つかさが専門学校を卒業するに当たり親からパソコンが贈呈された。しかしつかさはパソコンの操作や内容がよく理解できていない。そこでこなたにセットアップを依頼した。
こなた「これでよしっと……メール、インターネットは使えるようにしたよ」
つかさ「ありがとう、使い方も教えてもらうと助かるのだけど」
こなた「つかさ、後は使って覚えるしかないよ、メールとインターネット、ワープロとかなら今までも使えていたでしょ、それと同じだから」
つかさ「そうなの、分ったよ、やってみる」
こなた「ところでつかさ、このパソコン、メールとインターネットだけやるには勿体無い仕様だよ……どうだいゲームをインストールしてあげようか?」
つかさ「私今はそんなにお金持ってないよ」
こなたは不敵な笑みを浮かべた。
こなた「ふふふ、別にお金なんか要らないよ、ほら、いくつか持ってきた、選り取り見取りだよ」
こなたは鞄からいくつかソフトを取り出しつかさの机の上に並べた。
こなた「ネットゲームは?」
つかさ「んー、時間かかりそうだし難しそうだよ」
こなた「ギャルゲーは?」
つかさ「やった事ないし、それに私は女性だし……」
こなたは暫く考えた。
こなた「それじゃロールプレイングはどうかなこのゲームは全年齢対象だし面白いかもよ」
つかさ「それならいいかも」
こなたはつかさに許可を取る間も惜しむようにパソコンにそのゲームをインストールしだした。
つかさ「ちょっと、私まだゲームをするって言ってないよ」
こなた「いいから、いいから、興味なければアイコンをクリックしなければいいのだし……」
こなたに押し切られた。つかさはそれ以上何も言わなかった。そこにかがみがやってきた。
かがみ「ほー、こなたにしては珍しいわね、ちゃんとやっているみたいね」
こなた「一言余計だよ、私だってやる時はやる」
かがみ「言ってくれるじゃない、まさか変なゲームなんか入れていないわよね」
疑いの眼でこなたを見つめるかがみ。
つかさ「今ゲームを入れてもらっているの
こなた「バカ……そこで言っちゃダメ……」
かがみ「……つかさに変な事教えないでよね」
こなた「ただの普通のロールプレイングゲームだよ……それにもうつかさだって大人なのだしそのへんの分別はついてよ、いつまでも子ども扱いしていると嫌われるよ」
こなたとつかさは見合って頷いた。
かがみ「ただの普通のって強調する所が怪しいわね、つかさも相槌なんかして……まあいいわ、一段落したら台所に来て、お昼作ってあるから」
こなたは驚き、嫌な顔をした。そんなこなたを尻目にかがみは台所に戻って行った。
こなた「も、もしかしてそのお昼ってかがみが作ったの?」
つかさ「今日はお母さんも居ないし、お姉ちゃんしか他に居ないよ」
こなた「うっげー、つかさの作ったのが良かったな、おばさんのもなかなかだったよね……期待していたのに……」
こなたは項垂れた。
つかさ「それよりこなちゃん、ゲームの方は終わりそうなの?」
こなた「もう放っておいても大丈夫だよ」
つかさ「それじゃお昼食べに行こうよ」
こなたは渋々と台所へと向かった。
こなたは台所の入り口で立ち止まった。つかさは立ち止まったこなたに後ろからぶつかった。
つかさ「ふぎゅ……こなちゃん急に止まっちゃってどうしたの?」
こなたは目を疑った。『普通』の料理が並べられている。『普通』に食べられそう。『普通』……かがみの料理に関して言えばこなたにとっては驚くべき光景だった。
こなた「これってみんなかがみが作ったの、昨日の作り置きじゃない」
かがみは不敵な笑みを浮かべた。
かがみ「ふふふ、いつまでも料理下手なんて言わせない、私だってやる時はやる」
つかさの部屋でのお返しとばかりの台詞。
こなた「言ってくれるね、見た目だけじゃ分からないよ、食べてみないとね」
かがみはまるでメイドのように椅子を引いてこなたを誘った。それに吸い込まれるようにこなたは椅子に座った。
つかさ「……その料理、先週私が教えた……」
かがみ「バカ……言っちゃ……ダメでしょ」
今のこなたにかがみとつかさの会話は聞こえていなかった。箸を持ち料理を摘むと無造作に口に放り込んだ。かがみは固唾を呑んでこなたの行動を見ていた。
かがみ「どう?」
こなたは何度も料理を噛んでから飲み込んだそして暫く何も言わずに机に並べられた料理を見ていた。
こなた「……美味しい」
かがみ「聞こえない、もう一回」
これはこなたにとっては屈辱に近い。しかし真実は変えられなかった。
こなた「美味しいよ、さっきのは撤回する」
かがみ「やった!これで苦手を克服したわよ」
ガッツポーズをして喜ぶかがみだった。そんなかがみをこなたは冷ややかに見ていた。
こなた「いまさら何で料理なんか……食べさせたい彼氏でもできたの?」
かがみの動きが止まった。そして急に顔が赤くなった。当てずっぽうで言った言葉にこれほど動揺するとは思わなかった。
こなた「……図星かい……いつの間に、相手は同じ大学の人?」
つかさ「え、お姉ちゃん、こなちゃんの言っているの本当なの?」
つかさまでが本気にしだした。しかしかがみは別に彼氏ができた訳でも好きな人が居るわけではなかった。こなたの思いも寄らない質問が出たので動揺しただけだった。
かがみ「そんなんじゃないわよ、気になる人は居るけど話もしたことないわよ……」
こなた「ふーん、話したこともないって……はぁー」
片手を額に当ててため息をつく。
かがみ「な、なによ、そんなの私の勝手でしょ」
こなた「そうやってチャンスを逃しちゃうのだね……高校時代みたいに」
その言葉にかがみは見透かされたような衝撃が走った。言い返せなかった。そんなかがみを見ながらこなたは話し続けた。
こなた「かがみがいつも私達のクラスにお弁当を食べにきていた、それは何も私達に会いたいためだけじゃなかった……でしょ?」
かがみ「それは……」
言葉を詰まらせた。
こなた「かがみがチラ、チラ、って見ているのを知っていたよ、その先目線の先の男子生徒……名前は……」
かがみ「わー、その先は言うな、言ったら殴るぞ」
真っ赤な顔でこなたの口を両手で塞いだ。しかしこなたは直ぐにかがみの手を跳ね除けた。
こなた「もう過ぎたことなのに、そんなに照れなくてもいいじゃん……名前は言わないよ……その様子だと告白はしてないね?」
かがみは黙って頷いた。
こなた「もう諦めたの?」
かがみ「……もう過ぎたこと、こなたがそう言ったでしょ、もうその話はいい」
こなた「……わかったよ、もう言わないよ、でも何もしないと相手には何も伝わらないよ」
かがみ「そんなのは分かっている……分かっているわよ」
なにか重い雰囲気が広がった。それはこなたが帰るまで続いた。
その夜、つかさは自分の部屋で考え事をしていた。お昼のかがみとこなたの会話。こなたはかがみの好きな人を知っていた。
妹である自分は全く分からなかった。気が付かなかった。しかしこなたはかがみの心境を見抜いていた。
つかさは高校時代、かがみのクラスに気になる男子生徒が居た。これは誰にも言わない秘密。忘れ物をしていないのに教科書を借りにかがみのクラスに行ったことも
