※〔〕書きは英語
〔――…そう、元気してるんだ。……うん、うん……あ、もうすぐ授業だから……うん、それじゃ〕
同じクラスの女子生徒――辻さくらと共に廊下を歩いていたパティはケータイを切り、ポケットにしまった
「あれ? パトリシアさん、ケータイ変えたんだね」「Yes! 新機種が出たのデ乗り換えてみましタ!」「乗り換えてって……」
教室のドアを開けると、教壇には三年生のかがみが立っていた
「あれ、柊先輩」「ドウかしましタ? もうすぐChime鳴るデスよ?」「ええ、ちょっとね。二人も座ってちょうだい」
言われた通り、自分の席につこうとするが、なぜかそこには別の生徒が座っていたゆたかとひよりの席には、担任教師と黒井先生がついている
「カガミ、コレは?」「私が座る席を決めてるの。さくらさんはそっち、パトリシアさんはその隣ね」
てきぱきと席を決めていくかがみさくらは最後列右端。例の掃除用具箱に一番近い席で、パティはその隣だ
「……」「よし、みんな揃ったわね。それじゃ、チャイムが鳴るまで待機してて」
そう言うと、席の近い者同士が雑談をはじめたその中にはかがみに対する罵倒も聞こえたが……無視しておくことにするやがて校舎中にチャイムが鳴り響き――静かになったところで、かがみが口を開いた
「さて、そろそろいいかしらね」「柊先輩、今から何をするんですか?」
一人の生徒が質問をしてきたかがみはぐるりと教室を見回し、言い放った
「単刀直入に言うわ。小早川ゆたかちゃん、田村ひよりちゃんを殺した犯人が……このクラスの中にいる」『!!』
教室中がどよめき、隣同士の人達で『マジかよ!?』だのと話している
「ちょっと待っテくだサイ! イキナリ言われても困りマス!!」
パティが机をバンと叩き、立ち上がる
「動かないで! 動いた人は犯人と見なすわよ!」
教室中がしん、と静まる。パティはそのままゆっくりと着席した
「犯人と見なすっつってもなあ……柊先輩にそんな権限「あるぜ」
生徒の言葉を遮り、教室に入ってきたのはみさおだったその後ろにはゆいがいて、一緒に教室に入ってくる
「日下部! どうだった?」「ああ、証拠もバッチリだったよ」「埼玉県警の成実だよー。今からみんなにはみさおちゃんとかがみちゃんの言うことを聞いてもらうらねー」
その会話を聞いていた、犯人であるみなみの顔にはびっしりと脂汗が浮き出ていた証拠は何もないはずなのに、なぜこんな事態になっているのか……もし本当に証拠を握られているのであれば……一巻の終わりだ
「ところで、なんで交通安全課の成実さんがいるの?」「知らねぇ。『警察官一人ついてきて欲しい』って言ったっけ成実さんが来た」「……てゆーかあんた、警察に可愛がられてるような気がするんだが……?」「ああ、親父は埼玉県警の警視監だからな。言ってなかったっけか?」「マジかよ!?」「……お前ら、はよ話進めんかい……」
黒井先生に諭され、軽く咳払いをしてからかがみが言った
「まず犯人を特定する前に、やっておかなきゃいけないことがあるの」「やっておかなきゃいけないこと……?」「ああ」
生徒の言葉に、かがみの代わりにみさおが答えるざっと教室を見渡してから、
「犯人の他に、この中に更なる過ちを犯そうとしている奴がいる。そいつを見つけてからだ」
その時、みなみは気が付いた自分の右後ろに座っているパティの身体が震えていることにその過ちを犯そうとしている奴とは、もしかしたら……
「で、それは誰なんですか?」「それは……時間が解決してくれるよ。何もしなくてもな」
それきり誰も何も発しなくなり、教室が静寂に包まれるそれからどのくらいの時間が流れただろうか、みさおが腕時計を見て、
「……5、4、3」
突然、カウントダウンをはじめたのだなんのことだかわからず、生徒達はただみさおを見つめるばかりそうしなかったのはパティと、その様子を見ていたみなみだけだった
「2」
時が止まることはなく、みさおのカウントダウンも続いていくそして、
「1」
……みさおがそう宣言した瞬間だったパティが隣のさくらの腕を引き、自らの方へ抱き寄せたのだ
「0」
