1―6
「こなたって、魔導言語が読めるのね」「うん。アウレの図書館には翻訳前と後の魔導書があるからね。それで自力で覚えたんだ。まだ訳されてない魔導書も読みたかったから」
アウレを出て数日が経った。かがみ達の村〈オーフェン〉はアウレの南に位置しており、徒歩で行くには数日の時間を要するのだかがみは昨日、キャンプでこなたが読んでいた魔導書を横から見たものの、現代語でなかったために驚いたのだ
「昔、絵本は飽きたーって駄々をこねたことがあってな。試しに魔導書を読ませたらすっかり虜になったんだよ」「え、そんなエピソードがあったんだ……」
昔話に花が咲く。特にこなたは、同年代の友人がいなかったためにとても楽しんでいた
「もう結構歩いたよね」「そうよね。もうそろそろ着く頃だけど……」「ん……?」
ずっと先からだが、しろい煙があがっているのが見える
「火事、かな?」「いや、それにしちゃ煙が出てる範囲が広すぎだ。今日は風もないのに……」「お、お姉ちゃん! あそこ、オーフェンがあった場所だよ!」「嫌な予感がする。急ごう!!」
四人は煙の発生地点に向かって駆け出した!「嘘……でしょう……?」「村、が……」
オーフェンに着いたこなた達は、目の前に広がる光景に、かがみとつかさは愕然とし、こなたとそうじろうは息を呑んだ
――村が燃えている!道具屋が、葡萄棚が、学校が、紅蓮の炎に包まれて、火の粉を巻き上げていた
「おかしい」
耳を澄ましていたそうじろうが呟いた
「これだけの惨劇なのに、声がまったく聞こえない」「もう逃げているとかは? 村の外にいるかも」「よし、手分けして人を捜そう! 俺はこなたが言ったように村の外に逃げた人を捜す!」
そう言うと、そうじろうは一人村とは反対方向へ走っていった
「お姉ちゃん達が心配だよ!」「私達は家の方を捜すわ! こなたは反対方向を!」「わかった!」
かがみは脱兎のごとく駆け出し、その後をつかさが慌てて追った
「お姉ちゃん達、大丈夫かな……」「つかさ! 悪いほうに考えない! 姉さん達は絶対に大丈夫よ!」
そう言うかがみも、不安を拭えないでいた。これだけの惨劇、もしかしたら……かがみは首を何度も振り、考えないようにした
「私達の家が……」「ひどい……メチャクチャだよ……」
自分達の家も周りと同じく、紅蓮の炎に包まれていた。思わず、最悪の事態が頭をよぎる
「か……かがみ……? つかさ……?」『!!』
不意に、自分達を呼ぶ声がした。それはとても聞き慣れた声で――振り返ると、村の中央付近に倒れている人影を発見した。間違いない、あの人は――
「まつりお姉ちゃん!」「姉さん!」「やっぱり……ふ、二人だったか……」
二人は同時に声をあげ、かがみはためらうことなく姉の――柊まつりの体を抱き起こした
つかさが目を逸らすほど、彼女の傷はひどかった。明らかな刀傷であり、かがみにはそれが、致命傷であるとわかった
「はは……お、オーフェン最強と言われた私が……ざまあないね……」「姉さん! 姉さん!」
かがみはひたすら彼女の体を揺らす。つかさは悲しみで立っていることすらできなかった
「む、村はね……ラミア軍にやられたんだ……みんな、連れていかれちゃったよ……」「じゃ、じゃあ、お姉ちゃんの傷は!?」「その、ラミアに……抵抗したんだけど、ね……多勢に無勢って……このことなんだね……」
ラミア軍とは、かつて世界を統治していたヴァルア王国直属の軍隊だ現在は国という制度はないのだがヴァルア城、並びにラミア軍もかつての名残として残っているそのラミアがなぜ、オーフェンという小さな村を……?
「ぐ、軍の奴らは……王国の再建のために、って言ってた……ゴホッ……」
口から大量の血液が、まつりの顔を紅く染める
「かがみ、つかさ……私は、もう……無理みたい……だから……私の、変わりに……村の、みんなを……」「!? 姉さん! 姉さん!!」「頼んだよ……二人、と……も……」
まつりは最後の息を唇から漏らし、それきり動かなくなった
「そんな……まつりお姉ちゃん……!!」「いや……いやぁーーーーー!!!!」
泣き崩れるかがみの悲痛な叫びが、廃墟と化した村の隅々まで響いた「誰か! 誰かいませんか!?」
こなたは村の中を駆けながら、声をあげる。廃墟と化した建物を調べ、人がいないかどうか何度も何度も確認する
「!」
そうしているうち、建物の陰から、燃え盛る村を哀しそうな目で見つめている女の子を見つけた栗色の髪、青色に輝く瞳、白いマントが風にたなびいている左の腰に鞘を差している。彼女も旅の剣士なのだろう右手の甲に見たこともない印に加え、赤色に光る石――赤晶石印を持つ剣士はとても珍しい。それに、印を持っているということは魔術を使えるということ。それなのに、わざわざ晶石を付けているところもまた珍しい
(……待てよ……?)
