ID:pjxX4cDO氏:消えない笑顔

0:壊れた歯車
 
 
時計というものは、たくさんの歯車が噛み合わさって初めて動くもの。

歯車が一つ壊れただけでも、その時計は新しい歯車をつけない限り、また動くことはない。

そして新しい歯車を手に入れた時、その時計は、新たな時計として時を刻んでいく。

私も、歯車が壊れた時計だった。新しい歯車をつけない限り、二度と動きだすことはない。

……はずだった。

なぜだか私の壊れた歯車は、修理された状態で戻ってきた。

だけどその修理は、応急処置みたいなもの。

『私』という名の時計が動くのは、5年間だけ――
 
 
 
 
 
1:真実の詩
 
 
7月6日。今日はつかさ・かがみの誕生日前日。今は二人の家に行くところ。何度も行ってるから、もうこの道も覚えちゃったな。
明日は月曜だから、誕生日のパーティーは今日しちゃうんだよね。
だけど、みゆきさんが来れなかったのは残念だな。プレゼントはもう渡してるみたいだけど……

「おーい、かがみにつかさー。来たよー」

インターホンを押して、二人が出てくるのを待つ。
そしたらしばらくして、かがみが玄関のドアを開けた。その後ろにはつかさもいる。

「いらっしゃい」
「ハッピーバースデー。つかさ他一名」
「略すな!」
「あはは……」

いつも通りのやりとり、いつも通りの風景。……なんだけどネ……

最近かがみの様子が変だ。
つかさもみゆきさんも気付いてなかったみたいだけど、私にはわかる。
かがみは、絶対になにかを隠してる。とても重大な、なにかを……

「先に行ってて。飲み物とお菓子を持ってくるから」
「わかった」

台所に入っていくかがみを背に、私とつかさは階段を上がる。
今日こそ、かがみの秘密を聞き出さなくちゃ……


/


「だよねー。くさいよねー」
「あははっ、確かにねー」

明日の誕生日プレゼントを今日渡しちゃって、みんなでお菓子を食べながら楽しくお喋り。でも、かがみの瞳はあんまり笑ってない。
今まで私達と話してる時も、かがみはたまに、遠くを見るような悲しげな目をしてたんだ。間違いなく悩んでるよ。
……それに……

「ねえ、かがみ」
「なに?」

ちょっとためてから、私は極めて冷静に言った。

「かがみ、悩み事か隠し事があるでしょ」
「!」

ふ、露骨過ぎる反応。かがみは頭が良いのかバカなのか、たまにわからなくなってくるよ。

「かがみ、最近悲しげな表情を見せるようになった。つかさやみゆきさんは気付かなかったみたいだけどネ」
「そっ、それは……」
「それに、さっき私が指摘した時、身体がビクッて震えたよ? なにか隠し事があるんじゃないの?」

かがみはこういう『押し』に弱いからネ。徹底的に押して行こう。
……つかさ、ごめん。今、空気になっちゃってるね。まあ、こんなムードに首を突っ込めるような人間じゃないってのはよくわかってるけどさ。

「こ……こなたの気のせいよ。悩みなんかないわ」
「本当に? ……私ね、かがみが陰で泣いてるところ、見たことあるんだよ?」
「!」

また反応した。間違いなく、なにかある。
……てかかがみ、はぐらかせてすらないし。イライラするなぁ。

「それは……その……。は、ハバネロのお菓子あるじゃない。あれ、食べたら辛過ぎて涙が」
「嘘だッ!!!」
「「!?」」

使うべき時は来るかな、とか思ってたセリフ。やっと言えたよ。
って、今はそんなことどうでもいいや。

「お願いだよ、かがみ。私達は親友でしょ? 何があったかだけでも、教えてくれないの?」
「……こなた……」

本当に親友と思ってくれてたのかって心配だったけど、大丈夫だったみたい。
でも、これでもはぐらかすようだったら……親友の縁、切っちゃうかも……

話してくれるか、拒絶するか。その二択だと思ってた。
だけど、かがみの反応は、予想してたのと全然違うものだった。

「……はは……」
「「え?」」
「あっはは……ダメだ、もう我慢できないや……」

かがみは、泣きながら笑っていた。

「か、かがみ……?」
「はは……最後まで自分らしくいようと思ってたんだけど……。らしくないよね、こんなの……」

かがみ……本当に、どうしちゃったの?
こんなになるまで、思い詰めてたなんて……

「……ねえ。こなた、つかさ。二人は超常現象とか、そういうの信じる?」
「わ、私はあんまり信じてないな」
「私は……ちょっと、信じてるよ」
「そう……。じゃあ……」

そこで、かがみは黙り込んでしまった。
『じゃあ』一体なんなのか。私達はただ黙ってかがみの次の言葉を待つ。
しばらくして、かがみがようやく口を開いた。
 
 
 
 
 
「私が……『5年前に死んだ人間』って言ったら……信じてくれる……?」
 
 
 
 
 
