ーホワイトな日ー朝、出掛け様、こなたはそうじろうに呼び止められた。「こなた、今日はバイトとかあるのか?」靴を履きながら、こなたは答える。「ううん、特にないけど、…どうして?」頬をぽりぽりかき、そうじろうは嬉しそうに言う。「ああ、ちょっと用事があってな。出来れば早く帰ってきてほしい」「…うん。遅くはならないようにするよ。よし、じゃ、行ってきます!」「おぅ!気を付けてな」ふふんと満足げに笑みを浮かべ、こなたを見送ると、そうじろうは軽い足取りで書斎に戻るのだった。道行くこなたの顔もまた、頬の緩みを隠せないでいた。(何かいい物でも用意してくれてるのかな♪)3月14日、今日は特別な日、なのだから。
帰宅後、こなたは「これに着替えてくれ!」と、そうじろうに箱を渡され、部屋に入って颯爽それに着替えると、居間へとやってきた。「ちょ、…お父さん、この服は?」いつもの男の子らしい軽やかなそれとは違い、まるで発表会か、式典で着るような、いわゆるフォーマルなドレスをこなたは着ていた。「女の子なんだから、たまには可愛い格好しなくちゃ、な。よし、でかけるぞ」そう言うそうじろうも、いつもの作務衣とは違い、珍しくスーツ姿であった。「行く?どこへ?」「ふふん♪良いとこ良いとこ♪」待ってましたと言わんばかりにそうじろうは答える。それから2人は、間もなく来たタクシーに乗って、何処かへと去っていった。
高層ビルの1フロアを陣取る、高級レストラン。周辺を一望できる展望スペースに、2人同様、かしこまった服装の人々が、優雅とも思える仕草で、食事を楽しんでいた。悠々とクラシックがかかり、場の雰囲気を一層麗らかなものにしている。こなたとそうじろうは、そこの一角に腰を下ろしていた。
目の前の純白のテーブルには、日頃TVでしかお目にかかれないような豪勢な料理が並んでいる。そうじろうは酒を一口飲み、オドオドしているこなたに言う。「今日はさ、ホワイト・デーだろ?たまにはさ、 こういう所での食事も、いいかなって、な」非現実的な状況に、押し黙ってしまうこなただったが、しばし辺りを見渡し、ようやく口を開いた。「…だからお父さん…スーツなんて着てたんだ…」「似合うだろ?」こなたはうつ向き、呟くように言う、「全然」「な…」それから頭を上げ、にんまり微笑み「なんてね、私、こういう所来るの始めてだよ。…なんか不思議な気分」薄らと頬を染め、こなたは答えた。「お嬢様、心いくまでご堪能下さい。ってな、ははは」「うむ、それじゃぁ姫は、ワインを所望じゃ」「あ、すいません。この子にオレンジジュースを」そうじろうは近くにいたウェイターに声をかけると、2人だけのささやかなパーティーが始まった。
タクシーに揺られ、こなたは窓外の夜景に目をやっていた。ネオンの煌めきが水面に映る月の光に変わる頃、こなたはふと横に座るそうじろうに向き直る。「お父さん…ありがと」「なぁに、言ったろ?今日は特別な日だって。俺からのお礼だよ」「…私さ…」それだけ言うと、こなたは顔をうつ向かせてしまう。「ん?なんだ?こなた」こなたはそのまま言葉を続ける。「急におめかしさせられてさ、お父さんもそんな格好するからさ…」「ん」「私、新しいお母さんでも紹介されるのかと思った」上げたこなたの顔は憂いているような、どこか寂しげに、そうそうじろうは感じていた。「は…はは。…こなた、そっちの方が良かったか?…本当にそう思うなら…」言い終わる前に、こなたは首を振る。「ううん…思わないよ。だからさ、安心…した」「そっか。…俺もさ、お前と一緒なら…?こなた?」いつの間にかこなたは、そうじろうにもたれるようにして寝息をたてていた。(…まったく、相変わらず可愛い寝顔しやがって…)「可愛い娘さんですね」バックミラーに写るこなたを見て、ドライバーがふと声をかけてきた。えらく低い声に一瞬驚いたそうじろうだったが、「いやぁ…はは…自慢の娘です」と、そうじろうはこなたの髪を撫でてやり、誇らしげに彼に伝えるのだった。「zzz…さん…りがと…zzz」タクシーは間もなく、県内に入ろうしていた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(終わり)
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