ID:Vqkssb20氏:平凡な人たち

「ねえかがみ」
「何?」
「何か面白い話して」
「例えば」
「みゆきさんは高校生とは思えないような体型をしているのは何故か」
「却下」
「どうしてゆーちゃんはお母さんと血がつながっているわけでもないのに私よりも背が小さいのか」
「知るか」
「一ページで卒業した私たちは一体どうなってしまうのか」
「私に聞くことじゃないでしょ」
「わがまま」
「せめて私が話せそうなことにしてくれる?」
「じゃあ……よく受かったな。なんてかがみが言ってるつかさがどうしてここを受けたのか」
「何だかいきなりまともな話になったのは気のせいか?」
「理由なんていらないじゃん」
「はいはい……話してあげるわよそれくらいなら……どうせ暇なんだし」



 中学の受験なんて気楽なものだ。私は普段から勉強はしていたし、学校生活も特に目立つような素行をした覚えも無い。多分ほとんどの確立で受かるだろう。それくらいの自信はあるつもりだ。
 ごく普通の、どこにでも居る少し成績のいい女子。
 そんな私が進学校の陵桜を受けることは何の変哲も無く、当たり前のことだと思う。
 別に私は友達に付き合って高校を決めるわけでもない。ただ単に自分の行きたい場所にいくだけ。
 それでたまたま峰岸と日下部っていうやつらが行く高校が同じだっただけだ。
 それにあいつらも誰かについていこうなんて思っていない。
 日下部は陸上が強いから、峰岸は自分の学力に合わせて。私とあいつらの関係なんてそんなものだ。
 でもあの子は別。正直、確かに一緒に高校へは行きたい。でも無理して同じ高校に行く必要もない。
 正直言って今の成績じゃ陵桜に受かるなんて絶望的な数字しかあの子にはないのに。
「陵桜、あんたが?」
 家族で食卓を囲んでいるときに私はつい聞き返す。もうすぐ夏休み前で最初の三者面談がある。
 三者面談の前にはどこを受けるか位親も知っておいた方がいいだろうということで母が聞いたというわけだ。ちょうどいまここには家族全員居る。
「陵桜なんてやめときなよー、あんたじゃついていけないのがオチだって」
「まあまつり、話くらい聞いてあげなさい。それで、どうして陵桜に?」
「何となく、かな。お父さん」
「そうか……まあ、納得がいくように頑張りなさい。高校は別にあとで変えられるんだからね」
「でもお父さん、私は流石につかさに陵桜は無理かなー、とは思うんだけど」
「まあまあ。まつり姉さんもお母さんも、とにかく一旦つかさのやりたいようにさせてみようよ」
 私が一度締めくくってこの話を終わらせてみる。まつり姉さんもお母さんも、別に高校くらい後からでも変えられるんだから今はそっとしておけばいいのに。
 でも正直私から見てもつかさが陵桜に受かることは難しい。
 実際高校受験なんてやる気さえあれば大抵やり過ごせる。その努力によってはもともとつかさみたいな子でも上位の高校を狙えるようにはなるだろう。
 でもつかさはその努力が出来ない。勉強していたら机の上で眠ってしまうような子供だ。
 そんな子が一日何時間も勉強して――なんてことが続くわけが無い。
 それでも私は応援してみようとは思う。今までもそうしてきたから、あの子が言ったことを潰すようなことはしたくないから。
 


「で、結局つかさって言うほど勉強してたの?」
「まあそれなりに」
「それはかがみの基準で言ってるの?」
「まあね」
「つかさも不憫だね……」
「あんたの中のあたしのイメージこそ不憫だと思わないか?」
「そういえばかがみのお父さんって凄くいいポジションに居ると思うんだけどそのことについてはどう思う?」
「どんどん話がずれていってないか?」
「まあ話続けてよ」
「……まあ、このことを峰岸と日下部に話してみたんだけどさ――」



