「そういや、もうすぐ父の日ね」 ある日の帰り道。かがみがポツリとそうもらした。「そうだねー。お姉ちゃん、今年はどうするの?」 そのかがみに、つかさがそう聞いた。「うーん…そう言うのは、姉さん達とも相談しないとね」 かがみはつかさにそう答え、みゆきの方を向いた。「みゆきは、父の日になにかやるの?」「わたしですか?…そうですね、毎年ちょっとしたプレゼントをする程度ですが。何にするかは、わたしも母と相談してからですね。こういう行事は母の方が率先してしますので」 「あー、確かにあの人は、そう言う事喜んでやりそうねー」 かがみは笑いながらみゆきにそう答え、今度はこなたの方を向こうとした。「わたしは何もやらないよ」 が、向ききる前にこなたからそう言われた。「え、いや…」「うん、やらないやらない。今まで何にもやったことないし。今年もおんなじ。やらないからね」「いや…まだ何も言ってないんだけど」「先読みだよ。絶対、わたしにも振ってくるって思ったからね」「いやまあ、そうなんだけど…」 かがみはこなたの様子に、なんとなく違和感を覚えていた。「なんか、意外だなー。こなちゃん、お父さんと仲いいから何かしてると思ってたのに」 つかさの言葉に、こなたが顔をしかめる。「つかさ、それは偏見だよ。大体父の日ってあれでしょ?父親への感謝の気持ちを表す日でしょ?あんなロリコン親父の娘やってあげてる、わたしが逆に感謝されたいよ」 「そ、それはちょっと…」 こなたのあまりな言い草に、みゆきが困った顔をする。 その様子を見ていたかがみが、ふと思いついた冗談を口にした。「ねえ、こなた。あんたもしかしてホントは父の日になんかしてあげたいんだけど、恥ずかしくて今まで出来なかったとか…」「な、なななななななに言ってるんかな!このかがみさんは!?」 予想外のこなたの反応に、かがみは思わず唖然としてしまった。「恥ずかしい!?わたしが!?ないないない!かがみじゃあるまいしあるわけないでしょ!?」 凄い勢いでまくし立てながら、かがみに詰め寄るこなた。「い、いや…あの…こなた…唾飛ばさないで」 その口から飛んでくる唾から身を離すように、かがみは両手でこなたの身体を突っぱねる。「とにかく!わたしにそんな気持ちはこれっぽっちもないからね!今日はもう帰る!」 そう言ってこなたは、全力で道を走っていった。「…いや、もう帰るって、元から帰ってる最中なんだけど」「…さすがこなちゃん、速いねー」「…あ、転びましたね」 こなたが視界から消えた後、三人は誰からとも無く顔を見合わせた。「図星、だったのでしょうか?」「みたいね」「うーん…」 つかさがこなたの走り去ったほうを見ながら、少し考え込んだ。「…でも、ホントに何かしたくて今までできなかったんだったら、ちょっとこなちゃんもおじさんも可愛そうかな」「そうですね…」 つかさの言葉にみゆきが同意し、かがみが頷いた。「それじゃ、わたし達でなんとかしてみましょうか」「え?」 かがみの言ったことがすぐには理解できず、つかさが間抜けな声をあげる。「こなたがちゃんと父の日を出来るように、わたし達で手伝ってあげようって事よ」「それはいいですね」 かがみの提案にみゆきはすぐに賛同したが、つかさは少し納得のいかない顔をしていた。
「なに、つかさ?文句でもあるの?」「え、いやないんだけど…お姉ちゃんがそう言う事言い出すのって、珍しいかなって…」「そうね…まあ、なんだかんだ言っても、あいつは友達だしね。それに…」「それに?」「…こう言う事であいつを逆にからかえるってチャンスは、滅多にないと思うのよ」「…お姉ちゃん、悪い顔になってるよ」
- こなたと父の日 -