大きな風切り音と、何かに何かが刺さるような音が、教室後方から響いた何事かと振り向いてみると、さくらが今まで座っていた前の席の背もたれに矢が刺さっていたのだそして、パティがさくらの身体を抱き寄せている姿を、教室中の誰もが目にした
「サクラ……ケガはないデスか……?」「う、うん……ありがとう、パトリシアさん……」
さくらを抱き締める手を緩め、解放するそして、気が付いた。目の前に、みさおの姿があることに
「……パトリシア、これ仕掛けたの、お前だろ」
おもむろに掃除用具箱を開けると、なんとそこにはハンティング用のボーガンが仕込んであったその横には一つの携帯電話がある。さくらにも、みさおにも、みなみにも見慣れた、携帯だった
「そ、それ……パトリシアさんの前のケータイ……」「ケータイのバイブがスイッチになって、ボーガンから矢が発射される時限式の装置よ。つかさも、こういうのを……いえ、なんでもないわ」「悪いな、辻。身代わりにしちまって」「いえ。もしパトリシアさんが来なかったら、自分から逃げてましたから」
実は、さくらはみさお達とグルだった全てを説明してから、さくらにはパトリシアを連れてチャイムが鳴る直前まで教室に戻ってこないようにしたのだ
「ちなみにここは岩崎の席だ。パトリシア、本当は岩崎を殺すつもりだったんだろ?」
みさおがパティに詰め寄る上手く説明できないみさおに代わり、かがみが前で装置の解説。正にナイスコンビネーションである
「……That's rightデース……」
悲しげに顔を伏せるパティ。携帯電話がある以上、言い逃れはできないと判断したのだろう
「ぱ、パトリシアさん……どうして……?」
普通に授業が始まっていたら、このボーガンによって殺されていたであろうみなみは、戸惑いながらも尋ねた
〔……一緒に死んでほしかった……〕「え……!?」
日本語で話すことを忘れたパティが自分のカバンから取り出したのは、小型のナイフだった言葉の内容からすると、パティは……
〔ゆたかもひよりもいない生活は、私にとって地獄のようだった! 辛かった! だから、みなみを殺して、私も死ぬつもりだった!! 向こうでみんな再会できるように!! うわああぁあぁぁあああぁ!!〕
最後は机に突っ伏して、大きな声で泣き出してしまっただが、会話の内容がわからなかった人達は、完全にポカンとしている
〔……パトリシアさん〕
日本語での会話は無理だと判断したのだろう、会話の内容を理解したかがみが英語でパティに話し掛けた
〔私も、そうだった。こなたにみゆきにつかさに峰岸。みんな逝っちゃって……本当に死にたかった〕〔かがみ……〕〔だけど、死んだら何ができる? 何もできないでしょ? だから……パティちゃん、ゆたかちゃんとひよりちゃんの分まで生きなくちゃダメよ。私も、日下部も、岩崎さんも、それにさくらちゃんだって友達でしょ?〕〔あ……〕〔貴女にはまだたくさん友達がいるじゃない。貴女は一人じゃないの。わかる?〕〔……かが、み……あり、が……〕〔よしよし、淋しかったんだね……〕
自分の胸にすがりついてくるパティを、かがみは優しく抱き締めたそして顔をあげ、みさおとゆいの方を向く
「日下部、成実さん。これって不起訴確実よね?」「ああ。会話の内容はあんまりわかんなかったけど……」「この件は本部の方には伏せておくよー」
職権乱用な気もするが、この好意がかがみにとって何よりも嬉しかったパティがこんなことをしでかしたのは……他ならぬ、この事件の犯人なのだ。パティはなにも悪くない
「……さて。それじゃあ移ろうか。『田村ひより殺害の犯人捜し』にな」
涙の収まらないパティは一度置いておいて、みさおは言い放った
「ん……ちょっと待ってください」
生徒の一人がおもむろに手を挙げ、みさおに質問する
「その言い方……小早川と田村を殺した犯人は、別人だってことですか……?」「鋭いな、その通りだよ」
今度はみなみが震える番だったゆたかを殺したのはひより。だがみさおは、前に自分の部屋に来た時『ひよりは犯人じゃなかったみたい』と言っていたはずということは……あれは真っ赤な嘘!