晶石を使って魔術を使用可能にする方法はまだ一般には普及していないはず。村には知れ渡っているが方法が示された魔導書は翻訳されていないうえにアウレに一冊しかないはず魔導言語の読める旅人がアウレに来たとき、魔導書を読んだのだろうか? そうすると、自分の他にも、魔導言語を読める人間がいたのだろうか?
「……虚しい、デスね……」
女の子は呟いた。というよりも、こなたに話し掛けてきた自分は彼女の視界には決して入らない場所に位置している。気配だけを感じ取ったなら、かなりの手練だ
「無益ナ争いナンテ……虚しいだけデス」「あなたは?」
こなたはゆっくりと彼女に近付き、そして問い掛ける視線を村からこなたへと移し、彼女は喋りだす
「人の名前を聞ク時は、マズ自分から名乗ったラどうデスカ?」「あ、ゴメン。私、泉こなた」「泉コナタ……ですね? ワタシはヴァルア城直属の軍隊、ラミア軍隊長のパトリシア=マーティン、通称パティでス」
彼女の喋り方に、こなたは違和感を覚えた。なまりというか、発音がどこかおかしい
「……コノ村は、ヴァルア城の城主「子神アキラ」にヨって破壊するよう命ジられたのデス」「じゃあ、あなたもこの村を!」「……いえ、ワタシは軍隊を止メに来たのデス。アキラ様の決定ニは、異論を唱える人も多かったデスから」
彼女は村へと視線を戻し、
「しかし、ワタシは間に合いませんデシタ。建物は破壊サレ、村人はラミア軍の砦やお城に連れテいかれまシタ」「り、理由は? なんでこの村を襲ったの?」「ヴァルア王国の再建……ト、兵士達には伝ワっているはずデス。シカシ、それは偽りの目的……」
憂いを含んだ表情で空を見上げる
「信じテくれないかもしれませんガ、私は……」『いやぁーーーーー!!!!』「!!」
突然響き渡った悲鳴、二人は同時に声のした方向へ向く
「ナンデスカ!?」「この声は……かがみだ!」「カガミ……?」
パトリシアがその名前に反応したのに気付かず、こなたは声のした方向へ走りだす
「かがみ! つかさ!」
村の中央に、二人はいた。二人は誰かの身体に顔をうずめて泣きじゃくっていた
「うう……まつり姉さん……」「ひっく……えぐ……」「二人とも……」
こなたは何が起きたのか、瞬時に理解した姉が、亡くなったのだ。傷口から見て、殺されたのだ二人の気持ちはよくわかる。自分も、母を早くに亡くしたから
「……二人とも、お姉さん、生き返らせたい?」「「……え……?」」
二人は顔をあげ、真っ赤になった目でこなたを見た
「どんな願いでも一つだけ叶えてくれる石、『らき☆すたー』。それが、この世界のどこかにあるんだ」「らき☆すたー……」「そんな石が……」
二人は顔を見合せ、うなずく
「らき☆すたー……見つけましょう!」「うん! 絶対に見つけて、お姉ちゃんを生き返らせもらおう!!」
「ソウはさせまセーン!」
突然の声に振り向くと、そこにはパトリシアがいた。右手に剣を、左手に盾を持った状態で
「パティ!!」「ハーイ、コナタ! ソッチの味方するナラ容赦しませんヨ!」
白いマントを棄てた中は、ラミア軍の紋章が入ったローブ
「こなた! アイツ誰なのよ!」「ヴァルア城直属の軍隊、ラミア軍の隊長パトリシア=マーティンだよ! なんで剣を抜いてるのさ! ここに来た理由は軍隊を止めるためでしょ!?」
そう言うこなたの後ろで、かがみはシャムシールを抜く。戦いは避けられないと判断したからだ
「ソレとコレとは話が別デース! らき☆すたーを狙う奴らは、我らの理想のジャマとなりマース!」「ラミア軍もらき☆すたーを狙ってるのか!」「特に柊カガミ! アナタは抹殺命令が出されていマス!」「わ、私に!? なんでよ!!」「オマエ達が知る必要はありマセン!! delete(消えろ)!!」
パティが剣――キャバリアーを構え、突進してくる!
「くっ! 来るなら追い返すまでよ! こなた、つかさ、行くわよ!」「うん!」「おけ!」
かがみとパティの剣戟(けんげき)の音が辺りに轟き、それが決戦の合図となった!
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