「やふ~」「いらっしゃ~い」つかさの家に着くといつもどおりつかさが出迎えてくれた。でもいつも一緒にいるはずの双子の姉が今日は見当たらなかった。「あ、新作のシューティングゲームじゃん?買ったんだ?」「うん、お姉ちゃんが。こなちゃんと一緒にやりたいって言ってたよ」「今日かがみんは?」「同じクラスの友達と勉強会だって」つかさはあんまりゲームとかやらないからどうしても私がゲームをしてつかさがそれを見ているという形になる。しばらくすると、せっかく遊びに来たのに一人でゲームをしてることでつかさにも申し訳なくなってきてゲーム機の電源を落とした。「あれ?こなちゃん。もういいの?」「うん、つかさも見てるだけじゃつまんないでしょ?」「こなちゃん上手だから見てるだけでも面白いよ」「そう?でもいいんだ。つかさの部屋行こう」
「あれ?こないだ来た時よりだいぶ片づいてない?」「うん、最近掃除したんだよ~」整理された部屋を見回すと机の上に置いてある一冊の分厚い本に目がとまった。「あ、これもしかしてアルバム?」「うん、部屋の掃除してる時に出てきたんだー」「見ていい?」アルバムの中にはまだ幼いかがみとつかさの写真が並んでいた。小学生くらいかな。驚いたのは並んでいる写真のほとんどにかがみとつかさが一緒に写っていることだった。「つかさたちってこのころからずっと一緒にいるんだね」「そういえばものごころついた時からずっと一緒だからそれが自然になっちゃってるのかも」それにしてもこのころから2人の役割分担は決まっているようだった。失敗をして泣いてしまう妹をフォローする姉「そういうところもちっちゃいころから一緒なんだね」「う、うん…。だってお姉ちゃん頼りになるし」その時ふと私の手が止まった。そのページのある写真に目が引かれたからだ。つかさがかがみの手を引っ張って走っている写真。「あ、この写真はね…」私の視線に気づくとつかさはその写真の思い出を語り始めた。――――かがみとつかさが小学校6年生の時のことである。二人は学校行事の遠足でとある公園に来ていた。「じゃあこれから自由行動にするけどくれぐれも注意したことを守って集合時間までにここにもどってくるように」「じゃあつかさ、行こうか」「うん、お姉ちゃん」クラスが違うかがみとつかさにとって自由行動の時間は二人一緒に行動できる唯一の時間だった。自由時間はほかに仲のよかったもう1人の同級生と一緒に3人で回ることにしていた。「つかさ~、早くしないと置いてくよ~」「お姉ちゃん~、ちょっと待ってよ~」「あはは、つかさちゃんは相変わらずだね」「ほんとに。家でもあんな感じだから毎日大変よ」「でも姉妹で仲良くてうらやましいな~」柊姉妹と言えば学校でも仲の良い双子姉妹として有名だった。「そのお守りもつかさちゃんが作ってくれたんでしょ?」かがみのバッグにぶら下がっているお守りを指さして友達が言った。「あ~、うん。あの子料理とか裁縫とかそういう家庭的なことは得意なのよね」そのお守りは家庭科の授業で初めてミシンの使い方をならったつかさが一時期裁縫にはまったときに作ったものだった。「初めて作ったやつはお姉ちゃんにあげようと思って」と言ってつかさが差し出した初心者を思わせる少し不格好なそのお守りはかがみにとってはとても大切なものだった。「お姉ちゃん、お待たせ~」「ほら、時間もったいないし早く遊ぼう!」楽しい時間はあっという間に過ぎていった。「あ、もうこんな時間ね。そろそろ戻らないと」「そうだね。帰ろう」「あれ?かがみちゃん、お守りは?」「え?」ふとバッグを見ると確かにぶら下がっているはずのお守りがない。「あれ?おかしいわね。さっき見た時はあったのに…」「そうだよね。私も見たもん」「どこかに落としたのかな?