「ここで情報を整理していこう」
前にいたみさおは、教室の中をゆっくりと歩いていく
「小早川を殺した犯人は、田村だ。警察の指紋認証でそれは確定してる」
どよめく教室をよそに、みさおは黒井先生の席を通り……
「そして田村は、殺された。小早川を殺した犯人が田村だといち早く気付いた人間に。傷口が半端ねぇことから、恨みによる犯行とみてほぼ間違いねぇ」
担任教師の席を通り……
「ただ……田村が殺された現場には、犯人に繋がる物的証拠が何一つ見つからなかった。証拠を隠したんだろう。なかなか頭のいい犯人だぜ」
さくらの席を通り……
「だけどな、犯人は最後の最後でボロを出した。運も手伝ってくれたおかげで、証拠は見つかった」
かがみとパティの席を曲がり……
「小早川ゆたか殺しの犯人、田村ひよりを殺した人物。それは……」
そして、みさおはある席の前で立ち止まった
「岩崎みなみ……あんただよ」「!」「友達の仇を討った……そんなところだろ?」
みなみは何も言わず、ただ黙って机の中心を見つめるだけだったこれ以上問い詰めても無駄だと判断し、みさおは前の方へと歩いていく
「私と柊、そして黒井先生と成実さん。私達四人は、田村が殺された日の早朝に陵桜に行ったんだ。犯人に繋がる手がかりを探すために そして、私達は田村が犯人であることを突き止め、夜が明けてから田村の家に行ったんだ。そんときゃもう、死んでたみたいだがな……」
教卓にもたれかかり、みなみの方を見ながら、自分の推理を発表していく教室中の人間――涙の止まったパティ含む――はみさおと同じくみなみを見つめていた
「ちなみに裏門から入ったんだ。鍵を黒井先生に開けてもらってな。だけど、後から先生に話を聞いてみたら、『裏門は事件が起きた後も鍵を開けていた』んだそうだ」 「!!」
ごそごそと腰の辺りに手を突っ込み、出したものは小さな袋に入った鍵だった
「それは?」「裏門の鍵だよ。学校が始まった時、岩崎が教頭に返しにきたやつ。で、教頭が呟くまで気付かなかったけどな、その鍵はこんなふうに袋に入ってたんだ それで岩崎は、『拾ったものだ』と言って鍵を教頭に渡した。拾ったものなのにわざわざ袋に入れている……。その理由は一つ、本当は拾ったものじゃないからだ 万が一、鍵が調べられても大丈夫なよう、指紋が付かないように袋に入れたをだろう」
みさおは袋を投げると、見事にみなみの机に着地し、止まったわなわなと震える手で拾い上げ……みなみはそれを見つめる
「私の推理はこうだ。岩崎は、休校になるまえに鍵を盗みだした。そして私達が陵桜に入るちょっと前に、岩崎が侵入していた そして岩崎は小早川が殺された現場に行き、田村が犯人だと突き止め、私達がくる前に陵桜を後にした 入る際は鍵が開いてたっていうのに、わざわざ鍵を閉めてな……」
みなみがしでかしたミスその一であるみなみは陵桜を出るとき、相当に興奮していた。そのため、『鍵は閉まっていなかった』という事実を忘れていたのだ
「そ、それは……じ、事件に関係のある物かもしれなかったから……」「『事件』、ねぇ。それってどっちのかしら?」「え、あ……!」「言えるわけねーよな。どっちでもねーんだから」
みなみのミス、その二。必要以上に証拠を残さないようにしたこと最初の事件が起きる前だと言えば、『なんの事件の前だった?』と疑われる二つ目の事件の場合、何のために学校へ行ったかわからないのだしかも、みなみは二つ目の事件から学校が始まるまで一度も外出していない。それは母親に聞けばわかることだ迂濶だった。もはや言い逃れは不可能……いや、まだ策はある!