「柊の妹って陵桜そんなに厳しいのか?」
「そうみたいね、でもあの子は自分で言ったこと本気でやろうとするから後々少し怖いわ……無理して落ちるなんてことは無いと思うけれど……」
 あの子は普段抜けているだけに、何かをやり遂げようとしたら結構強情な一面もある。だからこそ、あの子が落ちたときのことを考えると一層怖い。
「だったら、柊ちゃんが勉強教えて助けてあげればいいじゃない」
「今までのテストもそうしてきたけれど、その結果が今の状態よ……。あの子、勉強の癖っていうのが身についていないからねー。それ含めても受かるのは厳しいと思う……」
 実際今までに何度か一緒にテスト勉強をしたこともあるが、いつも私よりあの子の方が早く終わってしまう。いや、むしろ私が勉強していたらいつの間にか船をこいでいるといった方が正しいのか。
「私もそんな癖ついていないけどなー」
「あんたみたいに推薦でどうにかしようと思ってるやつには期待してないわよ……あんたは面接の癖でもつけとけ」
「いや、柊。面接の癖ってなんだ……?」
「でもね、柊ちゃん。妹ちゃんがそんなに厳しいのを無理して入ろうとしているんだったら、なにか理由があるんじゃない? 例えば、柊ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だとか」
「あの子ならありそうだけど……いくらなんでも中学を終わろうとしている奴がそんなこと考えないと思うけどな」
 まあ確かに昔にずっと一緒に居ようとかメルヘンチックな考えを持っていた時期もあったが、流石に今もそんな風に思われていたら私としても少し困る。
 姉妹でもいつかは、離れ離れになってしまう。それは当然のことだ。
「案外柊が一緒に行こうって言ったのかもな」
「それだったらあんたらにこんな話してないわよ」
「でも……妹ちゃん、落ちて欲しくないわね」
 そう、落ちて欲しくはない、だからと言って志望校を無理やり変えて欲しいとは思わない。
 どうなるかはわからないが、私は出来る限りあの子の希望通りにさせてあげたいと思っていた。


「そういえばあの二人と腐れ縁って言ってたけど、どれくらいの付き合いなの?」
「確か中二くらいからだっけ」
「でも今かがみはうちのものだというわけだ」
「いや、私は一度たりともそんな風に思ったことは無い」
「いやいやうちのだから」
「いやいやうちのだってヴぁ」
「日下部どっから入ってきた」
「最初からこの三人だったよかがみ」
「なあちびっ子。さっきの話だけどさ、結局一番心配していたのは柊だったんだぜ」
「何で?」
「こいつ自分のことよりずっと妹の心配して勉強とか教えてやってんの。おかげで何に誘っても全然のってくれなくてさー」
「つまりかがみはみさきちのものではなかったというわけだ」
「あー、無限ループになりそうだから続き話すわ。まあ結局冬までつかさは強情でね」