しばしばあった。その人を見ていたいからだった。それでもこなたやかがみ、みゆきもつかさについては全く気付いていなかった。
もともと気が付かないようにしていたのだからある意味それは成功であった。でもかがみには気付いて自分のは気付かれない。なにか寂しい。つかさの心は複雑だった。
でも結局つかさ、自分も相手に告白していない。何も無いのと同じ。かがみと同じだった。こなたの最後の言葉が頭から離れなかった。
つかさ「あっ!」
つかさは思わずこなたがインストールしたゲームのアイコンをクリックしてしまった。別にゲームする気は全くなかった。でもおかしい。ゲーム画面が全く出てこなかった。
不思議に思って暫く画面をみているといきなり真っ白なウインドが立ち上がった。そこにはゲームタイトルすら出ていなかった。
きっとインストール途中でお昼に行ったからなにか不具合があったに違いない。そう思いながらウスを動かし画面消去、閉じるバツ印をクリックした。
『カチカチ』
空しくクリックするマウスの音が部屋に響いた。何度やっても画面が消えない。もうそろそろ寝るつもりだった。このまま電源落とそうと電源ボタンに手を伸ばした。
突然画面が変わった。電源を切る手が止まった。画面にはカレンダーと時計が表示されている。そして地図らしき画面も出てきた。
良く見るとその地図らしき画面は自分の住んでいる街のようだった。画面に描かれている線路を追っていくと最寄りの駅の名前が書いてあった。自分がその駅から帰る道を
追っていくと自分の家の辺りに赤く点滅するマークが点いていた。カレンダーと時計を見ると現在の日時が刻まれている。なんのゲームだろう。つかさは首を傾げた。
つかさはおもむろにマウスを手に持ち地図を見てみた。ドラックすると地図はスライドする。つかさは通学してきた道を追うようにマウスを操作した。
つかさ「あった」
独り言。陸桜学園と書かれている所までたどり着いた。地図を読めたのは初めてだった。少し嬉しかった。思わず陸桜学園の真上にカーソルを動かしクリックした。
すると陸桜学園の場所に青く点滅するマークがついた。マウスを動かしたが地図は固定されて動かなかった。何か設定か何かが終わった感じだったがつかさはあまりゲームを
していないのでよく分からない。すると今度はカレンダーの日付が赤く点滅しだした。今日の日付だ。そして時計も赤く点滅している。今の時刻だ。
つかさは考えた。地図と同じように日付を決めるのかもしれない。
(やっぱり学校なら……あの日しかないよね)
卒業式の午後……つかさが言おうとして言えなかったあの日あの時。つかさはマウスを操作して日付と時刻をその時に合わせた。すると今度はカレンダーと時計が青く点滅した。
新たに画面が出てきた。
『これでいいですか?』『YES』『NO』
何が良くて何が悪いのかは分からない。しかしつかさは『YES』のボタンをクリックした。画面が消えてしまった。
つかさ「えー、何も起きないの、期待したのに……」
また独り言、つかさはため息を一回ついた。どうやらこのゲームはインストール失敗のようだった。つかさはお風呂に入るために部屋を出た。
急に眩しい光が差し込んだ。光の方向を見上げた燦燦と太陽が照り付けていた。おかしい。もう寝る時間のはずだった。自分の部屋を出ただけだったはず。
つかさは辺りを見回した。花壇。植えられた草花。後ろを向くと見覚えがある建築物。体育館……そう、陸桜学園の体育館。ここは体育館の裏庭だ。
はっと気が付いた。自分の今の姿だった。私服でしかも足はスリッパを履いている。誰かに見つかったら怪しまれる。つかさは身を低くして花壇の植え込みに身を隠した。
つかさはその時気が付いた。もしかしたらあのパソコンで設定した通りの日時と場所に来ているのかもしれないと。
つかさ「どうしよう、どうしよう」
何も考えられない。でも学校から出た方がよさそうなだけは理解出来た。裏門からこっそり出よう。そう思った。身を低くしたまま移動をした。
裏門に着くとつかさの足が止まった。裏門には制服を来た自分の姿があった。
(なんで裏門なんかに私が)
その状況を思い出すに時間はかからなかった。
そうだった。彼に告白をするつもりだった。彼はいつも裏門から下校する。だから……
つかさは過去の自分を見ている。自信なさげに裏門の端に隠れるようにして立っていた。
(なんで隠れているの、それじゃ意味ないよ……)
植え込みの陰から過去の自分を見た。自分ながら情けない姿だったと思っていた。暫くすると校舎から一人の男子生徒が歩いてきた。目当ての人だった。
男子生徒は普段のように歩いてきている。過去のつかさは胸に手を当てじっと彼を見ていた。しかし彼は気付かない。
(今だよ、今飛び出して……)
つかさは今にも叫びそうになったが耐えた。彼はそのまま過去のつかさを素通りして門を潜り去っていった。過去のつかさは手を胸に当てながらため息をついて項垂れた。
彼を追うこともなく過去のつかさは校舎の方に戻っていった。
(なにやっていたのだろう……ただ一言言うだけだったのに……)
ただため息をつくばかりだった。
裏門は思いのほか人の出入りがあった。ここからは出られそうにない。つかさは裏門から出るのを諦め体育館の裏庭に戻った。するともう一人植え込みの陰に
隠れている人陰を見つけた。つかさには気付いていない様子、体育館の方を見ている。目を凝らして良く見ると制服を着たかがみの姿があった。
(お姉ちゃん、なんでこんな所に……そういえば私が教室に戻った時お姉ちゃんはまだ居なかった)
不思議に思いながらかがみを見ていると誰かを待っているようだった。でも隠れているのはどう見てもおかしい。かがみの手には手紙らしきものを持っている。
暫くすると体育館の方から男子生徒がやってきた。それはつかさのクラスメイトだった。こなたの話を思い出した。
(お姉ちゃん、もしかして手紙を渡すために呼んだのかな……その手紙はラブレター……)
男子生徒はキョロキョロと辺りを見回している。呼んだ人を探しているみたいだった。しかしかがみは一向に彼の前に出る気配はなかった。かがみは彼を見ているだけだった。
呼んだのはかがみだとつかさは確信した。数分経っただろうか。
男子生徒「おーい何している?」
体育館から別の男子生徒がやってきた。彼の友達だ。
彼「いやね、ここに来て欲しいって書置きが下駄箱にあってね……」
男子生徒「……悪戯だよ、少しは考えろよ……誰がお前をこんな所に呼ぶ」
彼「そうだよな、バカみたいだった、行こうか」
男子生徒たちは裏庭を後にした。かがみはそのまま彼を見送った。かがみは手紙を広げてじっと見つめた。そしてビリビリに破りその場に捨てた。
かがみの目には涙が流れていた。かがみはその涙を拭おうとはせず走ってその場を去って行った。
つかさ「お姉ちゃん……あの後笑って私達の前に現れて……カラオケパーティだって私達を誘った……そんな事があったなんて……知らなかった」
つかさはかがみが隠れていた場所に歩くと破られ捨てられたラブレターを拾った。
はっと気が付いた。つかさは辺りを見回した。自分の部屋に居た。思わずパソコンの画面を見た。画面は消えたままだった。夢を見ていたとつかさは思った。
