「ただいま~、て、みんな留守か。…あん?」みさおは家の戸を開けるや、新聞受けに挟まる1枚の紙を見つけ、それを引き抜いた。『みさお様へ』と書かれ、二つ折りにされたその紙を開いて見るや、みさおは驚愕した。紙の内側にはおびただしい数の文字、新聞やチラシから切り抜かれた文字が貼られ、それはさながら、TVドラマやドキュメンタリーで見る強迫文の様であった。「何だよ…これ…」大小様々な文字のその出だしを見て、みさおはこれが自分宛ての物であると再認識した。
みにくいアヒルの子、日下部みさお様、あんたのささくれた翼では、自由に飛び立つことは出来ない。おまえは一生地面に這い蹲って生きるしかないのだ。さげすまされながら、無様に地めんをのたうち回る、アヒル、いや、むしろ蟲だ。おとぎ話の様な願いを叶えてくれる魔法使い、白馬の王子様なんていやしない。ただ死ぬまで背景として裏の裏で生きるのが、お前のさだめ。いつまでも、えんえんともがけ、浅ましく汚らわしいうじ虫よ、醜い醜い蠅の子よょっつの足でゴミの中を這いつく回れ。うめけ!叫べ!泣きわめけ!そして産まれてきた事をわびろ。親に、辺りに、世界の全てに!お前の、お前の現実は何だ?めだまをかっ開いてよく見て見ろでたらめな友情、うそっぴちな絆、表面だけの関係、とても見れたものじゃないだろう?そもそもおまえわう・そ・で・す♪ここまで読んで下さってごくろう様です。ざっと見た感じ酷いですよね、僕は止めたんですけどいっこうにXXX様、折れてくれなくて、しょうがないので後半は改変しちゃいました。まことに申し訳ない。すべてはジョークだと思って笑って流して下さい。いやほんと、申し訳ないです。
みさお宅より少し離れた場所に、みさおの姿を見つめる2つの影があった。ばれないように物陰に潜み、みさおの反応を確認する、2人組。「やっぱりマズいですよ…」「ああん?私の『怪しいバースデーメッセージ大作戦』にケチつける気!?」「最悪警察呼ばれちゃいますよ?最近色々あるみたいですし…」「警察?上等じゃない!そんときゃそん時でもっと盛大に祝ってやるわよ!」「盛大にって…あれ?…窓から顔出して …やば!あきら様!俺達見られてますよ!」「嘘!?…あっ、…なんか手振ってる…右手に…何持ってるんだろ? 白石、あんた双眼鏡持ってたわよね?」「…ちょっと待ってください?ええと……画用紙?じゃない、あれは、ホワイトボード? 何か書いてありますね。ふむふむ? 『メッセージ…さんきゃー!夕方から誕生日会やんだけど、こねーか?』 …あ、メールも来てる…。僕達、誘われてるみたいですね。 あきら様、どうします?やんわり断りますか?」「誕生日会…誘ってくれてるの?」「ええ」 「私と、あんたを?」「みたいですね。文面的に」 「あんた、これから仕事?」「今日はオフですよ?だからこうして一緒に」「…白石、今から買い物行こう…」「へ?ショッピングですか?あきら様人使い荒いからな~(小声)」「なわけねーだろ!誕生日プレゼントだ!誕生日プレゼント買いに行くの! 誘われてるんだからプレゼントがなきゃ示しつかないでしょ! それに…一応謝らないと…。善は急げ!白石、メール返しといて!」「あ、あきら様?…」 「♪~♪」白石はメールを速打ちし、満面の笑みで先を急ぐあきらのその後を追うのだった。そんな2人を窓から微笑まし気に見送ると、みさおはカレンダーの日付を確認しそしてこれから始まるパーティーに、胸をときめかすのだった。
「みんな早く、来ないっかな~♪」
そしてみさおは…目を覚ました。「あれ……?……夢?」