 部活が終わった後の学校生活というものは本当に短いもので、なんとなく生活していたらいつの間にか――なんてこともよく聞く話だろう。
 私は普段どおりの勉強をし、受験だからといってそこまで気を張ってもいない。
 今の調子で行けば確実に合格するというお墨付きまでもらったくらいだから、やはりこのまま淡々とやっていく方が私には向いているのだろう。
 でもあの子は違う。
 あの子は今でも陵桜に入ろうとしている。そしてその為の努力は一応しているようだ。
 何故ならあの子の成績表を見てみると徐々に変わってきていることがわかるから。
 でもまだやめておいた方がいいという周囲の考えは変わらない。担任も本人の意思を確認して、普段は受けるべきではない点数でも受けさせることにしたのだ。
「ねえかがみ、つかさってただあんたについていきたいから陵桜受けるわけじゃないよね?」
 居間でコタツマジックにより眠りそうな状況のときに、まつり姉さんは私に何の前触れもなく聞いてくる。
 この部屋に居るのは私と祭り姉さんのふたりだけ。
「そりゃあ、つかさなりに何か考えているんじゃないの? 自分を変えたい――だとかそんなこと考えているのかもね」
「それは無いんじゃない? つかさならその程度の決意だとすぐ投げ出すと思うんだけど」
 まあ確かにそんな気がしないでもない。
「誰か友達がいるとか」
「そういうのだったら別に話してくれると思うんだけどな」
 そう、あの子は肝心の「どうして陵桜に行きたいのか」ということを話してくれない。
 いつも何となく、だとか下手だけど適当に話をはぐらかして話を終わらせようとする。
「私はね、今でもつかさは陵桜を受けないほうがいいと思う。つかさじゃ無理だよ」
「まあそう思うことも間違っているわけじゃないけど……まだ願書出した訳でもないんだし、別にいいんじゃない?」
「そうねー。でもさ、別につかさが馬鹿だって言いたいわけじゃないよ。ただ、あんたらが揃って笑っていないと、何となく気分が悪くて」
「へえ……まつり姉さんそんな真面目な話できるんだ」
「そんなに私って馬鹿に見える……」
「それなりに」
「大体まつり姉さんこそ大学大丈夫なの?」
「私のことは別に心配しなくてもいいの、大丈夫だから」
「一人暮らしするの?」
「さあね。それよりつかさでしょ、私のことなんかよりさ。……そういえば、滑り止め、受けるつもり?」
「まあ、一応……でもあの子にとっては陵桜に入れなかったら滑り止めなんて受かっても悲しいだけかもね」
「結局陵桜しか見えなくなっちゃってるんだよね。今のつかさは。そういうのって失敗したときの反動厳しいよ?」
「多分、わかってると思うよ」
「何で?」
「姉妹の勘って奴」
「――鳥肌たつようなこと言わないでくれる? しかもそれだと私も入ってるように聞こえるんだけど」
「そんなに間に受けないでよ……でもまあ、そんなこともわからないような人間じゃないでしょ、抜けていてもさ、大切なことは結構つかさ、覚えているから」
「わかっているような口聞くんだね。それも姉妹の勘ってやつ?」
「あー……やっぱそれ無し」
「訂正は出来ないよ、かがみ」
 私にはまだ、つかさがどうして陵桜に来ようと思ったのかはわかっていない。
 まあ、隠し事なんていうのは誰にでもあるし、別にそれは構わない。
 それが隠していても何とかなってしまうことなら。

「そういえばみさきちはかがみの姉さんと話したことある?」
「いや、別に」
「かがみの話し方的に、すごく面白そうな人に見えるんだけれど」
「そうね、イメージ的にはあんたら二人と同じくらい手のかかる人って思っとけばいいわ」
「失礼な」
「ひでえな」
「ちょっとは自覚しろ」
「でもさ。巫女服から受ける感じとは裏にそんなこともあるもんなんだね」
「そうね。私にもあんな一面があるとは思わなかったわ」
「でもさー、やっぱ柊の妹はすげえよ。なんだかんだ言っても最後にはすんなりと合格しちまったんだからな」
「私はつかさが他の高校に行っても道端で外国人から守ってあげたのは間違いない」
「それは守ってあげたとは言えないんじゃなかったか。……また勝ち誇ったような顔をするな!」
「……でもみさきちの言うとおり、つかさって案外凄いところあるよ。かがみと同じだね」
「無理やり話を断ち切るか……まあいいわ。次いくわよ」

その夜私は少し短い夢をみる。
 そこに居るのは私とつかさ。それははっきりと覚えている。
 ただ夢なので、そこがどこだかははっきりとわからない。起きたときによく覚えていなかった――なんてことはよくあることなんだろう。
 私たちはいつものように記憶にも残らないはずの何かを話している。
 夢の中でもここからのことは思い出せた。
 確かつかさが喋り始めて――。
「ねえお姉ちゃん、わたしが中学で立てた目標、聞いてくれる?」
「いきなり何よ突然……で、目標って?」
「お姉ちゃんと同じ高校に行くこと」
「へえ……私がどこの高校に行きたいか知ってるの?」
「陵桜でしょ? 大体わかるよ」
「あんた、今の自分の学力わかってる?」
「だからこそだよ……でもただ単にお姉ちゃんと一緒がいいなってだけなのかも」
「あんたね……まあいいわ、約束してあげる」
「私は、あんたと一緒に陵桜に行く、これが私の中学での目標で……約束よ」
「――ありがとう、お姉ちゃん」
――そっか……そういえばそんな話、していたな……。
 私、自分であんな優しい言葉かけておいて、自分で忘れてたんだ……。
 ……ということは……これはつかさの目標であって私の目標でもあるのか……。
 言っちゃったんだな、そんなこと。
 ということは……つかさがこれを覚えているんだとしたら……私ってただの白状者なんじゃ……。
 …………今度もっと勉強教えてやるか。
 いや、そんな白状者とかじゃなくて、純粋につかさを陵桜に行かせたいんだ、きっとそうだ。
 …………そう思いたい――――。