次の日のお昼休み。「と、言うわけで『第一回こなたに父の日をさせてあげましょう大会』ー!はい、拍手!」 椅子から立ち上がりそう宣言するかがみに、つかさとみゆきがまばらな拍手をした。「…いや…なにそれ…」 こなたは唖然とした表情で、かがみ達三人の顔を見渡した。「言葉どおりよ。恥ずかしがり屋のあんたのために、わたし達が手を貸してあげようってこと」 なぜか得意気にかがみにそう言われ、こなたは頭を抱えた。「…かがみ、それ余計なお世話…」 呻くこなたの肩に、かがみが手を置いた。「いやー、お父さんに感謝するのが恥ずかしいだなんて、あんたもなかなか可愛らしい一面あるじゃないの。これってアレでしょ?ツンデレっていうの」「う、ううううるさいなあ!ってか全然違うよ!」「あらそう?でもそうやって慌てる姿も可愛いわよー」「うぐぐぐ…」 ニヤニヤしながら、こなたの頬をつつくかがみ。返す言葉がいまいち見つからず、顔を赤くして押し黙るこなた。その二人を、つかさとみゆきは苦笑いで見つめていた。 「…お姉ちゃん、楽しそう」「…いつもと対場が逆ですね」 どう、かがみを止めて本題に戻そうか。つかさ達が考えていると、かがみはこなたの背中を軽く叩くと、腕を組んで椅子に座った。「で、ホントのところどうなの?」「どう…って?」 急にテンションが普通に戻ったかがみにそう聞かれたが、こなたは質問の意味が分からず聞き返した。「父の日をやりたいかどうかって事よ。わたし達はあくまで手伝いだからね。まず、こなたがやりたいって思わないと始まらないわよ」「…え、えと…わたしは…その…あの…」 なにやらゴニョゴニョ言いながら俯くこなた。それを見たかがみは少し困った顔をすると、助けを求めるようにみゆきの方を見た。みゆきは頷くと、こなたに優しく声をかけた。 「泉さん。難しく考えることはありませんよ。ただ、泉さんの素直な気持ちを表してくださればいいんです」「わ、わたしの気持ちって…で、でも…別にお父さんがそうして欲しいと言ったわけでもなんでもないんだし…」 ますます小さく俯くこなた。みゆきはこなたの顔を覗き込んで、ニコリと微笑んだ。「それは違いますよ、泉さん。感謝の気持ちは、求めるものではなく表すものですから、泉さんの気持ちこそが一番大切なんです」 しばらくこなたは、黙ってみゆきと視線を合わせていた。「…わかったよ…やってみる…」 そして、小さくそう呟いた。
「…で、やるのはいいんだけど、何すればいいのかわたしさっぱり分からないんだけど」 こなたがそう言うと、かがみは顎に手を当てて考え込んだ。「そーねー…やっぱプレゼントが無難かしら」「そうですね。気持ちを表すには良い方法だと思います」 かがみの提案にみゆきが同意する。「でも、何あげたらいいんだろ?わたし、そういう事疎いからさっぱり思いつかないよ…」「実用的なものかしらね。なんか父の日ってそう言うイメージあるけど…」 かがみがそう言いながら、みゆきの方を見た。「そうですね。わたしの家でも、毎年そういった感じですし」「ふむー…ねえ、参考までにさ、みんなが今年何プレゼントするのか教えてよ」 こなたはそう言いながら、つかさの方を向いた。「え、えっと………お、お姉ちゃん、今年は何にしたんだっけ?」 こなたの質問を受けて、つかさはかがみの方を向いてそう聞いた。「あんたねー…」 かがみは大きくため息をついた。「園芸用品よ。お父さんの趣味の。古くなってるから新しいの買ってあげようって、昨日みんなで決めたじゃない」「そ、そうだったよね…そう言う事はお姉ちゃんたちに任せてるから…あはは…」 誤魔化すように頭をかきながら笑うつかさに、かがみはもう一度ため息をついてみせ、こなたはジト目で見つめていた。