むかしむかし、あるところに男と女がおりました。むかしむかしといっても、そんなに昔ではなく、泉こなたが生まれる少し前のお話し。 男の名はそうじろう。幼きころからオタク人生を歩んできた、胸のランクはヒ・ミ・ツの人。 女の名はかなた。そうじろうの幼なじみで体系だけ見たら小学生にしか見えない、胸のランクは極少の人。 これはそんな二人の学生時代の話し。そうじろう「なぁ、かなた。」かなた「・・・」そうじろう「かなた…」 そうじろうはかなたを怒らしていた。なぜそのようになったのか、話しはさらに巻き戻る。 高校生・泉そうじろうの失敗ゆき「ただいま…。」 ある秋の日の午後9時過ぎ、ゆきが家に帰ってきた。少々お疲れのご様子だ。そうじろう「おかえり。」ゆき「あ、お兄ちゃん!かなたさんから聞いたよ。文化祭の準備放っぽって帰っちゃったんだって?どうせ、アニメが見たかったからなんでしょう!」そうじろう「な、なに!?なぜわかったんだ!なにも言ってないのに!!」ゆき「お兄ちゃんのこと知ってたら、誰だってわかるよ。」そうじろう「そうなのか?」ゆき「そうなの。」そうじろう「なるほど、つまり、ゆきにもわかったわけだ。これはまさに兄妹愛のなせる技というわけだ。さぁ、ゆきよ、お兄ちゃんの胸に飛び込んで来い。お前の愛を受けとめて」 ゆき「黙らないと星にするわよ。」そうじろう「はい…。」 ものすごい剣幕で睨まれたそうじろうは腕を広げた格好のまま後ずさりした。ゆきは相当お疲れのご様子だ。 着替えを終えたゆきがリビングに来た。母「おかえり、ご飯はどうする?」ゆき「食べる、お腹空いてもう動けない。」母「はいはい。」 ゆきは椅子に座ると“もう動けませんよ”という感じでテーブルに倒れた。そうじろう「そういえば、ゆきのクラスってなにするんだっけ?」 ゆきはそうじろうの質問に答えるために顔を上げた。
ゆき「え?文化祭の出し物?お兄ちゃんのところはお化け屋敷だっけ?」そうじろう「ああ。」ゆき「うちのクラスは喫茶店だよ。」そうじろう「ありきたりだな。」ゆき「うるさいな、いいじゃん別に。特に案がなかったからそれになったの。」そうじろう「なにか催しとかするのか?」ゆき「別に、なにもしないわよ。普通の喫茶店。」そうじろう「なんだ、つまんねえの。せっかくなんだからなにかすればいいのに。」ゆき「たとえば?」そうじろう「そうだな…たとえば、女子はふりふりのかわいらしい服着て、男子はスーツで紳士的に決めてするっていうのはどうだ?」ゆき「いやよ!そんな恥ずかしいこと!!」そうじろう「そうなるとあれだな、あいさつは“おかえりなさいませ”にしないとな。」ゆき「なんでよ!どこから帰ってきたのよ!!」そうじろう「さらにその後に“ご主人様”とか“お嬢様”とか付けるといいな。ってゆき?」ゆき「…」 自分のアイデアを自慢げに話していたそうじろうだったが、ゆきはもはや突っ込む元気もなくグッタリしていた。ゆき「かなたさんも大変ね。」そうじろう「ん?なんでここでかなたの名前が出てくるんだ?」ゆき「…」 ゆきはいままで疑問に思っていたことを聞こうかどうか迷った。そして、意を決して聞いてみることにした。ゆき「ねぇ、お兄ちゃん。」そうじろう「ん?」ゆき「お兄ちゃんとかなたさんって付き合ってるんじゃないの?」 一瞬、世界が止まったように感じた。実際に止まったいたわけではないが、そうじろうが固まって動かなかった。そうじろう「…」ゆき「…?」そうじろう「…」ゆき「おにい」 その間、きっかり5秒。そうじろう「う゛がべり゛ばだよ゛ずに゛ぎい゛」ゆき「お、お兄ちゃん!?」母「ちょっとそうじろう、うるさいわよ。」 そうじろうが落ち着くまでさらに5分かかった。そうじろう「ばびをひってりるんだゆぴ、おぺとかにゃたは」 あ、まだ落ち着いてないや。