この辺探してみようか」しかし3人であたりを探してみてもお守りは見つからなかった。「この辺に見つからないってことは結構前に落としたのかな?」「でももうすぐ集合時間だよね」ここまで歩いてきた時間を考えるとそろそろ戻らないと集合時間に遅れそうだった。つかさと友達がもう戻ろうという提案をしてもかがみは聞かなかった。「もう少し前に落としたのかも…」「でももう時間もないよ、かがみちゃん」「そうだよ。それにまたお守りだったらまた作ってあげるよ!今度はもっとうまく作れるだろうし。だからもどろ?」「嫌よ!つかさたちが帰るんなら私一人残ってでも探すわ!」予想外に大声ではっきりとした拒絶を示したかがみに二人は驚いていた。普段のかがみだったら「早く帰るわよ」と率先して2人を連れていくところだった。責任感があって規則やルールに人一倍うるさいかがみがそれよりも自分のわがままを優先するところを双子の妹であるつかさも初めてみた。それほどまでにかがみにとってあのお守りは大切なものだった。「わかった。じゃあ帰りながら探そう?ごめんね、私はお姉ちゃんと一緒にあとから行くから、先に帰って先生に私たちのこと伝えておいて」「ううん、私も手伝うよ。3人で探せばきっとすぐ見つかるよ」帰り道をたどりながら、3人で遊んだ遊具をひとつひとつ探していく。しかしなかなかお守りは見つからない。その間にもどんどん時間は過ぎていく。かがみはいつしかお守りが見つからない焦りと2人に迷惑をかけているという自責の念から涙を流していた。「大丈夫だよお姉ちゃん。きっと見つかるよ」泣きじゃくる姉を慰めながらつかさは必至でお守りを探した。
そして集合時間がもう間近に迫ったころ…「お姉ちゃん!あったよ~」見つけたのはつかさだった。バッグにつける紐が切れてしまっていたが少し修理すればまた元通りになりそうだった。「よかったね、かがみちゃん」「う、えぐっ、うわ~ん」ホッとしたのか緊張の糸が切れたようにかがみは大声で泣き出した。「2人とも…ごめんっ…ね…だって…つかさが…初めて作ってくれて…すごく…大事だったから…ありがとっ…本当に…よかった…」泣きじゃくるかがみをつかさはやさしく抱きしめて言った。「大丈夫だよ、お姉ちゃん」つかさに抱きしめられたかがみは今までになかったような安心感を感じていた。気がつくと涙も止まっていた。「落ち着いた?お姉ちゃん」「うん、ありがとう…つかさ」「今からなら走れば間に合うよ!行こう」そう言ってつかさはかがみの手を取って走りだした。――――「この写真はそのときにカメラマンさんに撮られたんだよ」「ほぉ~、かがみにもそんな過去が…」「あんたたち、アルバムなんか見て何の話してるの?」振り返るといつの間にバッグを肩にぶら下げたかがみが立っていた。「いや~、かがみんにも可愛い過去があったんだなってことを話してたんだよ」私のからかうような口調とアルバムの中の写真を見てかがみの顔が赤く染まる。「え?その写真って…つかさぁ~、喋ったな!!よりによってコイツに!」「えへへ、めんご」「いいじゃん。昔の話なんだし」それでもかがみは顔を真っ赤にして照れていた。あー、耳まで真っ赤だ。こりゃそうとう恥ずかしいんだね。やっぱりかがみはかわいいのぅ。「もーあんたらには宿題見せてやらないわ」「えっ、おね~ちゃ~ん、許して~」「かがみ~、それだけは勘弁してー」「ったく、こいつらは」かがみは呆れた顔をしてつかさの部屋を出て行った。どっちかっていうと私たちに呆れたというより恥ずかしくていたたまれなくなったんだろうけど。かがみのバッグには年季の入った、少し不格好なお守りがぶら下がっていた。終
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