「…大丈夫なのかね、つかさは」「まあ、お父さんに渡す役はつかさだから、いいんだけどね…」「そうなんだ」「ああいう事を、つかさは何の躊躇もなく出来るからね。そういう所は尊敬できるわ」「…で、かがみは恥ずかしくてそんな役回りはとても出来ない、と」「…あんたには言われたくないわね」 こなたはかがみ達の話を聴いた後、腕を組んで考え込んだ。「…うーん、趣味関係か…これはちょっと無理かなあ」「どうして?おじさんとあんたって、似たような趣味してるじゃない。欲しいのとか分かるんじゃないの?」「それはそうなんだけど…わたしとお父さんじゃ、オタクとしての格と言うかレベルが違うからねー」「どういうこと?」「わたしが良いなとか、お父さんコレ欲しがりそうだなって思ったモノは、思った時にすでにお父さんが買ってる」「…難儀な親父ね…」
こなたは次にみゆきの方を向いた。「わたしは、今年は傘をプレゼントしようと思っています」 その意味を悟ったみゆきがそう答えた。「傘かー」「はい、一年を通してよく使うものですから…参考までにいうと、去年はネクタイでしたね」「傘にネクタイ…うーん…」 こなたは、また腕を組んで考え込んだ。「なにか問題でもあるの?」 そのこなたに、かがみがそう聞いた。「ネクタイはあんまり使わないんだよね…傘は家に二十本くらいあるし」「…ネクタイはともかく、なんで傘がそんなにあるのよ」「酔ったゆい姐さんが、どこからともなく…」「…いいのか、警察官…」 かがみは呆れ顔でこなたを見ていたが、その時ふと思いつくことがあった。「ねえこなた。予算はどれくらいあるの?買うものが決まっても、お金が足りないとかじゃどうしようも無いし」 かがみに言われ、こなたは財布を取り出して中身を見た。「…さ、三百円くらい…かな…」「はあ!?」 こなたの言った額のあまりの低さに、かがみがポカンと口を開けた。「さ、三百円…ですか…」「こなちゃん、わたしよりお金もってないよ…」 みゆきとつかさも、かなりの呆れ顔をしている。「で、でもこなちゃん。それってお財布の中身の話だよね?貯金とかはどうなのかな…」 そう言うつかさに、こなたは首を振って見せた。「…先月と今月、欲しいのが一杯あったから…使っちゃって…ってかしょうがないじゃん!わたし元々プレゼントなんて買うつもり無かったんだから!」 言い訳をするこなたに、かがみは盛大にため息をついて見せた。「どーすんのよ、これ…何にも買えないわね」「でも、泉さんの言い分ももっともですから、責めるわけにも…」 慌ててこなたのフォローにはいるみゆきを、かがみはジト目で見つめた。「…いや、別に責めないけど」「あ、あれ?そうですか…かがみさんの事だからてっきり…」「てっきり…なに?」「い、いえ、なんでもありません…失礼しました」 二人がそんな会話をしている間、つかさはじっと何かを考えていた。そして、何かを思いついたかのように何度か頷くと、こなたの方を向いた。「じゃあ、言葉しかないよこなちゃん」「言葉?」 唐突なつかさの意見に、こなたが首を傾げる。「うん、言葉。こなちゃんのね、ありったけの感謝の気持ちを言葉にするんだよ。これならお金がなくても出来るよ」 嬉しそうに手を合わせながらそう言うつかさを、こなたはなんとも言えない表情で眺めた。「いや、それ滅茶苦茶恥ずかしいんじゃ…」「恥ずかしくないよー。変な事するわけじゃないもん」「変なことじゃないけど…変なことじゃないんだけど…うわぁぁぁぁ…」 実際に感謝の気持ちを言葉にしている自分を想像したのか、頭を抱えて悶絶するこなた。「…恥ずかしいですよね」 それを見ていたみゆきがポツリと呟く。「あ、みゆきでも恥ずかしいんだ」「ええ、いつもはプレゼントがクッションになってくれますけど…それ無しとなると…」 かがみの方を向きそう答えた後、みゆきはもう一度つかさの方を見た。「つかささんは、出来るのでしょうか…」「やるわね。つかさなら…そう言うところは本気で尊敬できるわ」 結局こなたは、つかさに押し切られる形で、父の日に感謝の言葉を伝えることとなった。