つかさはパソコンの電源ボタンを押そうとして手を出すと。その手には破られた手紙の破片を握っていた。
『コンコン』
ドアがノックされた。
かがみ「つかさ、まだ起きているの、先に寝るわよ……」
かがみは深夜になっても起きているつかさを見て驚いた。
かがみ「珍しいこともあるわね……さてはこなたに貰ったゲームをしていたな……」
つかさは手に持っているものを見ていた。かがみは不思議に思いつかさに近づいた。
かがみ「何よ、それは……えっ……なんでつかさがそんなの持っているのよ」
つかさは手紙の破片をかがみに渡した。かがみは手渡された手紙の破片を見て当時の感情が湧きあがってきた。
つかさ「お姉ちゃんの気持ち、すごく分かるよ、言えなかったの……言えないって辛いよね……」
つかさの言葉にかがみは冷静さを失った。手紙を握り締めながらかがみは泣いた。あの時を思い出して。
数日後つかさはこなたを家に呼んだ。もちろんゲームに関して聞きたかったからだ。
こなた「何のゲームかっだって、やっていて分からなかったの?」
思い切って先日起きた出来事を話した。かがみの秘め事については伏せた。自分については諦めが着いたけどかがみはまだ心の傷は癒えていないと思ったからだ。
こなた「過去の世界に行っただって……ふふふ……つかさ夢でも見たのだよ」
つかさは内心がっかりした。今まで秘めていた自分の恋を打ち明けたのにこの程度の反応だったなんて。
つかさは黙ってパソコンを立ち上げゲームのアイコンをクリックして見せた。こなたは驚いた。見た事もない画面が出てきたからだ。
こなた「何、この画面は?」
つかさ「何って、聞きたいのはこっちだよ、壊れちゃったのかな」
こなた「どうやって操作したのさ、過去に戻るってどうしたの?」
つかさはこなたに説明をした。
こなた「赤い点滅と青い点滅か……赤が現在、青が行きたい年代って訳か……つかさにしてはよく分かったね」
つかさ「こなちゃん、元に戻るかな?」
しかしこなたは元に戻す素振りは見せなかった。
こなた「……つかさに好きな人が居たって話は驚いたけど……言っているのが本当なら……私達は凄い物を手に入れた、そう思わない?」
つかさ「凄い物?」
鈍いつかさにこなたはため息をついた。
こなた「タイムマシーンだよ、誰も成し遂げられなかったタイムマシーン、時間旅行ができる、過去を変えることが、未来を確かめに行く事ができる、凄いよ」
つかさはそうは思わなかったつかさが過去に行って戻ってきた時はかがみがただ悲しみに泣いていただけだった。
つかさ「私はそんなに凄いとは思わないよ……」
そんなつかさにこなたは珍しく真面目な顔になった
こなた「私も行ってみたい時代がある……できればやり直したい……」
つかさ「まさかこなちゃんも告白出来なかったの?」
こなたは黙ったままだった。つかさはもうそれ以上聞けなかった。こなたがかがみの心情に詳しかったのも理解できた。
こなた「……なんてね、タイムマシーンだなんて夢物語だよ、つかさは疲れて夢でもみたね、ゲームを元に戻したいけど今はソフト持って来てない、今度の休みにでもね」
笑顔で答えるこなた。つかさには作り笑顔に見えてしかたなかった。こなたはそそくさと帰り支度をし始めた。
つかさ「え、もう帰っちゃうの、お姉ちゃんもゆきちゃんもそろそろ来る時間だよ」
こなた「今日はそんな気分じゃない……二人によろしくって言って」
つかさ「……うん」
こなたは帰った。暫くするとかがみとみゆきが入れ替わるように来た。
かがみ「ただいま」
みゆき「お邪魔いたします」
つかさ「お姉ちゃんおかえり、ゆきちゃんいらっしゃい」
かがみとみゆきはつかさを見ると心配そうな顔をした。
かがみ「さっきこなたとすれ違ったわよ……何があったのよ、まさか喧嘩でもしたって訳じゃないでしょうね」
みゆき「どうしたのですかと聞いても、帰る、の一点張りでした、どうかしたのですか?」
つかさ「……何でもないよ、喧嘩もしてない、今度の休みにまた会う約束したし……何でもないって……お姉ちゃん、ゆきちゃん、上がって」
みゆき「それならいいのですが……」
かがみ「ま、つかさとこなたの事に口出しは無用ね、それじゃ、出かけましょ」
つかさ「あれ、どっか行くの?」
みゆきはクスクスと笑い出した。
かがみ「ちょっとしっかりしなさいよ、買い物に行く約束だったでしょ、つかさが言い出したのよ」
つかさ「あっ!!そうだった、ごめん」
つかさは急いで出かける支度をした。
楽しい買い物も終わりみゆきと別れ、つかさとかがみは帰宅した。
つかさは自分の部屋に入り着替えた。ふと自分の机を見た。パソコンの電源が入りっ放しになっていたのに気がついた。
こなたがいじっていて消すのを忘れたようだ。つかさは電源ボタンに手を伸ばした。
つかさは画面を見て電源を切るのを止めた。画面には『これでいいですか?』『YES』『NO』と表示されていた。
つかさ「そういえばこなちゃんが弄った、もしかして設定しちゃったのかな」
つかさはマウスで『NO』をクリックした。しかしまた元の画面に戻ってしまう。何度しても元の画面に戻ってしまった。つかさは強硬手段に出た。
パソコンの電源ボタンを押して直接切った。でも電源は落ちなかった。直接コンセントを抜くこともできたが新品のパソコンが壊れてしまうかもしれない。それだけは避けたい。
『YES』をするしかなさそうだった。つかさは思った。こなたのやり直したいと言っていた時代にいけるのかもしれない。興味が出てきた。
いったいどんな物語が見られるのだろうか。つかさは高校時代の制服を着て玄関から靴を用意し自分の部屋に戻った。
深呼吸を一回した。
つかさ「こなちゃんごめんね」
まるで他人の不幸を見に行くような自分。思わずこなたに謝った。
そしてつかさは靴を履いて『YES』をクリックした。
何も起きなかった……やはりあの時は偶然だったのだろうか。つかさは考えた。あの時、風呂に入りに行こうとして扉を開けたら過去に行けたのを思い出した。
つかさはゆっくりと部屋の扉を開けた。
急に静かになった。そこは陸桜学園ではなかった。閑静な住宅街の家の門の目の前につかさは立っていた。表札には『泉』と書かれている。何度も来たことのあるお馴染みの
家、こなたの家の前だった。つかさは周りを見回した。特に変わった様子はない。何となくこなたの家が少し新しく見えるくらいだろうか。いったいどのくらい前の時代なのか
まったく検討がつかなかった。つかさはとりあえず駅の方に歩いていった。見慣れた風景、だけどなにか違和感があった。
違和感と言えば久しぶりに着たせいかなのか制服がなんとなく着心地が悪い。もしかしたら少し太ったのかもしれない。
つかさは不思議に思った。学校ではなく何故自分の家だったのだろうか。近くに居た彼氏だったのかも。これなら普段着でも良かったのかもしれない。
曲がり角を曲がると道端に女性が倒れているのを見つけた。もう駅にだいぶ近い所だった。つかさは女性に駆け寄った。
つかさ「大丈夫ですか?」
女性「だ、大丈夫です、そこの椅子まで……」
