「時間を超え 友のために」ID:1sc4jQDO氏

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全てがスローモーションで動いているようだった。 「     」 何かを叫んでいたみたいだったけど、私の耳には届かなかった。 バランスを崩して、線路の方に倒れていく少女。 彼女を助けようと、必死になって手を伸ばすが……無情にも、その手が届くことはなかった。 目の前を、『特急列車』が通り過ぎていく。 しばらくその塊だけが視界を支配し、それが消えたと思った時には、少女の身体は、少女へと伸ばした私の右腕は――消え失せていた。 大量の血液を流す私の右腕。だが、痛みはない。むしろ、痛みがあるのは心の方だった。 「あ……ああ……」 なくなった右腕をみつめながらホームに座りこむ私。 ただただ『罪悪感』だけが、私のこころをしはいする。 しんじたくない。みとめたくない。けれど……これが、ゲンジツ……       ――私が、彼女を殺してしまった――       「うわあぁぁぁあぁあぁああああぁぁああ!!」       ☆       「よいしょっと……」 私は地面に降りて、見送りに来てくれたつかさとみゆきさんに向き直る。 「じゃ、ここまでありがとね」 「こなたさん……本当に、やるんですか?」 「……もちろんだよ。何のためにここまで来たのさ」 「こなちゃん……」 身体をぷるぷると震わせるつかさ、声にいつもの知的さが感じられないみゆきさん。 そんな二人に、私は優しく声をかけた。 「そんなに悲しまなくてもいいよ。こんな、こんな罪深い私なんかのために……涙を流さなくたって」 「でも……こなちゃんは、私達の大切な友達だよぅ……ひっく……」 ……つかさ…… 「ごめんね、つかさ。でも私は、二人の友達でいる資格はないの」 「資格なんて関係ありません!! 私は……私達は……いつまでもこなたさんの……!!」 「……もう、時間みたいだね。それじゃ、元気でね」 穴がだんだんと小さくなっていく。このままだと、つかさとみゆきさんもここに残ることになっちゃう。 私は二人の身体を小さな穴へ押し込んだ。二人が入ると、穴は消えた。 ……本当は、みゆきさんの言葉を最後まで聞きたくなかっただけなんだけどね。 「さて、と……」 振り向いて、懐かしの我が家を見つめる。我が家って言っても、今は違う家に住んでるんだけどね。 んー……我が家というより実家かな。ま、私が住んでたことに変わりはないし。別にいっか。 「あ、こなちゃん」 「なに? あんた家の前で待ってたの?」 お、この声は……やっぱり懐かしいな。昔のまんまだ。 「いらっしゃい。つかさ他一名」 「略すな!」 「あはは……」 顔を真っ赤にしてツッコんでくるかがみ。う~ん、このノリも昔のまんまだネ。 「……って、あんた、ちょっと背高くなってない?」 「あ、そういえばそうかも。私とあんまり変わらない気が……」 私の横に立って、手のひらで身長差を測るつかさ。 「……やっぱり、背高くなってる。まだ私のが高いみたいだけど」 「ぐはっ、『この時代』のつかさすら抜けないとは……」 「はぁ? あんた何言ってんのよ。それにあんた、右腕はどうし……」 と、その時だった。 「やふー、二人とも。誰と話してるの?」 私の後ろの扉が開いて、中から女の子が出てきた。 彼女を見たつかさとかがみは硬直してる。確かに、これは結構クるよね。 どれ、もういっちょおどかしてみせるか。 「……? どしたの? 二人とも」 これは私の声。 「ちょ……うし……後ろ……」 これはかがみの声。私の後ろを差す指が震えてる。 「後ろって……」 振り向くと、女の子も硬直。私も硬直……したふり。 そして私は、プルプル震えながら女の子に抱きついた。 「うおー! こなた! 生き別れの妹よー!!」 「ちょ、え、ええー!?」       ☆       「で、何? チミは生き別れの姉ではなくて、『15年後の未来から来た私』だと?」 「ズズズ……まあ、そういうこと。右腕は事故で失っちゃったんですな、コレが」 『この時代の私』に緑茶を煎れてもらい、啜りながら質問に答えていく。 