「ID:ytBbwtA0氏:従姉妹以上恋人未満」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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深夜2時、ネトゲをログアウトして、ベッドにもぐりこんでまもなくドアをノックする音が聞こえてくる。
「どうぞ~ 」
私が言うと、躊躇いがちに小柄な少女が部屋に入ってくる。
「こんな時間に…… 何かな? 」
「あ、あの、こなたお姉ちゃん」
ゆーちゃんは恥ずかしそうに俯いた。
「わたし、今日、眠れなくて…… 」
真っ赤になりながら、躊躇いがちに上目遣いを見せる。
「いいよ。ゆーちゃん。一緒に寝ようか」
「ありがとう。こなたお姉ちゃん」
ゆーちゃんがほっとしたような笑みを浮かべて、私のベッドにもぐりこんでくる。
懐にすっぽりとおさまった少女は、とても可愛くて脆い。
「あのね。こなたお姉ちゃん」
至近距離から、萌え転がりそうな視線を向けられる。
「な、なにかな」
大きな瞳とあどけない顔、そしてふんわりとした髪が、私の理性をぐらつかせる。
「お姉ちゃん。好きな人いる? 」
「そ、それは…… 好きな男の子という意味? 」
しかし、ゆーちゃんは首を振った。
「ううん。男の子でも女の子でもいいから」
「うっ」
私は、言葉に詰った。
男子という前提なら『いない』と断言できるのだけど。
「いや…… あの…… うーん」
「こなた、お姉ちゃん? 」
「あ、いやあ、その。そういうゆーちゃんはどうなのかな? 」
私は、とても臆病でひきょうだ。
答えを返さずに、ボールをゆーちゃんに投げ返してしまった。
しかし――
「わたし、私は、こなたお姉ちゃんが好き! 」
私の瞳を見据えて、ゆーちゃんがいきなり告白した。
「ゆーちゃんは…… みなみちゃんが好きなのじゃないかな? 」
ひどく動揺しながら、辛うじて声を絞り出す。
「みなみちゃんは、とても大切な親友だよ。でもお姉ちゃんに向ける『好き』とは違うの」
少女の真剣な眼差しが、私を捉えて離さない。
確かに、ゆーちゃんは妹のような存在だ。
身体が弱くて守ってあげなくっちゃと、いつも思っている。
でも、恋人として好きかと問われれば戸惑ってしまう。
「私、お姉ちゃんと一緒にいることが幸せなの。だって、お姉ちゃんはとても優しいから」
「わたしは、優しくなんかは…… ないよ」
むしろ優柔不断で、私を想ってくれた人を傷つけてしまう。
「私は欲張りだから、こなたお姉ちゃんを独り占めしたいの。誰も、お姉ちゃんを渡したくないの! 」
ゆーちゃんは、双眸に涙をためながら、私に抱きついてくる。
密着したゆーちゃんの身体の震えが直に伝わってきて、心が痛い。
「あのね…… ゆーちゃん」
「おねえちゃん? 」
ゆーちゃんが落ち着くのを待ってから、私はゆっくりと言った。
「私、よく分からないんだ」
ゆーちゃんの表情が曇る。
「ゆーちゃんは、とても大切な女の子だよ。誰よりも守ってあげたいと思う」
私は、小さく息を吐き出してから続ける。
「でもね。ゆーちゃんを恋人にしたいかどうかは分からない」
そう、分からない。否定でもなくて肯定でもない。
「でも、恋人になってくれるかもしれないんだよね」
希望があると感じたのか、ゆーちゃんの表情がぱっと明るくなる。
ゆーちゃんと恋人として付き合った場合どうなるのだろう?
既に一つ屋根の下で暮らしているわけで、表面上は今までとさほど変わらないだろう。
遠慮がちで頭の良いゆーちゃんは、私とケンカをすることもないと思う。
でも……
「返事…… すぐじゃないとダメかな」
私は踏ん切りを付けることができずに、また逃げを打ってしまう。
「ううん。お姉ちゃんの好きな時で…… いいよ」
ゆーちゃん。嘘はすぐに分かるよ。
「ありがとう」
しかし、私はそのまま頷いてしまう。
ゆーちゃんの表情が、再び曇っていることに気がついているけれど、何も言わない。
すぐに答えを出すことはできないと、分かりきっているから。
「そろそろ寝ようか」
「う、うん」
「おやすみなさい。ゆーちゃん」
「おやすみなさい。こなたお姉ちゃん」
微かに震えている少女の頭を数度撫でてから、私はゆっくりと瞼を閉じた。
(おしまい)