7月21日、朝、今にも雨が降りそうなほどに空はどんよりと淀んでいた。でも、みさおから溜息は漏れなかった。むしろみさおの心は太陽よりも熱く、滾っていた。机に並ぶプレゼントを見てはにんまりと口歪ませ、昨日のパーティーを思い返せば、例え雨が降っても、それは雨の神様からの祝福に他ならないと、そう思えて仕方のないみさおだった。「…あいつらも…結構良いヤツらだよな」飛び入り参加者2名からのプレゼントを見て、みさおは呟く。1つは可愛らしいぬいぐるみ兼オルゴール、オルゴールの曲はみさおのお気に入りの曲だった。みさおはそれを手に取り、背中のネジを回す。するとぬいぐるみはゆっくり身体を揺らし曲を奏で始めた。動のみさおに対して静のぬいぐるみ、『私には似合わない』と思いつつも、みさおもまた自然とぬいぐるみに合わせ、身体を揺らし始めるのだった。もう1つは『あいつには似合わねーよ』と言わんばかりの大きな花束だった。「告白じゃないんだから」と周りからも突っ込まれた彼からのプレゼントは、『こりゃ、あやの向きだな』そう思いたくなるほどの艶やかさを誇り、みさおの部屋に異形の彩りを添えていた。みさおは花々の放つ芳しい香りに、違和感を覚えていた。ぬいぐるみがあって綺麗な花があって、この部屋がまるで他人の部屋の様に思えてしまう。不思議な違和感、心地の良い不可解な違和感。ベッドの上にちょこんと座り、みさおは曲が終わるまでそんな違和感の波に身を委ね、そして静かに心を潤せる。
「…うん、良い曲だ……んぐぐぐぐー!」オルゴールの演奏が終わり、みさおは余韻に浸りながら背を伸ばす。窓の外は、相変わらずの曇天模様。「こんな日は部屋でゆっくり読書ってのも、悪くねーかもな」よっ!とベッドから跳ね起き、みさおはクローゼットの前へとやってきた。その戸を開けて、いつもは無縁の引き出しから1着のワンピースを取り出し、それを身に当て、姿見に写してみる。「こんな服なんて着てさ」誰が見ても絶対からかう、そうに思えてならない淡い水色のワンピース、親が無理矢理買ってきて、「たまには女の子らしい格好でも」と言われ、渡されつつも、試しに一度来たきりでそれきりの、不遇の代物であった。「お茶の時間には紅茶なんか飲んだりとか」鏡の中のみさおは、みさおが思っている以上に少女然としていて、本当に上品な振る舞いが出来たら、どこぞの令嬢と見間違われるのでは?等と一瞬思ったが、みさおはすぐに正気を取り戻した。それと同時に気恥ずかしさがこみ上げ、みさおの頬は急に赤味を増していく。「なはは、まあ、こいつは、ITの私、ってヤツだな。…あれ?ifだっけ?ま、いっか」ワンピースを仕舞い、シャツとハーフパンツに着替え、みさおはもう一度背伸びをする。「そもそも読書ったって、漫画しかねーじゃん」はははと笑いながらもう一度伸びをし、花の香りを嗅ぐ。「…悔しいけど…いい臭いだよな…」今度は自嘲気味に笑み、頬を平手打ち、よし!と気合いを入れ、「帰ってきたら、まとめて面倒見てやりますか!」みんなからのプレゼントを見やる。みんなの気持ちがエネルギーの奔流となって、みさおの体内を暴駆する。みさおは今や、メルトダウン寸前にまで追い込まれていた。気持ち的に。その高揚した気を放出させんと、みさおはひそり部屋を抜け、一路玄関を目指す。
午前5時、日下部家玄関前。涼やかな風がみさおの肢体を撫でてゆく。晴れる兆しは見れないものの、みさおの心は清々しさに満ちていた。哮るこの気持ちを解放するには、これしかない。
ー猪突猛進ー
みさおは大きく息を吸い、そして懇親の力で大地を蹴り上げた。エネルギーの爆発、もし見える人が見たら、みさおの全身から真っ赤なオーラの迸りが見えただろう。血の様な炎の様な、そしてマグマの様な、それはどんなに距離を走らせても衰える事無く、みさおの全身から噴き放たれていた筈だ。みさおは走り続ける。力の限り、滾る心のある限り!
そしてみさお!誕生日おめでとう!
~終わり~
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