「……生き別れの姉の方がまだ信用できるわよ……」 こめかみのあたりを人差し指で抑えるかがみ。 これは呆れてるときとか何かを疑っているときのクセだ。 「いきなり未来から来たって言われても……何か証拠とかないの?」 「「おおっ、つかさが人を疑うことを覚えたっ!」」 この時代の私と思い切り声が重なり、思わず顔を見合わせる。 「わ、私だってたまには疑うよぅ!」 たまには、なんだ……。つかさらしいっちゃらしいけどね。 「とまあいろいろ戯れあってるけどさ、私もイマイチ信用できないのサ」 「むぅ、私にも信用されないとは……」 「だっていきなりなんだもん。とりあえず、私だっていう証拠を見せてよ」 「うう……仕方ないなぁ……」 全員に信用されてなかった私は仕方なく服を脱いだ。 あれからもう何年も経ってるんだ。片手だけでも、着替えだってお手のもの。 「ちょっ! あんたなに服脱いで……!?」 「はわわわわわわ!!」 「そんなに焦らなくても。証拠を見せるだけじゃん」 そう言って、私は背中を三人に向けて髪の毛を持ち上げた。 「あーっ!」 「ひ!」 「う……」 驚きの声をあげるこの時代の私、怯えるつかさ、視線を逸らすかがみ。 みんな違う反応を見せて、私の背中にある『それ』を見つめてる。いや、かがみは見つめてないか。 「あ……あんた……それって……」 「そだよ、やけどの跡。かなりひどいでしょ?」 小学生くらいの時のなんだけど、まだはっきりと覚えてる。一時期火恐怖症になるくらいにトラウマだったんだよね。 友達の家に泊まりに行った日の夜に起きた火事……原因は放火だったらしい。 あっという間に炎に取り囲まれて、逃げ遅れた私は背中にひどいやけどを負った。 どこを向いても火、火、火……あんなの、誰でも火恐怖症になるって。 「ちなみに、髪の毛を伸ばしてる本当の理由は、このやけどの跡を隠すため」 「……う、うん……確かに、私だね……理由もバッチシだ……」 私自身からOKをもらったので、また服を着直すことにする。 「このやけどの跡でさ、ひどいいじめにあってたんだよね。隠そうとしたのは、それからだよ」 「……っていうかあんた、そんな辛い過去が……」 だから見せたくなかったんだけどなぁ…… 「でも、なんで15年後の未来からわざわざこの時代に来たのよ」 かがみがポッキーを食べながら聞いてくる。 さすがかがみ、着眼点があまりにも良すぎるネ。 「う~ん、教えたいのもやまやまなんだけどさ、そういうの禁止されてるんだよ」 「え、そうなの?」 「だってさ、徳川埋蔵金が見つかった例で言ったら、場所とか教えたら違う人が見つけちゃうじゃん」 「あ、そっか。未来が変わっちゃうんだね」 「……でもあんた、今言ったぞ? 『徳川埋蔵金が見つかった』って事実」 「はう!!」 ……え~っと…… 「と、とりあえず、場所は言わなければだいじょぶ……なはず……」 「はあ……あんたは……」 まあ、ぶっちゃけ私が三人に会った時点で未来は変わっちゃうんだけどさ。私達のいる未来は変わらない。 だけど、この時代が歩む未来は変わっていく。そして私は……この時代からの未来を変えるためにやってきた。       ☆       「ねぇ、こなた」 「チミもこなたでしょが」 「あっはは、紛らわしいね」 床に布団を敷いて寝ながら、ベッドで寝てる今のこなたに話し掛ける。 むぅ……この表現はいろいろ面倒だな…… 「もし……もしだよ? 自分が誤って友達を殺しちゃった時……どうする?」 「へ……?」 うん、そうだよね。いきなりこんな質問されたら、そうなるのが普通だよネ。 「う~ん……下手したら、友達の後を追っちゃうかな。かがみなんかがいなくなっちゃったら、生きてる意味ないからね……」 ……そっか。生きてる意味ない、か…… 親友を失ったら……しかも、自分が原因だったら……死にたくもなるよね…… 「……じゃあ、さ……」 「すぅ……すぅ……」 おろ、眠るの早いなー。 ま、今日はいろいろあったからネ。仕方ないか。 「さて、と……」 私はこの時代の私を起こさないようにゆっくりと起き上がって、こっそり持ってきていたノートを開く。 昨日――この時代でいう15年後の今日――書いた次のページに、今日の出来事を書く。