オキナワ戦記 第Ⅰ話「オキナワ占領」
出番の無いことを嘆いた脇役の皆様方が、革命を起こした。「うはは。オキナワ(仮名)はウチらのもんやで」こう叫んだのは黒井ななこである。校医や小学生なども同じように発言したが、残念ながら脇役レベルが高すぎるために声は誰にも届かない。「あらゆるネタを受け入れ、主役が脇役を虐げない境地を持つ国家。その名ハ、合衆国オキナーワ!!デース」片言で喋る事で自己主張をするアメリカ人が国名を宣言した。彼女の名前は、たしか――パトリシア=マーティン・ジグマール?間違っている気もするが、まあいい。ともかく、彼女達はオキナワを占拠することに成功した。米軍基地を移転させ、無防備都市宣言をしてもらえていたおかげである。
「納得がいきません……」皆が手を取り合って喜んでいる隅で、計画の立案者である眼鏡の少女は暗い顔をして立っていた。「私はメインキャラのはずです。それなのに、どうしてこんな所に……」「気にしないで騒ごうよ。高翌良さん」「それです!」笑顔で話しかけてきた八坂こうに、みゆきは声を大にして詰め寄った。「そもそも、それがいけないんですよ。苗字の間に翌という字さえ入らなければ、私の出番はもっと!」「名前にハンデがなければ出番が増えるなんて思っていたら、大きな間違いですよ。先輩」感情的になったみゆきに口を挟んだのは、眼鏡をかけた腐女子だった。「ひよりん!? あんたも参加してたんだ」こうが驚くのも無理はない。田村ひよりといえば、『同人誌でしたオチ』で一躍有名になった人物だ。荒唐無稽なストーリーを強引に終わらせるために、彼女の力は必須と言ってもよい。『物語に終焉をもたらす者 デウス・エクス・マキナ』物語の中心にはならなくても、幕引きのための絶対の力を持った少女。そんな重要人物が何故ここに?全員から疑惑の視線が集まる。「え、やだなあ。こーちゃん先輩。先輩が参加するって言うから来たのに」「ひより……?」「覚えてないッスか? 初めて部室で顔を合わせたとき、先輩は私に」「ダメっ! 田村さん、その手の発言をしたら――」峰岸は慌ててひよりの言葉を遮ろうとしたが、手遅れだった。「あれ?」額から血を流し、ひよりは仰向きに倒れる。死んだ。いいや、殺された。「いけない。みなさん、早く物陰に隠れてください!」みゆきが指示を出す間にも、二人が身体を撃ち抜かれた。
「無駄な抵抗は止め、ただちに背景としての役割に戻りなさい」
拡声器を通して伝えられる警告の言葉に、全員が戦慄した。よく知った声に、みゆきの肩は微かに震えた。メガホンを持ったこなたと、手漕ぎボートを必死に操るつかさ。そして、スナイパーライフルを構えているかがみが、草陰から確認できた。そういえば、彼女はシューティングゲームが得意だった。そう。これはゲームだ。主役級である彼女達にとっては。「返事は無いみたいだね。よろしい。ならば戦争だ」
『次回予告』
凶弾に倒れた、ひなたと校医。校医は作者に名前を思い出してもらえないまま死んでしまうのか?ひかげは姉を助けることが出来るのか?
「歌で戦いを終わらせる?」「そうよ。私の『三十路岬』でね!」
本編とは異なる次元を生きる二人が、脇役達を救うために現れる!?