もうさらに5分後。ちなみにすでにゆきの夕食が出ている。そうじろう「なにを言っているんだゆき、俺とかなたは単なる幼なじみでそうゆう関係じゃ…。」ゆき「本当に?」そうじろう「本当だ。それにだいたい…」ゆき「だいたい?」そうじろう「かなたは俺なんて眼中にないだろう…。」 ゆきはエビフライを食べている手を止めて、心の底から思ったことを口にした。ゆき「あっっっっっっきれた。」そうじろう「へ?」ゆき「もし、本当に眼中にないならいつも一緒にいるなんてことないでしょ。」そうじろう「そ、そうなのか?」ゆき「そうよ。少なくとも嫌いな相手と一緒になんかいたくはないでしょ?それに、かなたさんはお兄ちゃんのこと頼りにしてるみたいだし、十分脈ありだとおもうけど。」 そうじろう「そう…なのか?」ゆき「そうよ。かなたさんだってその気はあるはずよ。してないならちゃっちゃと告白しちゃいなさいって。」そうじろう「そう…だな…。」 そう言うとそうじろうは立ち上がって自室へ歩いていった。ゆき「お兄ちゃんって意外と奥手なのね。…エロゲやってるのに。」 ゆきは独り言のように言うと再びエビフライを食べ始めた。母「でも、あの子にかなたちゃんはもったいない気がするわね。」ゆき「って、お母さん今の話し聞いてたの!?」母「そりゃ聞こえるわよ。」ゆき「そりゃそうだ…。」 そうじろうは自室で悩んでいた。自分はかなたをどう思っているのか?かなたのことが好きか、と聞かれば答えは“イエス”。しかし、それは幼なじみとして、の答え。恋愛対象として好きか、聞かれると答えに悩む。かなたは小さいころから一緒にいた特別な存在だ。恋愛対象として見ていいのか?…特別?特別ってどういう意味だ?自分にとってなくてはならない存在という意味か?そうであるなら・・・ そうこう考えているうちに夜が明けてしまい、そうじろうは一睡もできない・・・こともなく、ばっちりぐっすり眠っていた。不思議な夢を見ることになるが…。
次の日。ゆきはそうじろうと共に登校していた。ゆき「お兄ちゃん、昨日は良く眠れたの?」そうじろう「おお、おかげさまでばっちり!」ゆき「そう。」ゆき(って、かなたさんとのこと悩む気全くなしですか!?) ゆきはいつもと変わる様子のないそうじろうを見て、 そんなことを考えるのだった。悩み事など全くないように見える兄を少々羨ましくも思った。しかし、次の瞬間、その考えは一蹴されることになる。かなた「そう君、ゆきちゃん、おはよう。」ゆき「あ、おはようございます、かなたさん。」 ゆきはいつものようにあいさつをした。しかし、“ピシッ” そんな音が聞こえて、音のするほうを振り返ると、そうじろうがしかくくなっていた。と、いうより、線だけで体が構築されていた。かなた「どうしたの、そう君?」そうじろう「ナ、ナンデモアリマセンヨ、カニャタサン。」かなた「?」ゆき「・・・」 そうじろうは、なぜかカタコトになっていた。その原因がわかるような気がするゆきは、少々驚きを隠せなかった。かなた「それならいいけど。じゃ、学校へ行きましょう。」そうじろう「ハ、ハイ。」 三人は学校へ向かって歩きだした。ゆきは兄が緊張しているのが丸わかりだった。なぜなら、ゆき(うわぁ、お兄ちゃん、左手と左足同時に出てるよ。) と、いう感じになっているので。かなた「そう君、やっぱり変よ?」そうじろう「そ、そうか?」かなた「熱でもあるんじゃない?」 そういうと、かなたはそうじろうの熱を計ろうとした。しかし、かなたの身長ではそうじろうに届かず、つま先立ちになり、そうじろうの胸のあたりに右手をあてて体を支え、左手でおでこを触り、熱を計った。ほとんど体が密着する形になってしまい、そうじろうは体が熱くなっているのを感じた。
かなた「少し、熱あるみたい。大丈夫?」そうじろう「・・・」かなた「そう」そうじろう「お、俺、先に学校行ってるわ。」かなた「え?そ、そう君?」 そうじろうは顔を真っ赤にしながら全力疾走していった。かなた「どうしたのかしら、そう君?」ゆき(あなたのせいですよ。) ゆきは心の中でそうつぶやいた。かなた「そう君、そっち押さえてて。」そうじろう「は、はい。」かなた「そう君、釘取って。」そうじろう「こ、これか?」男子生徒「どうしたんだ、あの二人。いつもと様子が違うぞ。」 (CV:立木文彦 以下略)女子生徒「そうね、なんか泉くんがかなたちゃんを妙に意識しているようにもみえるわね。」 (CV:くじら 以下略)かなた「そう君、本当に大丈夫?つらいようだったら保健室で休んでたら?」