女性の指差す方を見ると公園のベンチがあった。つかさは女性腕を自分の肩にかけて公園のベンチまで運んだ。つかさは女性を椅子に座らせて彼女の顔を見た。
つかさ「こなちゃん!」
叫んだが直ぐに間違えだと気付いた。
女性「こなちゃん?」
つかさ「い、いえ、人違いでした……本当に大丈夫ですか?」
こなたに似ている小柄な女性、以前こなたの家で写真を見たことのある人。その人が目の前に座っている。泉かなた。その人であった。しかし写真で見るよりもやつれている。
つかさはかなたが倒れていた所にあった荷物を持ってきてあげた。
かなた「すみませんね」
申し訳なさそうにつかさを見た。
つかさ「いいえ、倒れているのでビックリしました、救急車を呼びますか?」
かなた「大丈夫です、ですけど、もし良かったから私の荷物から水と薬を取っていただけると助かります」
つかさは鞄から薬と水筒をとってかなたに渡した。薬を飲んでいるようだった。病気なのだろうか。そういえばつかさはこなたから母親の死因を聞いていなかった。
もっともそんなのはよっぽどでなければ聞くことはまずないだろう。
つかさ「病気……なのですか?」
かなたはゆっくり薬を飲むと水筒をつかさに渡した。つかさは元の鞄に水筒をしまった。
かなた「お産後、ちょっと調子がわるくなって……ふぅ……楽になりました……」
つかさ「良かった……」
するとかなたの目がすこしきつくなった。
かなた「見たところ学生みたいだけど、こんな時間に……授業はどうしたの?」
声はとても優しかった。しかしつかさは答えを用意していなかった。なんて言えばいいのだろうか。何か見透かされているような目だった。嘘はつけそうにない。
つかさ「えっと、その……」
言葉を詰まらせるつかさ。かなたはそんなつかさに微笑みかけた。
かなた「その制服は陸桜学園……かしら、言えない事情があるのね、でも私を助けてくれた……もう聞かない……名前を聞いてもいい?」
つかさ「柊つかさです」
かなた「私は……泉かなた」
何か和んだ気持ちになった。かなたは暫く椅子で休んだ。つかさも話しかけるわけでもなく邪魔しないように近くに居た。
かなた「もうすっかり落ち着いちゃった、ありがとう」
つかさ「はい」
かなたは椅子からゆっくり立ち上がった。しかしフラフラしている。バランスを崩して倒れそうになった。つかさは自分の体を盾にしてかなたを支えた。
つかさ「家まで送ります」
かなた「ごめんね、こうなったら最後まで甘えさせてもうらおうかな、お願いします」
つかさはかなたを支えながら家の方に向かった。つかさは思った。本来こうするのはこなたじゃないといけなかったじゃないかと。
こなたはこの時代にセットをした。きっとかなたに会いたかったに違いない。興味本位で来てしまったつかさは後悔をしていた。
つかさ「家に着きました」
かなた「……不思議ね、私は道を教えていないのに……一回も間違わないで誘導してくれた……もしかして私を知っているのかしら?」
つかさはそこまで気が回らなかった。なんて言っていいのか分からない、ただ黙っているしかなかった。かなたはそんなつかさに微笑みかけた。
かなた「よかったら上がっていって、お茶でもどうぞ」
かなたは玄関の扉を開けてつかさを招く。つかさはこのまま帰りたかった。でもこのまま帰るのもなにか気が引ける。つかさはただ黙って泉家に入っていった。
つかさは居間に通された。今の状態と全く同じ配置にテーブルや家具が配置されている。つかさが居間の椅子に座るとかなたは台所で作業を始めた。
なにか落ち着かない。つかさはキョロキョロと辺りを見回していた。
かなた「そんなにこの部屋珍しい?」
笑いながらお茶を持ってきた。つかさの目の前ににお茶とお茶菓子を置くとかなたも席に着いた。何か言わないと。つかさは焦った。
つかさ「えっと、お子さんは、何処にいるのですか?」
かなたはつかさに落ち着きがないのはそのせいかと思った。
かなた「あ、赤ちゃんの気配がないから落ち着かなかったみたいね……そう君……夫が不規則な仕事をしているし、今の私もこんな状態だから親戚に預けているの」
その親戚はきっとゆたかの実家だとつかさは思った。
つかさ「そうですか……すみません家庭の事を聞いちゃって」
かなた「いいのよ、話したいから話しただけ、それよりお茶とお菓子食べちゃって」
つかさはお茶を飲み始めた。かなたはそんなつかさを見つめていた。つかさは少し恥ずかしくなった。
かなた「さっきお茶にお砂糖を入れる時、何の迷いもなくその瓶を選んだでしょ……つかさちゃん」
つかさ「えっ、だっていつも……」
つかさはドキっとした。色違いの同じ形の瓶に砂糖と塩が入っている。つかさは無意識に砂糖の入っている瓶を取っていた。
つかさはかなたを見て目を潤ませてしまった。なぜか無性に悲しくなった。こんないい人にもう会えなくなってしまうなんて。
かなた「この家をを知っているみたいと言うのかな、つかさちゃんを見ているとなんか他人のような気がしない」
何も言えなかった。つかさは俯いて涙を隠した。かなたはその涙に気付いたみたいだった。
かなた「家出でもしたの、きっと家族の方が心配していると思う」
これはチャンスだった。かなたが勘違いをしている。と言っても未来から来たなんて思わないだろう。つかさはそれに便乗することにした。この場を早く離れたかった。
つかさ「うん……そうかもしれない、私、帰った方がいいかな」
かなたは席を立つと引き出しから財布を取り出した。
かなた「これは少しだけどお礼、交通費の足しにでもして」
かなたはつかさの手を掴み持ち上げた。手の上にお金を置いた。
つかさ「こんなに、受け取れません……」
かなた「私の命の恩人ですものね」
かなたはにっこり微笑んだ。その笑顔に思わずつかさはそのお金をポケットにしまった。そしてそのまま玄関へと歩いてった。かなたもつかさの後を付いて見送ろうとした。
つかさ「あ、あとは私一人でいいので、休んでいて下さい」
かなたは立ち止まり笑顔で手を振った。つかさはドアを開けた。
外に出たはずだった。しかしそこは自分の部屋の中だった。現代に戻ってきた。その目の前にかがみが居た。
かがみ「つかさ、どうしたのその格好……まさかコスプレやっているって訳?」
かがみは呆れた顔でつかさを見ていいた。
つかさ「これは……へへへ」
苦笑いをした。
かがみ「まったく呼んでもこないから何をしていると思ったら……今頃になってこなたの趣味が感染するなんて……趣味の世界だから干渉はしないけど土足は止めにしないか」
つかさは慌てて靴を脱いだ。
かがみ「もうすぐご飯よ、着替えてからおりてきて」
つかさはポケットからお金を出した。かなたの笑顔が脳裏に浮かんだ。また涙が出てきた。しばらく下に降りることができなかった。
休日の日が来た。午前中からこなたは柊家に訪れていた。つかさはこなたに謝らなければならなかった。
つかさ「早速だけど私はこなちゃんに謝らないといけないの」
こなた「なぜ、何も悪い事なんかしてないじゃん」
きょとんとしてつかさを見た。
つかさ「この前こなちゃんが来たとき私のパソコンでゲームの設定をしたでしょ……時間と場所」
こなた「……したけど、それがどうかしたの?」