「……何でこんなファンタジー要素混じってるの?」
「別に。ただ本当のこと話してるだけよ」
「やっぱり姉妹の力ってやつか? ゲームとかだと結構あるよな」
「あ、みさきちもわかるんだ」
「まあ、少しは」
「というかさー、これがここに来たい理由だったとするとさかがみ。つかさってこんなにピュアだったっけって、疑っちゃうんだけど?」
「いや、これはむしろ天然じゃねえか?」
「……うちの妹をそんな風に無理やりキャラづけしようとするな!」
「でもかがみもすごいよね」
「何が?」
「自分の心境とか物凄く恥ずかしいことを簡単に人に語っちゃってさ」
「――次!」

「ねえつかさ、あんたさ、もしかしてあの約束気にしてたりする?」
 翌日。学校からの帰り道で私は今日の夢のことをつかさに話してみる。
 今日つかさとこんな約束をした夢を見た、それは確かに現実であったことだと思う。だからもしかしたらつかさはそのことを気にしているんじゃないか。理由なんてそんな簡単なものだ。
 理由が簡単なように、つかさにも簡単に答えられてしまう。
 今まで答えてくれなかったことは、結局私が忘れているのならそれでいいんだ、ということらしい。
「あんたがあの約束……目標か。そんなに気にしているなんて思わなかったな」
「気にしてるんじゃないよ、ただ、自分で立てた目標なんだから、ちょっとは頑張ってみようかなーなんて」
「そう……でもほどほどにしておきなさいよ。失敗したときに迷惑するのは、あんただけじゃない。例えばまつり姉さんがあんたのことどう思ってるか気付いてるの?」
「……わかってるよ。それでもやってみたいんだ。私がそうしたいんだから。お姉ちゃんはどう思うの?」
「何を?」
「私がこんな風に受かりそうも無い高校受けようとしていること」
「…………」
「ね、どう思う?」
「そうね――それは私の目標でもあるんだから、止めようとは思わないかな。それでなくてもあんたが頑張ると決めたことなんだから、応援するつもりだった」
「本当に?」
「それなりに」
「あ、本音がでた?」
「ばれた?」
「わかるよそれくらい」
「そりゃあ……私もまつり姉さんと同じような気持ちもあるけどね。でも落ちたらどうなるかっての考えときなよ」
「やっぱりお姉ちゃんもそうだよね……。でもそれは心配してくれてるんだよね」
「どうだろうね?」
「違うの?」
「むしろあんたが肝心なところで駄目になりそうな気がして不安」
 もしかしたら本当はつかさは何もわかっていないのではないのか、そんな不安が頭をよぎる。
 皆つかさを止めたいと思っているけれど、本心では応援していたいのだ。ということを。
 そしてつかさはその期待に応えることになる。

「……まさかそれで終わり?」
「終わり」
「だから今のつかさなのか……」
「そうよ。高校入ったら大して勉強もしなくなったつかさは、そういう意味で言うとパソコンとPS2のためにここに来たあんたと同類になったわけ」
「失礼な」
「本当のことじゃない。それともあんたにも何かつかさみたいな簡単な話でもあるの?」
「……ありません。正しくかがみの言うとおりです」
「ま、柊の妹は私と違って頑張ってここに来たわけだ」
「じゃあ、次はみさきちの面接の話が聞きたい」
「へ?」
「そうね、私も聞きたいわ」
「はい、じゃあ次にいくわね」
「……柊もちびっこも、もう次はないってことに気付いてくれ……」
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