そうじろう「い、いや、大丈夫だ!別に体調悪いわけでも風邪引いてるわけでもないから。」かなた「そう?それならいいけど。」 そう言うとかなたは作業に戻った。一方、そうじろうはというと、真剣そうな顔をして決意を固めているような感じであった。そして、そうじろう「かなた。」かなた「な、なに?」 いきなり小声で話しかけられ、かなたは少し驚いた。そうじろう「あとで体育館裏まで来てくれないか?」 その言葉にかなただけでなく周りの者も反応した。そうじろうは周りに聞こえないくらいの声で話したつもりだったが、二人の様子をじっと見ていた周りの者には十分に聞こえていた。かなた「ええ、いいわよ。」 かなたはよく意味がわからなかったが断る理由もないのでそう答えた。 “体育館裏”そう聞いて思い浮かぶのはおおよそ二つだろう。決闘か、もしくは…告白。二人の話しを聞いていた周りの者はもちろん、後者を思い浮かべた。実際、そうじろうもそのつもりであった。 一時間後、ゆきのクラスでは喫茶店の準備をせっせと進めていた。すると、ゆき(あれ?かなたさん?)ゆきは校庭を歩いているかなたを見つけた。ゆき(かなたさん、どうしたんだろう?向こうにあるのは…体育館くらいだし…。)ゆきは不思議に思ったが作業に戻ることにした。その5分後、ゆき(あれ?今度はお兄ちゃん?)そうじろうが校庭を歩いていた。ゆき(お兄ちゃんも体育館?ん?かなたさんと、お兄ちゃんが、体育館へ。ああ、なるほど、そういうことか。)ゆきは全てを理解した。ゆき(お兄ちゃん、ファイト!)ゆきは心の中でそう呟いた。そしてさらに1分後、ゆき(って、今度はなに!?)そこにはかなたとそうじろうのクラスメートのほとんどが体育館へ向かっていた。なにをしようとしているかは、まぁ、言うまでもない。女子生徒「ゆきちゃん、どうしたの?」外をぼーっと見ていたゆきは友達の声で我に返った。ゆき「え?いや、その・・・わ、私、腰の口内炎が痛いから保健室行ってくる。」ゆきはそういうと、教室から飛び出していった。女子生徒「ゆきちゃん、腰に口内炎はできないよ…。」周りにいた者全員が頷いた。
ゆきは、野次馬たちが兄の告白の邪魔になるのでは、と思い来てみたが特にそういうこともなかった。全員が二人を静かに見守っていた。ゆきを含めて。ゆきと野次馬の半数は茂みから二人を見ていた。体育館の屋根から見ている者もいた。落ちるなよ。残りは木の枝を持って木のフリをしていた。よく見つからないな…。 最初に口を開いたのはかなただった。かなた「どうしたのそう君、こんなところに呼び出して。」そうじろう「かなた。」かなた「なに?」そうじろう「その…あの…」ゆき(頑張れ、お兄ちゃん。)男子生徒(とっとと告っちまえ、泉。)女子生徒(はやくかなたちゃんを落とすのよ、泉くん。)そうじろう「えっと、俺…」ゆき(…)男子生徒(…)女子生徒(…)そうじろう「俺は…お、お前が振り向いてくれないから俺はこんなギャルゲ好きになったんだ!だから責任取って俺と付き合え!!」 そのセリフに周りで聞いていた全員がずっこけた。女子生徒(それ、告白のつもり!?ひど!!)男子生徒(泉らしいっちゃらしいな。)ゆき(お兄ちゃんったら…まぁ、かなたさんもお兄ちゃんのことよく知ってるし、照れ隠しだってことくらいわかるわね。っていうか、振り向かなかったのってお兄ちゃんの方なんじゃ…) おのおのそんなことを考えながら、かなたが返事をするのを待った。そして、かなたが口を開いた。その間、時間にして3秒くらいだが、かなり長い時間であったように感じた。かなた「なにそれ。」そうじろう「へ?」ゆき(へ?)男子生徒(へ?)女子生徒(へ?)かなた「そう君がそんなになったのは私のせいだって言いたいの!?」そうじろう「い、いや、別にそういう意味じゃなくて・・・」 そうじろうは思ってもみなかったかなたの言葉に慌てふためいた。かなた「自分のことなのに他人のせいにするなんて最低よ!!」そうじろう「ちょ、ちょっと、かな」かなた「そう君なんか嫌い!もう話しかけないで!!」 かなたはぷいっと顔を背け、歩いていってしまった。この時、そうじろうの頭に浮かんだのはただ一言だけ。告・白・失・敗。 その場に残ったのは石像のように固くなったそうじろう…と、野次馬の面々だけだった。