おそらく、今日で最期の日記になるだろう。 そして一番最後のページに……私がこの時代の私に、そしてかがみに伝えたい言葉を書いた。 「……よし……」 ノートを閉じ、本棚の一番下の右端にこれを収めた。 明日、私は運命を変える。恐怖心もあるけど……どちらかというと、楽しみだ。       ☆       希望と絶望。 この二つは、究極に相反するものだと思う。それは、意味だけの話じゃない。 希望を見出だすためには結構な時間が必要なのに、絶望に打ちひしがれるのは一瞬。 信頼関係も同じ。築き上げていくには時間がかかるのに、壊れるのは一瞬。 日常だってそう……。今まで続いてきた『日常』は、一瞬で壊れてしまった。       ねぇ、教えてよ。 アナタは私のこと、どう思ってるのかな。 私には、アナタの友達を名乗る資格はない。だから、教えてよ。 アナタは今でも、私を……友達として認めてくれてるの……? ☆ 今日はかがみと二人で秋葉原へ買い物に行く予定だった。 私は家で留守番をしててと言われたけど……こっそり後をつけた。 この日から……私の、かがみの運命が大きく変わった。だから、私が変えなくちゃ。 未来を、これからの悲劇を知ってる私が…… 「でさー……お父さんが……」 「あはは、あの人らしいわね」 駅のホーム、電車を待っている私達二人を、反対側のホームから見つめる。 大丈夫。人混みの中だから、向こうにばれてない。 いつものように笑い合い、いつものように時が過ぎていく。この時は、そう思っていた。 だけど……永遠なんてどこにもない。別れはいつも、突然にやってくる。 「なんか混んできたネ」 「そうね~、はぐれないように注意しなさいよ?」 「子供じゃないんだから……」 お客さん達に押されて、白線ギリギリにまで追い詰められる。 そして……運命の歯車が狂いだすまで、30秒を切った。 「フと思ったんだけどさ、あんたって親が違ったらもっとまともな子に育ってたわよね」 「……え……?」 「だってそうでしょ? お父さんの影響でそんな風になっちゃったワケだし。てゆーかお父さんもお父さんよね。子供の目の前でギャルゲーとかやるなんて信じられな――」 ――パァン!! 「い……?」 「……謝れ……!!」 涙を浮かべながら、かがみの頬をひっぱたくあっちの私…… 言われた言葉もそうだけど……まさか、かがみに言われるとは思ってなかったから。 「確かに……確かに私のお父さんはオタクだし常識ないしたまに危ないことも言うよ……。 でもね……私にとっては、たった一人の家族なんだ! 男手一つで、頑張ってここまで育ててきてくれた! それを……それを!!」 私が大好きだったお父さん。 危険な発言をしたり、鬱陶しいって思うことだってたまにある。 それでも、私はお父さんが大好きなんだ。 お父さんじゃなけりゃ、今の私はあり得ない。 それを……私の家庭を知っているはずのかがみに侮辱されるなんて…… 「かがみなんて大嫌い!」 「ちょ、こなた! ごめん! 謝るから!!」 「触らないでよ!!」 かがみが伸ばしてきた手を振り払った――その時だった。 「「あ……」」       全てがスローモーションで動いているようだった。 「かがみ!!」 かがみがバランスを崩して、線路の方に倒れていく。 かがみを助けようと、必死になって手を伸ばすが……無情にも、その手が届くことはなかった。 そこへ、運悪く『特急電車』が走ってきて――私が歩んだ未来では、かがみはそのまま轢かれて……帰らぬ人となった。 「殺させないよ」 「え……」 一足先に線路に待機していた私は、落ちてきたかがみの身体を優しく受けとめる。 「だって私は、かがみを救うために、ここまで来たんだから。私の――命と引き換えにね」 かがみの身体を、ホームにいる私の方に投げ返す。 身体を受けとめるも、反動でしりもちをついてしまったホームの私。 そして二人は……惚けたように口を半開きにして、私の方を見てくる。 目を瞑って、『その時』を待つ間に、かがみとの思い出が走馬灯のように流れてきた。 怒ってるかがみ、赤面してるかがみ、呆れてるかがみ、笑ってるかがみ…… そのどれもが輝いていて、私には眩しかった。 