父の日当日。こなたは休日にも拘らず、早くに目が覚めた。 時計を見てみると、まだ八時。休日前にしては珍しく早く寝たとはいえ、いつもではありえない起床時間だ。 ふと、こなたは、コミケとか楽しみにしていたり、自分が大切に思う日に寝坊したことって無いな、と思った。「…うぁぁぁぁぁ…わたし、そう思ってたのかー…」 そして、今日が何の日かに思い至り、ベッドの上で悶絶していた。「落ち着けー落ち着くんだ泉こなたー…何も難しいことなんか無い。ただ一言、感謝の言葉を言うだけでいいんだ…そう、意識しちゃダメだ。考えるな、感じるんだ…」 そう言いながらも、こなたは頭の中でその場面を思い描いていた。「らめぇぇぇぇぇぇっ!」 何を想像したのか、こなたは今度は奇声を発しながらベッドから転げ落ち、床を転がった。「…こ、こなたお姉ちゃん…大丈夫?」 ドアの方から聞こえた声に、こなたの動きがピタリと止まる。声の方へとこなたが恐る恐る目をやると、ゆたかが少し怯えたような表情で立っていた。「ゆ、ゆーちゃん…」「な、なに?」「イツカラミテマシタカ?」「ベッドから転がり落ちた辺りから…な、何か凄い声が聞こえたから、どうしたのかなって…ご、ごめんなさい…」「いや、ゆーちゃんは悪くないよ…うん、悪くない…」 こなたは自分に言い聞かせるように、頷きながらそう言った。「お姉ちゃん、今日のことで…だよね?そんなに思いつめなくても…」「うん、そう思ってるんだけど、自分でも思ったより…って、ちょっと待ってゆーちゃん。今日のことって、なんか知ってるの?」「父の日の感謝の言葉を伯父さんに送るって…」「なんで、ゆーちゃんが知ってるの!?」「え、えっと…さっきかがみ先輩からわたしの携帯に電話があって、お姉ちゃんがずるしないように見張って、なにやったか報告してくれって…」「………」 こなたは無言で自分の携帯を手に取ると、かがみに電話をかけた。「おい、こらかがみ」『おはよう、こなた。珍しく早起きね』「…あんた何ゆーちゃんに仕込んどるのかね…」『だってあんた、何もしないでもやったって言いそうじゃない。ゆたかちゃんが見てるって思えば、ずるも出来ないでしょ』「ってーか、どうやってゆーちゃんの電話番号を…」『みなみちゃん経由で、みゆきから』 こなたは、もうどうしようもないといった感じで天を見上げた。『まあ、なんだ。しっかりやりなさいよ…こなた軍曹、健闘を祈る。なんつってねー』 そのまま電話が切れる。こなたはしばらく天を仰いだままだったが、大きくため息をつくと携帯をベッドの上に放り投げた。「…おのれかがみ…くそー覚悟決めるしかないのかなー」「そ、そんな悲壮なものじゃないと…思うんだけど…」
もうこうなったら、さっさと終わらせてしまおう。そう思ったこなたは、ゆたかを伴ってそうじろうの部屋へと向かった。「お父さん!」 大声で父を呼びながら、ドアを開け放つ。「な、なんだ?どうした、こなた?」 思わず立ち上がりながら、そうじろうがそう聞いた。「お、お父さん…あ、あの…あの…」 そうじろうに詰め寄りながら、こなたがしどろもどろに感謝の言葉を言おうとする。「…あ、あり…あり…」「あり…?」「アリキーック!!」 こなたはそうじろうの太腿辺りに、思い切りローキックをかましていた。「…ぐおお…」 痛みでそうじろうがうずくまる。「…こ、こなた…一体何を…ってか、それアリキックじゃない…ただのローキック…」「う、うるさい、ばーか!」 こなたはそうじろうを罵った後、全力疾走で部屋を飛び出して言った。ゆたかは、こなたを唖然とした表情で見送った後、未だにうずくまっているそうじろうの方を向いた。 「…叔父さん…大丈夫ですか?」「あ、ああ、なんとか…ってか、俺なんかやらかしたか?」「え、えっと…とりあえず、伯父さんは悪くないです…」 ゆたかは苦笑いでそうじろうに答えると、こなたを追って部屋を出て行った。 一人残されたそうじろうは、わけがわからずに痛めた太腿をさすっていた。