男子生徒「泉…」女子生徒「泉くん。」ゆき「お兄…ちゃん?」 見るに見かねたゆきたちが隠れているのも忘れて話しかけた。男子生徒「いず…み。」 そのうちの一人がそうじろうの肩に触れ途端、“ガラガラガラ” そうじろうは石像のように崩れ落ちた。女子生徒「きゃぁー、泉くん!!」男子生徒「救急車、救急車呼べ!117番!!」ゆき「救急車は119番です。」 皆がパニクっているかな、ゆきが冷静につっこんだ。 その後、そうじろうは保健室へ運ばれた。そこでずっとウンウン唸っていたので保健室にいた生徒にも先生にも迷惑をかけたらしい。 次の日以降、空はどんよりしていた。まるでそうじろうとかなたの様子を表したかのように…。そうじろう「かなた」かなた「ごめん、ちょっとそっち押さえてくれる?」男子生徒「え?あ、ああ・・・」そうじろう「…」そうじろう「かな」かなた「ねぇ、そこの釘取ってくれない?」女子生徒「は、はい。」かなた「ありがとう。」そうじろう「…」 あの日以来かなたはこんな調子でそうじろうと話そうとしない。周りの者も二人の様子が気になって作業がほとんど進まなかった。一度だけそうじろうがかなたの前に立って話したことがあった。しかし、そうじろう「かなた」かなた「なに…」 かなたは少し怒ったように言った。そうじろう「お・・・俺、その・・・」かなた「用がないなら邪魔しないで、忙しいんだから。」 そう言ってかなたはそうじろうの横を素通りしていった。
そうじろうは完全に落ち込んでしまったらしく、学校だけでなく家でも覇気がなかった。ゆきもそうじろうを励ましてきたが、全くと言っていいほど効果はなかった。それほどかなたに嫌われたのがショックだったのだ。そして、そうじろうとかなたの仲が良くならないまま、空もずっと曇っていて日差しがでることがなく数日が過ぎた。そんな日が続き、ついに文化祭の2日前になった。その日は朝から雨が降っていた。ゆき「お兄ちゃん、しっかり前向いて歩いてよ。」そうじろう「あ?ああ…。」ゆき「はぁ~・・・」 そうじろうとゆきは傘を差しながら一緒に登校していた。ここ数日、そうじろうはずっとこんな調子で元気がなかった。特にこの日は雨が降っているせいかいつも以上に元気がなかった。ゆき「あ、かなたさん。」そうじろう「!!」 ゆきはかなたが少し前を歩いているのに気づいた。そうじろうもバッと顔を上げた。かなた「…」 かなたもそうじろうたちに気づいたが、目を合わせることもなく歩いていった。そうじろう「かなた…」 そうじろうは再びしょんぼりとした。ゆき「お兄ちゃん。」そうじろう「ん?」ゆき「お兄ちゃん、かなたさんにちゃんと謝った?」そうじろう「いや、まだだ。かなたは俺の話を聞こうともしないし…。」ゆき「そう…。」 そうじろうとゆきは解決策を見いだせないまま学校に歩いていった。 ゆきはクラスで喫茶店の準備をしていた。しかし、兄のことが気になって集中できていなかった。女子生徒「ゆきちゃん。」ゆき「え?あ…」 ここでゆきは始めて自分が椅子に座ってボーっとしていたことに気が付いた。
女子生徒「どうしたの、ボーっとして?」ゆき「ちょっと、お兄ちゃんのことでね。」女子生徒「ああ…」 そうじろうとかなたのことは学校でも噂は広まっていたので、その友達はゆきの言いたいことがすぐに分かった。女子生徒「どうなるんだろうね、泉先輩たち。」ゆき「…」女子生徒「ゆきちゃ」“ガタッ” その瞬間、ゆきは勢いよく椅子から立ち上がった。女子生徒「ゆ、ゆきちゃん?」ゆき「ごめん、私ちょっとお兄ちゃんに喝入れてくる!」 そう言うとゆきは一目瞭然に教室を出て行った。女子生徒「が…頑張ってね~。」 友達はそんなゆきの後ろ姿を見ながら言った。女子生徒「っていうか、準備はサボリですか?」 その言葉に周りの者は反応してよいのかどうか迷ってしまった。 ところ変わってそうじろうたちのクラス。こちらでもお化け屋敷の準備をしていた。しかし、前にも述べたようにあまり進んでいなかった。