言えば今度、一緒に勉強会でもしない?」
「うげー。勘弁してよー」
「あんたのためでしょうが。今度のテストも余り悪い点数取れないでしょうが」
「そうよ、みさちゃん。クッキーを焼いて持っていくから、頑張りましょう」
「それじゃぁ、仕方ねえなぁ」
そう言って和気藹々と話が進むのであった。
一方、かがみが来なくなったつかさのクラス。
かがみが居ないことによりつまらなさそうに食べるこなたにつかさとみゆきがさびしそうに静かに食べていた。
「今日も来ないね、かがみ」
「仕方がありませんわ。記憶がない以上は関係のないクラスに来る人は余り居ませんからねぇ。でも、少しさびしいですわね」
「それにしてもつかさ、元気がなさすぎだよ。大丈夫?」
こなたもみゆきもつかさが日に日に元気がなくなっているのを心配していた。
つかさはあれからあれこれと手を尽くしたもののかがみは記憶が戻らなかったのである
手をつくしたつかさは家族からどんどん離れていっているように感じており、気をつめすぎていた。
「うん…。大丈夫だよ。心配かけてゴメンね」
「つかささん、あまり気をつめすぎると体に悪いですよ?」
「ゆきちゃん、ありがとう」
「つかさ、話したい事があるのなら話したほうがいいよ?このままだとつかさがとんでもないことをするんじゃないかと心配だよ」
つかさ「こなちゃんも有難う。でも、心配しないで。私は大丈夫だから」
そう言って笑顔を見せるものの、つかさの顔は硬直した状態であった。
こなたとみゆきは顔を見合わせてなおさら心配になっていたのであった。

 放課後、学校から4人で粕日部駅へ向かっていた。
姉妹であるかがみとつかさが一緒になって帰るのだが、その光景が心配になっていたこなたとみゆきが付き添って歩くというものだった。
粕日部駅ではみゆき一人が都心方向のためにここで別れた。
「かがみさん、つかささん、こなたさん、お疲れ様です。また明日、会いましょう」
「みゆきさん、さよならー」
「ゆきちゃん、またねー」
「みゆきさん、また明日」
いつもの挨拶ながら、やはり3人は違和感を拭えなかった。
「私達も帰りますか」
そう言ってこなた達3人は伊勢崎線下りホームへ降り、ちょうど来た区間快速東武日光行きに乗った。
電車の中ではこなたとかがみは途中の糖武動物公園までラノベやゲームについての会話をしていた。
そして、電車は糖武動物公園の4番線に着きかがみとつかさが電車から降りた。
「かがみ、つかさ、また明日ね」
「こなちゃん、また明日ね」
「こなたさん、私の記憶が戻らなくてごめんね。なんとか思い出すから」
「かがみんや、無理をしなくていいよ。例え記憶が戻らなくても、私はかがみんが友達だということには代わりがないんだから」
「は、恥ずかしいこと言わないでよ」
そう言った瞬間、電車のドアが閉まりこなたがのった電車は東武日光へ向けて発車した。
かがみとつかさは隣の5番線へと移動した。
かがみ達が向かうほうに乗る予定の電車は3分後に到着する予定であった。
つかさは乗り口の案内表示の上に立つとかがみのほうへ向いた。
そして今まで一言も喋らなかった重い口が開いた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「何ですか?つかささん」
「私、お姉ちゃんの中から私の記憶が無いことに疲れちゃった」
かがみはつかさが何を言っているのかこの段階ではわかっていなかった。
つかさはキョトンとするかがみを尻目に話し続けた。
「お姉ちゃんと今まで生きてきた思い出を共有できないのが心苦しかった。でも、そのことを思いつめても何も解決しないことに気がついちゃった」
「つかささん?」
つかさは泣きながら喋っていた。
かがみにつかさの記憶がない事が悲しくつらかったことを思い出しながら。
「だから、終わりにしようと思っているの。お姉ちゃんに私の記憶がない以上、私は生き続けても意味がないもの。お父さんやお母さん、それにおねえちゃんとこなちゃんやゆきちゃんが悲しむとは思うけれど」
「つかささん、何を言っているの?」
「じゃぁね、お姉ちゃん。また生まれ変わったらまた姉妹になりたいよ」
ちょうど、乗る予定だった久喜行きの電車が進入しかかっていた。
つかさはそれに飛び込み自殺を図ったのである。
電車の運転手がそれに気づき警告の汽笛を鳴らして急ブレーキをかけていた。
その場に居たほかの客は助からないと思われていた。
だが次の瞬間、電車が何事もなく止まりつかさはホームの淵に座り込んでいた。
「な…ん…で…。私、飛び込んだよね?」
つかさが座り込んでいた近くでかがみが息を切らしながらへばっていた。
かがみがつかさの手を引っ張り、電車が通過する前に助けたのである。
「アンタが死んだら、私はどうするのよ!
「お、お姉ちゃん?」
かがみは話を続けていた。
「アンタ、私を孤独にさせる気?そんなの許さないわよ。つかさがいるから頑張れてこられたんだから」
「お姉ちゃん、記憶が戻ったの?」
「戻ったわよ。あんなことをされたら、誰だって思い出してしまうよ」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
そう言ってつかさはかがみに泣きながら抱きついた。
つかさはかがみから自分の記憶が戻ったことを喜んだ。
「そう言えば、こなたやみゆきにも謝っておかないとね」
「おねえちゃん、こなちゃんやゆきちゃんの記憶も戻ったの?」
「全て戻ったわよ。しっかし、今までつかさのクラスに行ってなかったから少し恥ずかしいけれどね」
そういう会話をしているところに駅員が来た。
「お客さん、大丈夫ですか?怪我はないですか?」
「ええ、大丈夫です」
「お客さん、申し訳ないのですが駅事務室まで来ていただけませんか?」
「へ?」
そう言ってつかさとかがみは駅員に付き添われて駅事務室へと連れられていった。