かがみ。願わくば、君の未来に幸あらんことを……なんちゃって。 「じゃあね、二人とも。未来の私達の分まで、元気に暮らしてね」 / こなたと一緒に駅員室でいろいろと話を聞かれ、ようやく解放されたと思ったらもう夜になっていた。 家に帰るのもなんだか気が引けたから――というより、あれこれ詮索されるのは目に見えていたから――今日はこなたの家に泊まらせてもらうことにした。 「うぐ……ひっく……」 何より、こんな状態のこなたを一人にしておくなんて……私にはできなかった。 「ねえ、こなた……」 「うく……えぅ……」 部屋の隅っこで体育座りをしながらひたすらに涙を流すこなた。 話し掛けても返事は帰ってこず、彼女の口からはただただ嗚咽が漏れるばかりである。 「……やっぱり、悲しいわよね。未来のとはいえ、自分が死んじゃうなんて」 私には、こなたの悲しみは解らない。 これが慰めになっているのかどうかも解らないけど……こなたを励ますために、そう言ってみた。 「ひっく……ち、がうの……」 「え……」 「わ、たし……かがみ……殺し、ちゃったし……未来、の私も……私が殺、した……ようなもの、だから……うあああ……!」 涙で顔をくしゃくしゃにしながら、必死で自分の思いを伝えるこなた。 その優しさに多少呆れながらも、小刻みに震える小さな親友の頭を撫でてやる。 「……確かに、あっちのこなたが歩んだ未来じゃ、私はこなたに殺された。だけど、こうも考えられるんじゃない? 『私はこなたに命を救ってもらった』って」 「え……?」 顔をあげて、私の目をまっすぐに見つめてくる。 「未来のこなたが来てくれなきゃ、『私がこなたに殺される』っていう事実は変わらなかった。でしょ?」 「あ……」 未来のこなたがこの時代に来てくれたおかげで、今この場所に『私』という人間が存在していられるんだ。 私はこなたによって殺され、そしてこなたによって命を救われた。プラスマイナス0じゃない。 ……単純計算していいものじゃないけれど。 「私は今を生きてる。今のこなたに殺されたわけじゃない。だから、今のこなたは何も気にしなくていいんだ」 「で、でも……未来の私は……」 「それは――言い方は悪いけれど、あっちが勝手に死んだだけよ。今のこなたには、関係ないわ」 「……」 自分の胸に手を当てて、それから両手で目をごしごしとこする。 そこには、いつものこなたの姿があった。 「ありがとう、かがみ。少しは気が楽になったよ」 「そ、よかった」 いつものこなたが戻ってきた。たったそれだけのことなのに、思わず笑みが零れた。 「ん……?」 何かを見つけたみたいで、こなたが机の下に手を伸ばす。 こなたの手の中にあったのはノートの切れ端。そこには、文字が書かれていた。 『本棚の一番下、右端のノートを読んで by未来のこなた』 私達は書かれている通りに、本棚の一番下の右端からノートを取り出した。 それはやはりこなたには見覚えのないノートで、けれども字を見ると、こなたのものには間違いなかった。 私達は頷き、ページを捲る。ノートの内容は、日記のようだった。 私を殺した罪で5年服役したこと、刑務所を出てから本当に堕落した生活を送っていたこと……苦悩ばかりが綴られていた。 それからしばらくして、彼氏ができ、結婚。子供も二人できたそうだ。 そして、だんだんと読み進めていくと、驚愕の事実を見つけてしまった。 なんとみゆきがタイムマシンを完成させたという。どんだけ頭いいんだよ…… そしてそのタイムマシンでこなたはこの時代にやってきて……昨日の次のページからは、もう白紙だった。 「……こなた……」 「まさか……私がこんな激動の人生を送っていたとは……」 読み終わった私達は、パラパラとページを捲っていく。 そして気が付いた。一番最後のページに、長い文章が綴られていることに。 ☆ かがみ、そしてこの時代の私へ。 二人がこの文章を読んでるってことは、私はもうこの世にいないんだね。 ……まさかこんなたわけた文章を書く日が来るとは思ってもみなかったよ。 まぁいいや。とにかく、かがみと私の二人がこの文章を読んでると仮定して話を続けるよ。 まず、かがみ。 