クラスの者全員がそうじろうとかなたのことが気になって、作業に集中できていなかった。そうじろうはもう、かなたと話しかけようともしなかった。男子生徒「泉!」そうじろう「ん?」かなた「…」 そうじろうはクラスメートに呼ばれ振り返った。かなたも横目で見ていた。男子生徒「泉と話がしたいってさ。」そうじろう「誰が?」 そう言いながらそうじろうは出入り口に歩み寄った。そこで自分を呼び出した相手が誰だかわかった。そうじろう「ゆき」ゆき「お兄ちゃん、ちょっと話があるんだけど。」 ゆきはクラスの中を見た。一瞬、かなたと目が合ったが、すぐに兄に目を戻した。ゆき「来てくれるよね?」 有無を言わせぬような声でゆきは言った。そうじろう「でも、俺、まだ準備が」ゆき「来い!!」そうじろう「は、はい!」 今度こそ有無を言わせなかった。そうじろうは前を歩くゆきの後ろに付いていかざるおえなかった。そんな姿をかなたは横目でジッと見ていた。そして、周りの者はこう思った。(((( 怖!! ))))
ゆきが兄を連れてきたのは裏庭だった。そこは校舎のすぐ裏なのだが校門と反対側にあるので、文化祭でも使われることがなく、話をするには最適だった。ベランダがあるので、その下にいれば雨で濡れることもない。そうじろう「で、話ってなんだ?」 そうじろうは少し疲れたような声で言った。精神的に参っているようだ。ゆき「なに?お兄ちゃんの第一声がそれ?いつもだったら“こんな所に連れてきてなにをするつもりだ、ゆき。は!まさかお兄ちゃんを襲う気か!?やめるんだゆき、俺たち兄妹じゃないか。”くらい言うかと思ったけど。」 そうじろう「え?いや…その……」ゆき「はぁ…、冗談よ、冗談。本当に参ってるのね、お兄ちゃん。そんなに気にするならさっさと謝っちゃえばいいのに。」そうじろう「そ、そんなこと言ったって、かなたは俺の話、全然聞いてくれないし…。」 ゆきは兄に詰め寄ってきた。そうじろうは思わず後ろに下がり、校舎の壁にぶつかってしまった。そうじろう「な、なんだよ。」 ゆきは自分の人差し指を兄の胸のあたりに押し付けるように突き立てた。ゆき「あのね、お兄ちゃん。本当に謝る気あるの?謝る気があるならどんなことをしてでも謝るべきよ。話を聞いてくれないならひっ捕まえる、逃げようとするなら押し倒してでも話を聞かせる、それくらい必要だよ。」 そうじろう「お、押し倒すって…」ゆき「もちろん、本当にしちゃだめよ、犯罪行為になりかねないから。私が言ってるのは、それくらいの勢いはいるってこと。」そうじろう「…」 ゆきは指先を兄から離した。ゆき「かなたさんのこと…好きなんでしょ?」そうじろう「!」ゆき「だったら、このままにはできないはずよ。かなたさんのことを想っているなら…謝ってちゃんと関係を修復しないと。話はそれからね。」そうじろう「…」ゆき「自分の過ちをちゃんと認めて、素直に謝る勇気も必要なんだよ。」 そうじろうは静かに顔を上げた。さっきまで死んだ魚みたいにしていた目には生気があふれていた。そうじろう「ありがとう、ゆき。俺、かなたとこのまま終わる気はない!」ゆき「どういたしまして。まったく、出来の悪い兄を持つと大変だわ。」そうじろう「よし、そうと決まったら善は急げだ。俺、かなたのところに行ってくる。」 そうじろうは校舎に向かって歩き出した。ゆき「頑張ってねぇ~。」 ゆきはそんな兄の後ろ姿を見ながら言った。ゆき「さてと…私もお兄ちゃんとかなたさんの行く末を見に行かないと。」 ゆきは兄の後を追いかけていった。ゆき「わ、私が言いだしたんだから、最後まで責任持って見届けないと…ねぇ?」 ゆきは誰に言うでもなくそうつぶやいた。
