今のこなたは出会った頃に、どこか似ている。私と目を合わせようとしないし、どこかよそよそしくて――「ゴホッ……こなた、帰ったの……?」「うん。お大事にって」少し前に比べてだいぶ体調が良くなった。まだ咳は出るけど。でも、気になるのはやっぱりこなたのこと……。「最近のこなた、なんかおかしいわよね」「……そうだよね。どうしちゃったのかな……」頭を垂れてシュンとなる我が妹。本当に心配性なんだから……。「私が寝てる時、何かあった?」「う、うん。帰るって言う前に、お姉ちゃんを見て悔しそうにしてた」……え……?私を……見て……?「唇を噛み締めて、拳を強く握ってて……お姉ちゃん、何かしたの……?」そんなこと言われても……わかるわけないじゃない。私は普段通り、こなたと接している。別に相談してきたこなたを突き放したとか、してないわ。「……直接、こなたに聞くしかないわね」「でも……話してくれるかな?」「そう弱気にならなくても大丈夫よ。私がなんとかするから」「……うん、わかった」笑顔でそう言うと、つかさは立ち上がって部屋を出た。ポカリは飲み終わったし、多分飲み物を持ってこようとしているんだと思う。こういう気配りがつかさらしい。……まだ持ってきたわけじゃないけど。「うーん……」私、こなたに何かしたかしら……?しないとあんな態度にならないわよね。だとしたら、何が原因なのかしら……?「お姉ちゃん、飲み物持ってきたよー」お、やっぱりつかさは飲み物を探してくれてたんだ。「ありがと。見たことない容器だけど、中身は?」「バルサミコ酢~♪」「………」……こういう奇行が目立つのも最近のつかさだ。テレビでやってたのを見て、ハマってしまったらしい。まったく、影響されやすいんだから……「ゲマズ?」翌日。体調も良くなったために普通に学校に行くことができた。とは言ってもまだ本調子ではなく、さっさと帰って寝たかった。だというのに、こいつは……
「お願い、かがみん! 即決で欲しいグッズがあるんだけど、私一人じゃポイントに届きそうになくて!」手を合わせながら私に懇願してくるこなた。その瞳は、やはり哀しげな色を宿したまま。それに……目的はポイントではないような気がして。「仕方がないわね」「あーん、だからかがみ大好きだよー♪」……やっぱり、いつものこなたじゃない。いつものこなたならこういう場合、ふざけて抱きついてくるのに。やっぱり、私がなにかしたんだろうか……かつて一度だけ見たことがある。こなたが、心から笑っている顔を。『こなた、なんか悩みでもあるの?』『え?』『あ、いや、間違ってたらごめんね? でも、いつもよりテンション高い気がしてさ』何気なく語り掛けた言葉だった。周りは気付いてなかったみたいだけど、私にはその変化が手に取るようにわかった。『前の学校でさ、悩んでることを周りに気付かれないためにわざとテンションをあげてる子がいたからね? こなたもそうなのかなって』『……実は……その通りなんだよね……』『え……?』その時こなたは、おじさんと大喧嘩して、どうすればいいのかわからないでいたらしい。まあ、後から聞いた話なんだけど。
『誰かと喧嘩でもしたの? だったら、こなたにも悪いところがあるわよ』『私にも?』『ええ。売り言葉に買い言葉っていう具合に、心にもないこととか言ったんじゃない?』『う、うん……』『頭に血が上ったからそうなったんでしょ? だから、キレたこなたも悪い』『……すごいね、かがみ……私のことはお見通しって感じで……』『って、ホントに喧嘩だったんかい』『……うん、そうだよね。私、今日帰ったら謝る! かがみ、ありがと!』それまで私達が見ていた「泉こなた」という人物が幻影だということを、こなたの笑顔を見て気付いた。私達に迷惑を掛けないように、全てを自分自身の力で解決しようとして。考えてみればこなたは小さい時からお母さんがいない。だから、誰かを失うことが怖いんだと思う。ワガママを言うことで、皆が自分から離れていかないか、不安だったんだろう。私の言動が、行動が、こなたを不安にさせてるなら、早く原因を聞かなくちゃいけない。私はもう一度、こなたのあの笑顔が見たい。私の心のフィルムが、こなたの哀しげな顔で埋め尽くされてしまう前に――「……で、その時ゆーちゃんが……」ゲマズから出た私達は会話しながら町を歩いていた。ちなみにポイントは本当だったらしい。今日の話の主導権を握っているのはこなた。これはとても珍しいことだ。やはり、こなたはなにかを隠している。必要以上に高いテンションがその根拠だ。「いやー、やっぱりゆーちゃんはみゆきさんとコンビを組んだ方が」「こなた」私は立ち止まり、真剣な顔でこなたを見る。そのこなたは、途中で話を止められたことに戸惑っている様子だった。「あんた、やっぱりなにか隠してるでしょ」「な、なにが?」「いつも会話はこっちから振ってるのに、今日は逆転してた。こなたは悩みとかある時、いつもよりテンションがあがるって、前に経験したからね」はっとした顔で自分の口に手を当てる。そして直後に、シュンとした顔で視線を下げた。
「……やっぱりかがみには隠せない、か」「結構長く一緒にいるしね。あんただって私のこと見てるじゃない。昨日とか」視線を上げ、私の目を真っすぐに見つめてきた。いつもよりも、哀しみの色を濃くして。「……でも、これは私の問題だから。私自身で、解決しなくちゃいけないから……」……そっか。なら、私達が口出しする権利はないわ。だけど。「少しくらい、私達に相談してもいいのよ? 私達は」――その時、私の心臓が大きく脈打った。私の中のなにかが警告している。『この先の言葉を言ってはいけない』と。「……かがみん?」その言葉で、私は我に返った。と同時に私が言おうとしてた言葉が物凄く恥ずかしいことだと思い直し、後ろを向いた。多分、顔が赤くなっているのだろう、その顔を見せたくなくて。
「じっ、自分で考えなさいよ。結構恥ずかしいんだからねっ」そう言った時、後ろから小さく「わかってる」と聞こえた気がした。――私達は、親友でしょ?――あの時、なぜその言葉を言わなかったのか、今でも理解できない。ただ、不安だった。こなたに知られるのを恐れていた。それが何を示しているかはわからないけど、これだけは言える。いつか、その言葉を言わなくて良かったと、思える日がくるって――
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