「む~」…ある日の午後だった。なんとなく、気だるい。やる気が起きない。春のうららかな陽気っていうけど、やる気まで奪っちゃうんじゃどうしようもねーよな…。暇つぶしに小早川をからかってみるか?…いやいやいや、返り討ちに合うのがオチだ。仮に相手の動きを奪ったとしても、奴にはトランなんたらってのがあるし、あやのと2人がかりで挑んでエネルギー切れ寸前まで追い込んだとしても、そうなった場合は岩崎にボコにされるしな…。 なんなんだよ、岩崎のやつ…生身であたしの腕へし折るんだもんなぁ…。はーぁ…今日はホントやるき起きねー。柊でもからかってみるかな…。いやいや、まさか勉強と除霊の邪魔するわけにいかねーか。妹ちゃんはパティシエ修行で忙しいしな。じゃぁ、ちびっ子…。いや、やめとこう、ラノベのネタにされるだけだ…。いつもならネタにされること自体は受け入れるんだけど、今日はそんな気も起きやしねー。「あぁ、今日はホントだりーな…テレビでも見っかー…」そう思ってテレビをつけようとしたその時だった。「みさちゃん!みさちゃん、いる!?」あやのの声だ…なんだよ、こんなだりー時に…。だけどあやのは慌ててる様子だった。「ったく…何だよぉ、あやの~」「寝ぼけてる場合じゃないでしょ、春日部駅で脱線事故が起きたのよぉ!」「…なん…だって……!?」私の背筋は、一瞬凍りついた。「なんなんだってヴぁ!もう一回言ってみろよ!」「春日部駅で…東武野田線の電車が…脱線したの」おいおい冗談だろ?なんでよりによってこんな時にこんな事故が起こるかな。あーもう、だりーなんて言ってる場合じゃねーや。早くしねーと、乗客の命が危ねーってヴぁ!「…すぐに行くぞ!あやのっ!」「でも!」「…あやの、いまの私らは何者なんだ…?」「……え?」「私らはタダの人間には出来ねーことが出来る…そうだろ?」「…でも…」「だったら行くしかねーじゃん!な?」「…そ、そうだよね。急ごう!」
(事故現場)「押さないで!はい、危険ですよー」…こりゃひでえ。電車が勢いよく横に倒れて、何両かは柱にぶつかったのだろう、車体がぐにゃりとひしゃげている。そしてその所々に、割れたガラスの破片やら、人の血やらが飛び散っていた。私は思わず吐きそうになった。何でこんなことがおきてしまったんだろう…?「…3班は後ろ側の車両の救助を!5班、クレーンは…なんだ君達は?」レスキュー隊員がきょとんとした様子でこっちを見てる。するとあやのが口を開いた。「あの…私たちに何か、できることはありませんか?」「そうはいっても…ここは民間人がくるような状況じゃ…」「じゃあどうしろっていうんだよ!!」私は思わず叫んだ。この状況を何とかしなきゃ、なんかスッキリしない。「…ここにはまだ、助かる命があるんだ。助けを待っている人たちがいるんだ。それをほうって置くなんて…できるわけねえだろ…!」「しかし…」と、首を傾げるレスキュー隊員だったが…。「…わかった、だけどキミ達で大丈夫なのか?」「まかせろよ!こう見えて私らはサイボーグだからな。なっ、あやの!」「うん!」「よし、そういうことなら協力に感謝する。だけどあまり無茶はするなよ」救助活動がはじまった。私は自慢のパワーで障害物を払いのける。あたり一面に血の臭いと、乗客のうめき声。あやのが次々と歩ける乗客を外へ外へと誘導していく。そんななか、私は網棚の下に押し潰されてる人を見つけた。「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」「うぅ……」「もう大丈夫…さ、捕まって」「駄目だ…俺はもぅ…ここで死ぬんだ」「!?…何いってんだよ!」
男は口を開くなり、語りだした。「俺は会社の社長だったんだがな…ある日俺の会社は潰れちまった。俺は必死で仕事を探したが…何をやっても上手く行かなかった。借金はふくらみ、女房には逃げられた…。こんな俺に生きてる価値なんてない…こんな最後を迎えられるなら…本望だよ…」 「何言ってんだよ馬鹿野郎!」私は泣いていた。目から大粒の涙を流していた。「そんな…そんな簡単に諦めんなよ!…生きていくのはつらいさ!誰だってつらい!けどな…死んじまったらそこでおしまいなんだぞ!……おしまい…なんだってヴぁ……!」 「…キミは…まさかこんな俺を助けてくれるのか…?」「当たり前だろ…助からなくっていい命なんて…この世にはねえよ…!」「ありがとう…だけどな…」ふいに私の耳に、金属が軋む音が聞こえてくる。「もう限界だ…この車両の上には架線を支える柱が圧し掛かってる。…このまま潰れるのも時間の問題だ」「そんな…!まだ諦めんなよ!きっと助かるってヴぁ!」「…最期にキミに会えてよかった…ありがとう…」「イヤだ!そんなのイヤだよ…!」私は…人ひとりの命助けられないのか?ここで誰も救えないで終わるなんてイヤだ!絶対にイヤだ!より一層大きくなる金属音。車両が潰れる時間が迫っていたその時だった。
――ドガァン!突然耳を劈くような轟音が響いて、上に乗っかっていた柱がはじけ飛んだ。でも…一体、誰が?「大丈夫ですか!しっかりしてください!」聞き覚えのある声。やや赤っぽい髪、真赤に光る瞳。「…小早…川……?」そこには例のモードを使って救助活動をする小早川がいた。「もう大丈夫です!しっかり捕まって!」「…あぁ」そう言うと男は小早川の腕にしっかりと捕まった。まさか、お前がきてくれるなんてな……。「…キミ」男がこちらに向き直って言った。「ありがとう…本当にありがとう。キミのおかげでまた、生きる自信が沸いてきた…俺、がんばるよ。もう決して諦めたりしない。ありがとう」「……みさおだ」「?」「日下部みさお……私の名前。一応…覚えといてくれると嬉しいかな」「あぁ…ありがとう、みさおちゃん」その後救助活動は半日にも及んだ。私ら3人のサイボーグの活躍で、負傷者は最小限で済んだという。
…それから数日後。私はかつての母校である陵桜学園の校門の前で小早川と話をしていた。「…なぁ、小早川」「?」「生きるって、なんなんだろうな」私はふと問いかけた。別に生きることを否定するじゃなく、ただ漠然とした疑問だった。「それは…きっと何でも出来るってことじゃないかな、って思うんです」「な、何言ってんだ?」「生きてるからこうして話すことも出来る。毎日のようにバトルだって出来る。そして、生きてるからこうして今日もほかの命を助けることができた。生きるってきっと、そういうことなんじゃないかって思うんです」 「そっか…」と、私は頷いた。生きるってすげえことなんだな…。その余韻を噛み締めながら私は、私の答えを出した。「私はこう思うんだ。生きることは諦めないことだって。もしお前の言うとおり、生きることが何でも出来ることだって言うんなら、それを諦めずに前に進むこと。そういうことが出来るってことだと思うんだ…あんまり難しいことはわかんねーけどな」 「…生きるって、素晴らしいことなんですね」「あぁ…素晴らしいぜ…この世界は…」そうだ…私たちは生きてる。生きてるんだ。この、何がおきるかわからない世界の中で。 <終わり>
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