そうじろうは教室に戻ってきた。後ろにゆきもいる。途中で追いついたようだ。そうじろうは教室を見渡してかなたを探した。しかし、そうじろう「あれ、かなたは?」 かなたの姿が見当たらず、近くにいたクラスメートに聞いてみた。男子生徒「え?ああ、さっき倒れて保健室に連れかれたぜ。」ゆき「た、倒れた!?」男子生徒「ああ、立ち上がろうとしたら立ち眩み起こしたらしくてそのまま倒れたらしい。」ゆき「ちょ、大変じゃない!お兄ちゃん、すぐに行かないと。」そうじろう「…」ゆき「お兄ちゃん、聞いてるの!?」男子生徒「泉?」 ゆきとクラスメートはそうじろうに触れようとした。しかし、触れることができなかった。ゆき「お兄…ちゃん?」 返事がない、ただの残像のようだ…。ゆき「…」男子生徒「…」ゆき「あ、えっと、兄がいつもお世話かけてます。」 ゆきはぺこりと頭を下げた。男子生徒「あ、いえ、こちらこそ、お世話かけられてます。」 つられてそうじろうのクラスメートも頭を下げた。ゆき「お兄ちゃんとかなたさん、大丈夫でしょうか?」 ゆきはつい、そんなことを聞いてしまった。
男子生徒「ん~、多分大丈夫なんじゃない?」ゆき「どうしてですか?」男子生徒「もし、運命の人同士なら、なにがあっても絶対に結ばれるはずさ。あいつらは運命の人同士なんじゃないかと思うだ。お互い、相手のこと、よく知ってるだろ。良い所も悪い所も。だから、きっとあいつらは赤い糸で結ばれてるんだと思うぜ。」 ゆき「…」男子生徒「なんて、なんかこっぱずかしいこと言っちゃたかな。」 少し照れくさそうに頭を掻いた。ゆき「私もそう思います。」男子生徒「ん?」ゆき「私も運命の人は必ずいるんだと思います。だから、運命の人なら、どんなことがあっても絶対に結ばれるっていうの、素敵だと思います。」男子生徒「そ、そうかな?」ゆき「はい!」 男子生徒は少しうれしそうにした。ゆき「あの」男子生徒「お~い、小早川!」小早川「あ?なんだ?」 ゆきと話していた男子生徒は名を呼ばれたらしく、振り返った。男子生徒「わりいけどこっち手伝ってくれよ。」小早川「ああ、わかった。」 そう言うとゆきの方に向き直し、小早川「ごめんね、ちょっとこっちも忙しいから。」ゆき「いえ、こっちこそ、邪魔しちゃったみたいでごめんなさい。」小早川「それじゃあ。」 小早川という男子生徒は作業のほうへ向かった。ゆきも自分のクラスへ戻ろうと歩きだした。ゆき「小早川先輩…か。」 その時、ゆきの心には何か温かいものが芽生えていた。
かなたは保健室で寝ていた。あまり体が強い方ではないので、保健室で寝ていることは度々あった。ある意味、保健室の常連となっていた。ちなみに、現在、かなたのほかに保健の先生が1人いて、3人の生徒が保健室のベッドに横になっている。そこに、そうじろう「かなた!!」 そうじろうが勢いよく入ってきて叫んだ。先生「こら、保健室では静かに!」そうじろう「かなた!」先生「聞いてませんね…。」 そうじろうはかなたの寝ているベッドまで歩み寄った。かなたもチラッと横目でそうじろうを見たが、すぐに視線を外し、体をそうじろうとは反対の方へ向けた。そうじろう「かなた…。」かなた「…」 一瞬、沈黙が流れた。先生も他の生徒も興味が無いふりをしながらしっかりと二人の様子を見ていた。そうじろう「かなた。」かなた「…」 そうじろうはゆきの言葉を思い出していた。“かなたさんのこと…好きなんでしょ?”“自分の過ちをちゃんと認めて、素直に謝る勇気も必要なんだよ。”そうじろう「かなた、ごめん!!」 そうじろうは一気に頭を下げた。そうじろう「俺、おまえを怒らせるつもりはなかった。おまえなら俺のことよく知ってるから、あんなこと言っても大丈夫だろう、と思ったんだ。だけど、信じてほしい、俺のかなたへの気持ちに嘘はない。俺は、俺は…」 かなた「・・・」 そうじろうは頭を上げた。そして、
そうじろう「…俺は世界中で一番かなたを愛してる。」((((うお、言い切ったよ!?))))そうじろう「だから…だから」かなた「…プッ」そうじろう「?」 そうじろうはかなたの体が震えているように見えた。かなた「プッハハハハハハハハハハハハ」そうじろう「???」((((?????)))) いきなり笑い出したかなたにそうじろうだけでなく、周りの者もキョトンとした。かなたは体をそうじろうに向けた。かなた「ご、ごめんなさい。まさかそう君から、そんな言葉が出るなんて思わなかったから。ハハハ」そうじろう「え?その…えっと…」 いまだにキョトンとしているそうじろうを余所に、かなたは息を整え、上半身をベッドから起こした。かなた「ごめんね、そう君。あのとき私が嫌いって言ったの嘘なの。」