「ふむ……」
埼玉県某所、その一角にある明らかに不自然なテント。
薄暗いテントの中で、モニターを見ている男が一人。
「……久しぶりに日本に来たが、パトリシアは元気でやっているだろうか?」
その男は白衣を着ており、その髪は金色で、その彫りの深い顔立ちは日本人のそれではなかった。
「…まさか日本にもあれだけのロボット技術があったとはな……」
この男は一体何なんだーっ!!
同時刻。
泉こなた、田村ひより、パトリシア・マーティンの3人は上映会と称して泉家でアニメビデオを観賞していた。
『……逢いたかった…逢いたかったぞ!GUNDAM!!』
『っ!?』
『ようやく理解した…この気持ち……まさしく愛だッ!!』
『愛!?』
「この時の刹那のところでいつも笑っちゃうんだよねぇ、『何言ってんだこのホモ野郎』って感じでさ」
「あぁ、そういう捉え方しちゃうッスか…」
「男同士の愛はForbiddenデスネ☆」
『貴様は歪んでいる!』
『そうしたのは君だッ!!』
「でもなんか、ここの台詞だけ聴いてると…」
「「うんうん」」
「『何スかこのBL展開!?』って思っちゃうッスよ…」
「腐女子の哀しきSAGA Frontierデスヨネ☆」
「ちょwwwパティwwwサガフロってwwwwww」
と、アニメ談義で盛り上がっていたところへ、泉家に泊まりに来ていた小早川ゆたかが入ってきた。
「お姉ちゃんたち、ケーキ持って来たよー。…あれ?それなんてガンダム?」
「ああ、これは00だね、ちょうどDVDがあったから見てたんだよ~」
「ユタカも一緒にGUNDAM見マスカ?」
「うーん…このシリーズはたまにしか見てなかったから…お姉ちゃん、そのDVDあとで貸してくれる?」
「え?いいけど…」
「あぁ、小早川さんもついに腐女子の道を…」
「そんなことないもん!」
などと賑やかな時間を過ごしていた折に、ふいにチャイムが鳴った。
「はい、泉ですけどー」
こなたが玄関のドアを開けたそのときだった。
そこに立っていたのはこなたが今までに出会ったこともないくらいの大男であった。
「失礼、ここに赤い髪の女の子はいますかね?」
「な、なんですかあなた…」
「この写真の子なんですがね…」
男は1枚の写真を見せた。そこに写っていた姿を見てこなたは驚愕した。
「ゆ、ゆーちゃ…ん!?」
「この子を追っていたら丁度あなたのお宅についたのでね…失礼ながら上がらせてもらいますよ」
「ちょっ、勝手に決めないで下さい、もしかしてストーカーかなんかですか!?誰k…」
と、こなたが助けを求めようとしたそのときであった。
「DAD!?」
「パトリシア…!?」
「へっ?」
こなたはビックリ仰天。無理もない。
何故なら勝手に家に上がろうとしているこの男が、実はパティの父親だというのだから。
「…ってことは、え、えーっ!?」
「自己紹介が遅れましたな…私の名はアルフレッド・マーティン、娘がいつもお世話になっております」
「は、はぁ…」
こなたはただ驚いているだけだった。このいかにも怪しげな大男がパティの父親だということ。
しかしそれ以上にこなたが驚いていたのは…なんで親父さんの方が日本語上手いんだ!ということであった。
「こなたお姉ちゃん、一体どうしたの?」
「……!」
アルフレッドと名乗る男の目つきが変わった。
「探した…探していたぞ、君をずっとな」
「なっ、なんですかあなた!?」
いきなり見知らぬ相手にこんなことを言われては、流石にゆたかも動揺を隠せない様子だった。
「早速だが君と勝負がしたい。少しお付き合い願おう」
「な、何を訳わからないことを……」
『Daddy! It is said that what YUTAKA did!? She is not guilty
either!』(お父さん、ゆたかが一体何をしたって言うの?彼女は何も悪いことなんかしてないよ!)
『Please understand. Patricia. I want only to fight against her as one
scientist. 』(わかってくれ。パトリシア。私は一人の科学者として彼女と勝負をしたいだけなんだ。)
『What you say is not understood at all!』(何言ってるのかサッパリわかんないよ!)
「あー、親子で一体何をもめているのですかい」
「とりあえず日本語でおk」
「DADがドウしてもユタカとFightシタイと言って聞かないデス!」
「ユタカ?あのロボットの名前はユタカというのか!確かに日本らしいネーミン…」
『I'm not a robot!!』(私はロボットじゃないッ!!)