「……まだですよ、先輩」「なに?」「それだけの証拠で私を犯人扱いできませんよ。まだ、私が犯人だという決定的な証拠が出ていないんですから……」
そう。今までのはすべて『状況証拠』。みなみが犯人だという『確固たる証拠』にはならない凶器の包丁についた指紋も問題はない。学校が始まったあの日に、しっかりと自分の指紋を付けてきたのだから何より、こんな大人数の指紋が付いてしまうところの包丁など調べるはずが……
「――あるぜ」「!!」
みさおがゆいに顔を向けると、持ってきたバッグから包丁の写真を取り出した
「さすがに本物は無理だから、写真だけだよ」「いいえ、構いませんよ」
その写真を手に取り、みんなの方へと向けた
「これは学校が始まった初日に『私達のクラスであった二・三時間目の調理実習』の時に見つけたんだ」「!!」
これがみなみが冒した最大のミスであった一日に調理実習が二回もあるなんて予想もしていなかった。しかもよりによってみさおのクラスであったとは
「たまたま手に取った包丁が血なまぐさくてな、もしかしたらと思って警察に調べてもらったよ そしたら……案の定、私の指紋の下に『岩崎の指紋』と、『田村の血液』が見つかった ちなみに今年は私達の授業が一番最初の調理実習だった。なのに家庭科室に入ったこともない『一年の』岩崎の指紋が、私よりも先についたことになる これが意味することは、『この包丁は岩崎が田村を殺した際に使った凶器』に他ならない。もう言い逃れはできないぜ」
みなみは燃え尽きたかのように無表情で天井を見つめ、
「……フフッ、捕まらない自信はあったのにな……」
みなみは音もなく立ち上がると、教室を意味もなく歩いていった
「日下部先輩の推理通りですよ。私が田村さんを殺したんです あの包丁は……丁寧に洗う時間がなかったんです。どうしようか悩んでいたとき、初日の午後に調理実習があることを思い出した その時に使うことで、指紋や血を洗い流すことができる。そう思ってたんですけどね」
前の方に歩いて行きみさおの顔を見るその顔からは……なぜだか、清々しさが感じられたみなみはゆいの脇を抜け、窓際へと歩いて遠くを見つめる
「田村さん、勘違いでゆたかを殺したんだらしいんです。でも、例え勘違いだとしても、ゆたかを殺したことに変わりはない…… だから私は、田村さんを殺した。ゆたかの仇を取るために。後悔は……してません」
そこでみなみの言葉は途切れ、しばらくの間、静寂が教室を包み込んでいたそして、言いたいことはそれだけだろうと思い、みさおがゆいに言った
「……成実さん、手錠を」「オッケー。……ん?」
ごそごそと腰の辺りをまさぐるゆいだが、なにかに気付いたのか動かしていた手を止めた
「どうしました? 成実さん」「ん、いや、拳銃が見つからないなーって……」 その異変に、最初に気が付いたのはかがみだった前で交わされた会話のやり取りを聞いていたが、さっき見たとき、ゆいの腰のホルスターには確かに拳銃が収まっていたはずだったそして、見た。みなみのスカートのポケットが異様に膨らんでいるのを次の瞬間、みなみは神業とも言えるスピードでポケットに手を突っ込み、中にあった『黒い塊』を引き抜くと、身体を反転してそれをみさおに向けた間違いなく……『ゆいから奪った拳銃』であった
「日下部!! 危な――」
その警告は、遅すぎた 耳をつんざくような巨大な音が教室中に響き渡るみなみが撃った弾丸が、みさおの左胸を貫通し……穿たれた穴から鮮血が塊となって飛び散り、また口から大量の血を吐き出し、それらはそのまま床へと落ちる