そうじろう「へ?嘘?」かなた「だって、あんな告白の仕方してくるんだもん、つい…勢いで…」そうじろう「い、勢いって、そりゃないだろう、かなた。俺がこの数日どれだけ」かなた「だからごめんってば。でもね、怒ってたのは本当よ。」そうじろう「そう…なのか?」かなた「だって、ちょっとへんな趣味が入ってるってわかっていても、告白があれじゃぁ、ねぇ?」そうじろう「ううっ…」かなた「まぁ、それを一発OKしようとした私もどうかと思うけどね。」そうじろう「え?」かなた「なんでもないわ。それに、そう君が本気だったのかも分からなかったし。だから、そう君が私のことを本当に思ってくれているのか知りたかったの。」そうじろう「そうだっかのか。」かなた「でも、今のではっきりわかったわ。そう君が私のこと、本当に好きなんだったこと。それから、・・・私がそう君のこと好きなんだってこと。」そうじろう「え?」かなた「まだ、告白の返事、してなかったよね?」そうじろう「そ、そうだったけ?」 かなたはそうじろうの目を見た。そして、かなた「私も好きよ、そう君。」そうじろう「かなた…」
そうじろうは自然と笑みがこぼれた。かなたは自分のことを嫌いになどなっていない、かなたは自分のことが好きなんだ、そう思ったらとても嬉しかった。 すでに、そうじろうもかなたもお互いのことしか見えていなかった。((((・・・・・・・・)))) なので、先生や他の生徒が二人の会話を聞いて顔を赤くしているなど、そうじろうもかなたも気がついていなかった。そうじろう「ここ、いいか?」かなた「ええ、いいわよ。」 そうじろうはかなたが体を起こしたところ、ちょうど枕の横あたりに腰を下ろした。すると、そうじろうは自分に何かが倒れてくるのを感じた。それがかなたであるとわかるのにそう時間はかからなかった。そうじろう「か」 そうじろうは名を言いかけたが思い直して、かなたの体を抱くように手を添えた。かなた「でも、そう君。」そうじろう「ん?」かなた「どうして急に告白してきたの?そんなそぶりはずっと見せなかったのに。」そうじろう「ああ。実はゆきに聞かれてな。俺とかなたは付き合ってるのかって。その時はなんとも答えられなかったけど、一人になって考えてみたんだ。」かなた「だからなの?」そうじろう「それもあるけど・・・」かなた「けど?」そうじろう「夢を見たんだ。」かなた「夢?」 かなたは顔を上げてそうじろうを見た。そうじろう「そう、夢。夢の中には三人いるんだ。1人はちょっと年取った俺。それからなぜか半透明なかなた。そして、かなたによく似た娘。違いは目の下にほくろがあるのと髪が少し跳ねていることくらい。」 かなた「…」そうじろう「その娘が俺に聞いてくるんだ、お母さんはどうしてお父さんと結婚したのって。それで、答えてやったんだ。」かなた「なんて?」そうじろう「さっきと一緒。」かなた「?」そうじろう「俺は世界中で一番かなたを愛してるって自信を持ってるからだって。」かなた「ふ~ん。って、それじゃ、さっきのはその夢のうけおいってこと!?」そうじろう「まぁ、そう言われちまったらそうだけど、俺の気持ちに嘘はないから。むしろ、俺の気持ちを伝えるのにこれ以上の言葉はないって思ったし。どっちみち、俺のセリフだしな。」 かなた「そっか。」 かなたは上げていた頭を再びそうじろうの体に預けた。しばらくの間、二人はその体勢でいた。
かなた「さてと。」 不意にかなたはそうじろうから体を離した。かなた「そろそろ、準備に戻らないと。文化祭は明後日だしね。」そうじろう「そうだな、戻るとするか。」 そうじろうはベッドから立ち上がった。かなたもベッドから出ようとしたが、何かを思いついたらしく、いたずらっぽい顔をした。かなた「そ~お君。」そうじろう「ん?なんだ?」かなた「私、まだ体の調子良くないの。だから、おんぶして。」「「「「ぶ!」」」」 先生を含めた周りの者は吹き出しそうになったのを、慌てて手で口を押さえた。そうじろう「しょうがないな、かなたは。」かなた「えへへ。」 そうじろうはためらうことなくかなたをおんぶした。そうじろう「それじゃ、先生失礼します。」