「こなた、もうすぐわたしの誕生日よね」「そうだねー」 とある日の放課後。こなたは、抱きついているかがみを引き摺りながら下校していた。「期待してるわよ…色々と」「まあ、前向きに善処はしてみるよ」 こなたはかがみちょっと重いよとか思いながらも、プレゼントやら当日のことやらを考えていた。「当日はもう、部屋で全裸で正座で待機してるわよー」「…いや、かがみ風邪ひきやすいんだし、服は着ててよ」 そんな二人の少し後を、つかさとみゆきは並んで歩いていた。「かがみさん、嬉しそうですね」「うん…でも、なんかこなちゃん、お姉ちゃんばっかだよね。わたしも誕生日なのに」「…え」 みゆきの足がピタリと止まる。「…ゆきちゃん…今の「え」って何かな?」 何か冷や汗を垂らしているみゆきの顔を、笑顔で覗き込みながらつかさがそう言った。「まさか、わたしも誕生日だって事忘れてたとか言わないよね?わたし達が双子だって忘れてたとか言わないよね?…ねえ、ゆきちゃん?」「…え、えっと…すいません…忘れてました…」 誤魔化すことができず、みゆきは素直に謝った。「プレゼント、楽しみだなー」「は、はい…前向きに善処してみます…」 つかさは最後まで、張り付いたような笑顔を崩さないままだった。
- 双子の誕生日 -
「つーわけでだねみゆきさん。かがみ達の誕生日プレゼントを考えようと思うんだけど」「…はあ」 休日に稜桜学園の近くにある喫茶店に呼び出されたみゆきは、こなたの提案に生返事を返していた。「…なんか乗り気じゃないね」「い、いえ。なんでまた急にと思いまして…」「んー、プレゼントが被るといけないから、二人で考えようと思ったんだよ」「あ、なるほど…そうですね」 みゆきは一度納得したが、すぐに別の疑問が湧いてきた。「でも、わたしと泉さんでプレゼントが被るようなことがあるのでしょうか?」「…うん、呼び出しまでしといてなんだけど、わたしも絶対被らないと思った」 二人の間を沈黙が支配する。「え、えーっと、とりあえずみゆきさんはどんな感じのを考えてるのかな?」 場を取り繕うようにこなたがそう聞くと、みゆきは鞄からメモ帳を取り出してページをめくった。「…このような感じのを予定してます」 そして、誕生日プレゼントの候補が書かれたページをこなたに見せる。「…なんかつかさの方の比重が大きいね」「え、えっと…それには色々と事情が有りまして…」 だらだらと冷や汗を垂らしながら、みゆきはこなたから顔を背けた。「まあ、いいや。わたしはこんな感じだよ」 そう言いながら、こんどはこなたがメモ帳のページを開いてみゆきに見せた。「…泉さんはかがみさんの方の比重が大きいですね」「…うん、まあなんだ…ぶっちゃけ、昨日かがみに電話で言われるまでつかさのこと忘れてて、予算が足りなかったと言うか…」「………」「………」 二人の間を沈黙が支配する。「ま、まあ二人合わせたらバランス取れていいよね!?」「そ、そうですね!問題ありませんよね!」 無理矢理空気を変えようと、不必要に明るく笑いながら、二人はそう締めくくった。
誕生日当日。こなたはみゆきと待ち合わせて二人で柊家に向かうつもりだったが、みゆきから少し遅れるという連絡があり、一人で柊家の前まで来ていた。「あ、こなちゃん…どうぞ、入ってきて…」 インターホンを押すと、スピーカーから何処となく元気のないつかさの声が聞こえてきた。何かおかしいなと、こなたは首をかしげながら玄関の扉を開け中に入った。 「…いらっしゃい」 そこで待ち受けていたのは、全裸で正座しているつかさだった。「………失礼しました」 回れ右をして、玄関を出て行こうとするこなた。「まってこなちゃーん!これには訳がー!」 背後からの必死に引きとめようとするつかさの声に、こなたは仕方なく中に入って玄関のドアを閉めた。「で、訳って?」「あー、うん…お姉ちゃんがね、全裸待機はこなちゃんに止められたから、別のにするって言ってたんだけど、やっぱ全裸も捨てがたいからわたしにやれって…」 こなたは思わず天を仰いでいた。「…さすがに何考えてるかわかんない…つかさ、とりあえず服着ていいよ。かがみにはわたしから言っとくから」「うん、ありがとうこなちゃん…あっ!?」 正座から立ち上がったつかさは、足が痺れていたのかふらつき、こなたの方へと倒れてきた。「おっと…大丈夫、つかさ?」 こなたが身体全体を使ってつかさを受け止める。「ご、ごめんこなちゃん…」 抱き合うような形になるこなたとつかさ。