少し間を置いてから話した。言い難かったからだ。
つかさ「私……行っちゃったの、こなちゃんのやり直したいって言っていた時代に……」
こなたは俯いてしまった。つかさは思った。これでこなたと友達で居られないかもしれないと。きっと怒ってくる。覚悟した。
こなた「ふふふ、家出の少女ってつかさだったのか……やっぱり、何となくだけど試しに入れてみた時間と場所……これは本物だよ、つかさ」
つかさ「え、どうゆうこと?」
つかさは聞き返した。
こなた「あの日はお母さんが入院する日だった、お父さんから聞いた話だよ、その日、家出してきた陸桜の生徒に助けられたってね……その子の特徴が
つかさに似ている、名前も聞いたらしいけどお父さんは忘れちゃった、だけどもうこれで分かったよ……」
つかさ「こなちゃん、もしかして私が行くと思っていたの?」
こなた「多分本当の事を言っていたら行かなかったでしょ、だから失恋っぽく演出したのだよ……もしかして制服着て行ったの?」
つかさ「設定した場所が学校だと思って……」
こなた「ふふふ、ははは、傑作だよかがみに見せたいくらいだ」
つかさ「見られちゃったよ……こなちゃんの趣味が感染したって言われた」
こなたは大笑いを始めた。しかしつかさはあまり悪い気にはならなかった。こなたは暫く笑い続けた。
こなた「つかさ、お母さんはどんな人だった?」
唐突だった。つかさは驚いた。
つかさ「え、なんで今更、おじさんとか、成実さんから聞いてないの?」
こなた「聞いているさ、聞いているけど……お父さんは妻としてしか聞いてない、ゆい姉さんはその時はまだ子供だった……つかさの思ったとおり教えて」
つかさは天井をみて少し考えてから話した。
つかさ「……とっても優しかった、あの時おばさんを助けたけどなんだか私が助けられたみたいだったよ、それにね、お金までくれるなんて、受け取っちゃけど返したいな」
こなた「そう、つかさのお母さんと比べてどう?」
つかさ「……こなちゃん、お母さんって比べるものじゃないと思うけど……」
こなた「そうだよね、そうだった……ごめん……でも比べないとイメージが湧かないよ」
また俯いてしまった。今度は本当に悲しいみたいだった。血の繋がっていない他人のつかさが悲しくなるくらいだ。こなたが悲しくなるのはつかさにも痛いほど分かった。
つかさ「それだったら会いにいく?」
こなたは俯いたまま動かない。つかさは質問を変えた。
つかさ「こなちゃん、やり直すって何をしたいの、おばさんって病気だったのでしょ、だったらもうどうしようもないよ……」
こなた「どうすることもできるよ」
こなたは鞄から小さい瓶を取り出しつかさの机の上に置いた。
つかさ「なに?」
こなた「バイトで稼いだお金で昨日買った薬だよ、あの時は不治の病でも今ではこの薬で完治できるのさ……三年前実用になった」
つかさ「もしかして、この薬を?」
こなた「……そう、この薬を持って行ってお母さんに飲んでもらう……それだけでいいよ……それだけで」
やり直すと言っていた意味が分かった。でも何故かつかさはあまり喜べなかった。
つかさ「それって歴史を変えちゃうってことだよね?」
こなた「変える訳じゃない、やり直す」
つかさ「でも、それはやってはいけない事じゃないかと思うのだけど……」
こなた「出来ないならやらないしやれない、でも救う方法がある、あるなら助ける、当たり前だよね」
つかさ「でも……過ぎ去った事実を変えるなんて……」
こなたは顔を上げてつかさを見た。
こなた「つかさもかがみと同じ事を言うね……つかさだって倒れていたお母さんを助けたでしょ、あのまま素通りすればよかったじゃないか、助けられるなら助ける、
つかさだって同じじゃないか、つかさはお母さんが居るからそんな事が言える」
こなたの目には涙が溢れていた。説得力があった。こなたの言う通りかもしれない。しかしつかさの言いたいのはそれではなかった。
かなたが生きていたとして、その世界でこなたが陸桜学園に進学しているのか疑問に思った。もし別の高校を選んだとしたら友達として一生会えない気がした。
それが過去を変えたくない理由だった。でも助けられるなら助けたい。自分の思いとこなたの言葉がつかさの頭の中で響いていた。
つかさ「こなちゃん、もしかしてお姉ちゃんにパソコンの話をしたの?私がお姉ちゃんと同じ事言ったって……」
整理がつかないのでつかさは話を変えた。こなたは直ぐに頭を切り替えた。
こなた「いや言ってないよ、以前タイムとラベル物の映画の話題をしていて論争になっただけ、歴史を変えるのっていいのかってね、かがみは変えちゃダメだってさ……」
つかさ「そうなんだ……」
こなたはまた直ぐに話を元に戻した。
こなた「つかさ……パソコン貸してくれるよね……」
つかさは返事が出来なかった。こなたはそんなつかさを見てもどかしくなった。
こなた「つかさ……つかさはもう二度も過去に行っているよね、でも今ここに居て何が変わった……変っていないよね、つかさが過去に行ってなかったらその日が
お母さんの命日だったかもしれない、そう言う意味じゃもうつかさは過去を変えちゃった……それでも私のしようとしている事は間違っているのかな」
こなたはつかさを説得した。つかさは頭を抱えた。
つかさ「分からない……分からないよ……」
こなたは一回ため息をついた。このまま無理押ししても貸してくれそうにない。
こなた「それじゃ分かるまで待つよ……それからこの薬をつかさに預けるよ」
こなたは薬の瓶をつかさの手に置いた。
つかさ「なんで私が?」
こなた「つかさが居ない時パソコンを使うかもしれないでしょ……私はかがみを訪ねれば家にもつかさの部屋にも入れるからね」
つかさは驚いた。思わずこなたの目を見た。
こなた「もしかしたらやっちゃうかもしれいから……やっぱり快く貸してくれないとね、人の命がかかっているから」
こなたは微笑んだ。つかさにはその笑顔がかなたと重なって見えた。
こなた「あまり時間がないから期限を決めるよ……その薬の効力は一週間しか持たない……三日後、三日後の夜また来るよ、それで決めて」
つかさは自分の手にもっている瓶を見つめた。こなたは部屋を出て帰った。
家に帰ったこなたは考えた。なぜつかさはかなたの病気を治すのに反対したのか。過ぎ去った事実を変える。確かに自然の摂理に反しているかもしれない。
しかしつかさはかがみとは違う。そこまで難い考えはしないと思った。もっと別の何かがつかさを止めさせているに違いない。しかしこなたはそれが何かは分からなかった。
ゆたか「こんにちは」
高校を卒業したゆたかは実家に戻った。それから度々こなたの家に遊びに来るようになった。ゆいと同じように。
こなた「いらっしゃい、今日ゆい姉さんは一緒じゃないの?」
ゆたか「今日は遅番だから来られないって、お姉ちゃんによろしくって」
特に何をする訳でもない。ゆたかはこなたとの会話を楽しみにしていた。今日は話が弾む。
こなた「しかしゆーちゃんもしょっちゅう家に来ているけど、ゆい姉さんと同じだね」
ゆたか「やっぱり高校時代が楽しかったから……かも」
こなた「そもそも実家を離れてまでなぜ陸桜なんか選んだの」