「お姉ちゃん、はいるよ」 ゆたかがそう言いながら、こなたの部屋のドアをノックする。少し待ってみたが返事が無い。仕方なくゆたかは、ドアをそっと開けて、中の様子を窺った。 部屋の中でこなたは、ベッドにうつ伏せになって寝転んでいた。時折「うーうー」と、唸り声みたいなものが聞こえる。「お、お姉ちゃん…大丈夫?」 ゆたかが声をかけると、こなたは仰向けに体勢を変えて、そのまま上半身だけ起こしゆたかを見た。「…ゆーちゃん」「な、何?」「………家出したい」「だ、だだだダメだよー!」
こなたは今度は横に倒れ、壁に向かってブツブツと喋り始めた。「感謝の言葉どころか、あれじゃ無意味にキレる変な娘だよー…わたしは父の日に、感謝の気持ちの変わりにローキックを送った娘として、歴史に名を残すんだー」「そ、そんな大袈裟な…」 すっかり思考がネガティブになったこなたを、ゆたかは冷や汗を垂らしながら見つめていた。 不意にこなたが身体を起こし、ベッドから降りてドアの方に向かった。「じゃ、そういうことでゆーちゃん。後はキミがあの人の娘として頑張ってくれたまえ…わたしはかがみんちの養子にでもなるから」 そう言いながらこなたは、ゆたかに右手を上げて見せて部屋を出て行こうとした。「ダメだってば、お姉ちゃーんっ!」 ゆたかはこなたの身体に抱きつき、部屋から出て行くのを止めた。「落ち着いてよお姉ちゃん!ほら深呼吸、深呼吸」 ゆたかに言われるままに、深呼吸を繰り返すこなた。その身体から力が抜けたのを感じたゆたかは、手を離して少し離れた。「お、落ち着いた?」 ゆたかに聞かれ、こなたは小さく頷いた。「あ、あのね、こなたお姉ちゃん。ホントに嫌だったら無理しなくていいんだよ?かがみ先輩には、わたしが適当に言っとくから…」 こなたは今度は首を横に振った。「違うよゆーちゃん…」「…え?」「嫌じゃないんだ。わたしは、お父さんにはずっと感謝してるんだ…その気持ちを知って欲しいって思ってたんだ…」「お姉ちゃん…」「そうやって思い立った結果がこれだよぉぉぉぉ…」 がっくりと、両膝と両手を床について落ち込むこなた。ゆたかは少し考えた後、しゃがみ込んでこなたに視線を合わせた。「じゃあ、もう一度頑張ろうよ」 そうこなたに話しかけ、ニコリと微笑む。「ゆーちゃん…でも…」「大丈夫だよ。今わたしに話してくれたみたいに、素直に言えばいいんだから」 微笑むゆたかから、こなたは顔を逸らした。「そ、それは分かってるけど…その、友達とかには言えることでも、家族だと恥ずかしいっていうか…」「わたしだって、こなたお姉ちゃんの家族だよ」 こなたは、顔をゆたかの方に戻した。ゆたかがもう一度微笑む。「…そっか…そうだよね…」「…うん」 こなたは立ち上がると、ドアを開け部屋を出て行き、ゆたかがその後に続いた。