こなたの背後で、ドサッとなにかが落ちるような音がした。 こなたが頭だけ後ろを向けると、そこには何時の間に入ってきたのかみゆきが立っていた。さっきの音は手に持っていた紙袋を落とした音らしい。「い、泉さん…つかささん…一体何を…?」 こなたは冷静に自分の状況を確認した。全裸のつかさと抱き合っている。確かに、これはまずい。「みゆきさん、これには訳が…」 こなたが状況の説明をしようとすると、みゆきは首を振りながら一歩後ろに下がった。「つかささんは…つかささんは、わたしだけのご主人様だと思っていましたのにー!」 みゆきはそう叫びながら、ドアを開け外へと飛び出した。「なにそれ何処から湧いたのそのトンデモ設定ーっ!!」 つかさもそれを追って外へ飛び出す。「…えーっと」 こなたはしばらくその場で唖然としていたが、とりあえず家に入ってかがみに会うことにした。そして、靴を脱いだところでふと思い出すことがあった。 つかさは確か、全裸ではなかっただろうか…と。「…ま、いっか」 今からじゃとても追いつけないと判断し、こなたはかがみの部屋へと向かった。
「いらっしゃいませ、ご主人様ー」 と、言う台詞で部屋に入ったこなたを出迎えたのは、バニーガールの格好をしたかがみだった。「…とりあえず、何処から突っ込んでいいかわからない」 額に指を当てて、呻くようにつぶやくこなた。それを聞いたかがみは、こなたから視線を逸らしてモジモジしだした。「ど、何処からって…そ、そうね、わたしが選んでいいって言うならおし」「すとーっぷかがみ。それ以上はマジでヤバイから」「…ケチ」「いや、ケチとかそう言う問題でなくて」 こなたはとりあえず落ち着こうと深呼吸をし、改めてかがみに向き直った。「とりあえず、その格好は何?」「前にこなたに、うさぎっぽいとか言われたからだけど…ダメだった?」「いや、ダメって事はないけど…あと、台詞もどうかと」「いや、なんかコスプレしてるっぽい気分になったから、ああいう台詞の方がいいかなって」「っぽいっていうかもろコスプレなんだけど…ってかなんで誕生日を祝いに来たほうが、こんなにもてなされているのか」「まあ、細かいことは言いっこなしよ」 明るくそう言いながら背中を叩くかがみに、こなたは軽く溜息をついて見せた。「で、さっきから気になってたんだけど、その馬鹿でかい袋は何?なんかあんたの背丈くらいありそうだけど…」 かがみが、こなたが部屋の隅に置いた袋を指差してそう言うと、こなたはニヤリと笑った。「いいところに目をつけたね、かがみさんや…実はあれが誕生日プレゼントなんだよ」「え…いや、なんかデカすぎない?」 かがみが不安そうに言う中、こなたが袋を開け中身をかがみの前に差し出した。「じゃーん!等身大抱き枕風こなたん人形ー!」 こなたが自分と同じ大きさの、稜桜の制服を着た少しディフォルメされた人形の方を抱きながら、得意気にそう言った。かがみはその人形とこなたを、複雑な表情で交互に見ていた。 そのかがみの様子に、こなたが不安げな顔をする。「あ、あれ?お気に召さない?すべったかな…」 思わずかがみにそう聞いてしまう。「えっと、その…嬉しいんだけど…本人目の前にいるのに、人形に欲情するのはどうかと思って…」「いや、欲情はしなくていいから。わたしのいない夜にでも抱いて寝ててください。夜這いとかしなくて済むように」
「そういやさ、玄関につかさいなかった?」 元から部屋にあったボンタ君人形の隣にこなたん人形を座らせながら、かがみがこなたにそう聞いた。 その言葉に、こなたは何かを思い出したようにポンと手を叩いた。「そうだ、つかさだよ。かがみ、アレはちょっとないんじゃない?」「アレって、全裸待機?」「そうだよ。みゆきさんにも被害が及んだし、できればわたし以外を巻き込まないで欲しいなって…」「そっか…ごめん。次から気をつけるわ」 素直に謝るかがみに、こなたは微笑んで見せた。「…で、つかさはどうしたの?」 そして、かがみの言葉に笑顔が凍った。「え、えっと、その…なぜか逃げ出したみゆきさんを追っかけて、裸で駆けてく愉快なつかささんと化して…」「………」「………」「…こなた、ケーキ食べる?」「…うん、食べる」
「で、なんであなた達は境内を走り回ってたの?しかも、つかさは裸で」「ごめんなさい。いのりお姉ちゃん…」「すいません。いのりさん…」
- おしまい -
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。
下から選んでください: