「ところでゆーちゃん」
「?」
「そのペンダント、たまにもってくるけど一体何が入ってるの?」
「…これ、私の大切な宝物なんだ」
「宝物…?」
――1年前…
私は病院のベッドの上に寝ていました。
私が苦しそうな顔をする度、こなたお姉ちゃんやおじさん、ゆいお姉ちゃんが励ましてくれましたが…。
もう、私に残された時間は少なくなっていました。
ねえ……なんで私が死ななきゃいけないの…?嫌だよ…まだ私、みんなと別れたくないのに…。
「こなたお姉ちゃん……私………」
「……」
「お姉ちゃん…みたいに…強く……なりた…い……」
……あぁ…だんだん意識が遠のいていく…
…私、死んじゃうんだね……さよなら……こなたお姉ちゃん…。
さよなら……みなみちゃん…さよなら、みんな……。
「………かちゃん、ゆたかちゃん…」
暗闇の中で誰かが呼ばれた気がして……私が目を開けると、一筋の光の中に女の人が立っていました。
「…だ、誰……」
「ビックリさせてごめんなさいね、私は泉かなた…」
「かなた…さん?それじゃぁ、こなたお姉ちゃんのお母さん?」
「ええ。それよりゆたかちゃん、どうしてここにきちゃったの?」
「…私は……」
私はかなたさんに、ここまでの経緯を話しました。
「そうだったの……」
「私、まだ生きたかった…まだ死にたくなかったのに……」
「そうね…でも、ここへくるのはまだ早いんじゃないかしら?」
「え……?」
「ほら、あなたの後ろに光の道が見えるでしょ?ゆたかちゃんはもう一度生きるチャンスを与えられたのよ」
「待ってください…!それって、一体……」
ふと目が覚めると、私は手術台の上に寝ていました…。
これは一体……私のお腹には穴が開いていて、そこに覗いていたのは、機械の塊…。
そして、腕を動かす度に聞こえる微かなモーターの音。
いったい、何があったのか…まだ何がなんだかわからない私のもとに、一人の女の人が歩いてきました。
「…気がついた?小早川さん」
見覚えのある姿と、聞き覚えのある声。そう…この人は……。
「天原先生、私…どうなっちゃったんですか?突然目の前にかなたさんが現れて目が覚めたら私は機械でっ、あうあう…」
私はパニック状態になってしまい、何を言っているのかわからないような状況になっていました…。
「落ち着いて、小早川さん!…全部説明してあげるから…」
「サイボーグ……?」
「ええ、今のあなたは機械仕掛けの体を持っている…脳以外はね」
「…それで、お腹の中に機械が……」
「実はあなたの脳にも少し手を入れさせてもらったの。腐っちゃうといけないから…」
「え?それは…」
すると天原先生は、大きなモニターのスイッチを入れました。
「これを見て。…あなたの脳はナノマシンを使って結晶化されているの。そのおかげで小さくなってるけど、思考能力や記憶には問題ないから安心して」
「はぁ……」
「それと、今のあなたの身体は急場しのぎだから、とりあえずは充電式よ」
充電式……。そうか、ご飯を食べることは出来ないんだ……。
ちなみに、再改造すれば動力炉は取り付けてもらえるということなので、それまでは我慢するかな…。
「これでよし、っと」
そう言って天原先生がお腹のハッチを閉じます。
「さぁ、歩いてみて」
「あ…はい……」
私はベッドから起きると、その足を一歩、二歩と進めていきます。
できたての機械の身体だから早く慣れなくっちゃ……。
三歩、四歩……。
「アッー!!」
―ドンガラガッシャーン!
いたた…転んでしまいました。…あれ?痛い……?
そうか…機械の身体でも痛みを感じるように出来てるんだね…。
気を取り直して、もう一度……。
こうして、1週間という調整期間を経て、私もようやくこの身体に慣れてきた頃、天原先生が訊いてきました。
「ところで、古い身体の方はどうするの?」
「え……?」
「ほら、脳だけとったからそのままの形で残ってるでしょ?このまま置いといたら腐っちゃうかもしれないし」
「…じゃあ…処分はそちらにお任せします…ただ…」
「ただ?」
「古い身体を焼いたあとに…その灰を少し、私に分けてもらえませんか?」
「どうして?」
「……生きてるって証として、持っていたいんです。私が、小早川ゆたかという人間が生きている証明として……」
「…わかったわ」
こうして、今まで過ごしてきた私の身体は焼却処分されることになりました。
すっかり冷えきった生身の身体。今までの「私」、本当におつかれさま……。
そして、これから生活を送る機械仕掛けの「私」…どうかよろしくね。
―――1年後
「そうだったんだ、この中にはゆーちゃんの生きてる証が入ってるんだね」
「まぁ、古い身体を焼いたあとの灰なんだけど…これを持っていると安心できるって言うか…」
「安心できる?」
「うん、だからずっと……大切にしてるんだ」
私はペンダントを大事に持っています。中にあるのは、私という人間が生きている証。
そう、私が生きてることを教えてくれる…大切な…宝物だから……。