「お父さん!」 さっきと同じように、大声で父を呼びながら、こなたがドアを開け放った。「な、なななんだ?今度はなんだ?」 さっきの事があったからか、そうじろうはあからさまに怯えているようだった。 そんな父の様子を意に介さず、こなたはそうじろうの方に詰め寄った。「お父さん…あ、あの…あの…」 そうじろうはさっきの事が頭を過ぎり、太腿の辺りを庇っていた。「目!目つぶって!」「…は?」「いいから早く!」 こなたがなぜそんな事を要求するのか、そうじろうにはさっぱり分からなかったが、やらないと今度は何をされるのか分かったものではないと思い、目をつぶった。 こなたはそうじろうがしっかりと目をつぶったのを確認し、その顔に自分の顔を近づけ…頬に軽くキスをした。 そして、次は耳元へと唇を持っていく。「…お父さん、いつもありがとう」 そう囁き、顔を離そうとする。「こ、こなた…?」 その途中でそうじろうが目を開け、かなり近い距離で二人の目が合った。 こなたの顔が見る見ると真っ赤に染まっていく。「…う…うわぁぁぁぁぁぁっ!!」 こなたは大声を上げると、もの凄い速度で部屋を飛び出していった。 残されたそうじろうは、しばらく惚けていたが、部屋にゆたかがまだ残っていること二気が付き、そちらを向いた。「えーっと、ゆーちゃん…これは…」「そ、そう言う事です…さっき、お姉ちゃんがやりたかった事…たぶん…」 自信なさげにゆたかが答える。まさかこなたがここまでやるとは、ゆたか自身も思っていなかった。「い、いや…というかなんでこなたはこんなことを?」「…え?」 ゆたかには、そうじろうがなぜ理解できていないのかが分からなかったが…少し考えて、その理由に思い至った。「伯父さん…もしかして、今日が父の日だって忘れてました?」「え?…ああ、そうか…父の日か…」 そうじろうは、こなたがキスをした頬を指で軽くなぞった。「そんなもの、忘れてくれても良かったのにな…」 言葉とは裏腹に、そうじろうはとても嬉しそうな顔をしていた。 それを見ながら、ゆたかはこれから戻る実家で、自分の父親にも同じようなことをしてみようか…そんな事を思っていた。
次の日。登校中のつかさとみゆきは、前を歩くかがみとこなたを生暖かい笑顔で見ていた。 こなたの肩に手を回しているかがみは、これ以上はないというくらいニヤニヤしている。一方のこなたはこれ以上は無いというくらい鬱陶しそうに、かがみから顔を逸らしていた。 「…さっきからなんだよ、かがみ…」 たまらず、こなたがかがみにそう聞いた。「いやー…何かいうべきことがあるでしょー?昨日のことで」「さっき言ったじゃない…ちゃんと父の日はやったよ。ゆーちゃんからも聞いたんでしょ?」「ええ、聞いたわよー」 かがみはそこでニヤりと笑った。「ホッペにキスしたんだって?」「………」「………」「…ゆーちゃん…詳細までハナシテシマイマシタカ…」「ええ、もうばっちり。あ、わたしから聞き出したわけじゃないわよ。向こうが勝手に話したのよ」「…ゆーちゃん…その素直さはもう罪の領域だよ…」 がっくりと落ちたこなたの肩を、かがみが何度か軽く叩いた。「まあ、見直したわ。あんたやっぱり凄いわよ。わたしにはとても真似できないわ」「…うるさーい…」 言い返すこなたの言葉にも、まったく覇気がこもっていなかった。「なんでわたし、あんなことしたんだろ…」「人間、追い詰められると本音が出るっていうからねー。あんたら親子の仲の良さが羨ましいわよ、うん」「…うるさーい…」 一方的にかがみがこなたをからかう状況を見て、みゆきはつかさに小さな声で聞いた。「…これ、いつまで続くと思いますか?」「えーっと…お姉ちゃんの事だから、多分三日くらいは同じネタでいくんじゃないかな…」「そうですか…とりあえず、かがみさんが行き過ぎないように注意しませんと…」「そだね…」 みゆきとつかさは頷きあうと、少し距離が開いた前の二人を追い始めた。
- おしまい -
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