かなた「します。」 そう言うとかなたを背負ったそうじろうは保健室から出て行った。保健室に残っていた4人は半ば呆然としていた。男子生徒「な、なんかこう、すごかったですね。」 一人の男子生徒が思わず口を開いた。男子生徒「そうだな、僕にはとてもまねできない…。」女子生徒「私はいいなって思ったけど。いつかあんな人現れないかしら。」先生「どことなく純粋な奴らだったの。っと、おお!?」男子生徒「どうしたんですか、先生?うお!」男子生徒「うわぁ。」女子生徒「ああ、虹。」 4人は窓の外を見ていた。すでに雨は上がっており、晴れ間も出て、虹が出ていた。先生「虹か、ふふ。」男子生徒「先生?どうかしたんですか?」先生「なに、ちょっと孫の名前にどうかというのが思いついてな。」女子生徒「え?先生、お孫さん生まれるんですか?」先生「いや、孫どこらか彼女もおらんがの、私のところの息子は。」男子生徒「そうなんですか。で、どんな名前を思いついたんですか?」先生「ん?ああ。虹のように美しく、子どものように純粋な心を持ってほしいという意味を込めて、“ななこ”というのはどうかと思っての。」女子生徒「ななこちゃん、ですか。いい名前だとおもいますよ、黒井先生。」先生「ありがと。とこらでお前たち、いつまでここにいるつもりだ?」男子生徒「えっと、あと、5分くらい?」先生「ほぉ、あと5分か。そう言う奴程、その5分があてにならんもんなんじゃがな?」 生徒3人が一斉に目をそらしたのであった。その後、学校では火災報知機が作動した。噂では、そうじろうとかなたが周りの気温を上げたせいで誤作動した、というらしいが真実かどうかは定かではない。ちなみに、文化祭の2日前だったので、かなり影響がでたらしい。 それから数年後。ゆき「おめでとう、お兄ちゃん、かなたさん。」男「おめでとう、泉。」女「きれいよ、かなたちゃん。」 お兄ちゃんとかなたさん、やっと結婚か。長かったな。なぜか私の方が早く結婚しちゃったし。それにしても、二人とも、うれしそう。かなた「うふふ。」そうじろう「はは。」小早川「お~い、写真撮るぜ。」そうじろう「おう!」小早川「セルフタイマーっと。」 私、最近考えることがあるの。失敗っていけないことなのかなって。私はそうは思わない。だって、始めから失敗しない人なんていないでしょ?失敗を積み重ねて成功していく。失敗は成功の元ってよくできた言葉だと思うわ。 男と女の仲も同じだと思わない?いくら相手のことが好きだからって始めから全部受け入れられるかっていうとそうじゃないでしょ?時にはけんかをして、相手のことを分かり合って、それでまた絆が深くなる。夫婦ってそういうもんだと思うんだ。ほら、そこにもぶつかり合って絆が深くなっていった新郎新婦が、って、
そうじろう「それ!」かなた「きゃ!!」男「うお!?」女「うわ~。」 お兄ちゃん、いきなりお姫様だっこですか。すごい・・・。 それにしても、この二人も結構、けんかしてきたわよね。その中でも一番すごかったのは、埼玉に行くってことだったかな。お兄ちゃんったら、埼玉の方がアニメがいっぱい見られるから、なんて言うから。一時期、別れる、なんてこと言ってたこともあったわね。お兄ちゃんも本当のこと、言えばよかったのに。体の強くないかなたさんのために都心に近くて設備が整ってる病院の近くに行きたいんだって。変な所で強情なんだから、お兄ちゃんは。いや、照れ屋なのかな?その時は私がかなたさんに本当のこと言って丸く治まったけど。と、そろそろシャッターがおりるわね。いい笑顔しないと。“チュッ”“カシャッ”そうじろう「へ?」男「な!?」女「うわ!?」 か、かかかかかかなたさん!?く、くくくくく口付けですか!?そんな、だ、大胆な!?写真ですよ!?一生残るんですよ!?ねえ、ちょっと、聞いて・・・ かなたがそうじろうのどこに口付けしたかは各々の想像におまかせするとしましょう。 そのさらに十数年後、そうじろうの夢が現実のものとなるお話しがあるのだが、それはまた別のお話し。 ~終わり~
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