ゆたかは少し意外そうな顔をした。
ゆたか「前に言わなかったかな……お姉ちゃんが通っていたから……」
こなた「そうだったっけ……そういえばみゆきさんもおばさんが通っていたからって言っていたかな……」
そう考えると何かを決める動機なんてそんなものなのかもしれないとこなたは思った。
ゆたか「意外とかがみ先輩とつかさ先輩も同じかもね、どっちが先に決めたかは分からないけど……」
こなた「ふふふ、いや、どう考えてもかがみが先でしょ……つかさは一人で決定なんか出来ないよ」
こなたは笑いながら話した。
ゆたか「笑っているけどお姉ちゃんは何で選んだの?」
こなた「私、私はね……お父さんと賭けをした、高校のランクで賞品を決めて……えっ?」
ゆたか「えっ?」
ゆたかは聞き返したがこなたの話が止まった。そうじろうと賭けをして決めた高校。もし、かなたが生きていたらそんな賭けをしただろうか。もしかしたら違う高校に行っていた。
つかさはそれを心配して躊躇しているのではないか。つかさはこなたと出会えなくなるのが嫌だった。そう思うとこなたもすんなり薬をかなたに渡せなくなった。
こなた「……ばかだよ、つかさは……そんな事考えたら何も出来ないよ……」
この時こなたの心が揺らいだ。
ゆたか「どうしたの、お姉ちゃん」
こなたの顔を覗き込むように心配した。
こなた「……な、何でもないよ……話の続きしようか……」
同時刻つかさはみゆきに電話をしていた。
つかさ「……って薬なんだけど、これってどんな薬かなって」
みゆき『……聞かない名前ですね、おそらく数年以内に開発された新薬だと思います、つかささんパソコンの前に移動できますか?』
つかさ「ちょっと待って……携帯電話にかけなおすから」
つかさは電話を切ると自分の部屋に戻った。パソコンを起動してみゆきに携帯電話をかけた。
つかさ「……あ、ゆきちゃん、ごめんね、いきなりこんな電話しちゃって」
みゆき『いいえ、お構いなく……私もパソコンの前に居ますので一緒に操作しましょう』
つかさはみゆきの言うようにパソコンにキー入力をした。すると薬の一覧表が表示された。
みゆき『これは……この薬は三年前に認可された薬ですね、特定の病気に開発された特効薬ですね、副作用も少なく他の幾つかの病気にも有効なので去年からは
処方箋無しで購入でるようですね、つかささん、この薬を使うのですか?』
つかさは慌てた。なんて言っていいのか少し考えた。嘘を付いてもしょうがない。
つかさ「え、うんん、こなちゃんのお母さんの病気について調べていたの」
みゆき『それを聞いて安心しました……泉さんのお母さんがこの病気に……もし、この薬がその時代にあったなら泉さんのお母さんもきっと良くなったと思いますよ』
つかさは迷った。タイムトラベルの話をみゆきにするかどうか。みゆきなら信じる信じないは別ににして一緒に考えてくれそうな気がしたからだ。
つかさ「こなちゃんもおばさんの病気の話をゆきちゃんに聞いたの?」
みゆき『いいえ、伺っていませんが……』
つかさは驚いた。こなたは自分一人でこの薬を調べたみたいだった。もっともこなたが先に聞いていればみゆきも薬の名前くらいは覚えていただろう。
無闇に話すのは控えたほうがよさそうだ。
つかさ「そ、そうなんだ、すごい薬だね……調べてくれてありがとう」
こなたを疑ったわけではなかった。しかしこの薬は本物だ。調べる必要はなかった。つかさはそのまま携帯を切ろうとした。
みゆき『ちょっと待ってください、余計な事かもしれませんがその薬は使用期限がとても短いですね……もっと詳しく知りたいのでしたらパソコンの画面を読んで下さい』
つかさ「……うん、分かった、ありがとう……」
つかさは携帯を切った。そのままパソコンの電源を切ろうとした。ふと薬の一覧表を見た。その薬の値段を見て驚いた。
三年前の十分の一の値段まで下がっている。他の病気にも使われたので一気に値が下がったようだ。それでも学生が簡単に購入できる金額ではなかった。
こなたの想いの強さはこれを見ただけでも充分理解できた。そして薬の使用期限、あまりのんびりはしていられない。
それでもつかさは決め兼ねていた。パソコンから離れた。自分の部屋を出る。そしてつかさは自然とかがみの部屋の前に立っていた。
『コンコン』
ドアをノックしてつかさはかがみの部屋に入った。かがみは机に向かって勉強をしていたようだった。
つかさ「勉強中だったみたいだね、また後で来るよ……」
かがみ「構わないわよ、もうそろそろ止めようかと思っていたところ、何か用なの?」
かがみは椅子を回転させてつかさの正面に向いた。
つかさ「例えなのだけど……例えばこなちゃんのお母さんを過去に行って助けたらどうなるかな?」
かがみ「……いきなり唐突だな……つかさ、出来もしない事を考えるよりこれからの事を考えた方がいいわよ」
かがみらしい答えだった。でもこれで引き下がるわけにはいかなかった。
つかさ「だから例え話、タイムマシーンがあったとして」
かがみはすぐにこなたとつかさで何かあったと思った。
かがみ「こなたと何かあったのか、そいえば今日来ていたわよね、そういえば珍しく私には何も言って来なかったけど……」
そして以前に似たような話をこなたとしたのを思い出した。
かがみ「ああ、あの時の話をこなたとしていたのか、つかさもその手の物語に興味を持つようになったみたいね」
つかさはとりあえず頷いた。
かがみ「つかさの例えは『親殺しのパラドックス』の逆を言っているのよ」
つかさ「親……殺しって……穏やかじゃないね、何それ?」
かがみ「簡単よ、つかさがタイムマシーンに乗っていて三十年前のお母さんを殺したとしたら、どうなると思う?」
つかさ「三十年前って私達生まれてないよね……私が生まれる前にお母さんが死んじゃったら今の私はどうなるの?」
かがみ「分からないが正解、この手の物語はそれがテーマになるのよ、だから想像でしか答えられない」
つかさ「お姉ちゃんは歴史を変えるのってダメだってこなちゃんに言ったの?」
かがみ「……やっぱりあの時の話をこなたとしていたのね……あれはダメって言うようより出来ないって言ったのよ」
つかさ「出来ないって?」
かがみ「良く考えてみて、タイムマシーンがもし在ったとしたら人間は絶対に過去の誤りを正そうとする、私だってやり直したい事なら山ほど在るわよ……
でも現実は変えられないのよ、過去にどんな事をしたとしてもその結果は変えられない、私はそう思う、そう言う意味でこなたに言ったつもりよ」
つかさ「それじゃタイムマシーンが在ったらお姉ちゃんは何かする?」
それはあった。もうそれはつかさに見られている。今更隠してもしょうがない。それにつかさになら話しても茶化されたりされない。
かがみ「在ったら真っ先に卒業式の日に行くわ……そしてあの時の私の背中を思いっきり押してやる……それだけよ……例え変えられなくても……それが人情ってもの」
つかさはかなたを助けたい感情が高まった。その結果が変らないとしても、こなたと会えなくなったとしても今より幸せになれるのなら良いと思った。