「……う……そ……?」
教室にいる誰もが、ゆっくりと後ろに倒れていくみさおを、ただただ見つめることしかできなかったある者は、その惨劇に、叫びだしそうなくらいの衝動を抑えるかのように口を両手で塞ぎ、またある者は、あまりのショックに気を失った
「くっ……日下部ぇぇええぇぇぇえぇえええ!!」かがみは絶叫し、みさおに駆け寄る「日下部、しっかりしてよ! 日下部!!」自分の制服が汚れるのにもかまわず、みさおの身体を抱き起こし、何度も揺するが……反応はないあたりまえだろう。心臓のある左胸を撃たれたのだからおそらく……『即死』「そんな……いや……いやああああぁぁああぁ!!」かがみの流した涙が頬を伝い、みさおの顔に落ちるそれでも、みさおは一切の反応を示さなかった「あれ、右胸を狙ったはずなのに……。やっぱり早撃ちは無理だったか」「岩崎!! 何のマネや!!」「動かないで。動くと先生も撃ちますよ」「ッ……!」誰一人として動くことができない次は自分が殺される……そう考えると、黙っているしかできなかった「ふ、ふふ……あは、あはははははははははは!!」天井を仰ぎ、狂ったように笑い出すみなみこんなの……みんなが知っている『岩崎みなみ』などではない!「み、ミナミ! さっきregretしなかっタって言ってたじゃないデスか!!」「後悔はしてないよ、パトリシアさん。だけど……私には、やるべきことがあるんだ」「!」 そう言うとみなみは、今度は銃口をゆいに向けた「私はゆたかの分まで生きなくちゃならない。こんなところで捕まることは許されない 殺人の時効は二十五年……。その二十五年を逃げ切り、ゆたかの代わりに普通の生活を取り戻す義務がある。だから成実さん、どいてくれるよね?」「はっ……『ゆたかの分まで生きなくちゃならない』だぁ……? 笑わせるぜ……」突然響いた声に、みんなの視線は一斉に前方へと移動するその声を出したのは、なんと左胸を――心臓を貫かれたはずのみさおだった息も絶え絶え、霞む視界の中、かがみの助力にすがって必死に立ち上がる「く、日下部……あんた、左胸を撃たれたのに、なんで……!?」「心臓……ちょっと外したんだよ……かはっ!!」みさおが激しく咳き込むと同時に口から血液が溢れだしてくる確かに心臓は外しているようだが……肺はやられているだろう「日下部! 無理しちゃダメ!!」「そう、言われてもなぁ……この、馬鹿に……言ってやらなきゃ……気が済まねぇんだよ……!」口から、左胸から溢れる血が、彼女が言葉を発すると同時に量を増すだが、みさおはそれらをことごとく無視。あまりの激痛にかすれる声で、みなみに言い放った「岩崎……お、お前が今までやってきたこと……ホントに小早川のためだったのか……?」「な……」「お前なら! ……小早川の一番近くにいたお前なら……わかるじゃねぇか……! 小早川が……復讐を望むような人間じゃねぇってよ!!」「!」今のみさおには、みなみの顔はぼやけてしか見えていないだが、自分の言葉で、みなみが動揺していると直感した現に、みなみは明らかに動揺していた。拳銃を持つ手は震え、呼吸が荒くなっていく 「小早川なら……復讐なんか望まない…! 例え友達が犯人であろうと……アイツは罪を償ってもらうことを望むはずだ!! 許すっていう選択肢は……お前の中になかったのか!?」みさおの、命を賭した説得は、みなみの心に揺さぶりをかけるしかし、みなみの心は、まだ折れなかった。歯を食い縛り、みさおに負けないくらいの大声で叫んだ「うるさい! 私は……私はゆたかを思って行動したんだ!! それをゆたかが否定するなんて、ありえない!!」