その日の夜、柊家。
一家全員が居間に集まっていた。
糖武動物公園まで迎えに行ったいのりが事の詳細を話した。
「つかさ、全くなにやってんのよ」
説明を聞いた第一声を出したのはまつりであった。
「ごめんなさい…」
「まぁまぁ、つかさも反省しているし気を追い詰めすぎてしまった私達にも問題があったんだし」
「そうだけれど」
父のただおが口を開いた。
「つかさ、もう2度とこんな馬鹿なことをするなよ。私達より先に死のうと思っては駄目だぞ」
「はい。すみませんでした」
やれやれと言う顔をしながら反対の席にいたいのりが話し始めた
「でも、鉄道会社の人も寛大だったね。ダイヤが大幅に遅れなかったことと精神的な事があったからということから厳重注意で済んだけれど」
「つかさ、そういうことだからもうしちゃ駄目よ。皆が悲しむだけだから」
「お母さん、ゴメンなさい」
そう言ってつかさは泣き出してしまった。
「つかさ、よしよし」
そういってみきはつかさをあやしだした。
そこでお開きだなという空気が流れた。
そして夜が更けていきつかさが風呂から出た後、かがみがつかさの部屋に入ってきた。
「つかさ、入るよ」
「うん…」
そう言ってつかさの部屋に入るかがみ、そして話し始めた。
「つかさ、今まで悪いことをしちゃってゴメンね。あそこまで怒る事もなかったね」
「うんん、お姉ちゃんのノートを無くした私が悪いんだから」
お互いに謝ってしまった。
次の瞬間、かがみは顔を赤らめながら話し始めた。
「つかさが居なくなった後の想像は私には出来ないよ」
「お姉ちゃん?」
「今まで生きてきて、これからも生きていくことを考えると私にはつかさが必要よ。確かにこなたやみゆきも居るけれど、双子の妹と言うことを考えると誰にも出来ないことよ」
つかさはかがみが何を言っているのか分からなかった。
「今までつかさが居たからこそ私は頑張れた。それは努力するために必要だったから。でも、つかさが居なくなったら私には何も残らないわ」
「そんなことないよ。お姉ちゃんは私の一歩先をしっかりと歩いているじゃない」
「それはつかさが居たから。それに別の道へ進んだとしても簡単に話せる人が身近に居るからいいのよ」
それを聞いたつかさは顔を赤らめた。
そして、徐に言った。
「お姉ちゃん、これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしく。さて、もう夜遅いし寝るわよ」
「うん。明日、こなちゃんたちにも謝らないとね」
「そうね。でも、私の記憶が戻ったことによりこなたが煩そうね」
「確かに。ただ、皆喜ぶだろうけど」
「それじゃぁ、お休み」
「おやすみなさい」
そう言って夜が更けていったのである。
眠りについたつかさは久々に子供のころにかがみと遊んだ夢を見た。
それは楽しく、永遠に続いているかのようであった。
それが姉妹の仲が永遠に続いていくかのごとくに…。

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最終更新:2008年07月21日 23:06
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