その時つかさは決意した。今ならかがみの願いが叶えられると。そしてつかさ本人の願いも同時に。
つかさ「お姉ちゃん、行ってみようよ、卒業式の日」
かがみ「はぁ、何言ってるのよ」
かがみは呆れ顔になった。
つかさ「お姉ちゃんに渡した手紙の破片……どうやって私が手に入れたと思う?」
かがみは慌てて机の引き出しを開けて手紙の破片を見た。手紙を持つ手が震えている。
かがみ「まさか……どうやったと思っていた……出来るはずがないと思っていた……」
かがみは放心状態だった。
つかさ「もし行きたかったら、制服に着替えて靴を持って私の部屋に来て」
つかさは玄関に自分の靴を取りに行きそのまま自分の部屋に戻った。
つかさが制服に着替えているとノックの音が聞こえた。
つかさ「はーい」
扉が開くと靴を持ち制服姿のかがみが居た。
かがみ「まさかまたこの服を着るとは思わなかったわよ、そろそろ処分しようと思っていた……何か違和感があるわね」
つかさ「それは太ったからだよ」
かがみ「バカ……そんなにはっきり言うな」
その時かがみは思い出した。
かがみ「そういえばあんた以前制服着ていたわね」
つかさ「……これで三回目になるよ」
かがみは黙ってつかさの行動を見守った。つかさはパソコンに向かい画面を起動した。そしていつものように地図と時計をセットした。
『ブブー』
パソコンから操作禁止の警告音が出た。つかさはまた同じ作業をする。
『ブブー』
警告音と共にカレンダーと時計が現在の時間に戻ってしまった。つかさは何度も設定しようとするが戻ってしまう。壊れてしまったのだろうか。
良く見ると設定しようとした日時が黄色く点滅している。故障ではないこのソフトがそうなっているみたいだった。つまり一度行った時代には行けないようになっていた様だ。
つかさは後ろから冷たい氷のような軽蔑の視線、いや、燃えるような怒りを感じた。
かがみ「つ、か、さ……」
重い低い声だった。つかさは後ろを振り向けなかった。
かがみ「謀ったわね……」
つかさ「……違う、違うの、この前行っちゃったから……行けないのかも、ちょっと待って、もう一回設定するから……」
かがみ「何を設定するのよ!それはゲームの画面じゃない……つかさ、あんたって人はそれほど人の失恋が面白いのか……人の気持ちを弄ぶなんて見損なった」
誤解だ。これは完全に誤解。どうやって説明する。つかさは一所懸命に考えた。とりあえず振り向きかがみの顔をみた。かがみの顔は怒りに満ちていた。
かがみは手に持っていた手紙の破片をつかさに叩き付けた。
かがみ「何がタイムとラベルよ、あの時見ていただけじゃない、その時これを拾ったな、今日まで隠して、それでさっきあんな話を持ち出して、私にこんな格好までさせて
さぞかし楽しかったでしょうね……つかさ一人じゃこんなの思いつかないわね、こなたの入れ知恵か」
つかさはまずいと思った。あらぬ疑いがこなたにかかった。いまこなたはかなたの事で頭がいっぱいのはず。何とかしないと。
つかさ「こなちゃんには何も言ってない、こなちゃんは手紙の話は知らないよ……」
かがみ「……呆れた、単独犯か、あんたの顔なんかもう見たくない」
かがみの目からは涙が出ていた。かがみを完全に怒らせてしまった。かがみは飛び出すようにつかさの部屋を出た。つかさはかがみを追い掛けた。
かがみは自分の部屋に入るとドアを閉めた。つかさはドアをノックする。
つかさ「開けて、話を聞いて……」
何度もノックするが反応がない。部屋の中からかがみのすすり泣く音がかすかに聞こえる。つかさはノックするのを止めた。説明を諦めて自分の部屋に戻った。
かがみの心に大きな傷をつけてしまった。つけたのではない、傷を広げてしまった。つかさの足元に手紙の破片が落ちていた。つかさは手紙の破片を拾った。
もうあの時には戻れない。急につかさも悲しくなり目から涙が出てきた。つかさもあの時自分の背中を押したかった。そして気が付いた。つかさもかがみと同じだった。
まだ未練があったのだと。タイムマシーンを使って結局何もしなかった自分が情けなくなった。もうその時間すら取り戻せない。かがみの誤解も解けそうにない。
つかさはその場に倒れこんで泣きじゃくった。
こなたはつかさに呼ばれた。約束より一日早い連絡だった。まさかつかさの方から連絡がくるとは思いもしなかった。こなたは未だに悩んでいた。まだ結論が出ていない。
この際だからつかさと直接話して決めようと思った。こなたは柊家の門の前で呼び鈴を押した。出てきたのはかがみだった。
かがみ「いらっしゃい、今日は何の用なの?」
ぶっきらぼうな話し方だった。こなたは少し身を引いた。
こなた「や、やっふーかがみ、今日はつかさに呼ばれて来た……居るかな?」
かがみは無言でドアを全開にしてこなたを通した。
こなた「えっとつかさは何処に?」
かがみ「部屋にいる」
また同じ調子だ。
こなた「かがみどうしたのさ、つかさと何かあったの?」
かがみ「その名前も聞きたくない、用があるならさっさと行ってよね」
今度は怒り出した。こなたはかがみに追い出されるようにつかさの部屋へ向かった。
こなた「つかさ入るよ」
ノックをして部屋に入ると元気のないつかさが椅子に座っていた。こなたは扉を閉めると部屋の奥へと進んだ。
こなた「つかさ、かがみと喧嘩でもしたの、かがみのやつ凄い権幕だったよ」
つかさは事情を話したかったけど話せなかった。話すにはこなたにかがみの失恋の話をしなければならかったからだ。かがみと話すなと約束をした訳ではない。
秘密にしておくのがつかさのかがみに対する精一杯の償いだった。
つかさ「私が悪いの……」
こなたはそれ以上聞かなかった。つかさとかがみの仲の良さはこなたが一番良く知っている。そんな二人が喧嘩をするのはよほどの事情があると思ったからだ。
こなた「ところで今日は何の用なの、もしかしてお母さんの話?」
つかさは頷いた。
つかさ「うん、あまり時間がないでしょ……少しでも早い方がいいと思って連絡したの」
この言い方でこなたはつかさの答えを分かってしまった。
こなた「ちょっと待って、この前反対したじゃない、どうゆう心境の変化をしたの」
つかさ「私ね、おばさんは生き続けて欲しい、それが一番だと思ったから、ちょっとだけ会ったけど、優しさに包まれるような感じだった」
遠い目をしてつかさは答えた。
こなた「私の答えになっていよ、つかさはお母さんが生き続けて歴史が変って私と会えなくなると思っのでしょ?」
つかさはこなたの目を見ながら答えた。
つかさ「そうだよ、この前はそう思った。だけど、こなちゃんはおばさんと一緒に居た方が幸せだよ、少なくとも成人するまでは両親とも居た方がいいからね、
こなちゃんなら大丈夫、そのくらいで進路を変えないよ、例え違う高校に行ってもきっと出会って友達になれる、そんな気がする」
こなた「……つかさ、本当に良い?」
こなたは念を押した。
つかさ「うん、あの薬も調べてみたよ、凄く高価なんだよね……おじさんにも頼らずにお金を貯めて凄いと思うよ、私なら途中で音を上げちゃうよ……それにこの薬……
私が卒業式の時代に戻ったって言った……言っただけなのに信じて薬を買った……私を信じてくれた」