「柊さん。出番という光に満ちた世界で生きて来たあなた達では、私達姉妹には勝てない」「ステルス? ……違う、これは空気化!!」
「残念だよみゆきさん。裏切ってくれれば主役級に返り咲けるって言ったのは、本当のことだったのに」「泉さん。私達は、出番のために戦おうと決めたわけではありません」
オキナワ戦記 第Ⅱ話「日陰の人たち」
※次回は三重テレビのみでの放送となります。
どくん、と心臓が跳ねた。「お姉ちゃん!」姉が撃たれた。そう認識した瞬間に、ひかげは走り出していた。ひなた以外にも白衣の女性が膝を折るが、そんなものは目に入らない。彼女が目指すのはただ一人。姉のもとへ。危険ではないかという考えなど、欠片も浮かばなかった。「お姉ちゃん。待ってて、すぐに手当てをするから」そう言ったはずが、声にならなかった。代わりに溢れるのは、目からの大粒の涙だ。「はや、く。逃げよう。逃げようよ」「あらあ、どうしてそんな顔をしているの?」ひなたは妹の目元に手を伸ばすと、指先で涙を拭った。「平気よお。そんなに痛くなかったから。……倒れていればきっとそれ以上は攻撃されないから、ね?」そう言って、ひなたは妹の身体を押した。だが、逃げられるはずがない。たった一人の肉親を見捨てて逃げることなど、ひかげには出来なかった。
「ねえ、みゆきさん。そこにいるよね?」戦争だと言ったにも関わらず、こなたは拡声器を使っての呼びかけを続けていた。無防備なひかげをいつでも狙い撃つ事が出来るはずなのに、かがみも同様に沈黙を守っている。「みゆきさん。裏切って私達に協力する気はない? 仲間になれば、再びメインキャラになれるよ」「……そんな話を受け入れることは出来ませんよ」顔をしかめたみゆきの叫びは、ひかげの耳にも届いた。それを聞いて、海上のこなたは拡声器を持った腕を下ろした。交渉決裂。この先に待っているのは、みゆき達の射程外から一方的に狙撃をされる虐殺の時間だった。「残念だよみゆきさん。裏切ってくれれば主役級に返り咲けるって言ったのは、本当のことだったのに」最後にこなたが残念そうに言った。「泉さん。私は、出番のために戦おうと決めたわけではありません」出番のためではない?みゆきの言葉に驚いたのはボートに乗る三人だけではなく、ひかげも同様だった。てっきり、出番を求めてこんな大事件を起こしたのだと思っていたのだ。出番があれば出演料が貰える。そのお金で食べ物が買える。生きるための戦い。ひかげの戦う理由はシンプルなものだった。ひかげほど切迫していないメンバーも、出番の少なさを嘆いて戦っている。そう思い込んでいた。ところが、みゆきはそれを否定したのだ。彼女にとって、この戦いはどんな意味を持っているというのだろう?これは何かの伏線か、それともただのハッタリか。ひかげが目を丸くしたまま立っていると、みゆきが小声で語りかけてきた。
「お姉さんを助けるチャンスを今から作ります。だから、あなた達は逃げてください」「ど、どうやってですか?」「一瞬だけ、注意を逸らしてください。その後は、すぐにこの人を連れて脱出してください」
みゆきの話す内容は、物理現象をまったく無視したものだった。だが、そんな事は関係ない。『この世界には関係ない』漫画や小説などの世界観を考える際に重要なのは、創り上げた世界の中で矛盾が発生するか否かだ。現実の物理法則との齟齬があっても、その架空の世界には関係がない。因果関係がおかしくても、その世界は別の法則が支配していると言い張ればいい。
みゆきの言葉が正しいのかは、ひかげには判断できなかった。齟齬という言葉を小学生に使っても、意味が通じるはずが無い。だが、語気を強めて言うみゆきを信じて、ひかげは言われたとおりに行動することを決めた。彼女は姉の手を握り締め、海の上の少女達に向かって叫んだ。