「なんでもかんでも自分の都合がいいようにねじ曲げるなよ! お前は何をした!? 人ひとりの命を奪ってそれで『ゆたかのため』だぁ!? ふざけるのもいい加減にしろ!! お前がやったことは、ただの『自己満足』じゃねぇか!!」その時だった“みなみちゃん……”「え……?」みなみの耳に、二度と聞くことができないと思っていた声が聞こえてきたゆっくりと振り返ると、涙目になりながら、みなみのスカートの裾を持つゆたかの姿があっただが、それは他の人間には見えていない。みさおの思いが見せた幻覚か、もしくは……何にしろ、その出来事は、みなみの凍り付いた心を溶かすこととなった「ゆたか……私……私……!!」手から拳銃を落とし、みなみは涙を流しながら膝をついたその行動を見て、ゆいはみなみにゆっくりと近づき、拳銃を拾ってからみなみに語り掛けた「みなみちゃん……そりゃ、みなみちゃんも悲しかっただろうけど……みなみちゃんがしたことで、たくさんの人が、無意味な死で悲しんだんだよ……? 罪を償って……ゆたかとひよりちゃんに謝る必要がある。だから、みなみちゃん……悪い子は、逮捕だ」腰から手錠を取り出し、みなみの手を拘束したそれに抗う様子もなく、みなみはただ涙を流し続けていた 「……終わった……か……」「日下部!?」その様子を見届けた瞬間、みさおの頭がガクンと下がった床には、尋常ではないほど大量の血液が広がっている「あかん! このままじゃ出血多量で死んでまう!」「だ、誰か! 誰か救急車を!!」「大丈夫だ! さっき呼んだから、もうすぐ来るはずだ!」1―D担任教師の声と同時に扉が開き、数名の救急隊員が担架を持って入ってきた「○○病院です! ケガ人は……ってうわ!?」「こりゃ相当ひどい……早く病院に運ばなきゃ、手遅れになるかもしれない!」救急隊員はみさおの身体を素早く持ち上げ、担架に運ぶと、全速力で元来た道を走っていく「あの!!」「わかってる。ついてきなさい」かがみの呼び掛けにそう答えると、最後の救急隊員も教室を飛び出していくその後を追うように、かがみも全速力で廊下を駆け抜けた学校を出、校庭を抜けると目の前に救急車があり、みさおを運ぶ担架が入れられる直前だった救急隊員の許可を得て、かがみは救急車に乗り込んだ「日下部、大丈夫よ! すぐ病院に着くから!」「は、はは……」かがみが元気付けようと言った言葉を、みさおは乾いた笑いで切り捨てた 「多分、間に合わねぇよ……病院まで……な……」「そんなことわからないじゃない!」「わかる、よ……私の、身体、だから……」かがみの頬を伝う涙を、みさおが拭ったしかし、もう限界が近いのだろう。その手は力なく落ちていった「柊……悪い……みんなの分、まで……一緒に生きるって……約束、したのに……守れそう、もない……」「……っ……」かがみは、勝手に洩れ出てくる嗚咽を堪えながら、みさおの声に耳を傾ける「だから……柊……最期に、約束してくれ……絶対に……私の、後を追うなよ……」「うん……えぐ……わかってる、わ……」「はは……よかったよ……」みさおは長い息を吐き出し……涙でくしゃくしゃになりながらも、笑いながらかがみに言った「じゃあな……ひい、らぎ……元気で……いろ……よ……」そう言うと、みさおは笑顔のまま目を閉じ……そのまま、動かなくなった「……っ……くさ……かべぇ……」それを見届けたかがみは、子供のように泣きじゃくった
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