もう解ってると思うけど、『私』が過ごしてきた世界には、かがみはいない。私が……殺したんだ。 駅のホームで、私が勝手に怒って、伸ばしてきたかがみの手を払いのけて……それで、バランスを崩したかがみは、電車に轢かれて死んだ。私が殺した。 刑務所の中にいる時も、彼氏――今の夫と一緒に過ごしてる時も、子供の世話をしてる時も、私はかがみのことばかりを思ってた。 ホント、バカだよね。そんなことで、かがみが帰ってこないことくらい、解ってたはずなのに。 でも今回、かがみと話すことができた。本当に……嬉しかった。楽しかった。 私は、かがみを救けることができたのかな。できたとしたら、かがみにお願いしたいことがあるんだ。どうか、『今』の私を嫌わないで欲しい。 『今』の私には、なんの落ち度もない。悪いのは、こっちの私だから。 かがみを殺しておいて勝手だけど、どうか……お願い。 そして、『今』の私。 私自身だから、本当は心がすごく弱いことを知ってる。きっと、『何もかもが自分のせいだ』なんて思ってるんじゃないかな。きっと、今の私みたいに。 でもそれは間違い。かがみに対しても書いたけど、悪いのはこっちの私。『今』の私は何一つ悪くないんだ。だから……気にする必要はないんだよ。痛みを背負うのは、私だけでいい。 私はこれまで、なんで生きてるのか疑問だった。かがみを奪ったのに、何のうのうと生きてるんだろうって。 でもそれは、みゆきさんがタイムマシンを作ったって聞いた時にわかった。『過去に戻って、かがみを救うために生きてたんだ』って。 かがみを救ったのなら、私にはもう生きる意味はない。だから、死を決めた。『今』の私が殺したとか、そういうわけじゃないんだ。私が勝手に死んだだけ。 だから『今』の私には……って、かがみに言ってることと同じだから以下略。 そして、これは二人に対して。 二人は、私達が選ばなかった……いや、選べなかった道の最果てにいる。 別れはいつ来るか解らない。だから二人には……私達の分まで、楽しい人生を歩んで欲しい。私達が歩めなかった、『幸せ』っていう人生をね。 ……はは、らしくないよね。こんなセリフ。 これ以上書くと変な方向に話が行っちゃいそうだし、ここら辺でやめておくね。 それじゃ……元気でね。さよなら。 ☆ 「……」 「……」 読み切っても読み切っても、私達は何度もその文章に目を通していた。 所々にシミのようなものが目立つ。これを書いてる時、泣いてたんだ…… 「……かがみ」 不意に、私の隣からノートを覗き込んでいたこなたが喋りだす。 その横顔は……いつもとは比べものにならないほど真剣だった。 「私が言うのもなんだけど……幸せにならなくちゃね。未来の、私達の分まで」 「そうね。それが……未来のこなたの願いだから」 私達は顔を見合せ、お互いに小さく頷いた。 ノートを閉じて表紙に目を落とし、 「……これ、捨てちゃった方がいいかな」 「そうね。これはここにあるべきものじゃないから」 こなたは部屋の隅っこにあるゴミ箱に、ノートを放り投げた。 「これでいいんだよね」 「アンタはアンタよ。誰にも制限されることはないわ」 「……うん、そうだね。じゃ、ゲームしよっか!!」 いつもの調子に戻り、ゲームの準備をするこなた。 そう、これで……あるがままの私達でいいんだ。 今回の事件を忘れることはできないだろうけど、それは心の奥にしまっておこう。 『別れはいつ来るか解らない』――未来のこなたに教えてもらったこと。 だから私達はこれからも、『今日』という一日を楽しんで生きていく。 いつか来る別れの時に……後悔をしないように。 「そりゃりゃ!」 「だーくっそ!! ハメ技禁止だっつーの!!」 「はいはい。……ふふ……」 「何よ?」 「いや、普通ってのがこんなに嬉しいことだとは思ってなくて……」 「隙あり!」 「あ、ひどッ!!」 「さっきのお返しよ!」                     ――かがみ。 ――何? ――私達、ずーっと親友だよね? ――当たり前じゃない。私達は、いつまでも親友よ。

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