「「私が作家になった理由」ID:H1Oe8Qk0氏」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
ある日のこと、私はつかさがパティシエ修行をしているという店に来ていた。
「ねぇ、こなちゃん」
「ん?」
「こなちゃんはどうして、ラノベ作家になろうって思ったの?」
「ん~…ぃやぁ、話せば長くなるんだけどね?」
遡ること3年前のある日曜日。今日も書斎にこもって頭を抱えているお父さんに、コーヒーを入れてあげた。
「はい、お父さん。コーヒー入れてきたよ」
「あぁ、サンキューな。…はぁ」
「どうしたの?」
「いいアイデアが浮ばないんだよなぁ…まぁ、こなたの入れたコーヒーを飲めば浮ぶかもなハハハ☆」
「またそんな気楽なこと言っちゃって…」
親子の笑いが部屋中に響くそんな日曜日…
「ねぇ、お父さん」
私は、それとなくお父さんに聞いてみた。
「お父さんってどうして小説書いてるの?」
「ん?何でそんなこと聞くんだ?」
「だって最近アレでしょ?…売れ行きがかんばしk」
「待て待て待て!それ以上言っちゃいかーん!」
…あぁ、図星だなこりゃ。必死の形相で泣き叫んでるから余裕じゅした。
「…そうだな」
ふと、お父さんが口を開いた。
「こんな小説でも、読んでくれる人がいるから…かな」
「え?」
読んでくれる人がいる?…まぁ、いるんだろうな、多少は売れてるんだから。
「いいか、こなた。これだけは覚えておいてくれ」
「ん?」
「小説なんてのは金稼ぎの道具じゃない。読んでくれる人がいるから書くものなんだ」
うーん、お父さんが言っても説得力ないって言うか…。
まぁ、口に出したらお父さんがショック受けちゃうだろうから言わなかったけど。
「どんなに立派な文豪でも、生活費を稼ぐのには苦労してた。だけどその人の作品を読んでくれる人はいっぱいいるだろ?それと同じでな、父さんも金のためじゃなく、読んでくれる人のために小説を書こうと思った」
さらにお父さんは続ける。
「まぁ、ようはどんな人間でも何かしらの形で必要とされていたり、愛されてたりするってことさ」
そうか…お父さんも何かしらの形で愛されてたんだ。
その、読んでくれる人の中にはきっと、お母さんもいたんだと思う。
お父さんの書く小説は、登場人物に感情移入できるのが売りなんだそうだけど、まさかそんな大した文を書く人がロリコンのエロ親父だとは思わなかっただろうな~。
あ、いやいや、勿論言わないよ?言ったらお父さん大泣きしちゃうだろうから。
何はともあれ、こんなお父さんの書いた作品でも読んでくれる人がいる。
読んでくれる人がいるからお父さんはそれに応えようと小説を書いてる。
今…ちょっとだけ、お父さんの背中が大きく見えたような気がした。
ちょっとだけ、ね…。
「…お父さん」
「なんだ?こなた」
「私、決めたよ。お父さんのような作家になる」
「こなっ!?」
驚きのあまりイスから転げ落ちるお父さん。そりゃ当然だよね。
「私ね、こっそり雑誌に投稿してるんだ。評価もそこそこでね、こんな私の文章でも読んでくれる人がいるんだってわかったんだ。だからね、私作家になろうと思うんだ」
「…そうか」
と言いながらお父さんは立ち上がると、
「そぉかそぉか、それでこそ俺の娘だ~」
とか叫びながら、勢いよくほお擦りしてきた。…あの、不精ヒゲが当たって痛いんですが。
「ま、お前の人生だから、俺がどうこう言える立場じゃないな。こなた、お前はお前の道を行きなさい」
「うん、ありがとう、お父さん」
そして現在…。
「…とまぁ、そういうやり取りがあってさ」
「そうか、それでこなちゃんはラノベ作家になったんだね」
「ま、半分はお父さんの影響だったこともあるんだけどね…今はバリバリ売れまくりだけど、あとで売れ行きが落ちたときが心配なんだよね…」
「でも、私はこなちゃんの作品好きだよ?」
「え?」
「だって、こなちゃんの作品ってキャラが立ってるっていうか、頭の中に画が浮かんでくるっていうか、読んでるだけで夢中になれる気がするの。だから私、こなちゃんの書くラノベ、好きだな。お姉ちゃんもこなちゃんの作品は好きだって言ってたみたいだよ」
そうか、読んでくれる人はこんなに近くにいたんだ…。
こんなオタクの私が書くラノベだって、読んでくれる人たちがいる。
だから私は…読んでくれる人たちのために、ラノベを書き続けていこうと思った。
私がラノベ作家になった理由。
それはいたって単純な理由だけど、いたって大切な理由。
そう…読んでくれる人たちがいるから。