思わず英語で切り返すゆたかであった。
「ていうか…あなた一体何者?」
こなたがアルフレッドに質問を仕掛けた。
「いい質問だな、私は…どこにでもいる科学好きの男さ」
「なんぞ?」
本人はジョークをかまして振り切ったようだが、ここでアルフレッド氏について説明をしよう。
彼、アルフレッド・マーティンはアメリカでその人ありと謳われた天才科学者である。
彼がその天才的頭脳で今までに発明してきたものは数知れず、発明する喜びを求めて常に世界中を渡り歩いていたのである。
そして彼は小早川ゆたかに目をつけ、科学者として興味を持ったのだと言う。
ちなみに彼は51ヶ国語に精通しているのに、何故彼の娘であるパトリシア・マーティンがカタコトなのかはいまだ理解しがたい謎である。
「では…ユタカと言ったな…私の作ったロボットと勝負してもらおう」
「へ?」
アルフレッドはリモコンのようなものを取り出すと、赤いボタンを押した。
するといつの間にやら彼の後ろにあったコンテナから犬の頭をもったロボットが登場した。
「紹介しよう、私が今までに作り上げたロボットの仲でも最新鋭の『ドギージャック』だ。いままでにこのドギージャックに勝てたものはいない…君の性能を少しテストさせてもらうぞ」
「な、なんでまたこんな展開……」
「行け!ドギージャック!目標はあのロボットだっ!」
『BOW!』(ワン!)
『You understand if it's said, "I'm NOT a robot" times how
many!!』(だから私はロボットじゃないって言ってるでしょ!!)
『You are who it?』(じゃあ君は一体何者?)
『I'm a CYBORG!!』( サ イ ボ ー グ で す ッ ! ! )
と、ゆたかが英語でツッコミを入れる間もなく、ドギージャックは両腕からビームクロウを展開し、ゆたかに飛び掛っていった。ゆたかも負けじと、左の太腿からビームサーベルを抜いて応戦する。
「なんと、あのサイボーグはライトセイバーまで装備しているのか!」
「いやいやアンタのロボだって似たようなのついてるから」
驚愕するアルフレッド博士にこなたがツッコミを入れる。
そうしている間にもゆたかは右太腿からもビームサーベルを取り出し二刀流の構えをとった。
「はぁッ!」
『…!』
ドギージャックも負けじとビームクロウの出力を最大に上げ、ゆたかに斬りかかる…!
「っ…!」
ゆたかは右足に激痛を感じた。見れば右足の膝から下がビームクロウによって切断されているのだ。
「ちょっと、なんてことしてくれてんのさ!」
「ん?」
「ん、じゃないよっ!もし斬られたのが頭だったら、ゆーちゃんは…っ!」
こなたがアルフレッドに食って掛かる。大切な従妹の足を簡単に切り落としてしまったのだから無理もない。もし頭からまっぷたつに切断されればゆたかは死んでしまう…。
「…そうだな…ドギージャック!」
アルフレッドはドギージャックに指示を出す。
『Never aim at a head alone!』(頭だけは絶対狙うな!)
『It will not be such a problem!』(そういう問題じゃなくて!)
なぜかこなたも英語でツッコミを入れたのであった。
(BGM:『BEATMANIA ⅡDX』より『Xepher』)
「速い…この運動性は……」
ゆたかは持ち前の俊足を生かし相手の攻撃を巧みにかわしながら、反撃のチャンスをうかがっていた。
「何か弱点は…っ!!」
ふと、ドギージャックの動きがゆたかの目に付いた。
ドギージャックは全力で斬りかかったあと…冷却のために数秒間動けなくなる。
そしてその間は冷却フィンが開放されるため、その部分は装甲が薄くなる…。だとすれば…。
ゆたかは意を決して、ドギージャックめがけて突進する。
ドギージャックはこれが最大のチャンスと言わんばかりにフル出力でゆたかに斬りかかる。
しかし、ゆたかは寸前でトランザムを発動させ…間一髪のところで攻撃をかわした後…。
「えぇぇぇぇぇいっ!!」
冷却の都合で文字通りのガラ空きになっていたドギージャックの背中めがけビームサーベルを付きたてた。
その次の瞬間、ドギージャックは激しく火花を散らし、路上に崩れ落ちた……。
「まさか…日本のサイボーグに私のドギージャックが負けるとはな…」
アルフレッドはこう呟いてはいるが、その顔は何故か落胆の表情ではなかった。
寧ろ、「いやぁまいった」的な感じの顔で、どこか余裕さえ感じられた。
「…悔しく、ないんですか?」
ゆたかが尋ねる。
「いや、私は寧ろ君に感謝しなきゃならん。この失敗をバネに、また更なる新型ロボットが開発できるだろうからな」
「はぁ……」
「心から礼を言おう、Thanks!ユタカ」
そう言って、アルフレッドが立ち去ろうとした時だった。
「Wait!マダBackするのは早いデス」
「!?」
「サッキ…ドサクサに紛れてワタシのCellphoneをCrashしたノハ…Dadの作ったドギージャックネ…」
「な、何を言っとるんだパトリシア、あれは事故だ事故、Accident……」
『It isn't possible to permit any longer!I knock you
down!!』(もう許せん!叩きのめしてやる!!)
『Please wait!It understands if it speaks!』(待て!話せばわかる!)
「…なんか、パティもあんな父親持っちゃって大変だよね…」
「……アルフレッドさん…無事にアメリカに帰れるのかな…」
「せめて生きて還れることを祈るしかないッスね…」
こうして、今日もまた平穏な日が一日潰れたのであった。