「柊さん。出番という光に満ちた世界で生きて来たあなた達では、私達姉妹には勝てない」ひかげに注意が集まっている隙にみゆきは自分の眼鏡を外すと、地面に落として踏みつけた。ぐしゃりという、不吉な音。その瞬間、ひかげの姿が消滅した。その不可解な現象に、こなた達は浮き足立った。「ステルス? ……違う、これは空気化!!」叫んだのは、自身も姿が消えている八坂こうだ。しかし、空気化している人間の言葉は、そうでない人間には届かない。どこにも肉体は存在せず、影すら映らない。究極の隠蔽能力。みゆきが眼鏡を砕いたのは、それが『後々まで影響する重要な行為』だからだ。眼鏡を失った彼女は、視界に入った対象が何であるかという認識ができなくなる。敵か味方かさえわからない状況では、みゆきの行動は大きく変わる。そのため、自分以上に脇役である人物の行動描写よりも優先して描写されるのだ。今や、この海辺で姿を確認できるのは、こなた達三人とみゆき、ゆたか、みなみ。そして、死んでいるひよりだけだった。
「ふふ。この様子なら、どうやら上手くいったようですね」
自分の作戦が成功したことに満足して、みゆきは笑った。眼鏡が無い状態では、走ることも望めない。だが、ひかげ達を逃がすことは出来たはずだ。彼女達が他の仲間に知らせてくれれば、たとえ主役級が三人いても何とかなるだろう。遠くで二発の銃声が聞こえた。おそらく犠牲になったのは、脇役レベルが低かったみなみとゆたかだ。這って移動することも諦めたみゆきは、二人に心の中で謝った。砂を踏む足音が近づいてくる。ああ、これで終わりかとみゆきが思っていると、口にハンカチが押し当てられた。みゆきの記憶はここで途切れた。
☆
緊急時の合流地点となっていた空港には、大勢の人間が詰め掛けていた。「どうせ、政府は遺憾の意を表明して終わりだろ。いいから、飛行機を飛ばせって」逃げ出そうとする人間たちに対処しているのは、柊家の夫妻と二人の娘である。予測を超える混乱ぶりに、彼女達はひどく戸惑っていた。いざという時の脱出手段を確保するためにも、空港には多くの人員が割かれていた。港付近の警戒をしている三人の教師とみゆき、宮河姉妹を除けば、ほぼ全員がこの場所に集まっていた。当然、戦闘用の装備が集中している場所にもなっており、革命側の拠点だと言える。しかし、交代をしに六人が海へ向かい、更に成実ゆいが抜けた。通信が妨害されている事が判明したので、警戒して欲しいと伝えるためにである。だが、そのため空港に残ったのは、わずか六人。そこに、希望をもたらしてくれるかもしれない光があった。地方公演に来ていた中学生アイドルの少女である。「ふう……。白石、どうやら私の出番らしいよ。アイルドは辛いわね」「えっ? あの、あきら様。どうするおつもりですか?」「決まってんでしょ。歌よ、歌。歌うことで相手を感動させて、武装解除をさせるって寸法」「歌で戦いを終わらせる?」できるはずがないと白石は思ったが、逆鱗に触れるだけなので制止はしない事にした。「そうよ。私の『三十路岬』でね!」その自信はどこから来るのか、あきらは人込みを掻き分けつつ、ゆっくりと歩いていった。白石が黙って見ていると、あきらは館内放送ためのマイクを奪い取って叫んだ。「私の歌を聴けー!!」あきらが大きく息を吸った後、建物内にはアカペラでの三十路岬が大音量で流れ出した。ただおが音量を最小にしようとする動作をあきらは見逃さずに、逆に最大音量にしたのである。「な、なんだ。この歌声は。理性が死んでいくような気がする」「ああ……心が荒んでいく。そうだ。俺達はもう駄目なんだ」「ぶっ壊せ! こんな国は、存在してはいけないんだ!」無力であったはずの人質達は、ささくれ立った感情を剥き出しにして騒ぎ出した。絶叫、憤怒、猜疑。その先に待っているのは、必然の暴動だった。
日下部「さーて、次回はどうなるのか」峰岸「あれ、予告ってこういう形式だったっけ?」日下部「いや……あんまりにも私達の出番が無いから。せめて予告くらいは出演させてもらわないと」峰岸「そうだね。私達、未だに台詞が一つもないもんね」日下部「まあ、ともかく。予告だろうが、発言できる場があるっていうのは嬉しいよな」峰岸「そうだね」
次回、オキナワ戦記 第Ⅲ話「絶対領域」
日下部「このタイトル……もしかして、あやのの出番なのか? そうなのか!?」峰岸「えっと、みさちゃんも活躍するはずだよ! きっと、たぶん……可能性はあるはず」日下部「わぁあぁ。何も言われなければ、普通にペアで活躍だと思えたのに。みゅーん……」
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