もし、かがみが聞いていたらつかさ達は家には居られなかっただろう。これはかがみに対する皮肉ではない。純粋にそう思っただけである。
こなたはつかさの卒業式の話だけで信じた訳ではなかった。そうじろうから聞いたかなたを助けた人の話と照合して確信を得たのだ。
つかさの人を疑わない性格の成せる業か……つかさ自身はそれを自覚していない。
こなた「つかさ、ありがとう、ありがとう」
この時こなたも迷いが消えた。こなたは何度もつかさにお礼を言った。
あれからもう一時間も経っている。しかしこなたとつかさはまだかなたに会いに行っていない。二人は悩んでいた。
こなた「問題はお母さんにこの薬をどうやって飲んでもらうか、見知らぬ人がいきなり『この薬を飲んでください』なんて言ったって飲んでくれないよね、
食事に混ぜるか、飲み物に混ぜちゃってもいいかも……いっその事、羽交い絞めにして強引に押し込んじゃうかな……いくらなんでも病人にそれはないよね……」
こなたは腕を組んで考え込んだ。つかさはかなたに会った時を思い出していた。
つかさ「おばさんは嘘とか策略とかは要らないと思うよ、逆に何かすると怪しまれるよ」
こなた「どうしてそんなのが分かるんだい」
つかさは一度かなたに会っているから何かのヒントになるかもしれない。こなたは思った。
つかさ「おばさんを家まで送った時とか、お茶をくれた時とか……ちょっとした仕草で私を見抜いたの、さすがに私が未来から来たとは思わなかったけど、
付焼き刃みたいな作戦をしても見抜かれちゃうよ」
こなたは驚いた。かなたではなくつかさにだった。つかさはかなたの性格を的確に見抜いている。そうじろうもこなたに同じような事を言っていたのを思い出した。
こなた「それじゃどうすればいい……やっぱり歴史を変えるのは無理なのかな……」
こなたは項垂れた。
つかさ「だったら正直に話せばいいんだよ、私達が誰で、目的もちゃんと話すの、おばさんなら本当かどうかは分かると思うよ、そうすればきっと薬を飲んでくれる」
こなた「正攻法だね、それがいいかな、初めて会うのに嘘は付きたくない……つかさの通りやってみよう」
つかさはパソコンを起動させこなたに席を譲った。
つかさ「靴を持ってくるね」
つかさは部屋を出て玄関に向かった。そこにトイレに向かうかがみとばったり会った。かがみはつかさを睨み付けた。
かがみ「こなたと楽しい雑談か、いい気なものだな、私の話をネタにして盛り上がっていたな」
かがみの怒りは昨日と少しも変っていなかった。つかさは思った。何を言ったところでかがみの怒りは治まらないだろうと。ならば真実を話すまで。
つかさ「植え込みに隠れていたお姉ちゃんを見た、男子生徒が来ても隠れたままのお姉ちゃん、去っていった男子生徒、手紙を破る姿……
みんな見ちゃった、でもそれはほんの少し前に見てきた出来事」
かがみ「言っている意味が分からない……まだタイムとラベルの話をしているのか、いい加減にしろ」
かがみは睨んだままだった。だがかがみの心の奥底には心に引っかかる物があった。それはあの手紙の破片だった。
つかさ「でも信じて、悪戯や面白半分であんなのはしない……本当は、本当はお姉ちゃんにも一緒に来て欲しかった、一緒に考えて欲しかった」
つかさの目が潤んだ。心の底から訴えるような目だった。さすがのかがみも少し怯んだ。
かがみ「なにマジになっているのよ……あんた達いったい何をしようとしているのよ……」
つかさ「こなちゃんのお母さんを助けるの」
かがみは絶句した。荒唐無稽もはなはだしい。
つかさ「昨日はありがとう、おかげで決心がついたよ、成功を祈ってね」
つかさは玄関に歩き出した。かがみはつかさから感謝されるような話はしていない。ただ呆然とつかさを見送った。
つかさが部屋に戻るとこなたが首を傾げていた。
つかさ「どうしたの?」
こなた「どうしても時計が設定できない、何でだろう?」
もしかしたら自分と同じかもしれない。つかさは思った。
つかさ「もしかして前に設定した日時とおなじじゃない?」
こなた「……そうだよ、お母さんが入院する日に……」
つかさ「設定すると黄色く点滅してない?」
こなた「……しているよ」
つかさ「何故か分からないけど一度行った日時には行けないようになっているみたいだよ……こなちゃん分かる?」
こなたは腕を組んで考えた。
こなた「良くは分からないけど、同じ時間帯に何人も同一人物がいたら色々と不都合がおきるのかな……で、つかさは何故黄色く点滅するのを知っているのさ」
つかさは昨日のかがみを思い出した。しかしそれは言えない。
つかさ「昨日私、もう一回行きたかったから、卒業式の日……自分の背中を押してあげれば告白できるかなって……」
こなた「恋多き乙女だね……ある意味羨ましいよ」
こなたはこれ以上つかさに言わなかった。はやしたてたり、弄ったりはしなかった。
その日に行けないのが分かったこなたは、鞄から手帳を取り出してパラパラと捲り始めた。
つかさ「それは?」
こなた「これ、これはお母さんが入院してから亡くなるまでのお母さんの行動を書いた手帳だよ」
つかさ「いつの間にそんなのを……」
こなた「お父さん、ゆーちゃんのおばさんとかから聞いたのをまとめただけだよ、高校卒業してから作っおいたんだ、まさかこんな所で役に立つとは思わなかった」
つかさはこなたのかなたへの思いの強さをまた目の当たりにした。
こなた「うーん、この日がいいかな、お母さんは一度退院しているのだよね、たった三日間だけどね……丁度亡くなる一ヶ月前、薬を飲む時期もベストかもしれない」
更にこなたは手帳を見ている。つかさはこなたを見守った。
こなた「この日は日曜日だよ、この日にしよう、休日ならお父さんは居ないかもしれないし、話をし易いかも」
つかさ「日曜日だとおじさん、家に居るよね?」
こなた「お父さんはサラリーマンじゃないからね不規則だよ、居たら居たで一緒に話を聞いてもらうのもいいかもしれない」
こなたは画面に向かい設定した。
こなた「『YES』『NO』って聞いてきたよ」
つかさ「ちょっと待って、こなちゃん薬忘れないで」
つかさは薬を取りこなたに渡そうとしたがこなたは手を前に出した。
こなた「薬はつかさが預かって、私だと落としたり無くしたりしそうだから」
つかさ「……そんなの事言ったら私だって……」
こなたは笑った。
こなた「そんなの気にしていたら最初から大事な薬をつかさに預けないよ、それに二人とも過去に行けるとは限らないじゃん、二回も行っているつかさの方が成功する可能性が高いと思って」
つかさは黙って薬を鞄の中にしまった。
こなた「準備はいい?」
つかさは頷いた。こなたは『YES』のボタンをクリックした。こなたは周りをキョロキョロと見回した。
こなた「……何も起きないよ……もしかして失敗した?」
こなたはがっかりとうな垂れた。
つかさ「うんん、靴を履いて、扉を開ければ行けると思うよ、二人同時に開ければ二人とも行けるかも……」
こなた「よし、やってみよう」
こなたとつかさは靴を履き部屋の扉の前に並んだ。二人の手が扉の取っ手にかけられた。
こなた・つかさ「せーの」
息を合わせて扉が開かれた。