2:笑顔で見送りを
 
 
「な……何……言ってるのさ……?」
「お姉ちゃん……私の目の前にいるじゃない……」

そう、お姉ちゃんは私の目の前にいる。死んでなんかない、ちゃんと生きてる。
だけど……すっごく、イヤな予感がする……

「そうよねー。それが普通の反応なのよねー。うん」

お姉ちゃんはしきりに頷くと、俯いたまま語り始めた。

「私は、ちょうど5年前の今日、5時14分に交通事故で死んだ。だけど私はここにいる。
説明すると長くなるけど……神様って名乗る人から、猶予を貰ったの。『交通事故に遇う前に戻す。その世界で過ごすがいい』って。
……ふふ、神様なんて、天国なんて信じてなかったのにね……」

……やっぱり……。
やっぱり、嘘じゃなかったんだ……。
信じたくなかった。嘘だって言って欲しかった。
だけどお姉ちゃんがこんな嘘をつくはずがないって、わかってた。
だって、今まで18年間も過ごしてきた、私の双子のお姉ちゃんなんだから……

「……それで……猶予って……いつまでなの……?」

そ、そうだ。猶予っていうくらいだから、制限時間があるんだ。
どうか、その制限時間が長くあって欲しい。もっとお姉ちゃんと一緒にいたい。

「……ジャスト5年よ」
「――!!」

嘘……!? それじゃあ……
今、5時12分……あと2分しか時間が……!!

「本当は教えたくなかった。5年が過ぎれば、この世界とみんなの記憶は消えて、私が死んだ世界の5年後になったのに……」

……嫌だ。
お姉ちゃんと……別れたくない。

「……えぐ……そんなの、ヤだよぉ……ひっく……」

涙が止まらない。
お姉ちゃんとずっと一緒にいたいだけなのに、なんでそれができないの……?

「泣いちゃダメ、つかさ……」
「……え……?」

隣から、こなちゃんの声が聞こえてきた。
泣いちゃダメって言ってるけど、こなちゃんの声、震えてるよ……

「かがみが困ってるよ。最後くらい、笑顔で見送ろう」

涙を拭いて見たこなちゃんの瞳は、微かに潤んでた。
本当は、こなちゃんも泣きたいんだ。お姉ちゃんのために、それを我慢して……

「……わかった」

涙で見送りなんてダメだ。笑顔で送らなきゃ。
私は瞳に残った最後の涙を拭いて、お姉ちゃんに笑いかけた。

「お姉ちゃん、今までありがとう」
「いろいろ迷惑かけてごめんね。でも私達は、かがみが大好きだったよ」

私とこなちゃん、今できる精一杯の笑顔でお姉ちゃんにお礼の言葉を言った。

「……バカ……それくらい……わかってるに決まってるじゃない……」

お姉ちゃんの瞳から零れ落ちそうになった涙を、二人で一緒に拭いた。

「ほら、かがみん。最後まで自分らしく……でしょ?」
「涙なんて、お姉ちゃんらしくないよ?」

これは私達の本心だ。
例え記憶から消えちゃうとしても、お姉ちゃんの笑顔を、心に刻み込んでおきたいから。

「……ありがと、二人とも。でも、もう時間みたい」

お姉ちゃんが笑顔でそう呟いた瞬間、周りがいきなり暗くなった。

「さよなら、こなた。さよなら、私の最愛の妹、つかさ……」
 
 
 
 
 
3:消えない記憶
 
 
「……なんか、すっごく長い夢を見てたような……」

う~ん……覚えてないや……。なんで夢の内容って忘れちゃうんだろう……。
どうでもいい時に思い出したりするんだけどね……。
っと、危ない。早く支度しなきゃ学校に遅れちゃう。
 
 
 
「つかさ、誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます、柊さん」
「ありがとう、二人とも」

今日は7月7日。私の誕生日なんだ。
学校に着いてすぐ、こなちゃんとゆきちゃんからプレゼントを貰った。中に何があるのかなー。わくわく♪

「それと、これ」
「え?」

もう一つ、こなちゃんからプレゼントを貰った。きれいにラッピングしてあるけど、これは……

「つかさのお姉さんへの誕生日プレゼント。確か、かがみさんって言ったっけ」

5年前に、交通事故で死んじゃった、私の双子のお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんにまで、プレゼントを用意してくれてるなんて……

「なんかさ、この間夢を見たんだよね。私とつかさとかがみさんで一緒に遊んでる夢」

へ~、だからお姉ちゃんにもプレゼントを用意したんだね。

「知らない方の夢を見るとは、不思議ですね」
「でしょ? 私、かがみさんの性格とかまったく知らないのに、脳内ではツンデレとして扱われてたんだよ」

えと、つんでれ……?
よくわからないけど、夢の中ではこなちゃんとお姉ちゃんは仲が良かったみたいだね。

「今日行っていいかな。かがみさんにお線香を供えてあげたいんだ」
「私もご一緒させていただいてよろしいでしょうか?」
「うん!」
 
 
 
 
 
お姉ちゃん。私、ちゃんと頑張れてるよ。
友達だってちゃんとできてるし、勉強だって前に比べたらできるようになったんだ。
お姉ちゃんがいないのは確かに寂しいけど、今はみんながいてくれるから大丈夫。
それに……目を瞑ったら、目の前にお姉ちゃんの笑顔が浮かんでくるから、大丈夫だよ。
私がもっと一人前になるまで、空の上から見守っててね。私が大好きだったお姉ちゃん……
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